赤面疱瘡という若い男子ばかりがかかる伝染病で、日本の人口構造が変わったことはわかった。
しかし、それだけで男女逆転大奥はできるのだろうか?
そう疑念を抱いた徳川吉宗は、村瀬という老いた男に大奥誕生秘話を尋ねます。
村瀬の記録に書かれたその誕生秘話とは?
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家光は、近世日本を確立する、それゆえに
ドラマ『大奥』は大変勉強になります。
衣服も、髪型も、人々の気質も、吉宗と家光の時代では異なることがパッとわかる。
長い戦国乱世を経験した日本人は、すんなり平和になれたわけではありません。
暴力的で気が短い――三代将軍・家光の頃には、まだそんな気風が残っていました。
ドラマに出てくる武士が、吉宗の時代より暴力的かつ短絡的に見えるのも、時代考証の結果でしょう。
こうして近世日本が確固たるものとなっていく治世ゆえに、家光は歴史劇でも人気があります。
特に定番の題材なのが弟・徳川忠長と将軍の位をめぐる争いですね。
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血みどろの権力闘争が描かれ、こんな犠牲のうえに徳川の安定を築いたことは果たして正しかったのかどうか?
そう問題提起され、NHK時代劇でもこのテーマを扱っています。
直近では2020年版『柳生一族の陰謀』が代表でしょう。
このドラマで春日局の宿敵・於江与を演じた斉藤由貴さんが、今度の『大奥』では春日局を演じる。
徳川家光を演じた岡山天音さんが村瀬役で出てきます。
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近世とは、人の心をふみにじってできあがってゆく
大河ドラマで恋愛結婚を扱う是非は、いつも話題になります。
恋愛結婚とは家よりも個人の感情を重視します。
『鎌倉殿の13人』でお馴染み、源頼朝と北条政子は、お互いが恋に落ちたことが運命だったと繰り返し語られます。
しかし、あれが実現できたのも、中世の坂東ならでは。
社会制度が確立していく過程で、むしろ恋愛結婚は「野合」――卑しいものだと思われるようになりました。
個人の感情を二の次にしてでも、家を守る意識が深く根付いていったからです。
男女逆転版『大奥』では、春日局がこの倫理をもって有功と家光の心を踏み躙ります。
これは彼らだけでもなく、春日局自身もそうであると冒頭に出てきます。彼女は出世と忠義のため、実子・稲葉正勝と親子の縁を切っていると語られるのです。
ちなみに春日局は冒頭でいきなり御典医を刺殺します。
春日局は夫が密かに囲っていた妾を刺殺した話があり、そこから始まるこのドラマは、実に歴史好きの心をくすぐるものだったりします。
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東のジュリエットと、西のロミオ
有功と家光を近づけ、遠ざける要素として、東西があります。
赤面疱瘡は、奥羽と東国だけで流行していることが、今回の放送でわかる。西に、そのことを知らしめてはならないと春日局は焦燥しているのです。
もしも東の武威が危ういとなれば、またも乱世が訪れてしまう――そのことを危惧していた彼女は、冷酷で狂気すらはらんでいる。
彼女は明智光秀の重臣であった父・斎藤利三の死を覚えているのでしょう。
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あの時代にしてはならない!という切迫感を彼女なりに抱えていました。
そのために彼女が目をつけた有功が、よりにもよって西から来ているところが重要です。
『吾妻鏡』の愛読者である徳川家康は、東国の江戸に政権を置きました。
どうすれば東から西を抑え込めるか?
幕府は幕府なりの狡猾なやり方を、彼らは模索しています。
春日局だって、はなから西の男なぞ要らなかった。気難しい家光の心を開くため、やむなく西の男を捕まえて、牙を抜くべく企んでいる。
有功は種馬ですらない当て馬です。
家光の心を開くことだけが求められる。もしも家光が有功の子を孕ったら、育てることにはならない。有功の実の親ですら、金で我が子を売り渡し、それを認めました。
徳川幕府は狡猾かつ残酷です。西の朝廷や貴族たちに金銭を与えないようにしていました。
名ばかりの貴族であり、江戸時代の公卿は貧しかったのです。
そんなロミオとジュリエットとなることがわかったような状況を、一から設定する春日局の冷徹さが際立ちますが、実はこれも史実準拠。
お万の方は家光の心を開くものの、懐妊のたびに堕胎していたという説があります。
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歴史とはそういうものだ……と流してしまいそうだけど、なんと残酷なのかとこのドラマは視聴者に突きつけてきます。
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