大病を患い床に臥せっていた源頼家が目を覚ましました。
凄まじい回復ぶりで、大江広元も神仏の加護だと困惑しています。そう聞かされる北条一族はさらに戸惑っています。
思わず「医者の野郎、余計なことしやがって」と口走る時政。
周囲からたしなめられる一方、頼家の母である北条政子は自分のせいだと反省しています。
問題は頼家をどうするか――。
りくが仏門に入れろと言えば、すかさず実衣が「今さら息を吹き返しても遅い」と太々しく言い放つ。
「少しは黙っていろ!」
思わず一喝する北条義時です。
では、頼家が寝ている間に起きたことは、誰が当人に話すか――。
時政は、息子の北条時房に押し付けようとします。
「寝ている間に比企を滅ぼしました……って言えるわけないでしょ!」
困惑しきりの表情で時房が拒否します。坂東彌十郎さんと瀬戸康史さんの掛け合いが愛嬌たっぷりですが、いや、ここをかわいらしくされてもなぁ。
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せめてもの救いは一幡が生きていること。政子がそうこぼすと、北条泰時の目が泳ぎ始めます。
広元が話を進めます。
千幡を征夷大将軍にする使者が京都へ出立していて、止めるなら今しかない。すぐにでも決断せねばならない。
そう迫ると、義時がキッパリ言い切ります。
答えは出ている。頼家の生存は北条には悪い。
時政もしぶしぶと納得しています。
「ここは頼家様が息を吹き返される前に戻す。それしか道はない」
いいのか、それで!
そう問いかけたくなる中、今週が始まります。
目を覚ました頼家に時政親子が対峙
今や、不吉な先行きを宣告するばかりのナレーション。
恐るべき早業で比企を滅ぼした北条。
千幡を鎌倉殿とする新体制が生まれる。
しかし、そこに既に大きな亀裂が入り始めている――。
長澤まさみさんの声で、物騒な鎌倉の世界へ。
時政と時房は頼家の見舞いに出向きました。まだ立ち上がるとふらつくと言いながら、頼家はこう問いかけてきます。
「正直に申せ。わしが死ぬと思っておったな」
頼家は、剃髪させられたことで理解していました。父の源頼朝と同じ手順でしたので。
それでも頼家は、出家しても政(まつりごと)ができぬわけではないとやる気を見せています。還俗するという手もある。
そしてせつに会いたがる頼家に、どきりとする時政と時房。
流行病だと答えると、医者はそんなことは聞いていないと言い出します。
しかも、一幡も病に伏せている、と……。
頼家はすぐさま見舞いの品を用意させると言い出します。
せつは鮎鮨。
一幡は干し柿が好物なんだとか。
頼家は、本当に妻子を愛していたんですね。
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義時と泰時が一方的に「おなごはキノコだ!」と思い込んでいたこと比較すると、きちんと対話していたことや細やかな気遣いがあったことを感じさせます。
そして比企の舅を読んで欲しいと言い出す。
それも病と言われ、異変に気付きます。
比企の血を根絶やしにしないの?
実衣は赤く豪華な衣装を身につけるようになりました。
念願の鎌倉殿の乳母として乗り気です。
そして政子に出家をする気はないと言い切った。
結局、夫の全成は救われなかったではないか。菩提は弔うそうですが、もはや神仏など信じていない様子です。
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尼姿の政子と、深紅の妹――なんとも対照的ですね。
実衣はふてぶてしいくらいが美しさの極みかも。夫が生きている頃の可憐さとも違う、権力に酔った美貌が出ています。毎週、美しさが更新される姉妹ですね。
宮澤エマさんは、実衣の子孫である阿野廉子(後醍醐天皇の寵姫)を演じてもお似合いでしょう。
義時はしみじみと、それも生き方だと理解を示しています。
まぁ、みっともないから出家しろと言っても、この妹は聞かないでしょうしね。
実衣は、続けて毒のある言葉を吐きます。
私の話はいい、この鎌倉に比企の血を引く者が残っている、根絶やしにするんじゃなかったのか?
