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【『光る君へ』感想あらすじレビュー第9回「遠くの国」】
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花山天皇の人生とは何か
書き下しではなく、中国語の発音そのままで読んでいる。
といっても、現代語かつ、拼音(ピンイン)をカタカナで書いたようなたどただしい読み方ですが、一方の花山天皇はかったるそう。
そこへ藤原道兼が、恭しく青磁の碗に入れた薬湯を差し出してきました。
こんなものを飲んでもよくなるとは思えないとこぼしつつ、道兼が言うなら飲むと口をつける花山天皇。
「不味くて涙が出るわ。忯子を思って涙し、薬湯で涙し、朕の人生とは何であろうか」
そうこぼす花山天皇ですが……実は、日本一贅沢な暮らしをしている天皇の姿がうかがえます。
・青磁
北宋から輸入した最高級の青磁です。
このドラマでは右大臣家や皇族周辺にはこれみよがしに北宋の磁器が置かれています。
どれもこれも庶民は目にすることのない超高級品であり、中国の磁器は日本史上、長らく【威信財】とされてきました。
明治維新で金に困った大名家はこうしたものを大量に市場へ流出させ、近代以降は骨董商や富豪がそれを買い集めた。
中国の美術品は、西洋だと略奪品も含まれており、扱いが難しいものがあります。
しかし日本の【威信財】は正当な取引で得たものですから、各地の博物館で、そんな歴史に思いを馳せながら見るのも趣があることでしょう。
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・薬湯
お正月に飲む「お屠蘇」は不老不死の薬と信じられてきました。
ただのハーブドリンクなのに大仰だな!と言いたくなるかもしれませんが、当時の医療を踏まえればそれも納得できます。
当代随一の権力者である藤原兼家の病気治療ですら、あんな祈祷頼りです。
ストレスを発散してくれるハーブドリンクだけでも、当時は最高級品でした。庶民は存在すら知らぬまま亡くなっていたのです。
この時代と比較すると『麒麟がくる』の東庵と駒は、かなり真っ当な東洋医学を身につけていることがわかります。
日本史において独自の医学が大きく飛躍するのは、戦国時代も後半になってからのこと。
花山天皇の場合、薬湯の処方をしたのは、唐人医(中国人医者)の技術を知る最高の医者であるとも推察できます。
調合の時点で大変贅沢なのでした。
実資は今日も日記に愚痴を書く
花山天皇の側近である藤原義懐と藤原惟成が登場。
蔵人頭の藤原実資に向かって「天皇におなごを見繕え」と要求してきました。
すでに寵姫はいるものの、もっともっと注ぎ込んで、皇子をあげねばならない。このままでは政もダメになってしまうと凄いことを言い出しました。
帝の心に沿う女がいないのは、蔵人頭の怠慢ときた。帝がいつまでも忯子様を思ってメソメソしているのはまずいから、新しいおなごをあてがえというわけで、当然、実資は怒ります。
「私ほど勤勉な者に向かって無礼な!」
帝に失礼だ!というのではなく、怠慢とされたことにカーッときているようです。
義懐は苛立ちながら、わしらでなんとかすると立ち去り、「全く手のかかる帝だ」と捨て台詞を吐くのでした。
それにしても実資も、複雑な心境でしょうね。
美女を見繕うなんて女衒じゃあるまいし、やってられんわ!
そうやって苛立つロバート秋山さんの演技がいつも素晴らしい。
彼が怒るおかげで、かえって歴史の持つバカバカしさが露になったようにも思えます。
歴史上には「俺に好きな女の子見繕って」と言い出す奴もいれば、あてがう女を探し回った側近もいます。
たとえば平岡円四郎が、徳川慶喜の女を斡旋していたなんて、そんな情報は知らなくてもいいですよね。
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そんなことをじっくり長々とやることではない。側室だのお手付きだの、そういうことに一週使うような大河ドラマは不要であると、私は主張したい。
そして君主制ですね。
血統で選ぶとなると、人間相手にブリーダーのような発想をする羽目になります。もうこの時代、それは辞めたいという気持ちが当然のことながら出てきて、強くなっています。
イギリスのハリー王子は、自伝のタイトルが『スペア』です。どうせ俺は兄のスペアだという嘆きはあまりに生々しくて、世界に衝撃を与えました。
『光る君へ』の面白いところは、千年以上前の話なのに、今にも通じる問題提起をしっかりできるところだと思います。
実資は帰宅後も苛立ちがおさまらず、桐子相手にくどくどとこぼしています。
「わしを公卿にしておけばこのようなことはなかった……何もかもわしを公卿にしなかったのが悪い」
「はいはい」と受け流す桐子。
何故公卿になれんのだ! 今の帝はどこに目がついているのだ! 先の帝はよかった、ああ〜、先の帝が懐かしい!
