青天を衝け感想あらすじ

青天を衝け第33回 感想あらすじレビュー「論語と算盤」

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青天を衝け第33回感想あらすじレビュー
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栄一が圧倒的な無能です

栄一がスゴイといいたいことはわかった。

しかし、やることなすこと無能すぎて意味がちょっとわかりません。

小野組が倒産するまで危険を予測できない。

「俺が悪い!」といいましたが、まったくその通りです。もっと真面目に反省しましょう。

三野村が小栗忠順ゆかりの人物だと、千代に聞かされるまでしらなかったあたりも酷い。商売相手のルーツくらい調べておきましょう。

とはいえ、五代もダメだからそこはヨシ。このドラマの五代って、具体性のある助言ができないんですね。

栄一にも「商売の世界には魑魅魍魎がいるよ!」ですからね。

それって「北海道にはヒグマがいるよ!」くらいの無駄なアドバイスでしょ?

具体性のあるアドバイスというのは「ヒグマにはペッパースプレーだ。でも出会わないことが大事」とか、そういうものじゃないでしょうか。

イキリ顔の渋沢。

クソバイス(クソのようなアドバイス)の五代。

史実はさておき、ドラマではそんなところでしょう。

 

鳳字

今週の漢籍コーナーです。

鳳字『世説新語』「簡傲」より

ざっと概要をまとめますと……。

魏の呂安が親友の嵆康を訪れました。

するとあいにく留守。兄の嵆喜が「あがってってください」と言ったのですが、呂安は門上に「鳳」と書いて帰った。

「へえ〜鳳かあ。素敵ぃ!」

そう嵆喜は浮かれたのですが、これには深い意味があった。

「鳳」という字は「凡」と「鳥」とに分解されます。つまり……

「嵆康はいいけど、あんたみたいな平凡な奴と話しても時間の無駄っスね」

呂安の性格って、どうなのよ……そんなツッコミどころはあるかと思います。

『世説新語』の時代って乱世ゆえにみんな精神が疲弊していて、あの書籍はびっくり言動コレクションのような趣があるので、そういうものだと思ってください。

で、なぜ「鳳字」かということですが、これって本作とその感想なのではないかと思いまして。

ドラマも後半に入って、誉めるところが尽きてきたと思える。

だって今週なんて、西南戦争よりも蚕卵紙キャンプファイヤーが見どころですよ。どうコメントすればいいんですか?

このドラマを誉めなければならない方に同情してしまいます。

無理に探そうとすると、こうなる。

「人が死んじゃった! 悲しい!」

「お父さんとお母さんは大事!」

「イケメンがスーツを着ていてかっこいい!」

「浮気ムカつく!」

SNSで瞬間的に盛り上がる投稿を取り上げ、引き伸ばして記事が量産される。

タイトルや本文は鳳のように華麗なベタ褒めですが、行間を読むと「平凡で褒めるのつらいのよ」という本音が見えるのですね。

それってまさしく本作そのもの。どんどん作りが雑になっているのに、ブランドネームとファン心理で誤魔化しています。

では、具体的にどんな記事があるのか?

一例がこちらです。

◆ 『青天を衝け』大森美香脚本の妙 歴史に人間ドラマを巧みに組み合わせ、ユーモアもプラス(→link

注目はこちらでしょう。

朝ドラ(『風のハルカ』『あさが来た』)も大河ドラマも、長丁場にも息切れをあまり感じさせない強靭さを感じる筆致。

作家としてのスケール感があり、今後も依頼が引きも切らないだろうと感じる才人のひとりだ。

「長丁場にも息切れをあまり感じさせない強靭さを感じる筆致」だそうですが、大河の必要条件ではありませんか?

正直なところ、三度目の登板となる三谷幸喜氏や、昨年の池端俊策氏と比べると歴史ものとしてあまりに辛い。

後世作られた家康遺訓を本物のように扱う。

レオポルド2世を褒めちぎる。

そういうことは基礎的な歴史知識があればやらかさないと思います。

大河の脚本家として水準を満たしているのか疑問を感じますし、『あさが来た』の時点で判明していたと思えるのです。

本作は明らかにおかしい箇所が毎週のようにあります。

事前のガイドであった展開がカットされ、追加されたと思えるスタジオ撮影の場面が挟まっていることも多い。

語彙力、漢籍の知識。どれもこれも、ここ数年の大河では低い部類に入ります。

『論語』を推しておきながらその勉強すらしていないって、一体どういうことなのか(これについては後述します)。

私には、本作の脚本家が最低限の努力すらしていないように思えます。

手抜きをする人は、いくら才があろうと、とても褒められません。そもそもこの筆者が定義する「才人」とは何か? 取り入ることがうまい才能という意味にも思えてきます。

そもそも、本当に歴史ものの語彙力があれば「びっくりぽん!」だの「胸がぐるぐるする!」、「おかしれぇ」だの、当時の知識人が言いそうもない決め台詞なんて使わないでしょう。

平成令和でも大人になっても連呼していたら、幼稚とみなされかねないのでは?

