三国志 Secret of Three Kingdoms

『三国志 Secret of Three Kingdoms』/amazonより引用

歴史ドラマ映画レビュー

『三国志 Secret of Three Kingdoms』23の疑問に回答!マニアも唸る魅力とは

2024/09/10

マニアックな三国志ファンを唸らせていると評判になった――『三国志 Secret of Three Kingdoms』が9月8日からNHK BSで放送開始となりました。

美男美女まみれで『三国志』の話なのに劉備も孫権も出てこない……。

しかも主役はなんと献帝の双子の弟……。

 

なんなん、これ? と、いろいろ衝撃的な設定ですが、肝心のドラマの中身は、最新の研究を反映させており、極めて高度な傑作に仕上がっています。

ただ、そのぶん難易度も高い。

そこで本稿では、ドラマ鑑賞中に湧いてくるであろう疑問を【Q&A形式】で考察&解説してみたいと思います。

全部で23のQ&Aがあり、中にはネタバレも含まれますので、ご注意ください。

いざ!

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『三国志 Secret of Three Kingdoms』(→amazon

 


献帝に双子の弟がいるってどういうこと?

そこは本作があくまでフィクションであるというポイント。根底です。

そこからどう繋げていくかを楽しみましょう。

ただ、その弟がどうして隠蔽されていたかという説明は細かいものがあるのです。

献帝の母は王美人であり、何皇后の子ではありません。

そのため母が堕胎薬すら飲まされていたのですから、本作の弟がいたという話のディテールにはバッチリ。そこを楽しみましょう。

答:そこはフィクションです

 


メインヒロインの伏寿って誰?

献帝の皇后です。

名前、家族関係を準拠しておりますが、男装して戦場に向かうような展開はフィクションだと捉えていただいて構いません。

とはいえ、それは『三国志演義』はじめ、ずっとされてきたこと。

本作における彼女の活躍はありなのです。

むしろ本作で、新たな魅力が大きく花開いたと言える。素晴らしい描き方だと思えます。

答:新たな彼女の魅力を見出そう!

 

メインヒロインの唐瑛って誰?

献帝の兄であり、董卓によって廃された劉弁の妻。

劉弁はわずかな期間のみ皇帝の座にあり、李儒により毒殺されました。

その未亡人ともなれば、世捨て人になってもおかしくはない。名から経歴までほぼオリジナルキャラクターのような人物なのです。

武侠じみた剣技や刺客としての顔は、大胆なフィクションということでご理解ください。

けれども、設定ゆえに限界が見えてくることもあります。

こういうオリジナルキャラクターが物語に深みを与えることは、歴史フィクションの定番です。

本作は女性の人物を中心として、そこをうまく使っています。

答:ほぼオリジナルキャラクター。とはいえ、その設定がある展開において重要な役割を果たします

 


諸葛孔明すら出てこないって本当?

本作は後漢から魏を経て、晋へ向かう流れを描くドラマです。

『三国志演義』のドラマ化ではないのです。

ゆえに、蜀と呉の人物は一切出てきません。赤壁の戦いすらセリフでしか出てきません。

『三国志』という邦題が紛らわしいと言えばそうなのですが、そこは仕方ありません。

にもかかわらず、正史と『三国志演義』を把握していないと理解できない描写が多いところが上級者向けなのです。

魏でも夏侯惇のような有名人物が出てこない一方、マイナーな人物が新たな魅力をを見せる。

それこそ本作の特徴です。

諸葛孔明は出てこないのに、徐庶は意外なところで出てきます。

答:ディープな三国志マニア向けだからこそ、敢えて出ていないといえばその通りです

 

時代考証はどうなの?

このドラマのビジュアルや動画を見ると、違和感があるかもしれません。

なんだか知っている『三国志』と違う!

こんな髪型ありなの?

甲冑が素朴だし、衣装も全体的に地味なような……そう思えたらむしろ正解なのです。

この時代は史料が少ない。後世のきらびやかなイメージで描かれがち。

そういった要素が重なり、実は間違った映像化作品が多かったもの。唐代から明代まで、混ざり合っている混沌とした状況でした。

それが最新の研究を踏まえ、正確に再現していると思えます。

食事の場面だけでも、相当骨が折れているはずでしょうね。

『三国志』のイラストを手がける方は、本作を参考にすることをオススメします。

男性が髷を結う際は、オールバックにするのではなく真ん中分けにするあたりを意識すると、一味違うものが描けるはず。

リアルにするのであれば、前髪は作らないでください。女性も参考になります。

食器や家具、建築物も眼福ものです。ここまでレベルが高い考証を見ていると、それだけで心が洗われます!

