べらぼう感想あらすじレビュー

背景は喜多川歌麿『ポッピンを吹く娘』/wikipediaより引用

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『べらぼう』感想あらすじレビュー第23回我こそは江戸一利者なり 親離れ子離れの苦しみ

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『べらぼう』感想あらすじレビュー第23回我こそは江戸一利者なり
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蔦重の野望

耕書堂に帰ってきた蔦重は、歌麿に日本橋出店の話をしています。

歌麿が「近頃、みんなにそれ言われてんでしょ」と返すと、蔦重は「土山様が金を出してくれるってんだよ」とソワソワ。

「毎年、自分に運上おさめりゃいいって」

「それ、間違いなく得するのは土山様だけだよ」

「そうかなぁ」

「蔦重は吉原にいるからちょいと格好よしなんだよ。江戸一の利者が江戸の外れの吉原にいる。それが粋に見えんだよ」

『東都新吉原一覧』二代目歌川広重/東京都立中央図書館蔵

そう歌麿がつっこみを入れます。

調子こいた蔦重を嗜めるところは、なんだか瀬川を思い出しちまうなぁ。

「んじゃ、ここそのままにして、日本橋に二店目ってな、どう?」

「親父様が蔦重に話があるみてえだよ」

ちょっとぶっきらぼうに言うと、スタスタと歌麿は歩いていってしまいます。

「おい、親父様も俺に日本橋って?」

「だといいけどね」

甘えているようでそっけない歌麿は、なかなか重いものを感じさせます。

瀬川よりも湿っぽくねえか? 歌麿は蔦重と出会って過ごした吉原から出たくないような、そんな切ない思いも感じさせます。重たいねえ。

さて、呼び出された用件は何なのか。

りつが渡してきたのは、蔦重ブランドを見込んでの店の引き札(チラシ)、品を入れる袋を作って欲しいというおなじみからの依頼でした。

引き札(広告用のチラシ)/wikipediaより引用

大河ドラマだってそうじゃねえか。『べらぼう』公式ロゴ入りの商品があるもんな。

版権やインフルエンサービジネスのはしりみてえなもんよ。

りつとしても儲かるし、吉原のためにもなるだろうと言うわけですが、その内容が結構厳しいんですよね。孫の祝いに四方赤良の狂歌集はさすがに無理だ、と蔦重は苦い顔をしています。

「おめえ、近頃いい気になってやしねえか? 前だったらこんな話、間違いなく乗り気んなったろ」

蔦重がキョトンとしていると、親父殿は苦々しくこう言います。

「勘違いすんじゃねえぞ、吉原のおかげでおめえはここまでんなれてんだ。俺たちが手ぇ引いたら、その日のうちに潰れんだからな」

そう立ち上がりつつ、親父殿が凄んできます。

ここでまるで反抗期の息子とその父親のような会話となります。

「ああ、分かりました! やらせてもらいます」

「なんだその言い方!」

「まぁまぁ、重三も忙しい身だからさ。できるだけでいいからさ」

りつが止めに入り、なんとかなりましたが……でもなんかこう、危うさも感じるんですよね。

こういう俺が庇護してやったという驕りって、蔦重は俺には無縁だと思っているかもしれません。

でも、歌麿が巣立ちたいと言い出したらどうなっちまうんでしょう。

 


稼いでも稼いでも尽きぬ土山の欲

田沼意知は、土山が蔦重に持ちかけた話を耳にしています。

「江戸一の利者の本屋は土山のもの。これはなかなかに気分ようございますし、そうなればおのずと蝦夷の話にも引き込めましょうし」

「いずれは蝦夷での本屋商いのうまみも懐にということか。あれだけ貯め込んでもまだ足りんか」

「私のような小身は金だけが頼りで」

どこか気だるげにそう返す土山宗次郎

こりゃすごくいい視点をついてきやしたぜ。今にまで残る、先住民搾取の末にマジョリティが利益を得る問題ですね。

先住民利権だのなんだの怪しい情報が今日もインターネットの海を漂っていますが、何世紀にもわたって先住民を低賃金で酷使し、その儲けを懐に入れてきたのは支配側でした。

この場面の背後には、そんなアイヌの姿も浮かび上がってくるように見えます。

蔦重はそうでもありませんが、江戸の本屋がアイヌをモチーフにして利益を得ていたことは確かです。

アイヌ絵というジャンルがあります。

今回も出てきた松前廣年にもその作品がありますが、江戸の場合はアイヌを実際に見たこともなく、蝦夷地に行ったこともない絵師までもが想像と資料を元に描きます。

イオマンテを描いたアイヌ絵『蝦夷島奇観』村上島之允(秦檍麿)画を平沢屏山が模写/wikipediaより引用

それを版元が売り、客が買い、経済を回していた。

しかし回った結果の利益がアイヌ当事者に渡るかというと、全くありません。

現在は、和人がフリー素材でアイヌの模様を配布したり、勝手に衣類に使って販売すると問題視されます。

アイヌの晴れ着/wikipediaより引用

そんな搾取を避けるためにもアイヌデザインのものを購入する時は、認定ロゴ入りのものを買いましょう。

 