義時が目を泳がせつつ、比奈はとっくに北条の者だと反論します。それでも頑固な妹は、比企の血が流れていると言い募る。
政子が焦ったように言います。
「どうしろというの? まさか首を刎ねろと?」
それでも実衣は、あの人には比企の血が流れていると言うばかり。
理不尽な理由で、夫と我が子を殺された憎しみは全く解消されていませんし、それも自然のことかもしれません。
悲しそうな政子は、比奈のことをどうするのかと義時に問うと、痛みを堪えているような義時は、そんな政子に話があると伝えます。
そのころ比奈は、結婚の際に書かれた起請文を眺めていました。
母を拒絶する頼家
「一幡は助けると言ったではないですか!」
政子が声をあげると、義時がスラスラと嘘で答えます。
話によれば、一幡は一旦比企の館から出たものの、振り切って火の中に戻ったと。
政子は嘘だと見抜き、初めから助けるつもりはなかったと怒っています。大姫の許嫁であった源義高と同じで、何をするかわからないから殺したのだろうと。
「ちがいますか!」
そう言い、弟の頬を打つ姉。
「あなたは私の孫を殺した! 頼朝様の孫を殺した!」
「一幡様にはいてもらっては困るのです……」
「頼家も殺すつもりですか!」
そう政子に問われ、首をゆっくりと横に振る義時。
もう信じることはできないと返す政子。
立ち上がった義時に、政子がどこへ行くのか問うと、頼家に今回のことを伝えるとのこと。
これ以上、息子を傷つけたくなかったのか、あるいは自分でケジメをつけたいのか。政子は自ら話すことにします。それでも止める義時に、私の役目だと言い切る政子。
「すべてをお話しになるおつもりですか?」
「馬鹿にしないで。私だって心得ています」
なんとも対照的な姉と弟になりました。
政子はこんなことになっても目が澄んでいる。
一方で義時は目に光がまるでない。
何もかもがドス黒い。
まったく正反対に思える、光と闇の化身のよう。それでも向かう方向は同じです。
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頼家が母の言葉を聞いています。
比企が滅んだということは、せつも一幡もこの世にいないのか?
そう問いかけられると、言葉を失い、俯くしかない政子。なぜだ! と取り乱す頼家に、政子が理由を説明します。
誰も頼家が助かるとは思っていなかった。比企一族は館に日を放って自害した。
すると、頼家が泣いて訴えます。
「なぜ死なねばならぬのですか! まやかしに決まってる!」
「あなた一人を死なせるわけにはいかなかったのでしょう」
「本当は何があったのですか? 教えてください」
「本当のことです!」
「北条の奴らだ……あいつらが比企の舅殿を、せつを、一幡を!」
「あの人たちは自ら命を絶ったのです!」
「そんなわけないではないか!」
政子が頼家に近寄ると、親子の情など無いかのように振り払う。忘れろと言われても、断ち切れと言われても、できない。何のために生き永らえたのかと問われても、響かない。
「善哉は?」
「あの子は無事です。三浦が守っています。つつじも。安心して、だから……」
「離せ! 近寄るな! 出ていけ! 北条をわしは絶対に許さん! お前もだ! 出ていってくれ……お願いだから 出ていってくれ……」
頼家は母も失いました。自分の妻子を殺す母なんて、許せるわけがないでしょう。
では、そのつつじと善哉はどこにいるのか?
