青天を衝け感想あらすじ

青天を衝け第21回 感想あらすじレビュー「篤太夫、遠き道へ」

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青天を衝け第21回感想あらすじレビュー
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イケメンをアイキャッチにすればいい!

ともあれ、本作は成功枠に入っているんですよね。なぜなのか?

こんなニュースがありました。

◆ まるで男性向けのグラビア? 脚露出の女性モデル使った討論会チラシに批判 国分寺市長選(→link

昭和としか思えないセンス。ふしだらとかそういうことでなく、美女をムフフなアイキャッチに使うセンスに絶望されているのです。

しかし、このニュースを見た時、思い出した気持ちがあった。

「本人とは似ても似つかない美形の渋沢栄一が、微笑んでいるだけのビジュアルも大概だ……」

『青天を衝け』です。あれを見ても、美形が主演ということしかわからなかった。

比較として『麒麟がくる』をあげると、明智光秀が苦悩していると伝わってきて、かつ、麒麟のシルエットが彼に重なっています。

五行説で中央を司どる、作中では信長のテーマカラーである黄が背景。

あのビジュアルだけで、信長に仕えながらも麒麟に支配されているとわかる。高度な設計でした。

『麒麟がくる』のド派手衣装! 込められた意図は「五行相剋」で見えてくる?

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それと比べると、本作はアイキャッチに美形を使っているだけではないか?と思ってしまう。

女性をアイキャッチに使うことは、最近やっと問題視されてきました。

では男性ならよいのか?

「ならぬものはならぬ」ではないか、と私は思います。しかも大河なのに、このドラマはセクハラじみたことをする。もしも性別が反対なら、問題視されていたのではないか。

ありとあらゆる役者が、しょうもないアイキャッチとして使われることに懸念を抱いてしまいます。

しかし、本作での反応は違う様子。

◆草なぎ剛がまるで皇帝ナポレオン 演じる15代将軍の慶喜が和装から洋装に衣替え(→link

「皇帝ナポレオン」という呼び方には問題がありますね。ナポレオンはナポレオンでも、1世と3世は別物です。

2世は間違えようがないので除外するとしまして1世はともかく、3世と並べられることはちょっと……。元祖はさておき、3世は当時からネタ枠扱いでして。

「今時ナポレオンとかバカじゃないの」

「悲惨すぎるアホやわw」

阪神助っ人枠でも、バースやのうてグリーンウェルやねん!

それにしても攘夷とさんざんイキって、天皇の信任を得ておいて、夷狄コスプレとかほんまええ度胸してはる。

栄一だけでなく、慶喜の変わり身の早さも当時から低評価でした。

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スタジオロケで会話をさせよう!

ともかくこのドラマはイケメン会話が多い。

彼らをスタジオにつめて会話させると、スケジュール調整はしやすく、撮影の手間もかかりません。要はコストカットになる。

今週もほぼ、密に会話する場面しかなかった気がしますが、視聴者が好意的に受け止めて貰えれば、作り手も問題ないんですよね。

◆ 吉沢亮&町田啓太らが熱演! 『青天を衝け』が説いた“腹を割って話す”大切さ (1)(→link

それぞれの立場による陰謀が絡み合う政治的な大問題が描かれている第20回で注目したいのは、家茂が「私はこうしてあなたと腹を割って話してみたかった」と慶喜に言うセリフである。

前半、何気なく出てきたセリフだが、「直接話す」大事さが第20回を貫いているように感じた。

実に素直に受け止めていらっしゃる。

「将軍と側近なのに、ここに至るまでに会話すらしていないのは、組織として不健全。これは滅びて当然ではないか?」

「予算と手間を節約できていいよね」

といった、ひねくれた意見は無用かもしれませんが、そう思う以上は記しておきたい。

 


むしろ「難易度を落とす!」

本作絶好調の理由を見ると

「難しくなくてキャッチーで親しみやすい!」

というものがあります。

◆ 町田啓太の土方歳三は時代劇史に刻まれる 歴史の“名場面”を飛ばす『青天を衝け』の斬新さ(→link

しかし、それがまた面白い。多くの幕末ものの時代劇で描かれる「名場面」を悉く飛ばしていくこのドラマが重きを置いているのは、2つある。

なるほど。

歴史の“名場面”を飛ばす……ナレ死だの、『真田丸』の関ヶ原飛ばしを貶されていた時空は古いのでしょう。

◆ “超高速関ヶ原”の裏では何があったのか?:「真田丸」を100倍楽しむ小話(→link

発想を転換すればよかったんですね。

とはいえ気になることはあります。

この記事で「知らなかった」とされる小栗忠順、渋沢栄一、五代友厚は、幕末明治好きなら割と有名なのではないでしょうか。記憶違いなら申し訳ありませんが、教科書にも名前が出ていると思います。

