永禄9年(1566年)――。
覚慶は還俗し、足利義昭を名乗り、朝倉義景を頼り、越前へ向かいます。
しかし、一乗谷に程遠い敦賀で、髪も伸びるほど、三月、半年と待たされ、三淵藤英と細川藤孝の兄弟はイライラ。弟の藤孝は、暑苦しいほど熱血野郎で、兄に当たっています。
藤孝は悪人でもないし、むしろいい人ですが、この思いこみの激しさ、熱血ぶりがちょっと危険で、すごくいいですね。その部分が嫡男の細川忠興に凝縮して発揮され、光秀の娘・玉(細川ガラシャ)が苦しめられることも想像できます。
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藤孝は育児失敗というわけでもなくて、息子さんで強化される激情があるんですね。
暑苦しい。正直、ちょっとウザいぞ、藤孝! と言った感じでしょうか。眞島秀和さんは本当に最高以外の言葉が見つからない。
そんな弟と抜群のケミストリーを発揮する谷原章介さんの穏やかさよ……。
演じるとすれば、藤孝の方がやりやすいのかもしれず、受け止める谷原さんには、貫禄が出てきてこれまた素晴らしいですね。
そんなイライラ兄弟が支える義昭は?
庭に座り込んで、蟻を見つめています。羽を運ぶ蟻をジッと見つめる義昭。何かを悟ったのか、天から見下ろすようなカメラワークがうまい!
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熱気ムンムンの藤孝に光秀も困惑
越前の光秀宅に藤孝が来ています。
イライラ満載なのは、朝倉義景が仮病を使って義昭に会おうとしないそうです。藤孝も面会を断られているらしい。
せっつかれるのが嫌なのだ、一向に動きがない「梨の礫」だ! そうイライラ全開の藤孝。
朝倉義景がダメな奴のようで、藤孝もあまりに暑苦しくて会いたくないと思わせる、絶妙な展開です。
いや、だって、藤孝が毎日のように面会に来るのって、疲れそうじゃないですか。
これは良き史実の反映かもしれません。
細川藤孝は、この時代でも屈指のパーフェクトガイです。
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そういう自分のスキルに他の人がついてこられないことに無頓着というか、冷淡というか。風流な嗜みができない奴らってなんなの? お察しだろ! というような態度があるというか。
うーん、なんというウザい細川藤孝。極上ですね~。
熱気ムンムンで、朝倉様は何を考えているのか、上洛する気があるのかないのか!と、光秀を困らせるほどの怒りです。
「私にはなんとも……」
うん、なんともだよね。光秀、仕官すらしていません。
「いや申しわけない。十兵衛殿まで巻き込んで。他に相談する方もいないので……」
あ、藤孝がなんか悲しいことを言い始めましたよ。
同僚はどうしましたか? 避けられてませんか? 友達いなくなってません? 現代社会だったら、ランチタイムはぼっちご飯なんじゃありませんか? リモート飲み会にも誘われず……?
ここで光秀はちょっと気まずさを感じている。
だって義景に、将軍の器かどうか聞かれて、「あの方はいかがかと存じます」とキッパリ言い切りましたからね。
藤孝の期待を裏切ることを、光秀は想像できなかったのでしょうか。
そうツッコミどころは満載ですが、光秀は常にピュアなので、腹芸ができないのだと思います。
美濃を制した信長
そして懐かしの美濃稲葉城には、信長がいました。それにしても染谷将太さんの信長は、なんだか頑張っていると思えますね。
家臣を前にして、かしこまった口調でこう言います。
「面をあげよ。皆の者、こたびの働き、大儀であった。褒美をつかわそう」
信長って、儀礼モードになると、人形みたいにハキハキと、覚えたまんまそのまま出しているような、不器用さが出てくる。
一歩間違えると演技が下手に思えるから、役者としては困るかもしれないのですが、染谷さんはちゃんと役柄になりきっているので、そこをこなしていると思えます。信頼感が半端ない信長だなぁ。
永禄10年(1567年)、稲葉山から斎藤龍興を追放し、美濃を平定しておりました。
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美濃は織田信長の支配下となり、岐阜県の英雄・信長がここに立ち上がります。
越前で光秀は何事か考えています。そこへ母の牧がやってきます。
なんと伝吾から文が久々に届いたそうです。
明智の里はあの頃のまま、伝吾を始め、村の衆も皆息災だそうです。あのとき半分焼けてしまった館も、伝吾は建て直してくれたとか。いつ戻っても、暮らせるようにしているそうです。
光秀はハッとします。
牧と共に美濃へ
その夜、煕子と語り合う光秀。なんでも、牧が急に美濃へ戻ることを言い出したようです。
光秀は理解を示します。
美濃は母上が生まれ育ったところ、父上も眠っておられる。今までは斎藤家が治めていて叶いませんでしたが、信長が美濃を平定した今なら安心して帰れるのです。
