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【光る君へ名場面を振り返る】
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海外進出できるか? 実はもうしている
『源氏物語』は国際的に人気もあります。
海外進出しないかな?
と、ファンであれば考えることでしょう。
前述の通り、このドラマはジェンダー観点、コンプライアンスの点でも問題ありません。
成年向けレイティングになることは考えられますが、放送できないとは国際的基準からみても考えにくい良質な作品です。
なお、2023年の場合、ジャニーズ主演という時点でこの点は絶望的でしょう。
実は大河ドラマは、本作のみならず、既に海外でファンがいる国もあります。そして今年は、その海外ファン層へのアピールが際立っていました。
ききょうはまひろが物好きだと、呆れるような、面白がるようなことを言っておりましたね。
私も『光る君へ』には「まあ、物好きな!」と言いたくなる珍妙な特徴があると思います。
それは中国語圏へのアピールが突出しているということです。
日本以外の国で、最も大河を熱心に見ている国はどこなのか?
というと、中国語圏は確実に入ります。Wikipediaでも大河ドラマ作品は、日本語に次いで中国語が充実しています。
西田敏行さんの訃報の際、中国でも多くの大河ファンが悼んでおりました。
彼は大河常連ですので、コメントの多くは大河での熱演を懐かしむものでした。
中国語圏大河ファンのベテランともなると、ほぼ確実に『葵 徳川三代』を熱く語りだすものです。
今年の場合、『葵』について熱く語りだす中年以上男性ではなく、幅広い層に向けて刺さる作品となっていたことが伺えます。
留学して大河ドラマを見始めて、どんどん見逃せなくなってしまった。
吉高さんと松下洸平さんのケミストリー目当てで見始めて、まんまとハマってしまった。
最終回ではめっちゃ泣いた……そんな比較的若く、女性と思われるコメントも見られました。
『光る君へ』は、中国人大河ファンを虜にする、ありとあらゆる仕掛けがありました。その要素を見てまいりましょう。
・打毱、曲水の宴、抹茶……中国由来の日本文化
打毱放送後、こう話題をふられました。
「大河で見たんだけど、打毱ってまだ日本にはあるんだね。うちの国は保存していないのに、残してくれてありがとう」
この言葉には頭が真っ白になりました。
中国で廃れたものや文化が日本に残る現象があることは、知識として理解しています。
しかし、そのことで中国人からしみじみと感謝されるなんて、想定外のことで感動しました。ありがとう、『光る君へ』!そう思ったものです。
打毱と抹茶とは異なり、曲水の宴は日中両国に残されています。
なんとも贅沢なことに NHK BS放映中の『三国志 皇帝の秘密』と比べることで、この行事の日中比較ができます。こんなことが起こるものなのかと、驚かされるばかりです。
・朱仁聡と周明、宋人たち
宋人が出ることも、もちろん惹きつける要素です。
朱仁聡を浩歌さんが演じるとなると、中国でも納得の声があがりました。
中国語圏で絶大な知名度と人気を誇る浩歌さんは、名誉中国俳優のようなもの。あいつの中国語なら全く問題ないな! そう受け入れられていたものです。
周明は日本人が演じるのか……と当初は困惑されたものの、対馬生まれという正体が明かされると納得されていました。
吉高さんと松下さんのケミストリーにはファンが多く、この二人のために大河を見続けることにしたという人もいます。
周明とまひろが浜辺を歩いている場面を見ているうちに、涙が出てきたというコメントも見かけました。
こうやって中国人が日本にいて歩いていたのかと思うと、泣けるのだと。日本で暮らす中国の方にはジンとくる場面であることでしょう。
日中間の比較もなされています。
衣服や監修が映像化されていて、知識が動きだすような刺激があったと思われます。
吉高さんと松下さんが中国語で話す様子も「かわいい、微笑ましい〜」と興味深く見守られたようでした。
これも昨年からのリカバリになります。あのときは中国語セリフの字幕が間違っていて失笑されたものですが、今年の中国語はむしろチャームポイントになりました。
朝の連続テレビ小説『虎に翼』では、ルーツと役が一致するキャストが画期的とされました。
『光る君へ』でもこれが実現しています。恵清役の王偉さんはじめ、中国人俳優が中国人を演じたことは歴史的なことです。
宋人の所作指導も京劇俳優がつとめ、日中間の交流という点でも大きな一歩となった作品。役名が日本語読みでなく、中国語読みとされたことも重要です。
「周明」と書いて「ヂョウ・ミン」と読めるようになったこと。これもまた小さなようで大きな一歩です。
・書道