小栗についてはこんなよい記事もあります。

◆ 渋沢栄一を慌てさせた情報通で、勝海舟の“ライバル” ──幕吏でありながら確かな商才で一目置かれた「知られざる偉人」小栗忠順(→link

ともあれ、難易度を落とすことが有効なのですね。

 

『青天を衝け』を見てはいけない理由

歴史関連の記事やサイトを覗いていると「青天を衝けを見てはいけない理由」というキャッチコピーの広告がやたらと出てきます。

広告リンク先の内容は不明です。

しかし、見てはいけない理由があることには同意するしかなく、こんな興味深いインタビューもありました。

◆ 草彅剛さん「泣くシーンは苦手 どきどきして眠れない」(→link

もう隠すつもりもないのでしょう。

本作は主演級の役者も、上層部のスタッフも、むしろ「歴史をわからない状態で」撮影しているとわかります。

無料部分でもこうあります。

だってね、昔の歴史のことって何が本当かわからないじゃないですか、実際のところ。だからどんな解釈でもいいというか、あまりこういう人だと決めつけずにやっています。頭でっかちに考えていてもできないから。

昔の歴史のことって?

何が本当かわからないとは?

それならばなぜ考証がついているのでしょうか。そんなもの付けずに、勝手に想像で進めれば、という話になるでしょう。

「頭でっかち」という言葉のあたりから、歴史的におかしいというツッコミをする自分のような人間は迷惑なのだろうと痛感させられます。

しかし、それは本来別枠ではありませんか?

上杉謙信が女性だとか。柳生十兵衛徳川家光の首を斬っていたとか。そういうトンデモでも許されるのかどうか。

そういうことをしないからこその大河であったと思えるのです。

ここまで「何が本当かわからない」と言い切ってしまうと、大河の根底からひっくり返るのではないかと恐ろしくなってしまいます。

『西郷どん』の時は、松田翔太さんが自分なりに学び、脚本の慶喜像に疑念を感じたと語っておりました。そういうコントロールできない状況にしないという意識を強く感じます。

『麒麟がくる』では、長谷川博己さん以下、かなり読み込んで勉強して演じていることが伝わってきたのですが。

それに歴史を軽んじる感覚って、歴史修正主義と相性がよく、危険性も孕んでいます。NHKは大丈夫でしょうか?

そして申し訳ありませんが、この記事を引いてみます。

◆『青天を衝け』視聴率好調、じつは「慶喜と薩摩」の描き方が圧倒的にウマかった…!(→link

例えば参預会議では、従来とは真逆の解釈をしていた本作ですが、それが「爽快だ!」という理由で絶賛されています。

2ページ目では江戸っ子の痛快さが触れられて入る。

ただ、これも一面的でして。

薩摩を芋と罵倒する江戸っ子は、おめおめと逃げ帰った慶喜に白い目を向け、会津や庄内を応援していました。

つまり、ここで引くのはちょっと無理があると思えるのです。

そして4ページ目。

長州系はもちろん、「中央の政局(この時点ではほとんど京都政局)」に関係のない志士は『青天を衝け』では取り上げられない。

もともと吉田松陰は登場しないし(名前は出ていたが)、吉田稔麿もあつかわれていない。久坂玄瑞の影も見えない。高杉晋作はたぶん出現しないし、坂本龍馬中岡慎太郎も出てこないだろう。

彼らは一橋家の内部から見えない存在なのだ。

それでずいぶんすっきりする。

長州をノイズとする理由は、何もわかりやすくするためではないでしょう。

史実をたどれば、一橋家からも、そして慶喜と渋沢栄一からも見えていました。

天狗党です。

天狗党の乱は、禁門の変と連動した事件でした。その天狗党が頼りにしていたのが、慶喜と栄一です。

その天狗党の同盟者を打ち破り、天狗党も見捨てる――その過程をこのドラマでは綺麗さっぱり省きました。

天狗党の顛末は描かれたものの、田沼意尊に責任を押し付け、慶喜と栄一はロンダリングされたのです。

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そしてこうもあります。

それが歴史的事実かどうかは、この際、どうでもいい。ドラマなんだから。(3ページ目より)

徳川政権の中枢にいる一橋家にとって、敵はただひとつ「薩摩」だけであった。

この構図がとてもわかりやすい。

リアルにそうだったのだとおもわれる。(6ページ目より)

ドラマだから創作してもよいと言い切った後、これがリアルだったと思われる。

その矛盾、弊害に気づいているのかどうか?