煕子は、夫が美濃へ帰りたいのか尋ねます。
そなたはどうかと話を振られて、こう言葉を濁す煕子。
「子どもたちにとっては、ここが故郷ですから……」
優しいようですし、ちょっと美濃こと現在の岐阜県も絡めて、思い出したことがあります。
かつて日本は、海外に領土がありました。
岐阜県からも満洲開拓に向かった人がいる。戦争に負けたから戻れと言われたところで、満洲で生まれた子どもにとっては見知らぬ土地へ戻ることになる。
そういうふうにして、戦争で苦悩を味わった人がいる。大河ドラマを見ていて、そんな別の戦争の影を感じたのでした。
今週は前川洋一さんの作。記憶の継承は、成功しているようです。
十月、牧を連れて光秀が美濃に帰ってきました。母の乗る馬を曳く光秀よ、こういう姿が似合います。牧はのびのびとした顔で、こう言います。
「なつかしい美濃の香りがいたします」
感受性が豊な牧です。母子が明智荘にたどり着くと、そこには伝吾がいました。
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「伝吾! 帰ってきましたよ」
「大方様、十兵衛様!」
感極まった顔で頭を下げる伝吾。そんな彼の腕を無言で叩く光秀。笑いが込み上げてきます。
修理された家を見回り、光秀と牧は感心しています。
「これはそなたが直したのか?」
「村の衆にも手伝ってもらいました。以前のようにとはいきませぬが」
そう謙遜する伝吾に「十分じゃ伝吾、かたじけない」とお礼を伝えます。牧は感無量です。
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「同じ所に住めるなど、ゆめにも思いませんでした。伝吾、覚えておるか。十一年前そなたは言うてくれた」
この先、十年、二十年、皆で守っていくと誓っていました。
「まことに守ってくれたのですね」
「それが私の務めでございます」
素晴らしいものがあります。そこにいて、守ること。そのことで忠義を示した伝吾はえらい! 功績を自慢するわけでもなく、謙虚に守り続ける。「私の務め」という言葉が重いな~。
そんな明智荘に、村の衆も集まってきます。
米俵を担ぎ、稲穂を牧に差し出す。頭を下げて、酒を互いに飲む。平穏とはこういうことかと思える場面です。
なんでも龍興は、古くからの御家来衆に裏切られたそうです。
当主としての器に欠けるところがあり、皆の心が少しづつ離れていったとか。なんだか暗いものが見えてきた。
時に当主に冷たい態度を取り、おだてていた、家臣の顔が見えてくる。本作はいいですね。カリスマ性がないと、すぐさま蹴落とされる、恐ろしい世界だ……。
光秀はしみじみと言います。
「父の高政が生きていたらどうなっていたであろうな……」
伝吾は、このようなことにはならなかったのではないかと口籠もります。その上で、 信長様に会われるのかと聞いてきます。
ここが超絶技巧と言いますか。光秀はちょっと考えすぎて、混乱していると見えてきます。
いろいろあった高政とのこと。そして、器が軽ければいとも簡単に砕かれる、厳しい乱世のこと。義昭のことも脳裏に浮かんで、気もそぞろなのでしょう。
ともあれ、明日会う信長のことも考えなくてはなりません。
美濃に戻れて感慨無量の母
ここへ懐かしい木助が呼びにきます。
牧は踊っています。無理をなされずと言われようとも、テンションがあがってしまって止まりません。
そんな母が疲れたのではないかと気遣う我が子に、牧はこう言います。
ああして踊るうちに、思い出しました。そなたが生まれた時のことを。あのときも、村の皆が祝うてくれて。酔うた父上が嬉しそうに踊り出して。
「十兵衛、まことにありがとう」
「何をあらたまって」
「こうして美濃に戻って来られて、もう何も、思い残すことなどありません」
「おやめくだされ、そのような」
母子愛の極みのようではある。土地に根付いて生きることの重みがある。石川さゆりさんの愛がともかく美しい。
光秀は「この先もずっと母上には見守って頂かないと」と返します。
「私がいなくとも十兵衛なら大丈夫。そなたは明智家の当主。その身には、土岐源氏の血が流れております。誇りを持って、思うがままに生きなさい。その先にきっと、やるべきことが見えてくるはず。私も誇りに思いますよ。そなたの母であることを」
しみじみとそう語る牧。綺麗な声でさえずる鳥のように、繊細な愛ある台詞をつむいでゆきます。
大河に出ることは親や祖父母に誇れるという感慨が役者のみなさんから聞かれます。
これは長谷川博己さんにとっても最高の親孝行だ。母に尽くす光秀の姿は、理想の息子そのもの。これは彼のご両親にとっても、宝物となる演技でしょう。こんな息子を育てたことは、最高の財産になります。
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