慈円と後鳥羽院
つつじと善哉は三浦義村が庇護していました。
頼家が倒れ、せつも死んでしまい、恐ろしいと訴えるつつじに、義村はこう言います。
コトはよい方へ進んでいる。千幡の身の上に何かあれば、次の鎌倉殿は間違いなく善哉。時を待つように告げるのですが……。
今週も邪悪で、それを隠そうともしていない。ったく勘弁してくださいよ。
義時の盟友のようで、三浦と北条の差に納得できていない――そんな義村の悪企みは続きますが、果たしてどこまで本気なのか。
うまくいくように手札を増やしているだけで、確たる見通しまでは持っていないような印象ですね。
と、ここで京都の後鳥羽院が出てきました。
中原親能が鎌倉の文を届けると、頼家が危篤と知り、死ぬのかと興味津々です。
しかも「うまいもんばかり食って不養生していたのだろう」と冷たく言い放っています。
なんでも推察することが好きなのでしょう。常に頭を働かせていたいタイプだ。
といっても、当時の鎌倉に美味いものはないとは思います。糖尿病になる京都の貴族からの連想ですかね。
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鎌倉からは、弟(千幡)に跡を継がせ、征夷大将軍にして欲しいという要望も来ていました。
「どう思う、慈円僧正」
山寺宏一さん演ずる慈円は、当時の有力貴族だった九条兼実の弟にあたります。
兄弟そろって文才があり、九条家は土御門通親の台頭により後鳥羽院周辺から遠ざけられました。
一方、慈円は歌の才能を後鳥羽院に愛され、側に置かれています。
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山寺宏一さんが高僧らしい気品を見せながら、語ります。
「過日、夢を見ました」
「また、お得意の夢の話か。どんな夢じゃ」
またふてぶてしい後鳥羽院。これぞ帝王でしょう。
信心深くないのか、合理的なのか、夢のお告げは信じていないようです。それでも慈円の話に耳は傾ける。
壇ノ浦に沈んだ三種の神器――その失われた宝剣の代わりが武家の棟梁、鎌倉にいる将軍とのこと。
新将軍を大事にするようにと慈円は言います。
「ほう……」
後鳥羽院は納得しています。
夢のお告げだからではなく、自分も納得でき、かつメリットを察知したようで、つくづく賢い。そして素早く、元服するなら名付け親になると言い出します。
頼朝の子は「何朝(なにとも)」にしようか。そう考え、木と木のつなぎ目は何というのか?と尋ねる。
「実(さね)にございますな」
慈円にそう返され、納得した様子の後鳥羽院。
京と鎌倉を繋ぐ実(さね)になってもらおうということで、実朝としました。
後鳥羽院は聡明です。
聡明で高貴であるがゆえに、彼からすれば人も使えるか否かで判断する冷たさがある。新将軍に恩を着せて、使ってやろうと決意を固めたようです。
三種の神器など無くとも即位したこの帝王はどうでもよいのかもしれない。
それでも世間が信じているからには使わせてもらう。鎌倉にいる一人の人間を道具として操る。
そう宣言してみせると、エキセントリックに、バーン!と遊んでいた道具を倒す。
高貴さと聡明さと豪胆さが出ています。
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後鳥羽院は芸術的センスもあれば、身体能力も高い。気位はもちろん高い。どう表現したらいいのかわからない、すごい人だと思うのです。
尾上松也さんは、そこを毎回、ピタッと正解に打ち込んでくるようで、ともかく素晴らしい。
まさしく生まれながらの帝王がここにいます。
源義光の血筋・平賀を婿に
りくが時政に計画を話しています。
なんでも千幡の御台所選びだそうで、流石にまだ早いと時政が言っても、こういう時こそ早く動くと引きません。
頼家が御家人の娘を妻にしたせいで思い知ったとか。それだけは止めたい、と言われたら時政も納得です。
いちいち鎌倉殿の外戚を殺してちゃたまったもんじゃねえもんな。
京から迎えるわよ、と、りくはウキウキ。やんごとなき血筋の方を見繕うってさ。
そして北条一家が勢揃い。
まだ来ないのか……?と、時政とりくの娘であるきくが何かを気にしている横で、りくが宣言します。
「千幡の御台所は政範が迎えに行く」
15歳の北条政範は千幡の甥にあたり、北条家の後継でもある。
義時はあくまで江間で、時房も後継にはならない。
父母両方の血筋を重んじた継承順序があるんですね。
と、そこへきくの待っていた人物が現れました。
京都守護を務める平賀朝雅です。
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装束も京風でキザな男は、義母のためにお花を摘んできたとか。義母上には野菊がよく似合うってよ。りくも京都にいる頃よく言われた♪と嬉しそうにしています。
時政もよい婿殿だと褒めている。嫉妬はしないんだな。そして時政は京都風味が好きなんですね。
実際、時政邸跡からは、舶来品の磁器や手で成形した土器(かわらけ)が出てくるそうで、今ならきっと焼酎よりワインやウイスキーを好み、車はレクサスではなくテスラを乗っていることでしょう。
にしても、このキザったらしい平賀朝雅は何者なのか。
後発で出てきたからには、キャラクター性を全開にするのでしょうか。
おもしろい。朝ドラ『ちむどんどん』の田良島でも味が出ている山中崇さんが、何か芳香剤を撒いていったような感があります。すごい香りがしてきたぞ!
