家柄よく、文武両道に優れ、現代にまで御家を残した戦国大名・細川忠興。
その愛刀「歌仙兼定」をご存知だろうか?
当代一流の文化人だった忠興だけに、「歌仙」とは何とも風流な名前だなぁ……とは、さに非ず。
この刀、半ば呪われた由来を持っている。
息子の細川忠利に仕えていた、三十六人もの家臣を、先代で父親の忠興が斬ったというのだ。
一体何があったのか?
本連載『SAMURAI ART』の著者・鞘ェもんにイラスト作成を進めて貰いながら、その由来を振り返ってみたい。
忠興の狂気
室町時代に活躍した刀工の和泉守兼定。
特に二代目は名工として知られ、風流に敏感な細川忠興もまたその作品を愛していた。
同時に忠興が宿していたのが狂気である。
妻の細川ガラシャを心から愛していたと伝わり、彼女の覗き見しただけの植木職人を斬った――そんなエピソードが残るほど。
後に彼女が【関ヶ原の戦い】に巻き込まれて亡くなったとき、殊のほか悲しんだというが、愛する者への強すぎる想いが狂気を目覚めさせてしまうスイッチかもしれない。
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跡継ぎ・細川忠利
忠興の想いは、跡取りの熊本藩初代藩主・細川忠利へと向かう。
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実は忠利は三男であり、本来なら長兄・細川忠隆あるいは次兄・細川興秋(おきあき)が跡を継ぐ場面。
なぜ忠利となったのか?
というと長兄の忠隆は「妻の千世(前田利家の七女)がガラシャを置いて逃げたこと」を咎められ、次兄の興秋は「過去に忠興の弟(細川興元)の養子になっていた」からとされている。
いずれにせよ半ば特殊な成り行きで藩主となった忠利。
実のところ、優秀で気遣いのできる人物であったから跡継ぎにされたという見方もあり、それが自然な気もするが、だからこそ恐ろしいのが忠興の性質である。
歌仙兼定の由来となったエピソードである。
歌仙兼定
肥後八代城で隠居していた忠興。
気に入らない忠利の家臣三十六人を呼び出し、「歌仙兼定」で次々に首をはねた。
たまたま36人だったことから、平安時代の著名な歌人「三十六歌仙」にちなんで同名で呼ばれるようになったという。
本当はもっと数が少ない――という見方もあるが、ともかくそんな忠興の狂気を絵師・鞘ェもんに描いてもらった。
それが次の一枚である。
涼しい顔で『あーあー、汚れちゃったよ』とでも言いたげな忠興。
何が恐ろしいって、刀身の血を拭き取るのに花を使っているところであろう。
時代劇などでは懐紙を使うのが定番だが、一体この男はどこまで風流にこだわるのか。
なお、歌仙兼定はその後、五代藩主・細川綱利が家老の柏原定常に譲り、昭和になって再び細川家へ戻って永青文庫に収められている。
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【参考】
『日本刀(岩波新書)』(→amazon)
『日本刀 妖しい魅力にハマる本 (KAWADE夢文庫)』(→amazon)