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【麒麟がくる第33回感想あらすじ】
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「信長様の戦はまだ終わってはおりませぬぞ!」
そしてこのあと「明智様〜」と摂津晴門がくる。
公方様が十兵衛様を案じているとおだてる。
光秀は怒りをこめながら、松永久秀が怒ると分かっていながら呼んだのか、仕組んだのかと問い詰めます。
晴門は、公方様は皆がよう力を合わせることを望んでいると言い逃れる。そういう心を“親心”とたとえる。戦はやめさせたいとのらりくらりと逃げようとする。
そして戦が終わったと笑い飛ばそうとする。
ここで光秀は、双眸に白い炎を宿して反論する。
「信長様の戦はまだ終わってはおりませぬぞ!」
摂津晴門はまだいる。比叡山も無傷だ。古き悪しきものが残っている。それを倒さねば新しき都は作れぬ。よって戦は続けねばならぬ!
「おわかりか?」
そう言い切る光秀。ハセヒロさんは、脚本と演出にかけられた罠をくぐり抜けたのです。
吉田鋼太郎さんの怒り。片岡鶴太郎さんの狡猾さ。そのあとに印象を残す演技を求められる。とんでもないことだ。
それでも彼は応じ、圧倒するようなものを放った。眉毛の動かし方ひとつとっても素晴らしかった!
スパルタというか、厳しいというか。
日本人の日本人による、日本人のための歴史劇を継承したい、そんな願いがある、そういうドラマです。
コロナ禍の今、座長になったハセヒロさんは不幸なのか?
それとも幸運か?
彼自身の気持ちはわからない。けれども、大河にとってはこの上ない幸運です。こんな妥協を知らない、意志の強い役者が先頭にいるのだから。
焼き討ちで無残に斃される薬売りの少年
元亀2年(1571年)、秋――。
信長はふたたび比叡山のもとへ結集しました。
そして叡山を潰す戦と宣言し、京都を蝕む悪のもとと断罪し、山に巣食う者を討ち果たせと言い切る信長なのでした。
興福寺・延暦寺・本願寺はなぜ武力を有していた? 中世における大寺院の存在感
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延暦寺へ織田信長の兵士が攻め入ります。
女が斬殺され、悲鳴が響く。
そんな中、芳仁丸を売っているあの平吉も逃げ惑い、斬り殺されてしまいます。
芳仁丸を握っていた小さな手が動かなくなる絵。これぞ本作という気がします。
戦闘があり、一方的に動かなくなる民を見せる。その中には女性と子どももいる。ここまで描いてこそ、戦争の惨さがわかるのです。
今年の大河は誠意を感じます。
こういうことのように「酷かった!」と非難されたことに、なんだかんだと言い訳をするのはよろしくありません。
そうは言っても、そんなに死んでいないとか。そこまで焼かれていないとか。大袈裟だとか。相手にも非があるとか。戦場での死者数や被害状況の確定は難しく、そうそうはっきりできるものでもない。
考えるべきであるのは、その出来事がどう語られ、人々の記憶に残されたか。
比叡山での信長の悪行がこうも語られたということは、何かがあったということでしょう。
後世、信長を庇いたい層はなんやかやと言い募ったことでしょうが、大事なのは当時どれだけ人が恐れ慄いたか。
そこなのです。
その点、本作は衝撃を受け、歯軋りする光秀の姿でも表すからえらい。
光秀は全てを斬り捨てよと言う信長に武器を持たぬ者はどうするのかと問いかけている。信長は逃げよと今まで何度も言ってきたととりあわない。
藤田伝吾はそんな光秀に、信長の命令通り全員斬り捨てるべきか聞く。信長は女子供は逃せと返す。
時代を越え、戦の愚かさと残虐さを見せてくる光秀。
戦は嫌いだった。けれども戦をせずに理想は言えないと悟った。ゆえに、世を変えようとしない、帰ることを阻む奴らに戦で変えてやると言えた。
それでもやはり、戦は酷い。
光秀は女子供をかばったという言い訳も、苦しいとしか言いようがない。
人の業の中へ、光秀は深く沈み込んでゆくのです。
MVP:覚恕
それにしても、本作はやってくれおった……としか言いようがない。
比叡山焼き討ちの原因はいろいろ言われている。けれども、本作は帝の弟にして天台座主・覚恕をクローズアップすることで、とんでもない領域に踏み込んできた感はある。
だって、おかしくないですか?
神道は天皇を頂点とするのに、その弟が仏教のトップって、整合性矛盾を感じませんか?