そしてここもご注目ください。

この頃の文章は渋沢栄一記念財団のホームページ「渋沢栄一伝記資料」としてネットで読めるようになっている。

大森氏をはじめ制作スタッフはこういう資料を読み込んで作っているのだなと思うといやもう大変な仕事だと感じる。

渋沢栄一がドラマで言う「変身」を繰り返すように尽くす人を変え職業を変えて様々なことを行っているから資料も膨大だろうし、近代になればなるほど残った資料も多いだろう。

栄一がしきりに言う「合本(がっぽん)」という言葉に『あさが来た』のキメ台詞「びっくりぽん」を思い出してクスリとなっている場合ではない。

大河を作るのに、資料を読み込むなんて当然のこと。毎年そうです。

そもそも資料を十分に読み込んでいたら、江藤新平の最期や、小野組だけでなく島田組ぐらい出てきそうなものです。

今年で驚くなら来年はどうなります?

三谷幸喜氏は『真田丸』で一流が揃った考証から、大量の資料を受け取ったことがわかっています。三谷氏はそういうことを自慢しないし、アピールするような人でもない。

のほほんとしていても才知が光る。

嚢中之錐(のうちゅうのきり)とはまさしく彼のような人物のことでしょう。

『麒麟がくる』の池端氏の場合、漢籍が血肉として身についている。そういう語彙力とプロットです。ああも見事にはそうそうできない。

天衣無縫――無邪気だという意味で使いますが、ここでは作為を感じさせないほど見事と使わせてください。『麒麟がくる』の信長なんて天衣無縫の素晴らしさでした。

話を来年や去年でなく、今年の脚本家に戻しますと。

こういう褒め言葉って、所詮、

「このカレーはスパイスを入れていてスゴい!」

というような類のものです。

一周回って失礼な話。甘ったるい言葉で賞賛するにせよ、他に何かなかったのでしょうか。

ドラマの作り手は気の毒だとは思います。

好きでもないことをやらされて、ストレスが溜まっているのかもしれません。

だから彼らを気遣うためにも、誉めるにしても読んでいて「鳳字」、ありきたりだというようなことはどうなのかと思う次第です。

私は魏徴(ぎちょう・唐高祖と太宗に諫言しまくった政治家)推しなので、本作に対する華麗な褒め言葉はありません。

 

渋沢顕彰が『論語』を貶める

今年の大河ドラマは漢籍知識が疎い。そうしつこいほどに繰り返してきました。

作り手は、サブタイトルにしながらも『論語』も算盤もさして重視していないことは見ていてわかります。

毎週指摘していますが『麒麟がくる』の漢籍知識は盤石でした。

単純に引用するのではなく、プロットに組み込んでいたのです。漢詩が伏線になるドラマってなんて素晴らしいのか! と解読することが楽しみで仕方ありませんでした。

今年はどのへんが漢籍教養不足か?

まず、本作と連動したこちらの記事でもどうぞ。

◆大河ドラマ『青天を衝け』では橋本愛演じる妻・千代と愛人はほぼ同時期に出産…“妻妾同居”の実態(→link

以下の部分、あまりに基本的なことが間違っています。

特に後妻のかねは晩年、ようやく悟ったように「父様も論語とは旨いものを見つけなすったよ。あれが聖書だったら、てんで教えが守れないものね!」と、笑いながら言ったと秀雄は回想しています。論語においては孔子自身が歌舞音曲を非常に重んじていましたが、当時の歌や踊りといえばまず間違いなく女性を伴った席だったのです。

中国の音曲については、それだけで一冊本になるほど難解なのでここでは解説しません。

確かに音楽には大変なこだわりがある。しかしそれは国家儀礼や祭祀も絡んでことであり、「綺麗な姉ちゃんと宴会していたんだよね」というニュアンスで語ってよいものではありません。

どうしてこうも鹿島茂先生は、力強く断定するのでしょうか?

彼の著作は読んでいます。『情念戦争』は素晴らしかった。鹿島先生の渋沢栄一伝も読みました。

しかし、疑念も感じます。あの本にも、中国古代は女性を侍らせる宴会が当然という、この記事と同じ趣旨のことが書かれてあり、一体どういうことかと驚いたものです。

問題は鹿島先生一人のことでもありません。

出版し、オンラインで記事を掲載した文藝春秋社は、『論語』に対する理解が基礎的な部分からしてまちがっていると、問題視しなかったのでしょうか?

読者が指摘することもなかったのでしょうか?