答:最新研究の成果が発揮されていてバッチリです!

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満寵がやたらと郭嘉を推している……あいつは何なの?

魏の人物中心である本作は、武人は曹仁一人で役割を果たしていると言えます。

一方で軍師は盛りだくさん!

郭嘉、荀彧、賈詡といった曹操配下でも屈指の人物。

あるいは楊修、孔融、そして満寵といったなかなかマニアックな人物が活躍します。

満寵はメインキャストではないにも関わらず、どういうわけか、お気に入りなのか、なんだか存在感がある人物です。

していることはほぼ郭嘉推し、推しの郭嘉を情熱的に崇拝しているだけ。

一体こいつは何なのか?

郭嘉LOVE鉢巻をつけた広告にも起用されるほど愛されている人物です。

制作側もイチオシらしく、舞台中心の屠楠を大抜擢しております。

衣装や結髪もおもしろい。満寵なくして本作は成立しない、そんな味のある人物です。

史実はどうでもいい。こんなに愛されているなら、もうどうでもいい。

答:本作の癒し枠です

 

曹丕が悩んでいる兄・曹昂の死とは?

197年、張繍の居城である宛城にて、戦死を遂げています。

曹丕が恨んでいる張繍と胡車児とは、このとき兄を殺した仇とされているのです。

曹丕はまだ幼く、兄が彼を庇って戦死したというのはドラマの創作です。曹操に馬を譲り戦死したとされています。

この宛城での一件は、曹操が張済の未亡人・鄒氏と密通したため、張繍が怒ったからとされていますが、これには相当無理があるといえばそうなのです。

・張繍からすれば彼女は目上の女性。未亡人となった彼女が曹操に接近しようと、どうこう思うことはおかしい。鄒氏という名前からして後世の創作の可能性が高い。

・曹操は「張繍から人質を取らなかったこと」が原因としている。恥ずかしいやらかしを隠蔽したとも、もちろん解釈できますが。

・この件で曹操の正夫人であった丁氏が離婚しているものの、理由は曹昂が死んだからとしている。曹操のやらかしについてはコメントなし。もちろん不愉快すぎて敢えてしなかった可能性はありますが。

・曹操は、実はそこまで色欲がらみでの暴走はせず、節制をしています。二喬欲しさに赤壁で大敗しただの、そういうイメージは後世の創作の結果が多いのです。

・賈詡という屈指の謀略家が、このとき張繍配下にいたわけでして。

・これほどの事件がありながら、張繍は確かに曹操から厚遇されているのです。

「曹操が女遊びしたせいで失敗したんだね!」

というのは、確かに釈然としないし、浅い解釈だとは私も思っていました。

曹操を貶めるため。あるいは曹操と鄒氏のラブシーンをエロチックに盛り上げるサービスのようで、このあたりの描写は正直不愉快でした。曹操にも失礼なんじゃないかと。

このドラマの作り手も、同じモヤモヤがあったのでしょうか。

なんともビックリなシナリオを用意しています!

ネタバレを抑えつつヒントを出しますと……曹昂の死で最も得をするのは誰でしょう?

真犯人もぶっ飛んでいます。

しかし、曹丕は当時幼すぎて現場にはおらず、おの死を目撃していない方が妥当ではあるのです。そういう逃げも用意できています。

答:不可解な死を遂げた真相をミステリ仕立てにしました。実はこれもアリ、それなりに説得力がある設定です

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徐州と下邳で曹操は何をやらかしたの?