ちなみに平賀氏は、上総広常に斬られた佐竹義政や、頼朝と火花を散らしていた武田信義と同じ、河内源氏・源義光の子孫です。
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頼朝が存命であれば、北条が平賀から婿を取るなんて許さなかったことでしょう。
和田と仁田を呼び出す頼家
頼家が焼け落ちた比企の邸宅を呆然と見ています。
そして「あの舅がそうやすやすと討たれたわけがない」と、和田義盛と仁田忠常から真相を聞き出そうとしている。
聞いたところと前置きしつつ和田義盛が語るには、和議の席で北条に呼ばれ、北条の館で殺された、とのこと。
とどめを刺した仁田忠常も同意します。
頼家は二人ににじり寄り、時政が殺したことを確認。
プレッシャーに耐えきれなかったのか、義盛も「実際に手を下したのではないが、命じたのは北条殿だ」と告白してしまう。
「なあ?」
「はい……」
同意を求められ、暗い顔になる忠常。
「許せん……和田に仁田、時政の首を取ってここに持って参れ!」
「しかし……」
「あいつのやったことは謀反に変わりない。討伐するのだ!」
頼家から凄むように頼み込まれ、困った顔を浮かべるしかない二人です。
そして頼家から離れると、義盛が「うちで一杯やってくか?」と忠常を誘います。酒でも飲まなきゃやってられないのでしょう。
忠常は、暗い顔でその誘いを断るのでした。
「なんで頼家様は俺と仁田を呼んだのかなぁ?」
忠常と話ができなかったからか。義盛は三浦義村と畠山重忠に相談しています。
「わかる気がする。戦に強く、忠義者で、ばか……」
「ばか?」
「……場数を踏んでいる」
とっさに言い逃れる義村。言うことを聞いてくれると思ったんじゃないか、ってよ。
言いたいことはわかった。馬鹿だと思っているんだな。
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でも、義村の場合、自分以外みんなバカに思えているんじゃないかな。そしてそれは「バカ」というより正直さでもある。
重忠がこう言います。
「頼家様もかわいそうな方だ。今さら息を吹き返しても、何一つよいことはないのに……」
重忠の変貌っぷりにショックです。
持ち前の正義感はもうない。義盛、義村とは従兄弟の関係であり、一方で北条の娘婿として保身に入りつつあるのでしょう。
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義村が「頼家があのまま亡くなっていたら丸く収まっていた」とは言いますが、両者の性格の違いはありますね。
まずは相手の気持ちに同情する重忠。
一方、そういう感情は捨て、結果と効率を分析する義村。
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話を進めるため、義盛に「北条を討つか?」と尋ねています。
義盛が「その気が合ったら相談なんかしてねえ!」と返すと、義村も「北条に逆らってよいことはない」と返答。重忠も同意します。
忠義などない時代
結局、義盛と重忠は時政に知らせます。
いくら頼家の命令でも時政は討てない――。
そんな風に断った一件を時政の耳に入れると、「ならばなぜ仁田忠常は来ないのか?」と不思議そうにしていたかと思えば、「まさか攻めてくるのか!」と心配している。
重忠は板挟みになって悩んでいるのだろうと同情しています。
にしても、この人たちには忠義がありませんね。
保身だけ。
自分たちの損得を抜きにしてでも、頼家に忠義を尽くそうと誰も言い出さない。生前の頼朝が「これからは忠義を重視する」と言っていた意味もわかります。
幕末ならば、主に殉じる忠義こそが武士の華。
近藤勇にせよ、土方歳三にせよ、あの薄情な徳川慶喜のために命を賭して戦った。
戦国時代だって一応そうです。
真田幸村は九度山で生きていく道を捨てて、我が子を巻き込んでまで、大坂城で忠義を燃やす人生を選びました。
そういう忠義のある武士を描いてきて、ついに「んなもん関係ねえ!」という時代まで、三谷幸喜さんは遡ってきました。
これはこれで楽しいんじゃないかと思います。人の変化を時代を遡ることで味わい尽くす。なんとも贅沢なことじゃないですか。
だからでしょうか、りくは心配しています。
このままではゆっくりと眠ることもできない!
頼家の息のかかった連中が襲ってくる!
