忍者は日本のキラーコンテンツ。
漫画『NARUTO』にせよ、映画や小説あるいはドラマに登場する「伊賀・甲賀」にせよ。
歴史作品の中でも人気は常にトップクラス!であり、そこで今回注目したいのが大河ドラマでも時折目立つ「女忍者」です。
劇中での彼女らはどのような存在だったか?
今回は2006年以降の作品に絞って注目。
今年は、セクシーな「女大鼠」が話題を集めていますが、
◆【来週7月30日のどうする家康】第29話 明智の恨み→伊賀越え決行!女大鼠、最後の任務?正信が帰参?(→link)
果たして彼女は過去の女忍者と比べてイケてるのか、イケてないのか。
2000年代以降の大河ドラマに登場したオリジナル女忍者たちを振り返りながら、ランキングを考えてみましょう!
2006年『功名が辻』
一夫多妻制の印象が強い戦国時代。
夜8時からのNHKで、それが露骨に描かれるのは避けたいからなのか。大河では「正室一人の主人公」が増えていったと指摘されます。
2006年に放送された『功名が辻』もそう。
上川隆也さん演じる山内一豊と、仲間由紀恵さん演じるその妻・千代が仲睦まじく――そんなストーリーかと思いきや、“よろめく”主人公も描かれるのですからわけがわからない。
お相手は甲賀の女忍者・小りん(こりん)。
長澤まさみさん演じる小りんが一豊を誘惑して、一夜を共にする。それだけでなく「一豊の子を産もうか」という話にまでなります。
当時の山内一豊と千代の間には子がいませんでした。
正妻が懐妊しないとなれば、別の女性に産ませてでも跡継ぎを得る――戦国時代は、他人の腹を借りるようなケースは珍しくありません。
そこで小りんが、という話になったのですが、この計画は一豊が断り、千代の懐妊により実現しませんでした。
いま冷静に振り返って、しみじみと思います。
原作にあるとはいえ、この、ご都合主義的に挿し込まれた展開は一体なんだったのか?
謎の美女が突如現れ、男性の主人公にセクシー誘惑って、エロ妄想も甚だしくてアホらしくなる。
サービス要員の女性を出すにしても、女忍者である必要があったのか。忍者に対して失礼ではないか。
制作サイドにとって、とにかく使い勝手がよい。女忍者はご都合主義のシンボルでした。
2007年『風林火山』
2023年大河ドラマ『どうする家康』で、眞栄田郷敦さんが眼力の強い武田勝頼を熱演して話題になりました。
そのお父上・千葉真一さんは、一度だけ大河ドラマに出演した経験があります。
2007年の『風林火山』です。
そしてこの作品には、千葉さんの息女であり、眞栄田郷敦さんの異母姉にあたる真瀬樹里さんも女素破(女忍者)として出演していました。
真田幸隆の配下である葉月です。
葉月は、実においしい役でした。
真瀬樹里さんはアクションが得意です。鋭くキレのある動きで、目つきも鋭く、油断ならない存在感を発揮。過酷な任務も高いプロ意識でこなす。
人物像の設定も秀逸です。
「武田との戦いで家族を失い、真田の素破になった」という設定は地に足がついています。
真田の忍者は「真田十勇士」はじめ定番の人気設定。そうした目配りも効いた実に粋な役目と言えましょう。
葉月は『風林火山』でも人気のあった伝兵衛と恋に落ち、その妻となりました。
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2009年『天地人』
大河ドラマ史に残る最低の忍者――それが『天地人』の初音でしょう。
再び長澤まさみさんが演じられていますが、むろん彼女が悪いわけではありません。
あくまで制作サイドの問題。
2006年の『功名が辻』から、わずか3年後に主人公周辺をうろつく女忍者を同じ人物に演じさせるのですから、あまりに芸がない。
二番煎じ臭が漂い、「またかよ……」と嘆いた大河ファンも少なくなかったでしょう。
しかも、です。
原作では真田幸村の”姉”だった設定を“妹”にしたことで、凄まじい失敗をしています。
そのときのドタバタがまだ以下の記事に残されているのですが、
◆大河ドラマ『天地人』で長澤まさみ演じる役設定が急遽変更(→link)
要は、10歳以下の初音と、主人公の直江兼続が肉体関係を結んでしまうという設定になってしまったのです。
そもそも真田昌幸の娘であれば、それなりの嫁ぎ先があり、忍者にすることが不自然極まりなく、その時点で制作スタッフが歴史に関心がないことが明白でした。
直江兼続も「妻が一人」という特徴があります。
夫婦愛の強さというより、兼続から見て格上の家に婿入りして箔をつけた、事情が関係していると思われます。
それを無理に恋愛路線にして、結婚前からイチャイチャさせただけならまだしも、「もっと、お色気要素を入れようぜ!」という思惑ありきで、オリキャラ女忍者の初音が登場。
兼続にちょっかい出させるのですから、どうしようもありません。
妻は一人だよ! でもたまには他の女とイチャつかせてあげようぜ。それが世間の要望だから!