伏寿が嫌悪感をこめて語る徐州の事件は、193年に起きた「徐州大虐殺」とも称される出来事。

父・曹嵩が暗殺されたことに怒った曹操が、徐州を攻めてその土地の住民を大量殺戮したのです。

伏寿は徐州の出身であり、彼女にとっては痛恨の極みでした。

この徐州から避難した中には、呉や蜀に仕えた者も多く含まれています。瑾と亮の諸葛兄弟もそうであったとされております。

曹操に対する反発はこの虐殺のせいで高まりました。彼の悪事でも最大のものとみませます。

下邳での出来事とは、199年に呂布を捕らえた籠城戦のこと。呂布はじめとする騎兵に手を焼き、籠城戦に疲れ果てた曹操は撤退すら考えますが、郭嘉や荀攸が水攻めを提案し勝利を収めました。

水攻めは非戦闘員の区別もつけず、ライフラインも大破壊してしまいます。

そのため、住民にとっては悪夢なのです。

曹操にとってはやむを得ない決断だろうが、相手からすればそんなこと知ったことではありません。

答:曹操の悪事のことです

 

曹仁は曹操の弟でしたっけ? 従弟では?

本作の日本語の解説において、曹仁が曹操の弟設定になっているとするものがあります。

弟と呼ばれているからかとは思いますが、中国語ですと「堂弟」です。

父方の同じ姓のいとこという意味。本作は別に血縁関係は変更していません。何かの誤解があるだけかと思われます。

中国では同族の年少者男性を「弟」として呼びかけることもありますから、そうした誤解でしょう。

答:そもそも弟ではなく、劇中でも史実通りであるのに、誤解されているようです

 

卞夫人とは?

曹操の正室。歌妓出身。

劇中では彼女の子は三人が出てきておりませんが、四人の男子、三人の女子の母とされています。

その出自から、夜のお姉さん系のファンアートが多い女性。しかし実際は質素好みで堅実な性格でした。

曹操が派手な衣装や生活を好まないと悟り、極めて倹約をしていたのでしょう。

外戚(帝、王の母や妃の一族)専横の弊害を踏まえてか、自分と同族の者を過度に引き立てもさせておりませんし、服装も夫好みの地味なもの。まさしく賢夫人というところです。

彼女ははじめから曹操の正室であったわけではありません。

曹一族と複数の婚姻関係があり、付き合いの深い丁一族から迎えた正室がおりました。

この丁夫人自身に子はないものの、母を亡くした別の曹操の子を我が子として育てていたのです。

その一人が曹昂でした。有力者出身であり、正室である丁夫人を出し抜くには? 謀略だ! そうなったのが本作の卞氏というわけです。

曹昂の死に絶望した丁夫人は、曹操による和解の申し出をはねつけ、離婚にいたります。そうなってからも、史実の卞夫人は丁夫人を丁寧に遇したそうですよ。

ちなみに劇中初登場時40歳で、曹操の5歳下ということになります。これは史実準拠です。

 

曹操までイケメンでいいのでしょうか?

本作の曹操は、香港の名優・謝君豪です。

なんだ、結構イケメンじゃないの……誰でもイケメンにすればいいと思ってんのか!

そういうツッコミは想像できますが、これはこれでアリな範囲だと擁護させてください。

まず、曹操はイケていないという根拠は何でしょう?

いろいろあります。代表例はこんなところでしょうか。

『世説新語』より……

曹操は、ある時匈奴の使者を迎えます。

「俺さ、ぶっちゃけ背が低くね。ナメられたくねえし、身代わり使うわ」

そうフェイクをたてて、謁見します。この使者に、印象を聞いてきました。

「曹操様は確かにご立派ですね。でも、側にいたおつきの人の方が只者ではないっていうか、オーラが半端なかったんですよ」

曹操はこれを聞くと、刺客をはなってこの使者を殺しましたとさ……って、何がしたかったんだ、曹操!

この逸話からわかることは、曹操は威圧感や身長は欠けていても、ただ者ではない見た目でオーラがあったということです。

正史ではこう言っています。

馬超討伐の際、人が彼を見物にやってきました。そのとき、ハイテンション曹操はこう言ったとか。

「よっ! お前ら俺がなんか特別だと思ってんの? 目が4つあるとかそういうんじゃないぞ。ただ、頭の中身がちがうんだッ!」

彼自身は、自分は見た目に威圧感がなくとも、中身で勝負だと思っていたようです。

背が低いという一点では不利。謝君豪は170センチそこそこで、180センチを超える共演者と比較すると小柄です。よし!