明治以降の国家神道の矛盾に突っ込むような強烈はことをやらかしてきました。
本作は時系列的には国家神道のはるか前ではある。とはいえ、日本史においてずっと天皇を頂点とした神道が尊ばれたという、最近どこぞで見かける見解に、正面切ってヘビーなパンチを入れるようではある。
志尊の帝のはずなのに、やっていることは兄弟喧嘩だ! そう暴いてしまった信長の凶暴性がまた見えてきました。
「神仏を尊ぶ心はわしも同様」と言いつつ、母に叱られながらも仏間であばれ、ペチペチと石仏を叩いていた信長。
周囲からすると「一貫性がないうつけだなぁ」となりかねないのですが、これは信長のルールの悪用癖が出てしまっているのだと思います。
普通の人は、神をありがたいものだと敬愛して畏れるけれども、信長はあくまで【人が決めたルール】ということで従う。スーツにネクタイをつける程度の感覚でそうする。
心底信じないけど一応は従って、そのうえでちょっとでも破綻を見つけたら「はい、ルール違反です!」とイエローカードを出す感覚で相手を滅ぼしかねない。
周りからすれば、よりもよって一番神なんてどうでもいいと思っているお前が言えたものかと恐怖と嫌悪を感じる。
そういうことを信長のような【創業】タイプの英雄は率直にやらかします。
家康のような【守成】タイプは、もっとマイルドにできるんですけどね。
覚恕はいわば、当時の宗教そのものの意義を体現したようでもなる。
世界史的に見ても肥大した宗教をどうするのか、そこはターニングポイントでした。
総評
肥大化した宗教をめぐるところまで本作は大きく描く!
信長の比叡山焼き討ちは、大袈裟だとか、比叡山側にも問題があるとか言われますけれども、ここはむしろ原点回帰で良いとは思う。
信長の比叡山焼き討ち事件~数千人もの老若男女を虐殺大炎上させたのは盛り過ぎ?
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酷く、大変なことだった。
そう再認識することでよいのではありませんか?
前述の通り、世界は宗教改革で揉めている。
比叡山どころじゃない単位で大量死が出ていた時代です。
東洋でも織田信長という男が、宗教に疑念を抱いて大きな行動を起こした。そう世界史的な中で位置付けてもよいのではありませんか。
とはいえ、いかに人類史の上でのステップのようであれ、人が死に、心が痛むことは確かである。
苦悩する光秀からは、生々しい痛みと悩みが見えてくるのです。
世の中を変えるといったところで、それに伴う痛みは仕方ない。宿命です。
ハセヒロさんは逃げることなく、悶える光秀という姿を見せてきます。
おまけ
再来年大河だ!
『鎌倉殿の13人』。今さらですが、今年春の時点で外さないと私は予想していました。noteでそのへんをまとめていますが。
キャスティングが発表されましたね。
北条政子役が小池栄子さんという時点で、これは成功しかないと確認しました。
小池さんが冷酷な判断をする役を演じるところを、私はどうしても見たかった……小池さんの北条政子を見るまでは、絶対に生き延びてやろうと思える。そういう歴史的な快挙です。
彼女の魅力は尽きない。
賢くて果断がある。そういう役を割り振らねば日本の損失だとすら思っておりました。彼女みたいな女性は歴史上に顔をだす。武則天とか、エカテリーナ2世とか、大胆不敵にいろいろ断行する。時代も洋の東西も超えたすごい存在として出てくる。そういう小池さんが尼将軍、もう勝利ですね。勝ちましたね。決まりです。
そんな北条政子も注目ですが、空気を絶望的に読めない英雄像としては、源義経の菅田将暉さんです!
義経といえば、その悲劇的な人生がやはり有名ですね。私も小学生時代、初めて『義経記』を読んだ時は涙しました。
けれども、大人になっていろいろ読んでいくと、義経には複雑なものを感じるようになる。アルミホイルを噛み締めたような味が広がっていく。
「まぁ、私が頼朝でも、義経はこうしちゃうかな? なんかイラつくよなこいつ! 放置するには強すぎるし」
そんなあたりですかね。まあ、義経にはなんかこう……イラつかせるものがあるのでしょう。
そういう役を演じさせる若手俳優といえば、染谷将太さんと菅田将暉さんがツートップ、東西横綱の感があるので、もう納得しかありません。
見ていてムカつく、そんな義経像に期待しています。
予習としては町谷康『ギケイキ』ですね。
NHKは本気だ。大河を継続させるために、えげつないほど一軍を投入してきた。
VOD時代、もう日本史を題材にしたドラマは躊躇できない。なまっちょろいものもできない。見せてあげますよ、本物の日本史ドラマを!
そういう不退転の覚悟を感じます。
私の受信料を、小池さんの北条政子に使われるならば、払う甲斐があるもの。
大軍を前にしてえげつない決断をする、そんな小池栄子さんがずっと見たかった!
ついにその願いが叶う日が来ました。
◆【大河予想】『鎌倉殿の十三人』は成功するのか(武者)(→link)
※関連noteはこちらから!(→link)
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文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
麒麟がくる/公式サイト