だったら死んでもらう!と言い出したところで、さすがに時政も怖いことを申すなと釘を差しました。
「もともと死んでいたのですもの、元の形に戻すだけ」
「無理を言うな」
「生きていれば必ず災いの種となります!」
腹を括れと迫るりくに対し、あれは孫だと苦い声で返す時政。
頼朝と政子の間に生まれた待望の男児が、まさかこんなことになるとは……。
でも時政は、その孫に呪いをかけるよう、りくと共に阿野全成をけしかけたわけで。
本作の時政は自ら悪い方向に向かわず、流されているだけです。その方がより邪悪だと思える。
比奈との離縁
大江広元が御所でうやうやしく、千幡が征夷大将軍に任じられたと発表します。
ついに元服です。
あのキザな京都守護・平賀朝雅が早速お礼の品を京都に届けると伝えれば、京都との橋渡しを頼むと義時。
そして名前が発表されます。
実朝
実に良い名だと朝雅は言いますが、この人はいちいち存在感がありますね。
といっても、大江広元との対比がこれまた残酷でして。
広元は無愛想というか、滅多に笑うことすらありません。愛嬌ではなく頭脳で勝負するとわかっている。
一方、そういう中身がないタイプは無闇に褒め、ニタニタするのかもしれない。
「佞言は忠に似たり(おべっかは忠義の言葉に似ている)」ってやつですな。
廊下へ出てきた義時に、そこで待っていた仁田忠常が相談があると話しかけています。
急いで戻らねばならんと断る義時。
困った顔で「かしこまりました」と言うしかない忠常。
「すまん」
義時は軽くそう言うのですが、相手の切羽詰まった様子までには思い至らず……。
自邸に戻ると、息子の泰時とその妻・初が、うやうやしく座っていました。
なんと一幡は生きているとか。父の言いつけを破り、ある場所に匿っているとか。
初は「(義時が)泰時の性分はよくわかっているはずだ」と言いながら、一幡の命を奪うことのできなかった夫を庇っています。
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泰時は、頼家が健康を取り戻したため、一幡が生きていたことは不幸中の幸いだと訴えます。
それを聞いているのかいないのか。ただ「鎌倉にいるのか?」と確かめるだけの義時。
鎌倉の善児のもとに一幡はいました。
出かけようとする義時に、比奈が話しかけてきます。
比企の血を引きながら、比企を滅ぼすことに加担してしまった。このまま鎌倉にいることはできない。
一人、思い悩んでいたのでしょう。
あの起請文がある限り、義時から離縁は言い出せない。誓いを破れば地獄に落ちる。全身の毛穴から血を噴き出して死んでしまう。
そんな恐ろしい死に方をして欲しくないから、自分からお願いすると比奈はいいます。
「どうか離縁してください」
「比奈……」
比奈は勝手に出て行ってもよかった。でもせっかくだから出かける前に言いたかった。
「すまない」
「ああ、もういやだ、泣くつもりはなかったのに、いけませんね!」
そう泣く妻を後ろから抱きしめる義時。
富士の巻き狩りでも猪に追いかけられて、義時が比奈をこうして抱きしめた。同じぬくもりなのに、あの時と何も変わらないのに。
そう昔を懐かしみつつ、けじめ、けじめ、と二度つぶやきます。
「お出かけでしたよね。ここで失礼します」
「行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
これが永遠の別れです。
義時の正室である姫の前は、比企滅亡後に鎌倉を去り、四年後京で生涯を終えたと語られます。
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義時がベタ惚れだった姫の前(比奈)北条と比企の争いで引き裂かれ
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ひどく悲しく、感動的な別れだけれども、何か嫌な予感もします。
義時は平気で嘘をつき、誓いを破る人間になりつつある。八重が亡くなった時は、罰があたったと恐れる気配はあった。それが今もあるのかどうか……。
律儀過ぎた忠常の死
義時は一幡の元へ向かいます。
そこには善児とトウがいて、一幡と遊んでいました。
なんでも鞦韆(ブランコ)は善児が作ったとか。義時はさりげなく一幡を殺せといいます。
「できねえ」
困った顔で善児が首を横に振る。
「千鶴丸様と何がちがう?」
「わしを好いてくれる」
「似合わないことを申すな」
八重の亡き子の名を出し、そうつきつける義時。
千鶴丸もなついていなかったとは言い切れないでしょう。変わったとすれば、善児の心です。
トウを育てる過程で愛を知ったのか。加齢ゆえか。あるいは仏の教えでも学んだとか?
