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【『キングダム』の時代考察】
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安定より変革思考を持つ秦だから
仮に「焚書坑儒が悪評の理由ではなくなる」としましょう。
それでもやはり始皇帝や秦が嫌われるならば、その理由は理解できます。
彼らは安定よりも変革思考を持っていて、感情論を排除してでも大目標を達成しよう――そんな気概がありました。
集大成が法家です。
『キングダム』でもテキパキ官僚・李斯(りし)がおりますね。
彼こそブレーンとして大活躍をするのですが、最期は政治闘争に敗れ「腰斬(ようざん)」による死を遂げます。
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それが長いこと、こういうことを言われてきました。
「おわかりいただけたであろうか……法家のような厳罰主義者は、自らが定めた酷刑で死ぬのである」
ドオオオオン!
こじつけでしょ……と言いたくもなりますが、こうした因果応報論は長いことありました。
国家を築くために儒教は欠かせない
秦を滅ぼした漢を見てみますと……。
思想としてはワン・オブ・ゼムであった儒教を理想として国造りを進めます。
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「儒教なんか役に立たねえよ、バーカ!」
とは漢の建国者・劉邦すら言っていたことなのですが、実際のところ目上の人を敬う儒教は、国家としての基礎を築くための思想としてよいものでした。
それだけに儒教は中国大陸から東アジア全体に広がり、根付いてゆきます。
これはキリスト教とヨーロッパの関係にも似ていて、それまでオラついていた暴れん坊でも、宗教を学ぶとキレイな君主になるわけです。
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そうした儒教思想からすれば、始皇帝やそのブレーンたちは「極悪非道でどうしようもない連中」になってしまう。
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儒教に支配された漢が滅びる中で、曹操は新たな価値観を模索していました。
それゆえ「中国大陸の空気=儒教を読めない悪い奴」という奸雄論が定着したのです。
始皇帝の秦にせよ、曹操の魏にせよ。
なまじ滅亡が早かっただけに「悪辣さゆえの因果応報」が根付いてしまいます。そういう要素だけで滅びたわけでもないんですけどね。
★
ともかく歴史は変わるものです。
中国舞台の漫画が前提としている中国史が変化していくことも避けられません。
『キングダム』の作者・スタッフさんたちも、その点の葛藤がおありではないでしょうか。
むろん、そうした要素を抜いても、漫画として読者を熱くするパワーに溢れ、面白いことは確かです。
キャラ立ちした人物。
迫力のある絵。
熱い友情。
大軍がぶつかり合う迫力。
頭脳戦の緻密さ、
あっけなく死を迎え、退場してゆく人物たち。
怒涛のごとく展開する迫力には、心躍るばかりです。
しかも、後世に植え付けられたマイナス評価や奸雄論を覆していて、漫画としてはとにかく面白い!
今後もどう描かれていくのか、期待しております。
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)