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【麒麟がくる第44回感想あらすじ】
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十兵衛の姿をした何かが馬で駆け抜け
備後・鞆の浦では、駒が義昭を訪れていました。
「駒、よう参ったな!」
「公方様、お変わりはありませぬか?」
義昭は元気そうです。変わらず釣りに明け暮れているようです。
いずこへ行くか?と問われた駒は、高山城の小早川様の元へ行くと返します。なんでも堺衆が茶会をするようで、駒の丸薬の顧客でもあるため、呼ばれているとか。
しかし義昭は不満そうです。
小早川は秀吉に真っ先についた。志のない男じゃと言います。
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「世を正しく変えようというのは志じゃ、わしは大嫌いであったが、織田信長にはそれがあった。明智十兵衛にははっきりとそれがあった」
義昭は頼りないようで、世の中の真理をさらりと言う、そんな人物です。
すると駒が、十兵衛様がどこかで生きているという噂を告げました。
義昭は呆気に取られています。駒が聞いた噂によると、光秀は丹波の山奥にいて、いつか立ち上がる日に備えているとか。
ここまで話したところで、義昭に迎えの者がきます。
「行っておいでなされませ」
「うむ、また会おうぞ」
駒は微笑み、公方様を見送るのでした。
駒が街並みを歩いてゆきます。
子どもたちがはしゃいで走り抜け、人々は穏やかな日常を生きている。
と、道端で物を売る男が、どこか光秀に見えます。彼女は、群衆の中に消えていく男の姿を、追いかけました。
「十兵衛様! 十兵衛様! 十兵衛様!」
曲がり角の先には、誰もいません。
そこには、昔より綺麗になった塀がありました。
以前より賑やかになった街。
昔よりも楽しそうに走り回る子ども。
世の中は少し明るくなっているようです。
そしてどこかの道を、明智十兵衛光秀の姿をした何かが馬で駆け抜けてゆくのでした。
【完】
MVP:到来した“麒麟”
ラストを見た後は、しばらく考え込み、ちょっと意味がわからず呆然としました。
ただ、これが到来した麒麟だと納得はできます。
天海説は一切与するつもりはありません。
なぜ南光坊天海は家康に重宝されたのか 明智光秀説も囁かれる謎多き僧侶の功績
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徳川家臣団は実力者揃いです。今さら光秀の助けは不要でしょう。
生死という点、一個人としての明智十兵衛光秀はもう亡くなっていると思います。
けれども、麒麟となって彼はそこにいる。
幻の聖なる獣になりました。
この見立ては台詞に示されてはいます。
光秀は覚悟に果てはないと言った。命は一つで十分とも言った。
義昭は「世を正しく変えようというのは志じゃ」と駒に語っています。
光秀の志が麒麟になって残り、世の中を駆け巡っているのですね。
そのヒントは「現代の写真家が撮る『明智光秀の肖像画』」にもありました。
第一弾の時点で、麒麟のシルエットが光秀に重なっています。光秀の右腕に麒麟の頭部があるのです。
第二弾は人間として生きる。そういう顔。
そして第三弾は時代を超えた近未来風。どの時代にも、麒麟はくる。それはあなた次第だと訴えているように思えます。
実はもう、麒麟は到来していました。
それは現在にもいるのです。ただし、それに気づかなければ見えないのです。
謎解き:「麒麟は誰の頭上に訪れたのか?」
徳川家康。これも答えは出ています。
光秀が菊丸に託した言葉からもわかります。
麒麟の目から見れば、家康こそ泰平の世をもたらす人物なのです。
総評
難解であり、大河そのものを変革する大胆さに満ちた作品でした。
大河の主演で人生観まで変わる役者さんもいる。本作のように、主人公が謎めいた消え方をする『獅子の時代』の菅原文太さんが代表例とされています。
演じるうちに何かが共鳴し、あんな知性と人徳あふれる素晴らしい人間になったと。
長谷川博己さんもそうなるような気がしてならない。
『スタジオパーク』を見ていて、役の理解度、人格、知性……ありとあらゆる面でいろいろと超越している。
これから先、とてつもない高みにのぼるのではないか?と思いました。他の役者さんも、何か開いてしまった感覚があるのではないかと感じます。
どうしてそうなるのか?