それと、曹操がイケてないとされた理由は推察できます。

曹操は、正史の時点で落ち着きがありません。

ゲタゲタ笑い転げたり、裸足で走り回ったり、キレて相手を殴ったり、ともかくうるさい。

『曹瞞伝』によれば、ファッションセンスもおかしい。

ぴったりフィットする服を着て、ポーチになんか色々入れて持ち歩いている。それの何が悪いのかと思うのかもしれませんが、なんかカジュアルすぎるんですね。

ゆったりした服を着て動け!

実用性重視でスウェット着てばっかりでどうすんだよ!

そういう、ビリー・アイリッシュに対するツッコミのような反応が当時からあったのです。

つまり、曹操は顔の作り以前に、態度がともかくイケてないうえに、なんかイラつくタイプだったんですね。

そういう実用性重視の格好と、チンピラのようで威圧感がある風情を、初登場時に出してきています。

謝君豪の曹操はむしろ原点回帰。正史に近い、チャラけた小柄曹操なのです。

答:小柄でなんかムカつくし、威厳がないことは確かだけれども、イケメンでないとは言い切れないのです。ちなみに曹操は遺骨が発掘されたため、実は復顔されています

◆曹操の顔が復元、威風堂々たる雰囲気に驚愕(→link

 

当時はイケメンの時代だった……今も華流ドラマファンは厳しい!

曹操たちの生きた後漢から魏晋南北朝時代は、中国史で最もイケメンが重視された時代です。

『三国志』の英雄は、ともかく見た目をジャッジされています。

後世、フィクションで強調されたとはいえ、元からしてイケメン需要時代なのです。

メンズメイクが流行したこともあり、何晏(かあん)は常に化粧道具持参。いちいちイケてるかどうか確認していたほど。

「最近の若者は見た目ばかり気にしていかんな!」なんて嘆きもありました。

じゃあ、そんな何晏、あるいは周瑜が当時最もイケメンなのか?

そうではありません。近い時代に、潘岳という中国史上最高のイケメンがいます。

文学作品では「まじイケメン、現代版潘岳じゃね!」という表現がしょっちゅう出てきます。ちなみに親友の夏侯湛(夏侯淵の曾孫)もイケメンで「双璧」と呼ばれたとか。

当時の女性は元気いっぱいで、潘岳を熱狂的に推しておりました。

潘岳が出かけると「ぎゃーーーーー!」と推しメンにざわつく女子が果物を車に投げ入れ、帰宅するころにはいっぱいになっていたとか。まさにアイドルですね。

ちなみにイケてないことで有名だった左思という人物は「キメエんだよ!」とおばあちゃんたちに唾を吐かれまくったそうです。

文才はあったんですけどね……イケメンは正義、その反対には辛い時代だったんですよ。

そして今、中国ではドラマファンの美形要求は凄まじいことになっています。

「このドラマはそもそも顔値が低いからダメだな!」

そんな痛烈なコメントがインターネット上で盛り上がる。日本の比じゃないのでは?と思うほど、厳しいのです。

答:『三国志』とは、そもそもがイケメン正義ワールドだ!

 

司馬家と曹操の関係は?

劇中である通り、司馬防が曹操を洛陽北部都尉に推薦しました。

曹操としては、出世の糸口をくれた人という認識です。

司馬防の息子は「八達」と称され、才能があることで有名でした。

曹操はそこで二男・司馬懿をスカウトするものの、司馬懿は露骨に嫌がったとされているのです。

そのために仮病を使ったといういつわが、本作にも使われております。

答:腐れ縁、とでも言いましょうか。そこは確かです

 

司馬懿の車椅子はなんなの?

なんかしょうもないアリバイをしてバレる、司馬懿車椅子騒動。ギャグでもなく、史実準拠ではあります。

司馬懿は曹操からスカウトを受けると、嫌がって中風の仮病を装いました。

曹操は疑いまくって人を遣って針を突き刺させたり、脅迫したり、いろいろと最悪なことをして陥落させているのでした。

針突き刺したとかなんとか、誇張もありきじゃないかという気がします。そういう仮病とそれを見抜く構図は、史実準拠ということです。

答:仮病伝説の誇張。根拠があるといえばそう

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曹丕がなんか闇の剣術みたいなのをマスターしているけど?

