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【貂蝉】
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海を越えて、改変される貂蝉
なんだよ中国のクリエイター。貂蝉で遊びすぎだろ。そう突っ込むのはやめておきましょう。
『三国志演義』における貂蝉はフェードアウト型でした。
フェードアウト型貂蟬
「連環の計」成功後、呂布の側室となる。
↓
呂布が曹操に負けたあとは、厳氏らとともに許都へ連行
↓
消息不明
そういう退場もよろしい――そんな評価でした。
「目的達成後は出しゃばらないところに、味があるんですよね!」
中国ではそう解釈されてきましたが、これが日本となると、また変わってくるからややこしい。
日本で定番となった吉川英治版です。
そこでの貂蝉は「連環の計」成立後すぐに自害して退場し、そのあと呂布は、別の妾に「貂蝉」と名付けて偲んでいたという設定にされているのです。
死因や動機は異なるものの、日本のフィクションでは、タイミング的にはここで死亡となる傾向が強くなっております。
このパターンからは、出番が終わったからには綺麗に退場して欲しい――そういう欲求をどうしたって感じます。
求める美女像の違いが明瞭化され、興味深いですよね。
呂布と貂蝉のカップル像も、日中での差が大きいものです。
呂布の場合、知性が日本でよりきつく下方修正されて、容貌もいかつくなりがちです。
一方、中国ですと、貂蝉と並んで絵になる。涼やかな美形であって欲しいと思われ、知性もそこまで低くありません。
あまりに荒々しい日本の呂布像。途中で殺害される貂蝉像を見て、中国の方はどう思うのでしょうか……って、もう何世紀もしていることだし、そう思っていればよいかなと。
貂蝉は、展開を盛り上げる上でも欠かせない存在です。
それだけではなく、時代ごとに求められ、変遷する美女の像としても興味深いものがあります。
実在しなかろうと、貂蝉はやはり欠かせないヒロインなのです。
翻弄される美女を愛する心
最後に考えたいことがあります。
どうして人々は、貂蝉をここまで愛してきたのでしょう?
「四大美人」にせよ、彼女らが称賛されるのは美貌だけのためではありません。
それぞれ以下のような特色があります。
西施
「病弱、儚げ、国のために翻弄される……そういうところがいいよね!」
胸を抑えて悩むところが、グッとくる。そういう儚げな美女です。
その末路は不明。バッドエンドルートと、ハッピーエンドルートがあります。どちらを採用するか、そこは各人の好み次第ではあります。
翻弄される姿がグッとくるところは真理です!
王昭君
「清らかな心根、国のために翻弄される、もう全漢が泣いた!」
贈賄をしない潔癖性。
国を思いつつ嫁ぐ、そういう悲劇性が愛されました。
異民族の結婚に翻弄されてしまった、そんな女性全体の悲劇を美化した女性像とも言えます。
翻弄される姿がグッとくるところは真理です!
貂蟬
「国を憂い、養父のために悩むなんて、泣くよね〜!」
貂蟬の美化の過程は前述の通り。
翻弄される姿がグッとくるところは真理です!
楊貴妃
「無邪気な女性なのに、こんなことになるなんて泣ける!」
楊貴妃は、実は中国本土では日本ほど人気があるわけでもない。結構割れる。日本ほど素直に賛美されていないとか。
確かに彼女は、唐王朝崩壊の引き金を引いたという解釈もできなくはありません。
本人に悪意はあったかどうかはさておき、彼女の親族は政治を悪化されました。
とはいえ、翻弄される姿がグッとくるところは真理です!
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この四大美人、架空の存在である貂蝉を除外して、伝説的なスレンダー美女・趙飛燕(前漢成帝・趙皇后)を入れる解釈もあります。
とはいえ、それだとあまり盛り上がらない。
趙飛燕は性格が悪いとされているんですね。運命に翻弄されるどころか、政局を翻弄した元凶の一人とされるからなのです。
※そんな趙飛燕の転生ドラマ『皇后的男』もあります
国ために翻弄される美女――。
その美貌を愛でる気持ちだけではなく、その悲運や境遇を称賛する気持ちも重要です。
貂蝉を描く際には、彼女の心の美しさまで考えてみるのもよろしいかもしれません。
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絵・小久ヒロ
文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考文献】
仙石知子/渡邉義浩『「三国志」の女性たち』(→amazon)
仙石知子/渡邉義浩『三国志演義事典』(→amazon)
金文京『三国志演義の世界 (東方選書)』(→amazon)
井波律子『キーワードで読む「三国志」』(→amazon)
井波律子『三国志演義』(→amazon)
他