とてつもなく危険な水域に突入したと思えます。

幕末史の本をめくっていると、よく先生方がぼやいています。

日本人は歴史を知ろうとしない。司馬遼太郎で満足する。いや、小説を読むだけならマシか。大河ドラマでわかった気になっている! これでは危うい。

かつては「先生がまた荒ぶっているなぁ」と思ったものですが、私も荒ぶるようになりました。

パンデミックのみならずインフォデミック(※ネットで拡散する不正確な情報)が叫ばれるこの時代、こんな拡散装置には警告しなければならないと思う次第です。

天狗党もそうでしたが、長州藩もですか。

慶喜と栄一の意に背いた人間は、こうも感想でまでバカにされ、コケにされるのでしょうか。

 


『青天を衝け』を褒めてはいけない理由

大河は所詮一年もの。渋沢栄一も一年で顕彰が終わるかとは想像しております。

が、なまじお札の顔だけにどうなることやら。

歴史上の人物の好き嫌いは、それぞれ勝手にすればよいとは思います。

戦国武将はそうでしょう。ただし、幕末以降、近現代史となると面倒だと指摘しておきます。

こんなニュースがあります。

◆ セオドア・ルーズベルト元米大統領像、NYの博物館前から撤去(→link

◆アムステルダム市長、奴隷制を謝罪 植民地の議論活発化―オランダ(→link

歴史の見直しが進んでいます。

BLM運動で一気に加速したとはいえ、実は一昔前からあった傾向です。

ジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄』の邦訳からも20年が経過しています。あの本はグローバル・ヒストリーの先駆けと見做されています。

地球規模で人類史を俯瞰すれば、人種や宗教の優位はあったかどうかわからないのではないか?

そういう考え方はどんどん深まって、今はユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』や『ホモ・デウス』が話題を集めているのです。

こうした歴史観は、植民地主義時代を肯定できません。むしろ否定します。

あの時代は植民地を作り、現地から収奪するという禁じ手ができたけれども、その結果として人命や環境に悪影響を及ぼしたのではないか? そう考えることが大事。

渋沢栄一を無理矢理SDGsと絡めて持ち上げるような理論がありますが、そもそもが足尾銅山という大公害事件の原因となっている時点でそれはない。

労働運動にも否定的。

帝国主義の禁じ手を使えた、極めて幸運な人であったというだけで、彼のセオリーなりやり口を現在人は真似できないのです。むしろ反面教師。

そこを踏まえますと、大河を通して渋沢栄一を学んで褒めたところで、顕彰ごと否定されかねないことは目に見えています。

歴史学は個々の学説だけではなくて、歴史をどう定義するかによっても大きく変わります。

今年はどうにもそれができていない。古い。むしろ有害に思えます。

歴史観をアップデートせず、キャッチーな描写を好む層にはハマるようなのですけれどもね。

「尊敬する人は渋沢栄一です!」

海外とやりとりをするのであれば、それは言わないほうがよろしいかと思います。

特定の国の問題でもありません。

今、帝国主義時代の政治家と商人はおおっぴらに顕彰されない。搾取や差別を土台に金儲けをしているとわかっているからそうなります。

渋沢栄一が「国王なのに金儲けの話をしている!」と感銘を受けたベルギー国王・レオポルド2世なんて子孫から否定されております。

10年前ならベルギー国王に感銘を受けた渋沢栄一は賢いとなったでしょうね。

でも今は、国際的にはむしろ逆です。

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そういう思考実験をNHKがしているとすら思えてきますが、当然、何一つとして得られることはないでしょう。

※著者の関連noteはこちらから!(→link


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◆青天を衝け感想あらすじレビュー

◆青天を衝けキャスト

◆青天を衝け全視聴率

文:武者震之助(note
絵:小久ヒロ

【参考】
青天を衝け/公式サイト

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