こちらは2ページ目になります。
1ページ目から読む場合は
【鉄仮面】
をクリックお願いします。
お好きな項目に飛べる目次
イギリスからの亡命者?
彼の正体については、長らく多くの憶測を呼んできました。
大きく分けるとだいたい二つのパターンがあります。
一つは「イギリスからの亡命者ではないか?」というもの。
同時期のイギリスは名誉革命その他でお偉いさんたちがドタバタしており、当然、勝者もいる一方、敗れて国を追われてくる人もいました。
つまり「名誉革命で追い出されたほうの王様に肩入れした人々の誰かが鉄仮面の正体では?」という説ですね。
しかしそれならばルイ14世がここまでして隠す必要がありません。
似たようなもので「鉄仮面=クロムウェル説」なんてのもあります。
しかし彼は1658年にイギリスで亡くなっており、デスマスクも作られていますので、これはお粗末なデマですね。
ルイ14世の双子の兄? 出生の秘密を知ってしまった人?
もう一方は当然というか何というか、フランス王室関係者ではないか?というものです。
フランスの話ですから当たり前ですね。
最も有力とされていたのは「ルイ14世の双子の兄もしくは庶兄」というもので、多くの文学作品で取り入れられています。
王様の兄弟だから無下に扱えないが、身分その他を公にされるとマズイ……というわけです。
これに類するものとして以下の説もあります。
ルイ13世と王妃アンヌ・ドートリッシュとの間に子供ができそうになかったので、リシュリューが王妃にフランソワ・ド・カヴォワという貴族をあてがって密かに子を産ませた。
フランソワの三男ユスターシュがそれを知ってしまったため、鉄仮面として投獄された。
その説によれば「ルイ14世はルイ13世とは似ておらず、カヴォワ家の兄弟と似ていた」とも。
これは当時から囁かれていて、ルイ14世とユスターシュの弟・ルイの肖像画が似ているため、事実とみなされています。
ユスターシュ本人の肖像画は残っていないようなのですが、「弟が似てたんなら兄も似ていたはず」という割と強引な解釈がされています。
しかし、現代でも「この世には同じ顔の人間が3人いる」なんて言われますし、顔が似ている=血縁というのも少々短絡的じゃないですかね。
当時フランス王妃の出産は公開されていたので、この逆、
「王が別の女性と子供を作り、王妃が妊娠していたことにしてごまかす」
という手段は取れません。
一方で「種の提供者」は当時証明できませんから、アンヌを妊娠させてしまえば一応表面は取り繕えるわけです。
この場合ルイ14世どころか、それ以降のブルボン朝が全て別の王朝になっていたことになりますので、とんでもないスキャンダルですね。
しかし、ユスターシュには34年も生かすほどの価値が感じられません。
この人は兄ふたりが早く亡くなったので仕方なく家を継いだのですけれども、見事な放蕩っぷりだわ、黒ミサに参加するわ、そのうえ当時は違法(というか異端)とされていた同性愛者の疑いまであったという、属性てんこ盛りな人でした。
さらに付け加えると、1665年には酒に酔って宮廷の小姓を殺したことまであります。どこまでクズなんだ。
ユスターシュはその後軍をクビになり、弟ルイの世話になって暮らしましたが、そのルイが色恋沙汰で決闘騒ぎを起こして捕まるという騒動が起きます。
その後、行方がわからなくなるのですが、その時期と「鉄仮面」が最初に投獄された時期が一致するため、この説が出てきたようです。
しかし、これでもやはり生かしておく理由は不明なままです。
ちなみに「ルイ14世本人説」なんてのもあります。
一般に知られている「太陽王」のほうは替え玉だ……という話ですね。
日本でいえば「皇女和宮が輿入れの際に庶民の娘と入れ替えられた」説と似たようなもので、ちょっとダイナミックすぎるかと。
しかし、外国の王族または貴族であればかくまうことを口実に
「ここに正当な後継者がいる!我々は彼を助けて戦うぞ!」
と戦争を吹っかけていてもおかしくないですし、フランス王族であれば尚のことブッコロされていたほうが自然な気がするんですよねえ。
ルイ15世の時代でも謎だった
これまた伝承の類なのですが、鉄仮面の正体についてはルイ14世の孫であるルイ15世に語り伝えられたという話があります。
ルイ15世は「私だったら、彼を釈放してあげたのに」と、同情的な反応をしたとか。
おそらく近い時代であるほど鉄仮面の正体や自由になることへの懸念・悪影響が強く、ルイ15世の時代にはそれほどでもなかった、ということになるでしょう。
話自体が信頼できるものともいえないので、与太話のたぐいではあるのですが。
ここからは完全に私見なのですけども、もしかしたらカトリック関係のお偉いさんじゃないかなあと思っております。
鉄仮面は敬虔なカトリック信者だったらしいですし、
【囚われの身で何年間も生きる道を選んだのは、キリスト教で自殺が禁じられているからだ】
と考えれば理屈として通ります。
カトリック教会の何らかの秘密を知ってしまった人、という可能性もあるでしょうか。
また、ルイ14世は「カトリックの守護者」を目指してプロテスタントの迫害などいろいろやっていたため、カトリックの聖職者を殺せなかったのでは……とも考えられるんじゃないかと。
面会者についても、教会関係者であれば元々懺悔内容の秘匿義務などで口は堅いほうでしょうから、「情報が漏れるおそれはない」と見られて会うことができたかもしれません。
上記の通り、鉄仮面に関する物的証拠は完全に消し去られてしまっているので、本当に正体を確かめるのならやはりタイムスリップするしかなさそうです。
それも彼が捕まったそのものズバリの瞬間、かつ仮面を被せられる前に。
タイムスリップといえば、彼の存在はSF小説のネタにもなりそうですね。
「鉄仮面は遠い未来から来た未来人であり、ブルボン朝のその後を詳細に語ったため、民衆を混乱させないように投獄された」
「自殺しなかったのは、最期まで元の時代に戻ることを諦めていなかったからだ」
なんて話だったら、ルイ14世が過剰なほど厚遇しつつ監禁し続けた理由としては成り立ちます。
もう既にあったらすみません。
まあ、当分の間は切り裂きジャック(画像ググると危険)と同じく、西洋史上のミステリーのままでしょうね。
いつの日か解き明かされてほしいような、謎のままであり続けてほしいような。
あわせて読みたい関連記事
俺の妻を返せ!ルイ14世に愛妻を寝取られたモンテスパン 奇行に走る
続きを見る
マリー・テレーズ・ドートリッシュ(ルイ14世の正妃)が残した血筋とチョコ
続きを見る
知られざるシンデレラ「マントノン夫人」太陽王ルイ14世に信愛された理由
続きを見る
なぜマリー・アントワネットは処刑されたのか「パンがなければ」発言は完全に誤解
続きを見る
無実の罪で処刑されたルイ16世なぜ平和を願った慈悲王は誤解された?
続きを見る
まずは廃兵院を襲撃~フランス革命の始まりはバスティーユ監獄ではなかった?
続きを見る
長月 七紀・記
【参考】
ハリー トンプソン/月村澄枝『鉄・仮・面―歴史に封印された男』(→amazon)