義時に強く言われ、殺しに向かう善児ですが……どうしてもできない。苛立ったように、義時が刀に手をかけます。
「一幡様、トウと水遊びをいたしましょう」
トウが師匠の代わりをこなします。善児は苦しげにブランコの縄を切る……そんな姿に、酷い破滅が迫っている未来が浮かんでくる。
殺すから重用されていた者が殺すことを忘れたら、何の役にも立ちません。
トウという後継者もできた。
以前のように人の命やぬくもりを知らぬまま死ぬのであれば面白くない。死ぬことは酷いことだ、まだやり残したことがあった――そう悔やみつつ死んでこそ、残酷というものです。
義時が自邸に戻ると、泰時が何か焦っています。
そこには、頸動脈を切り、息絶えた仁田忠常がいました。
なんでも不意に御所に現れ、命を捨てるといい、止める間もなく自害をしたと。
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頼朝古参の御家人だった仁田忠常|笑うに笑えない勘違いで迎えた切ない最期
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義時は頼家様はご存じなのかと確認すると、まだ耳には入ってないようです。
義時としてはありがたいことでしょう。
りくと義時は考えが一致しており、頼家が災いの種だとわかっている。
しかし、相手が動かなければ、コチラから手はくだせない。その言い訳を頼家は与えてくた。あとは大義名分を掲げて排除すれば完了です。
武士とはどういうものだ?
「あなたの軽々しい一言が、忠義に篤い坂東武者をこの世から消してしまった!」
義時が頼家を責め立てています。
もともとは北条が悪いと反論する頼家ですが、義時がそれを認めながら、頼家の気持ちが変わらぬ限り、同じことがまた繰り返されると追撃の手は緩めません。
「おわかりいただきたい」
そう静かに頭を下げる義時。怒鳴ったりこそしないけれど、迫力がありすぎて反論できない。
やはり頼家様には鎌倉を離れていただくしかない――。
北条一族にそう告げる義時。
政子がどこへ追いやるのか?と問うと、伊豆の修善寺で仏の道を極めていただくのが最善とのことです。
本当にあの子のためになるのか。息子の心配をする政子に対し、鎌倉で弟の千幡が鎌倉殿になるのは辛いだろうと時政も賛成します。
父上の申される通りだと義時。
政子も修善寺ならばたまに会うこともできると納得しますが……ちょっと待ったぁ!
修善寺は当時から名刹で、源氏の御曹司でもよいほどの場所。鎌倉にも近く、北条の目も光らせやすい。
しかし、その条件だからこそ、範頼も幽閉後に殺されているのでは?
泰時が、義時に一幡生存のことを伝えたのかと聞いてきます。
冷たい声音で、一幡様は比企の館が焼け落ちた時に亡くなった、おかしなことを言うなと返す義時。
小栗旬さんはこういう低い声でも発声がきちんとしていて、クリアなのが素晴らしい。乾いていて絶望的で。聞いているだけで、こちらも地獄に堕ちてしまいそうな声です。
低くしっかりとして張りと艶のある小池栄子さん。
若くハキハキした坂口健太郎さんとよい意味で対比になっています。
泰時は愕然とし、父に善児のところへ行ったのかと聞きます。
「父上は、一幡様を! なぜ!」
「武士とはそういうものだ……これでよかったのだ」
「父上はおかしい!」
そう叫ぶ我が子の頬を義時が叩きます。
武士ってなんなんだい?
私もそれは思ってしまいます。こんな異常性がある集団でいいのか?というドス黒い思いが湧いてくる。
とはいえ世界を見渡しても、同時代の騎士も酷いもので、十字軍は敵の血に踵まで浸かったとか。
そんな思いがぐるぐると回ったりしますが、そういう逡巡が大事なのかもしれません。
程なくして武士が「仁義礼智信」を得ていく。これぞ歴史であり、そのために義時の息子である泰時が奮闘するのだと。
ボロボロになった比企尼が
頼家が暴れています。
鎌倉を動きたくない!
北条のいいなりにはならん!