答えも見えて来ました。
この作品を「ゲーム的な心理バトルでもない」という評価もありました。
ゲーム的な心理バトルというのは……私の推察と断っておきますが『羊たちの沈黙』あたりのブームから始まった流れでしょう。
「さあ、いよいよゲームの始まりです……」
そうニヤリと笑う“サイコパス”が出てくるやつ。
そういうフィクションは古い心理学知見ベースのものでしょう。未だにそういう古いものベースの評や感想が多いことに、私は危機感を覚えなくもありません。
とはいえ、NHKにはEテレがありますから、そこは上手です。
受信料云々以前に、Eテレがあって知見が揃うことこそNHKの強みでしょう。
Eテレとはうまい財産です。
ハートネットTVに寄せられる声だけでも結構なサンプルになる。その強みを使わないでどうするのかという話です。
◆大河「麒麟がくる」最終回 NHK制作統括者「狂気の駆け引きの極み」(→link)
上記、スポニチ記事から引用させていただきますと……。
落合氏はこのドラマの信長について
「脚本の池端俊策さんの『母の愛情の欠如がこういう人間像を生み出していく』という深い人間観察を感じさせる。
そもそも信長には『好き』『嫌い』の2つの感情しかない。
自分に敵対する者に情をかけることも理解できないし、自分が差し出す生首をみんなが喜んでくれると疑いもなく思っている」
と指摘。さらに
「戸惑う相手の気持ちを考慮できない。
ある種病んでいるのだが、当時は心理学も進んでおらず、自分を客観視することもできない。
一方で、本来持っているチャーミングな素顔もあるため、非常にアンビバレンツな人間になる。
そういう複雑性と悲劇を染谷さんが大変深く理解して演じた」
と語る。
本作は脚本家の池端さんはじめ、手練れが揃っている。池端さんだけが素晴らしいわけではないと思うのです。
母親の愛情欠如が性格に欠陥を生み出すという理論は【冷蔵庫マザー】理論といって現在は否定されています。
劇中の描写には【冷蔵庫マザー】理論以外の要素があると感じられる。
いろんな理論を組み合わせているということは、この「心理学も進んでおらず」という言葉からも察せられます。
非常に興味深いことです。
こういう体制が整っているのであれば、NHKは磐石で進化しつつドラマ作りができる。Eテレの放送停止なんて、ドラマの質も落としかねない暴論です。
心が原動力だし、麒麟の到来そのものだ!
そう言い切った本作は、それゆえに時代を超越するものになったと思います。
光秀は何者か?
ハセヒロさんはちゃんと定義ができているのではないでしょうか。
◆長谷川博己、『麒麟がくる』明智光秀役の約18カ月を振り返る 「一生の宝物になりました」(→link)
上記の記事にはこんな一節があります。
明智光秀は、孔子の言う「義」の人であったと思います。それは光秀を演じる上で、最後まで一貫して崩してはならないと思っておりました。
世のため、民のため、平らかな世を目指し貫き通した男だと思います。
『麒麟がくる』を楽しみながら、儒教があるから特定の国はダメなんだとか、そういう本を買っている人はいないと思いたいのですが、どうにもわかりません。
特定の民族や宗教だけが飛び抜けてよろしくないという理論は“オワコン”です。
神は何か?
宗教とは?
このあたりも研究が正体を明かしつつあります。
神が人を生んだと言うよりも、人が神を生み出したのだと。
考古学で人骨を発掘していくと、人間とはどうしようもない生き物だということが判明してゆきます。
かつては人間とは文明の発達とともに堕落すると思われていましたが、文明以前の人骨を掘り出して調べると、生々しい暴力、収奪、そして共食いの様相まで出て来てしまうのです。
そこで、
このままではよくない!