とでも考えたんですかね。
これだったら側室が複数人いても、礼節のある人物像のほうがはるかにカッコ良いではありませんか。
ともかく、この女忍者には
「初音の元に天下がついてくる♪」
という、いま思い出しても恥ずかしくなる設定まで付けられていました。
本能寺の変のあとは、突如、明智光秀のもとに現れ、首を絞める展開になってましたからね。
なお『天地人』では、お涼という女性も登場していまして。
木村佳乃さんが演じる千利休の娘で、兼続に惚れ、一方的に告白する設定なのですが、彼女は茶道だけでなく柔術にも通じているという設定。
とある酒宴の席で、酒癖の悪い福島正則が兼続にしつこく絡み、お涼にまで因縁をつけてくると、「正則を投げ飛ばす」という技まで見せてくれます。
どうでもいい。心の底からどうでもいいと画面を殴りたくなるような役目。
演じられた御二方が気の毒でならない『天地人』の女忍者と女茶人格闘家でした。
2016年『真田丸』
真田といえば忍者――そんなイメージは『真田十勇士』のヒット以来、日本人の心に深く刻まれているのでしょう。
1986年の新大型時代劇『真田太平記』でも、原作に登場する女忍者・お江が重要な役割を果たしています。
2016年の大河ドラマ『真田丸』では、男性の忍者が複数いました。
・佐助:身体能力の高さ、忠誠心、忍耐力を備えている。真田幸村の最期にまで付き添った
・出浦昌相(いでうら まさすけ):国衆であり素破の頭領でもある
・服部半蔵:伊賀越えなど、危機を「全力で押し通る!」と力押しで突破するパワー系忍者
名もなき女忍者も登場。名妓のふりをして、酒の席で艶かしく昌幸を誘惑し情報を得ようとします。
が、出浦昌相が即座に見抜き刺殺。佐助が遺体を始末しました。
2020年『麒麟がくる』
神出鬼没の三河の農民として、菊丸が出没。
岡村隆史さん演じる菊丸は、素朴で地味。マイペースに振る舞っているようで、薬草の生えている場所を知っている。
彼と光秀が行動していると、ピンチの際にどこからともなく石つぶてが飛んでくる、不思議な現象も起きていました。
正体は三河の忍び――それがようやく明かされたのが【桶狭間の戦い】。
劇中で描かれるまで、視聴者まで騙される見事な偽装ぶりでした。
この作品では、高い戦闘能力などではなく、とにかくリアリティを重視した忍者らしき人物が複数回登場します。
光秀が親子連れとぶつかった後、手のひらに密書を握らされている場面もありました。
医者である望月東庵、旅芸人である伊呂波太夫といった特定の技能を持つ民間人が、スパイの役割を依頼されることもありました。
いかにも乱世らしい働きでした。
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2022年『鎌倉殿の13人』
かつては朝廷・貴族の下に雇われていた武士。
彼らが独立して政権を築いていく様子が描かれた『鎌倉殿の13人』の時代は、忍者もまだ確立されていません。
しかし、そうした働きをする者がいなかった、とは言い切れない。
『孫子』はじめ兵法書には「スパイの用途」が記されていて、昔から原始的な間諜はいたと考える方が自然でしょう。
『鎌倉殿の13人』の劇中では、時代考証を踏まえると不自然な刺客が二名います。
善児とその弟子であるトウです。
刺客はその場限りで使い捨てにする方が効率的、かつ同じ人物を使い続けるのはリスキーなため、現実的ではありません。
しかし、そんなことすら忘れてしまうほどの存在感が、この刺客師弟にはありました。
トウは、ヒントやモチーフになったと思われるキャラクターがいます。
三谷幸喜さんはじめ、スタッフの多くが意識していたと語る『ゲーム・オブ・スローンズ』のアリアです。
アリアは大貴族の娘でありながら、刺繍よりも剣術を好むおてんば少女。
実家であるスターク家が政治闘争に敗れてしまい、乱世の中に放り出されると、彼女は刺客としての技能を身につけ、家族の仇を殺すと胸に誓います。
アリアはメインプロットから外れた位置にいました。
復讐への道のりはあくまで個人的なものであり、物語内で大きく躍動する政治外交上の闘争劇とは関係ありません。
しかし、孤独な暗殺者というサブプロットはうまく機能し、ドラマを盛り上げてゆきました。
では『鎌倉殿の13人』のトウは?