女郎蜘蛛の糸にかかるものたち

田沼意知と土山宗次郎の二人は大文字屋にいるようです。

隣室から漏れ聞こえてくる会話に反応し、その部屋を覗きにいきます。

と、そこにいたのは松前廣年、大文字屋市兵衛、そして誰袖花魁でした。

大文字屋が、琥珀がさらに欲しいと訴えています。揃いの簪を作りたい、その手配を頼みたいのだとか。

しかし、さすがの廣年も「琥珀は相当に値が張るぞ」と弱気になっています。

大文字屋は厚かましく「そこはぜひ、できるだけお手柔らかに願えると助かりますナ」などと言い、去ってゆくわけですな。ニッと微笑む誰袖。

「主さん、琥珀というのは何故かように高いのでありんすか?」

二人きりになると、甘えるように囁く誰袖。

商人が利を載せるからだと廣年が答えると、誰袖は商人を通さず直にオロシャから買えば安く手に入ると提案します。

「ならぬ! ならぬ! それでは抜荷となってしまう! 異国と勝手に取り引きをすれば御法度! 下手をすれば取り潰しじゃ!」

廣年は立ち上がり、錯乱気味にそう言います。

誰袖が見上げながら、こう続けます。

「けんど、主さんが安く手に入れ、親父様に高値で買い取らせれば、相当の金がお手元に残りんしょう?」

「差し出口をきくな! 女郎ごときが!」

そう怒鳴られると、誰袖の目に水晶のような涙が浮かび、ぽろりと落ちます。見守る大文字屋も「でた」と言う、男殺しの一撃ですな。

動揺してしまう廣年が優しく声をかけると、誰袖が潤んだ瞳でこう続けます。

「わっちはその金があれば、主さんともっとお会いできるかと思いんして……」

「これ、泣くでない。わかった。ひとつ、考えてみるゆえ」

「嬉しうありんす! んふふ……主さん、ぜひ、いつの日か、身請けを……」

「うむ、考えてみるゆえ。もう、泣くでない」

そう抱きつく誰袖。

男子の鉄腸どころか骨まで蕩けそうな廣年。

しかし、誰袖の顔にはありありと、獲物を捕らえた猫のような満足げな表情が浮かんでいます。

そしてそれを眺める意知は、この傾国の美貌に吸い付けられたような目になっています。

嗚呼、花魁の背後で髑髏が蠢いているようです……。

月岡芳年『新形三十六怪撰 地獄太夫 悟道の図』/wikipediaより引用

 

蔦重は日本橋に出店したい!

耕書堂では、歌麿が絵を描き、蔦重が仕事をしています。

あの小野忠五郎もいました。

どうやら蔦重が仕事を依頼していたようで、まだこんな摺物屋の請け負い仕事をしているのかと忠五郎は驚いています。吉原からの依頼だと断れねぇ……と答える蔦重。

すると忠五郎が耳寄り情報を持ってきます。

日本橋にある鶴屋の向かいの店が空くんだとか。

驚く表情の蔦重に、忠五郎も吉原からの脱出を持ちかけてきます。

彼はかつて吉原の小店という同じ境遇である蔦重を嫉妬していましたが、今では応援しているようですね。歌麿が振り向いて、気にしているようですが……。

さっそく蔦重が価格を確認すると、ざっと千両くれえだとよ。高いねえ。

さすがに蔦重が顔を顰めると、忠五郎は「けどお前さんなら、吉原に頼みゃあ貸してもらんだろ?」と言います。

どうもそういう感じじゃねえとぼやく蔦重。前は応援していたんだけどねえ。

「いっそ日本橋から言ってきてくんねえかなあ」

そう煙管を片手に蔦重がぼやいていると、歌麿がこう言います。

「忠さん、聞かなくていいですよ」

「蔦屋は江戸一の利者! タダでいいから日本橋に店出してくださいって」

確かに蔦重、なんか調子こいてて危なっかしいよな。

忠五郎が笑って聞いていると、りつが「日本橋のお偉いさんたちがあんたも一緒に話あるって」と伝えにきました。

こうなりゃ、調子こきの重三は浮かれますわな。

やはり歌麿はどこか不安げです。

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