曹丕が名前しかほぼ伝わっていない王越や王服に巻き込まれ、死にかけるわ、闇の剣術のようなものをマスターするわ。なんだかすごいことになります。

これは中国の伝統的な武侠ものの要素を入れた展開です。唐瑛と曹丕は、武侠超展開に巻き込まれます。

答:武侠要素で盛り上げているのです

 

華佗一門って何?

華佗とは、史実では伝説的な名医です。曹操が短気を起こして殺害したとされております。

そういう史実に『三国志演義』はじめフィクションは大胆な脚色をしてきました。

本作ではなんと郭嘉が華佗一門に属しており、兄弟子と揉めております。

一体なんなんだその設定は、闇の組織か!

そう突っ込みたくなるでしょうが、これも武侠もののお約束。毒の使い方も本作はなかなか大胆で、これも武侠だということでお願いします。

武侠要素が出てくるということは「ここはフィクションです」とわかるので便利です。

答:これまた武侠要素です

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甄宓と曹丕の関係は?

このドラマでなかなか面白く、秀逸であるのが甄宓と曹丕の関係です。

いろいろと疑問点があるところを、うまくまとめています。

まず、彼女は袁紹の子・袁煕の妻です。袁一族が敗北し、鄴が陥落した際に見染めて妻にしたとされています。

けれども、そんな略奪愛、政治的な後ろ盾がない女性を妻とするというのは、曹丕の性格的にどうなのでしょう?

曹植と後継者争いをしているとなれば、不自然と言えばそうなのです。

本作は大胆なロマンスが盛り込まれ、甄宓は奔放な魅力がある女性になりました。あの曹丕が、唯一燃やした愛のようにも思えます。

この甄宓は、罪を着せられ死を賜り、罪人扱いをされて埋葬される異常な処遇を受けています。

太子である曹叡の母であることを踏まえると不自然。

そこで、絶好の創作物の題材にはなりました。

一番有名なのが、曹植と愛しあっていたというもの。曹植の『洛神賦』は、彼女への愛を詠んだというものです。

創作上、彼女の名は「甄宓」や「甄洛」とされるのは、そこから来ています。本作では甄宓を採用しています。

ただし、これは甄宓と曹植にとっては不名誉な伝説かもしれない。

兄嫁に恋愛感情を抱くなんておかしい!

そうなりますね。このドラマでは、曹節が別の場面でそのことを指摘していますが。

本作は、この二人の関係性をリセットしました。そのうえで、曹丕との関係がこじれて甄宓は死へ追い込まれる設定にしています。

曹丕は結局、愛を見せられない男!

そんな冷血な男はお断りだ!

そう手厳しいダメ出しをしている。極めて冷酷ですが、史実からの解釈としてありえますし、そもそも甄宓があんな悲惨な死を遂げた理由は不明なのです。

極めて高度かつ、うまい処理とは言えます。曹丕が気の毒ではありますが。ただ、曹丕がそうなる動機やトラウマとなる事件を丁寧に入れてはおりますので、作劇上致し方ないのでしょう。

むしろ、他の作品より曹丕の内面を描くことに力を入れていると言えます。

答:甄宓の問われた罪が不明瞭ですので、そこは脚色できます

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曹植が詩人なのに武人として活躍しているのってありでしょうか?

それを言うのであれば、彼の父・曹操や兄・曹丕もそうです。

詩人であり武人であることが、彼ら父子の特徴とも言えます。

そういう人物はそこまで多くもなく、曹操は後世「槊(ほこ)を横たえて詩を賦す」(蘇軾『前赤壁賦』)と称えられています。

そういう人ばかりでもない……というよりも、曹父子は特殊例ではありますが。

そう考えてみて、また曹丕と後継者争いをしたとなれば、曹植が武功を立てたとしてもおかしくはありませんし、実際のところ彼には剛直なところがありました。

戦場にいる曹植が不自然に思えるとしたら、悲劇の詩人としての彼を強調しすぎた後世のフィクションの影響でしょう。

答:曹父子は智勇兼備です

 

曹操の『短歌行』って、赤壁で詠んでいた気がするのですが?