私も出版社に連絡はしておりませんが、もしも文藝春秋社内に漢籍の基礎的な知識がある人がいれば、修正が入るはずでしょう。書籍とWebで、こうも堂々と記事を出すとなると、相当危うい話だと思います。

そしてこちらですが。

◆ 渋沢栄一がこだわった「論語」は『論語』にあらず!? 銀行経営の指針に「論語」を持ち出した背景(→link

記事については概ね同意しますが、私が以前指摘した問題点を繰り返しますと。

渋沢栄一の『論語』は、「心即理」=「心が欲すればいいんだよ!」と超解釈し、テロを繰り返した後期水戸学であり、現代人はむしろ弊害を学ぶべきです。渋沢の解釈は危険でしかありません。

そもそも『論語』ブームに乗っかって持ち出した感があり……専門家でもないわけです。

本当は怖い渋沢栄一 友を見捨て労働者に厳しくも人当たりは抜群

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渋沢栄一の『論語』解釈なんて本来は触れない方がいいんじゃないの? 魔改造されてない? それはこの記事でまとまっている通りなのですが。

中国古典には商業特化した『商訓』があるわけです。

『論語』は、東洋で一般教養の部類なので、そんなものを自慢されたところで正直なんだかな……と思わないでもありません。

商業特化思想といえば、鹿島茂先生はサン=シモン主義が渋沢の根底にあると伝記で書かれておりましたが、大河ではまるで出てきませんね。

そしてこの記事もここがどうにも納得できないのです。

その一方、『論語』や、そこに描かれた孔子という人物の実像について、我々はどう評価したらよいのでしょうか。驚くかもしれませんが、史実の孔子は、『論語』の記述にあるような、大国の宰相を任される生粋のエリートなどではなく、ただの政治好きの「冠婚葬祭アドバイザー」でしかなかったようです。『論語』では弟子の数が3000人いたなどとされていますが、『論語』より成立年代が古い『孟子』では70人しかいなかったとあります。おそらく、70人でも“盛られた”数字ではないでしょうか。

「孔子が意外とセコイんだぜ! そんなもん崇めている連中はどうよ!」って、そんな議論はもうやめにしませんか?

例えば、中国では儒教と仏教と並ぶ道教。この思想の源流には、張角も位置付けられております。

張角といえば『三国志』もので、黄色いターバン巻いてあやしげなことをしているイメージがありますよね。

 

確かに反乱はいかんということで、劉備、曹操、孫堅らが倒そうと立ち上がる。

でも太平道の思想には利点もあるし、アリなんじゃないかということで、組み込まれていって思想や宗教として洗練されていったのです。

道教の神として有名な関羽だって、武将としての力量は当時の最強とは違う。

大事なのは、関羽を祀ることで人が結束し、己を律し、助け合っていこうと思ってきたこと――関帝廟はそういう意義のある場所です。

関羽
関羽は死後が熱い!「義」の代表が「万能の神」として崇敬されるまで

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始祖が、現在の観点からみて本当に立派かどうか。宗教や思想ってそこが問題じゃないでしょう。教祖のことをそうやってバカにすることは、いろいろ危険だと思います。

大切なことは、教えを知って議論を続けること。

中国でも、朝鮮でも、そして日本でも、儒教の経典を熟読し、

「この教えはどういうことだろう? みんなで考えてみないか?」

とディベートをして己を研磨していたからこそ、価値があるのです。

議論が煮詰まった結果、危険思想となったのが前述の通り後期水戸学と、幕末の陽明学なのですが。

『青天を衝け』にそういう思想を論じる場面があったかというと……

「胸がぐるぐるする!」

「おかしれぇ!」

でしたからね。

この大河ドラマからは儒教や『論語』は学べません。渋沢栄一から『論語』を学ぶことも一切推奨できません。むしろ危険です。

幕末史と儒教って実は危険なんですよ。

「知行合一、吉田松陰先生の教えです」

こういうことをよく見かけますが、回避したほうが得策です。

「知行合一」は陽明学の教えであり、吉田松陰が提唱し始めた訳ではありません。

このように、もともと儒教、それも陽明学にあった教えを、勝手にルーツを簒奪するようなことをよくやらかすのが幕末史がらみ。

開き直って「陽明学で明治維新を成し遂げたのは日本人だけだから、もう日本のお家芸だ!」と主張する本もあり、唖然としました。

そんな無茶苦茶なルーツ簒奪は恥ずかしくありませんか。

儒教をコケにしつつ、日本式魔改造を主張している言動があると、私はいつも小島毅先生のことを思い出します。

「こんなことを小島先生が耳になさったらどうなることやら……」

中国思想の専門家であり、かつ大河に一家言をお持ちの小島毅先生……なぜ、本作がらみでお呼びがかからないか、それは想像がつきます。

彼が誉めるはずがない。

今飛び交っているオファーは、

「『青天を衝け』を専門家が語ること」

ではありません。

「『青天を衝け』を、専門家がベタ褒めすること」

でしょう。

となると先生が網から漏れることは必定。けれども、いつか小島先生が語る日が来ると信じています。

そうそう、ドラマで儒教思想や何やら学びたいなら、本場中国、華流もどうぞ。

お供には佐藤信弥先生『戦乱中国の英雄たち: 三国志、『キングダム』、宮廷美女の中国時代劇』を推奨させていただきます。

佐藤先生もオススメしている『月に咲く花の如く』では、ヒロインたちが商売特化型古典教養『商訓』を学んでいます。

 

『論語』を商売に活かす?

古いですね。これからの時代は『商訓』です。

※著者の関連noteはこちらから!(→link

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文:武者震之助(note
絵:小久ヒロ

【参考】
青天を衝け/公式サイト

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