書道も注目を集めています。
書道を嗜む中国人も、日本を代表する書家である藤原行成には興味津々でした。
それぞれ特徴的な筆跡に納得する一方、衝撃的だったのが道長の悪筆のようです。
「漢詩の会」での筆跡を見て「なんか一人だけおかしいのがいるぞ!?」と衝撃を受けていたのは、思わず笑ってしまいました。
ドラマでも言及されていたように、中国では科挙があります。科挙の採点基準には筆跡もあるため、官僚でありながら悪筆であることはまずないのです。
なお、日本人と中国人では筆の持ち方が異なります。それも本作では再現されています。
・漢籍
まひろや為時が漢籍を読むと、日本でも学んでいるのかと興味津々のようでした。
中国では唐代の詩人といえば李白が頭一つ抜けて有名です。
しかし日本では白居易の人気が高いことが意外なようです。
・小麻呂
猫好きは国境を越えるもの――そう片付けられない関係が日中間にはあります。
日本猫のDNA解析の結果、その先祖は中国から来た猫だと確定しました。
源倫子の愛猫である小麻呂の子孫が、今も生きているというわけです。
このドラマに出てくる猫は、平安時代にいた毛色のものだけを起用しておりました。
偶然かもしれませんが、小麻呂がキジ白ということが中国からみればたまらない要素となります。
日本猫の先祖となる中国土着の猫は「中華田園猫」と呼ばれています。
この中でもキジトラは「狸花猫」と呼ばれ元祖とされ、格上の扱いなのです。
日本猫の先祖が「中華田園猫」であると説明するとき、倫子と小麻呂の画像でも使えば、抜群の説得力がある。キジトラという格別な要素がその力をさらに増しているのです。
日本の猫の歴史を説明するうえでも、中国人ファンを惹きつけるうえでも、『光る君へ』は実によいことをしてくれたものです。
・中国風建築
これも昨年からのリカバリ要素といえます。
昨年の清洲城は「紫禁城のようだ」と言われたものです。
いや、中国風の建物はこんなモノクロではない。そう説明したかったものの、面倒なので諦めました。
それが今年、報われた思いがします。
中国風の朱塗りの柱と開放感のある空間は、日本と違うとおわかりいただけたことでしょう。
日中間の建築の違いが可視化されるとは、なんと贅沢なことか。建物ひとつでも、こうした日中比較ができることこそが大河の魅力です。
・刀伊の入寇にジャッキー・チェンがいる!
【刀伊の入寇】の場面で、モノマネタレントで俳優の“ジャッキーちゃん”がいることを中国人視聴者もめざとく発見していました。
なぜ時空を超えて成龍(ジャッキー・チェンの中国語表記)がいるのか!と困惑する反応もありました。
この反応まで見越しての器用だとすれば、どこまで策をめぐらせたのかと感嘆するほかありません。
好悪や偏見でなく、現実を見れば、中国人大河ファンにアピールするのは至極真っ当ではないか。私はそんな確信を抱いたものです。
母国のドラマで目が肥えている中国人は、大河なんて見向きもしないのではないか。こんな誤解もありますが、実際はそうじゃない。
日本のコンテンツ愛好者は、日本人からすると欠点に思える点でもそこに魅力を感じていたりします。
そこを理解し、日本らしさを活かしつつ、惹きつける要素も持ち出す。今年の大河はこの点でかなりの手練といえます。
中国史考証の正しさなんて、いちいちうるさいのはよくないのか――そう思ったりしたこともありますが、そうではないと証明された気がします。
なお、中国語圏では近代史もの大河は題材の時点で受け付けられないこともあります。
近年では2015年、2018年、2019年、2021年は、テーマ選択の時点で忌避されかねないものです。
2024年は日中関係が悪化しているとされます。
しかし、本当にそうなのでしょうか?
なんのかんので中国産ソーシャルゲームを遊ぶ日本人は多い。放映される中国ドラマも増えている。『三体』や『両京十五日』を読む人も増加中。
これは逆もまた然りと言えそうで、NHKはそこを踏まえていると思います。
『作りたい女と食べたい女』や『大岡越前』には、中国人役が登場。そして大河ドラマでも、盛りだくさんで画期的なほどに中国要素がありました。
偏見を抜きにして、歩み寄る努力だって必要じゃないか。お互いを比較してみることで、自分たちの個性や強みもわかるのではないか。私はこの取り組みに賛意しかありません。
海外でも『光る君へ』が見られるといいな。誰かがそう言っていたら「既にファンはいますよ!」と伝えてあげましょう。
なお、ドラマを総括した総論レビューは、後日あらためて掲載の予定です。
次回をもって私の『光る君へ』最終回とさせていただきますので、よろしければ最後までお付き合いください。
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【参考】
光る君へ/公式サイト