本作では赤壁の戦いがセリフのみで処理されます。

有名な合戦であろうと、名場面であろうと、作り手が重視しなければカットすることは歴史劇の手法です。

となると、あの場面もないのかと思うかもしれませんね。曹操が代表作である楽府『短歌行』を作り、詠む場面です。

あの詩は赤壁の戦いの前に詠むことが、定番になっている……そんな認識がある方もおられるかとは思います。

ドラマや映画『レッド・クリフ2』でもその場面は登場します。

しかし、実はこの作品の制作時期や背景は特定できていないのです。

前述の蘇軾『前赤壁賦』のイメージが強いとか。赤壁の戦いを盛り上げるためとか。そういう理由で、あのタイミングがフィクションの定番となったに過ぎません。

いつどのタイミングで入れるか、実は理由にアレンジできます。

最近は赤壁以外のタイミングで入れることが増えてきています。曹操の見せ場として、そこは入れたいところですね。本作にも、バッチリとよい場面が入ります。必見ですよ!

ちなみに、この『短歌行』はなかなか悩ましいものでして。

なんだかノリノリで一貫性がないし、テンションの浮き沈みが激しく、研究者を悩ませています。

「誰かと即興で詠んだとか?」

「酒で酔っ払ってベロベロになって作ったんじゃない?」

まあ、ありえるとは思います。曹操は酒好きだし、テンションの浮き沈みが激しく「俺、キレて人殴りすぎるからマジ反省してる……」と言い残していますし、実際怒ると家臣を殴っていたそうです。

酒も大好き!

高い場所に登るとテンションがウヒャハー!

とあがって詩を詠んでいたそうですので、そういう性格なのでしょう。曹操はハイテンション野郎なんですよ。

本作の曹操も落ち着きがなく、テンションの浮き沈みが激しく、いきなりキレ散らかします。これも史実準拠です。

答:『短歌行』は好きなタイミングで使えます。映像化された曹操の中でも、細かいところが史実準拠!

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曹植の妻・崔夫人とは?

曹植の妻である崔夫人が本作には登場します。

そこに何か違和感があるとすれば、甄宓との創作由来のロマンスの影響でしょう。

崔夫人は不可解かつ影が薄いと思えます。

前述の通り、曹植と対になるヒロインはどういうことか甄宓です。

崔夫人は「禁止令を出していたにも関わらず、華美な服装をしている」という理不尽な理由で義父・曹操から自害を命じられていまう。歴史のミステリーとも言える彼女の死の動機を本作は推理しています。

後継者争いをした曹丕と比較すると、曹植は名門の妻を娶っている。しかも、ドラマの設定ではむしろ服装が地味であり、周囲から驚かれているほどなのです。

つまり、彼女が不注意から華美な格好をするとは考えにくい。

劇中で何かとややこしいことになっている崔琰がらみ、曹丕の陰険な謀略……そんな要素が想像できる見事な作りとなっています。

劇中ではその死までは描かれません。しかし、曹操が死を命じたということは、時系列的には自害しています。そのあたりを補完しつつ見るとより楽しめるかもしれませんね。

答:脳内補完できる材料は揃っており、これまた秀逸です

 

曹節とは?

劇中の後半で目立つ人物といえば、曹操の娘であり、曹丕と曹植の妹である曹節です。

おてんば、天真爛漫、素直。

そんな彼女は、他のヒロインと同じく、名前と設定を借りた程度、かなり自由な造形であることはご理解ください。

曹操と卞氏以外から生まれた兄弟姉妹は大胆にカットされていることも、本作の特色です。

彼女が献帝の皇后となったことは、史実を見てゆけば政略結婚です。姉一人、妹一人も同時に後宮に入っております。

とはいえ、皇后になったことは確かであり、一番目立ちます。

曹操の娘というだけで、夫である献帝に酷い態度を取る悪女扱いをされたこともありますが、これはあくまでも創作の話。

むしろ禅譲を迫る兄・曹丕に怒り玉璽を投げつけた逸話があります。

毛宗崗によって『三国志演義』にもこの話が採用されました。

本作では「もう曹丕お兄ちゃんのバカァ!」と、兄の冷血を責め立てる名場面として登場します。

史実では兄に直接ぶつけてはおりませんが、ナイスアレンジということでよいでしょう。曹丕がとことんろくでもないとわかる演出をされており、大変秀逸。見逃さないでくださいね!

答:玉璽を投げる曹節の使い方として最高です。お見逃しなく

 

任紅晶の正体ってアリなの?

