毎年、第一回放送の時期になると、本サイトでは、一年の成否を占う直前予想記事を出していますが、今年も実行します。
松潤を主役に配し、題材は徳川家康という鉄板の体制で、どんな作品となるのか。
レビュー記事を担当している武者震之助に、ドラマでの見るべきポイントを提示してもらいながら、進めて参りましょう!
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これまでの事前予想は?
2014年大河ドラマ『軍師官兵衛』で初めてレビューを書かせていただき、本年2023年で10作目。
ここ数年は放送日直前に事前予想も公開していましたが、自分なりに、割と結果は的中してきたと思います。
印象的だったのが2018年『西郷どん』です。
明治維新150周年に当ててきて、どうせ「いい人西郷さん」で無難にまとめるんでしょ?と思ったら、その通りの内容。
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昨年『鎌倉殿の13人』については
・視聴率は低い
・だが最終盤まで話題になって盛り上がる
こんな予測をして、おおよそ外さなかったと自認しております。
ただまぁ、あくまで私の見方で、賛同していただける方もいれば、チャンチャラおかしいとお叱りの方もおられるでしょう。
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多少のすれ違いはどうしたって生じる――そんな前提を踏まえまして、2023年『どうする家康』はどうなるか?
これが、想像以上に好材料が見つかりません。
2022年、大河はあまりに大きな変貌と遂げました。
しかし2023年はそれが後退してしまいそうである。
今年せっかく盛り上がったファンも「大河が面白いと思ったのに、これなら見なくていいや」と見放してしまうのではないか?
そんな懸念があります。
昨年、事前予想の記事を出したときは、叩きのループに入った場合も想定し、敢えて悪い予測も出しておきました。
今年もそれにならい、敢えて悪いことを書きます。
きっと家康なら納得してくれるであろう朱子学の精神も見習います。
先憂後楽――人よりも先に悪い予想をし暗い気持ちになり、人がやっと楽しめるようになってから自分も楽しむ。
実際に放送が始まり、もしも素晴らしいドラマとなったら、私はその時初めて映像を噛み締めて笑う。
スタンスとしては『貞観政要』の魏徴です。
魏徴は、みんながニコニコ機嫌よくしていると、ハーッとため息をついて「これでは失敗しますな」と水を差す、諫言のプロ。
なぜそんなパーティを台無しにする陰キャが重宝されるのか?というと、悪い場合に備えた方がよいこともあるということ。
『どうする家康』でも、家康が愛読した『貞観政要』は出ますかね?
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明るい予想は他にもう大量にありますので、そちらでご覧いただき、
◆松本潤主演『どうする家康』は“大河ドラマ改革”の集大成に? 3つのトピックから全貌を予想(→link)
今回は不安材料を抜き出しますので、厳しい意見になることをご承知ください。
懸念すべき点がもうある
戦国時代好きのとある人物が、『どうする家康』について、こんな意見を出していました。
「家康が今川家で人質としてこのまま過ごすのかと思っていた……とかなんとか番宣で見て、期待感が落ち込んでしまった」
あるいは、日本の戦国時代が大好きなとある外国の方は、こんな趣旨のことを書いていました。
「『どうする家康』には何も期待していない。目新しいことが何ひとつとしてない、いつもの日本のドラマだ」
単なるイチ意見でしょ。
と言われればその通りですが、歴史に詳しい人物たちが、自分なりの意見を抱いているとなると無視はできません。
私も彼らの意見には頷ける点があり、特に、以下の2点から懸念すべき点が浮かんできます。
・家康は人質でこのまま人生が終わると思っていた
→戦国大名家における人質の意味をうまく把握できていないように思えます。
家康が今川家でそこまで惨めな立場でないということは、さすがに作り手サイドならご存知かと思ったら、どうやらそうではないらしい。
人質を冴えない身分に落とし込み、親しみを持たせる手法は一昔前なら定番ですが、今時これはないでしょう。
「築山殿」の名に「瀬名」も使われていますが、これも現在では否定されることもあります。これは北条政子がずっと「政子」もそうなので、そういうものかもしれませんが。そこにはどういう狙いがあるのか……。
古い説を敢えて使用するのも、ありといえばありですが、そこまで深い意図がありそうでもない。
どこまで新しい説を採用しているかどうか?