とにかく、しつこい実資に対して桐子は、懐かしんだところでもう戻らないと冷たい。
実資だって、それはわかっています。わかっているならもう言わない、とたしなめる桐子。
日記に書けばいい、日記、日記、日記! と煽ってきます。
「日記には書かぬ! 恥ずかしくて書かぬ」
でた!
書かぬとか言っているくせに『小右記』に残っているパターンだ。これがあと何度見られるのか。癖になります。中毒性があります。
すべては兼家と晴明の策だった
藤原詮子が父・藤原兼家の手を取り、ぬくもりを確かめています。
もしものことがあっても、東宮には後ろ盾があると告げて、さらにこう続けます。
「どうぞご安心ください、心を置きなく旅立たれませ」
「そうはゆかぬぞ」
目をカッと見開く兼家。
「キャーーーーーーーーーーーー!」
悲鳴が響き渡る……って、そりゃそうなりますわな。
そして道隆、道兼、詮子、道長を前にして、兼家の暴露タイムが始まります。
代理の殿上間で倒れたところまでは本当だった。その後、家で回復したが、しなかったことにしたのだと。
理由は、我が一族の命運を担う大事な話だと前置きし、身を正してよく聞けと告げます。
トリックを仕組んだのは、安倍晴明の祈祷のタイミングでした。
目覚めたことを告げようとする晴明を止め、兼家は東宮即位を見られるのかと問いかけます。
安倍晴明が全力で祈祷していると返されるものの、それだけでは足りません。
帝には譲位してもらわねばならない。そして東宮が即位しなければならないのに、帝は思いのほかしぶとい。そう訴える兼家。
すると晴明はこう言います。
「策はございます」
「なんと!」
「私の秘策、お買いになりますか?」
「買おう」
「されば……」
かくして商談成立となりましたが、実際の安倍晴明を考えれば納得のいく流れです。陰陽師は官位が低く、おとなしくしていたらそんなにお金持ちになれない。
占いをして、依頼者の気にいるように返せば、ありがたい結果だとお礼をもらえる。
占いというのは、相手の望む通りに結果を出すことが大事なのです。
これまた『鎌倉殿の13人』と比較してみましょう。
精神が弱った源頼朝に対し、不吉な色を告げてしまった阿野全成は晴明に劣ります。バカ真面目に答えを出すのではなく、ラッキーカラーでも告げて、心を元気にさせた方がよかったのかもしれません。
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ともかく、こうして心理操作の達人と、目的のためならば手段を選ばぬ権力者は手を組みました。
安倍晴明が心理を操る諸葛孔明だとすれば、兼家は仮病で相手を油断させる司馬仲達を連想させます。
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兼家は眠ったふりをする。そのうえで、兼家には藤原忯子の怨霊が取り憑いたことにして、噂を流す。
晴明は直接帝に報告する。それを道兼がスパイとなって探る。
これから先、内裏でさまざまなことが起きる。兼家が正気を取り戻し、忯子が内裏に向かったことにする。成仏を求めていると晴明が帝に告げる。
そして成仏させるにはどうするか?
力の全てを賭け、帝を玉座より引き摺り下ろす!と宣言する兼家です。
詮子に対しては、左大臣の源などなんの力もない、味方せねば東宮は即位できないとさらに脅しをかけています。
安倍晴明と藤原兼家、なんて嫌なコンビなのでしょう。
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