重大なネタバレがあります。ご注意ください。

本作で驚かされる設定といえば、あの伝説の美女・貂蟬が任紅晶という名で郭嘉に接近し、活躍を遂げることでしょう。

彼女が登場した時点で、正体に気付いた方は相当の通。そもそも貂蟬は実在しません。それを踏まえまして、時代がくだると彼女はこんな設定となります。

貂蟬は、貂や蟬といった飾りをつけた官吏用「貂蝉冠」のこと。その管理をしていた担当者だから“貂蟬”。

本名は任紅晶です。

ただ、これもちょっとおかしいのです。

後漢から三国時代は、諱は男女ともに一文字が多い。任晶ではなく、任紅晶というあたりに、時代が降ってからの創作だという雰囲気は出ています。

要するに後世の作家が創作時につけた名前を、ドラマでも踏襲しているのです。

相当のマニアであれば、この名前の時点でピンとくるわけです。

そんな彼女の年齢は?

董卓の死が192年で、官渡の戦いは200年。

董卓の死の時点で16であったとすれば、24歳ですね。本作ではさらに若く、作中初登場時22歳の設定です。

「でも貂蟬は、もう死んでいるんじゃないの?」

そう思ったとすれば、それはあなたが日本人だからかもしれません。

日本の『三国志』ものでは、貂蟬が「連環の計」を叶えたあと、ほどなくして自殺なり他殺なりで死ぬことが多いのです。

これはあくまで日本独自の現象で、本場中国では呂布の側にいます。正室ではなく、あくまで側室扱いであり、その後どうなったかはわからない。フェードアウトが主流です。

ただ、この流れになるまでにも紆余曲折があり、関羽を誘惑した挙句に斬殺される設定もあったほどでした。

あれだけのことを成し遂げながら、ふっと消える貂蟬。それはそれでよいものの、21世紀の新解釈ではどうするのか?

そこに本作は挑みます。

貂蟬は、時代ごとに最高にクールなヒロイン像も反映されます。本作にも、そんな願望が詰まっています。

最愛の人・呂布が死んだ。後追いせずに、深い愛を証明するにはどうすればよいのか?

呂布の愛娘を守ろう――本作での貂蟬は、そのために危険も顧みない、義侠の人になったのです。

呂布の娘・本作では呂姫とされている女性は、袁術の子との縁談があったとされるのみで、これまた結末が不明です。

ただ、袁氏との縁談があったからには保護されて、かつ屈辱的な目に遭っていてもそこまでおかしくもありません。本作の任紅晶と呂姫のストーリーは、無理のない創作範囲かつ、今時でクールな設定と言えます。

ちなみに呂布の娘が呂玲綺であるというのは、あくまで創作上の名前です。

答:これが21世紀版のあの最強ヒロインだと思えば、極めて素晴らしいとしか言いようがありません

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原題『三國機密之潛龍在淵』とはどういうこと?

これは本編最終盤に意義が語られます。

人の意識という深淵に潜むもの。そこから出てきた龍のような何かが姿を見せるそのとき、どうなるのか?

深い淵は何のことで、龍とはどういうことなのか?

はっきりとした答えはなく、問いを投げかけられ考える作品となっています。

答:その答えは、見る者の中にあります

本作は極めて緻密に作られており、今できる『三国志』ものでもトップクラスの出来といえます。

華流時代劇でも上位に入ると思える傑作です。

ただし、いろいろと複雑な要素があり、勧めにくい。

「えっ、なんで諸葛孔明出てこないの?」

こうなりそうですよね。

しかし、諸葛孔明はいなくとも満寵がいればよい。そう自信を持って勧められます。

心理描写中心、オリジナルキャラクターや女性の活躍。

英雄の躍動感を扱うという意味では『麒麟がくる』とも共通要素が多いといえます。

これが世界的に到来する2020年代歴史劇の流れだ!

そう意識して観たい傑作です。


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【参考】
『三国志 Secret of Three Kingdoms』(→amazon

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小檜山青

東洋史専攻。歴史系のドラマ、映画は昔から好きで鑑賞本数が多い方と自認。最近は華流ドラマが気になっており、武侠ものが特に好き。 コーエーテクモゲース『信長の野望 大志』カレンダー、『三国志14』アートブック、2024年度版『中国時代劇で学ぶ中国の歴史』(キネマ旬報社)『覆流年』紹介記事執筆等。

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