彼女は目の前で善児に両親を殺され、刺客への道を歩み始めました。ジッと影のように師匠・善児の背後にいるけれど、親の仇を晴らすのかどうか……いつ善児に牙を剥くのか?
殺すことだけを教えられたトウは、その後どんな道を歩むのか?
彼女の道が一本加わることで、『鎌倉殿の13人』もまた物語に深みが加わったものです。
重要なのは、トウがあくまで自分なりの道を歩んでいたことでしょう。
それまで大河に登場した女忍者たちは、全員とは言わずとも、お色気と共に男の周辺をうろつくことがお約束でした。
トウは、途中、三浦義村が強引に口説いてきたことはありますが、お色気の状況とは無縁です。
本作の劇中で描かれる女性の繋がりは、シスターフッド(女性同士の絆)であり、斬新な像といえました。
女性であり、刺客であり、かつ、自己実現のために生きる――恋愛要員とされず、我が道を模索する女性像は、2010年代後半から大河ドラマにおいても目立つようになりました。
そうしたジェンダー観が反映され、かつ魅力的に輝いたのがトウです。
正確には女忍者ではないものの、同様の存在であった彼女は、ついに初音や小りんとは一線を画する存在となったのです。
こうした状況を踏まえながら「女大鼠」を考察してみたい。
今年の大河ドラマ『どうする家康』で松本まりかさんが演じる伊賀の女忍者(女大鼠)です。
2023年『どうする家康』
『どうする家康』では、女大鼠以外に武田方の間者として千代も登場します。
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今回は女大鼠に絞って考察。
まず、その名前、もちろん本名ではないでしょう。
大鼠の娘だから女大鼠――あだ名にしても、正直、センスは感じられない。
なぜか?って、いかにも怪しく、まるでリアリティが感じられないところです。
忍者はその仕事柄、決して目立つような真似をしてはいけないはず。
つまりは誰にも覚えてもらえないような平凡な名前のほうが逆にリアリティを感じさせるわけで、『麒麟がくる』の菊丸なんかはその典型でしょう。
それを「おんなおおねずみ」だなんて、ギャグかと思ってしまう程。
思わず、昭和のコントかよ!とツッコミたくなります。そもそも『どうする家康』はリアリティよりもマンガチックな演出を重視しているため、制作サイドとしては狙い通りかもしれませんね。
なんせ、衣装からして、隠し芸大会かと思うほどベタです。
黒装束の忍者――そんな見せ方はあまりに古くて嘘くさいため、基本、最近の大河ドラマでは見かけません。
BBC版関ヶ原こと『ウォリアーズ』には出てきましたが、まぁ2007年の作品ですし、イギリス受けを狙って敢えてベタにしたのでしょう。
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それが『どうする家康』では、どうか?
誰がどう見ても忍者とわかる、堂々の黒装束ではないですか!
では制作サイドにはどんな意図があるのか?
そこは不明で、アクションシーンも何度かありましたが『風林火山』の真瀬樹里さんや『鎌倉殿の13人』の山本千尋さんと比べると、動きはキレや派手さが乏しく、マンガチックなバトルが印象的です。
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女オリキャラは恋愛してこそだろ!