妻や子を失った恨みをなんとしても晴らしたいのでしょう。
しかし、広元が御家人一同の総意だとたしなめ、暴れる頼家を和田義盛と三浦義村が押さえ込む。
頼家が叫びます。
「わからないのか! 比企の次は三浦だぞ、和田だぞ!」
そして床に突っ伏し、子供のように泣き叫びます。
皆に望まれて生まれ、万寿様と愛され、育まれていた。頼朝が愛を注ぎ、次の鎌倉殿にすると見守っていた。
そんな頼家が、なぜ、こうも無残な運命に陥ってしまうのか。
「父上……本当に良いのですか、本当に、これで……」
無残な問いかけが館に響きます。
頼家は、三浦と和田が北条に滅ぼされる未来を予知しているのです。
そして建仁3年(1203年)10月8日――千幡が元服し、征夷大将軍・源実朝となりました。
深紅に身を包んだ実衣が得意の絶頂にいます。
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源実朝は将軍としてどんな実績があった?朝廷と北条に翻弄された生涯
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一方、頼家は鎌倉を離れ、伊豆修善寺へ。
政子はそんな頼家を見送り、時政は御家人を代表して実朝に忠誠を誓っています。
「よろしく頼む」
澄んだ声で御家人たちと対峙する、まだ幼い実朝。
この座があまりに脆いことはわかっています。御家人にまだまだ忠義は浸透していない。
その頃、頼家の妻つつじは外で遊ぶ善哉を見守っていました。彼女が目を離した隙に、ぼろぼろの服を着た老婆が善哉に近づいてきます。
「善哉様でございますね……北条を許してはなりませぬぞ。あなたの父上を追いやり、あなたの兄を殺した北条を……あなたこそが次の鎌倉殿になるべきお方……それを阻んだのは北条時政、義時、そして政子。あの者たちを決して許してはなりませんぞ。北条は、許してはなりませぬ」
善哉の頬に両手を当て、恨みを告げたのは、比企尼でした。
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頼朝を救い育てた乳母・比企尼|なぜ一族が悲惨な最期を迎えねばならんのか
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つつじが善哉の元へ戻ってきたときには、その尼は消えていました。
幻か、怨念か、それとも――。
MVP:仁田忠常と比奈
あまりにも惨い死でした。
この作品は、時代の先取りができる人物が、追いつけない周囲によって死ぬ残酷さを描いている。
思えば源義経や梶原景時もそうでした。
何が忠常を殺したか?
忠義です。
頼朝が植え付けたいと思っていた忠義の種は、忠常の中で芽吹いて育っていました。
鎌倉殿のために、よかれと思って比企能員にとどめを刺した。
殺したとき、忠常は心を痛めたかもしれないけれど、それでも鎌倉殿のためだ、忠義だと思えば納得できたのでしょう。
それが崩れてしまった。
まだ切腹をすることが当然となっていない時代です。それでも追い詰められ自刃してしまった。
忠義ある武士道を先んじていたといえます。
悪人ではないのでしょう。頼朝の挙兵寺、明るい顔で武芸の鍛錬をして張り切っていた姿を思い出します。
あのまぶしい笑顔。いつでも真面目で誠実で、素敵な人でした。そこにいるだけで明るくなるような人でした。
こういう人が無駄死にしないようにしたい。その思いを泰時はきっと受け取っているのでしょう。
義時は頼家を追い詰める好機と思う横で、泰時はそう願っている。
希望はそこにあります。
比奈も寂しかった。
愛を求めて大事にしているからこそ、北条の裏切りは口にしない。
最後までけじめをつけて、別れようとする。
中世的というより普遍的な愛で、そこが美しく切なく辛い別れでした。
大河とファンタジー
『麒麟がくる』の駒のことを「ファンタジー」だと貶すSNSの意見があり、それを取り上げた記事がありました。
歴史もので駒のように非実在の人物を出し、その目線で描くことは定番の技法です。
そんなことにケチをつけたら大河になった吉川英治『宮本武蔵』は成立しません。
大河でも『三姉妹』や『獅子の時代』は実在しない人物が主役です。
駒は歴史に干渉せず、実在人物の生死を左右したことはありません。
今年の善児のほうがトリッキーな動かし方です。
駒みたいな無名の市民がうろうろすることが嫌いなら、「ファンタジーだ!」とけなすのではなく、もっと歴史通らしい言い回しはあります。
「豚に歴史がありますか?」
民百姓に語るべき歴史なんかないのだから、駒みたいな戦災孤児出身者なんて要らんということなら、ハッキリそう言えばいい。
それを自らは安全なポジションに置くような言い回しでは卑怯です。
本題です。