人間はもっと良くなっていかなければならない!
どの文明や集団にも、そう掲げる思想家なり宗教家が出現。殺人はよくない、収奪は駄目だ、虐殺なんてあってはならないと説き始める。
自分たちよりも、子どもたち、そして孫たちはもっとよい世界に生きて欲しい。そういう願いが、人類の歴史を進歩させきました。
思い出してもみてください。
10年前にマイボトルを持ち歩こうなんて思えましたか? ペットボトルを買えばいいのになんでそんなことするんだ?
そう冷ややかに見ていたことがあったのではないでしょうか。
いや、今の世の中は悪くなっている。そう思えることもあります。
進化といってもまっすぐには進めない、ジグザクになっているから、そういう悲しいことは当然あります。
それでも、一世紀前と比較すれば確実によくはなっていることもたくさんあります。
それでも、そう思えないのだとすれば、理想を望む心が速すぎて現実が追いつかないのでしょう。
もどかしいけれども、そうやって一人一人がよりよい世界を望むことが「麒麟を呼ぶ」ということではないでしょうか。
お花畑だの綺麗事だの言って、片付けてはならない。
変わることを否定してもならない。
麒麟は、私たち一人一人が呼び続けねばならない。
どうすれば麒麟が到来するのか、考えなければならない。
明智十兵衛光秀という麒麟が今いたら?
そういう発想ができるからこそ本作は素晴らしい。きっとその麒麟は、手洗いやマスクの着用について助言ができることでしょう。
人間というのは、不思議な生き物だと。とてつもなく美しいと。『麒麟がくる』ではそう示されました。
食べて、子孫を残すこと。それだけを考えていくのであれば、しないようなことを人間はやらかす。
生存よりも志に全てを注ぎ込み、美しいか、醜いか、信念に沿っているか、そこを基準にして突き進むことがある。
本作の松永久秀を見て、なんて人間は無茶苦茶でおかしな生き物なのかと思いました。審美眼に命すら委ねて散っていく。
久秀の前にいる家臣も、なんでそんな美学のせいで死ぬのかと困惑しているのではないかと思えました。
でも、そうじゃないだろうと。
美しさを求めずに頭を下げて生きる久秀を見たら、それこそ柳生宗厳あたりは「こんな殿は求めていない!」と失望したのではないか?
美に命まで賭ける。それでこそ、人間の生き方ではないかと。
人間は特別で不思議です。
人として生きるということは、言葉を残し、物語を語り、演じ、音楽を奏で、芸術を残し、心を動かし、命の維持だけではない何かを求めていくことにあるのではないか? そう思える、そんな不思議なドラマ……じゃない。
むしろここまで追いついて欲しいと言いますか。突っ走ってるなぁ、ついていけない奴は放置して授業を進める厳しい先生みたいなドラマでした。
解読のために、中国文学、中国思想、東洋医学、認知心理学、その他もろもろも読解せねばならない。難題でした。
日本史の本棚だけにとどまっていては追いつけない。いいドラマです。
このくらいやらないと、もう世界のドラマには追いつけない。そういう意識があるからには、大河はまだ大丈夫!
一年ちょっと前には10年後に大河が消えているのではないかと書いた記憶がありますが、それを吹き飛ばして余りある出来です。
おまけ
スピンオフや続編もあるとかないとか言われておりますが、『鬼滅の刃』最終回方式が個人的には見たいと思います。
帝にあげたプレゼントをメルカリで出品されてキレ、光秀の行動をGPS監視してしまう信長。
ツイッターフォロワー数自慢を始める秀吉。
筋トレに目覚めてプロテインバーをやたらと食べている家康。
気がつけば人生相談をされてばかりいて疲れてきた光秀。
ここまで綺麗に終わると、そういう形式のものくらいで切り替えないとむしろ納得できないのです。
本記事では全てを書ききれません。
後日、あらためて総評を記したいと思います。
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
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文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
麒麟がくる/公式サイト