『どうする家康』からは、そんな意識も感じられます。
女大鼠は、服部半蔵とペアで行動することがほとんどです。
服部半蔵が徳川家康の嫡男信康を介錯した回では、女大鼠が瀬名の腹を刺しました。腹を刺しても致命傷にはならないので、介錯としてはどうかと思います。
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要するに、彼女は半蔵のコピーであり、単独で動くキャラクターではないということですね。
そしてお約束の恋愛もねじこまれました。
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『どうする家康』では、女性人物が劇的に死ぬことで、盛り上がるよう誘導している場面も多くあります。
そして半蔵との関係性を踏まえると、彼女の行く末も見えてくる。
伊賀越えで死――。
伊賀越え最大の功労者は、服部半蔵です。
その半蔵の影で、ペアとなる女大鼠が散る――ドラマを盛り上げるためにも、非常に美味しい役所でしょう。
穴山梅雪も命を落としますので、その横にいる千代も何らかの混乱に巻き込まれて死ぬのか、偽装か。阿茶局あたりになって家康の隣に侍るような展開に……ならないことをむしろ願うばかりです。
2020年代後半は新たな女忍者像を
残念ながら『どうする家康』の女忍者は古臭い。
『鎌倉殿の13人』で進めたセンスを十年間は後退させられました。
女性のオリジナルキャラクターが、お色気恋愛要員扱いされることが定番だった2010年頃までの大河ドラマと同じ。
その枠からはみ出したヒロインが出てくると、バッシングが待ち受けています。
例えば『真田丸』の“きり”は、恋愛描写もありましたがアッサリしていて、持ち前の好奇心で動きまわる人物像でした。
2000年代で立て続けにお色気女忍者を演じさせられた長澤まさみさんを逆手に取った役に思えるタイプです。
しかし、だからでしょうか、きりは前半、執拗なまでにバッシングを受けました。
『麒麟がくる』の駒もそうです。
彼女は身につけた医術を用いて民を救おうとする、儒教の仁を司るような女性でした。
しかし、足利義昭ら権力者に民衆の救済ように訴えると、愛人になっただの、でしゃばりだの、散々叩かれたものです。
そして迎えた『鎌倉殿の13人』のトウ――彼女は恋愛お色気いっさい無しで、自己実現とシスターフッドを体現する新しい女性像になりました。
凄まじい進歩です。
大河にもまだまだ良心はある……と思いきや、今年の『どうする家康』は、なぜ、こんなことになってしまったのか?
いかにも怪しげでバカバカしい名前を使い、意味ありげな表情をして、黒装束を着ている。
そのくせアクションはピリッとしていない。
チープで陳腐、こんな古臭い忍者像を今さら見たくもありません。
制作サイドは深く考えず、「女で忍者だとこんなもんでしょ!!」というノリで、
・お色気恋愛要員
・ペアとなる男性の写し鏡
・派手に死んで見せ場を作る
そんなネタ素材だと考えているのでしょう。
『どうする家康』は「シン・大河」だの、「令和の感覚」だのを看板に掲げていましたが、一体何をどうしたらそんなことが言えるのか。
大河ドラマが着実に歩んでいた道を、十年以上も後退させる、時代錯誤感に溢れています。
2024年大河『光る君へ』、2025年大河『べらぼう』では、おそらく女忍者や女刺客は登場しないでしょう。
次に出てくる可能性があるとすれば2026年以降ですね。
そのときにはもう、バカみたいなお色気セクシー要員にすることだけは止めて欲しい――切実にそう願うばかり。
最後に、私なりのランキングを付けて終わりとさせていただきます。
大河ドラマの女忍者ランキング(刺客込み)
6位 初音・真田幸村の姉(当初は妹)『天地人』※殿堂入り作品にすべきかもしれません
5位 女大鼠・伊賀 『どうする家康』
4位 千代・武田 『どうする家康』
3位 小りん・甲賀の女忍者 『功名が辻』
2位 葉月・真田幸隆の配下 『風林火山』
1位 トウ・善児の弟子 『鎌倉殿の13人』
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文:武者震之助
※著者の関連noteはこちらから!(→link)