今回はそんなファンタジー要素の塊のような比企尼が登場しました。
比企尼は死亡状況が不明。
高齢でもあるし、比企一族の滅亡前に亡くなったとすることが妥当に思えます。
それを本作はあの地獄の中に置き、死亡状況がわからないことを逆手にとって生存させ、呪いをかけるように出してきました。
こういうことがファンタジー要素ではないかと思います。
日本における「ファンタジー」という言葉の使い方はそもそもがおかしくて、なんかありえないようなご都合主義とか、ただ単に自分の気に入らないプロットをさして呼ぶようにも見えます。
ファンタジーはかなり定義が厳しく、かつご都合主義でもなく、残酷な仕掛けにもなるものなのですが。
このドラマの描く時代は「なろう系主人公でも降り立って数時間で即死する」くらいハードにできるわけで。
呪いをかけたり、不吉な予兆として出す方がむしろ向いている。
中世は迷信も通用しますので、ファンタジー要素とは非常に相性がよろしく『鎌倉殿の13人』は序盤から頻出しました。
後白河院が頼朝の夢枕に出る。
金剛が「ぶえい」と泣く。
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むしろ悪夢のようなファンタジー要素を使っているので、斬新でおもしろく、かつ世界基準だと思えます。
歴史劇とファンタジーの組み合わせといえば『ゲーム・オブ・スローンズ』が定番にしました。
続編『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』も間もなく配信されます。
『ゲーム・オブ・スローンズ』では、原作にいたのにカットされた人物もおりまして。
ある女性が一族ごと惨殺されると、ゾンビのように復活してうろつき、呪いをかける設定がありました。
比企尼はその再現のように思えましたね。
これはすごいことでしょう。
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総評
8月が下旬に入りました。
今年もお盆時期には戦争番組が数多く放映されました。
そんな番組のことや、戦争について見聞きしたことを思い出します。
裏切られることがどれほどの苦痛をもたらすか、戦争番組では語ってくれる。
頼家や忠常の絶望を見ていて思い出しました。
それと同時に、悪とは何かも描いていると思えます。
この時代の人がわかりにくいのは、確固たる道徳信念が確立していないことが大きいと思えます。
忠義がないから、ホイホイと頼家にあんな酷いことをできてしまう。
道徳心より生き残るための損得重視だから、「北条強ええからついていこう」となってしまう。
要は流されるのです。
人間はそういうものだとは思います。
みんなで狩りをしたり、畑を耕すならその方がいい。みんなに合わせた方がいいのです。
そういう迎合していく怖さ、いやらしさ、おぞましさがどんどん詰め合わせになったような回。
あの畠山重忠すら迎合して高潔さが消えてゆく過程にはおそろしいものがあります。
そうはいっても、重忠は相手の気持ちを想像し思いやるだけの優しさが残っている。
そんなものあったところで何になるのかとは思いますが、一方で義時は手遅れですね。
義村については、最初から迎合するつもりはさらさらなく、ゲームを楽しむつもりなのでたちが悪い。
人間は、積極的に悪事を為そうという意識ではなく、ただ保身や利益を図った結果、破滅に至る――そんな過程が上手に描かれているように思えます。
今年の大河は勉強になります。
歴史だけでなく人間心理の勉強にもってこいです。
最近このドラマを見ていて自己嫌悪に陥るのですが、義時や義村の言い分が理解できるようになってきたんですね。
策略が当たるとちょっと満足感が出てきてしまう。
今回でいえばりくや実衣が敵意を剥き出す横で、じっとしている義時を見て気持ちがわかりました。
他の連中のように本音を剥き出しにしていてはかえって相手は警戒する。
黙って静かに相手を焦らせれば、勝手にバカなことをする。
その愚行を掲げて追い詰めれば、相手を始末できる。はなから倒そうとせず、回り道をした方がむしろよい。
そうジッと待っていて、仁田忠常の死をうまく利用するところは納得できたようで、そう思った瞬間に自己嫌悪に陥りました。
でも、こういう悪意ある人間の思考回路を学ぶことが大事だとも思います。
胸がぐるぐるするとか、おかしれぇとか、そういうことばかり言っていては世間から騙されてしまう。
リテラシー向上に役立つ番組を流してこそのNHK。
今年の大河は、その使命を果たしているのではないでしょうか。
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【参考】
鎌倉殿の13人/公式サイト





