これは時代考証の担当者を見れば推察できます。
メインの小和田哲男先生は、言葉は悪いけれども無味無臭――定番、無難な方で個性はほとんど出てきません。
となると、脚本と演出次第です。
考証が名前提供だけの状態になっていた大河もあります。
・目新しいことが何ひとつとしてない、いつもの日本のドラマだ
→1分PR番宣を見て、私も同じ気持ちになりました。
叫ぶ顔が多い。砂浜を歩く家康の映像……どうにもセンスが古いと思えてしまったのです。
『大奥』PRの方がちゃんとして見えます。
そしてもうひとつ、私の意見です。
・そもそもタイトルにセンスがない
戦国時代を扱う大河として、近年、最高だと思えたのが『麒麟がくる』。
なんて詩的で、なんて知識が詰まっているのか。
「麟」は信長の花押でもあり、仁政の象徴だ。
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一体どんなドラマになるのだろう?
『麒麟がくる』ではドキドキできたけれども、『どうする家康』はそんな余韻もなくどうしたものやら……。
タイトルの意図を知ってからも印象は変わらず、しかもドラマに関する情報を知れば知るほど不安に思えてきます。
ここから先はもっと苛烈な指摘となりそうなので、ご容赦ください。
大河の王道とは時代ごとに変わる
事前の宣伝からすると、家康のキャラクター性は伝わってきます。
冴えない人質だったのに、どういうわけか天下人になってしまう。
どうする?
そう問いかけ続けるスタイルにしたいのでしょう。
これはある意味、大河の「王道」ともいえる手法です。
初期の頃は違いました。
第1作目からして主人公は井伊直弼の『花の生涯』で、次は『赤穂浪士』。
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「わかる! 俺も主人公と同じ経験あるわ!」となる題材ではない。
それが高度経済成長期となっていくと、サラリーマンの共感を重視し始めます。
愛する妻がいるマイホーム。右上がりの給与。そんな自分の人生と戦国武将を重ねて、明るい気持ちに浸りたい。
彼らの愛読する山岡宗八、吉川英治、司馬遼太郎あたりが原作のお約束。
織田信長のような大物となれば、誰もが納得の大物俳優が出てくる。
そういう昭和おじさんが好きそうな欲張りセットが大河ドラマであり、たまにそんなおじさんの奥様を狙った『おんな太閤記』のような作品も入り込んできます。
これが平成になると、さすがに古くなってきます。
そこで手を出したのが、民放トレンディドラマ路線です。
詳細は後述するとしまして、目立つ特徴を箇条書きにしますと……。
こうした大河については、ネットスラングである【スイーツ大河】という言葉も生まれ、以降、女性原作者や女性脚本家、あるいは女性主人公がことさらバッシングされるようになりました。
決定権を持っているのはNHK上層部であり、そこはほぼ男性が独占している。
そんな彼らの志向した女性像なり女性向け題材が表に出されたのに、いざ叩かれるのは前面に出ている女性だけというのもいかがなものか。
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時代は変わりました。ネタ切れも起きました。
それでも大河は勝てた。
コンテンツとして優れているというよりも、単にライバルがいなかったからでしょう。
2000年代、NHKは韓国時代劇『チャングムの誓い』を放映しました。
韓国ではなかなか時代劇が作られない時代が続いていました。韓国のテレビ局スタッフは九州の電波を拾い、大河ドラマを見て、自国史でこんな時代劇を作ろうという願いを抱いていました。
これは中国も同様です。
政治的混乱やエンタメ規制がある中、なかなか時代劇が作れない。それが1980年代の改革開放政策以降、変わってゆきます。
こうして他のアジア圏諸国が停滞する中、日本だけが一人勝ちでいられた時代の象徴が大河ドラマでした。
それが2010年代に入り、にわかに状況が変わり始めます。
2010年代大河と歴史ドラマを振り返る
大河ドラマにとっての2010年代とは一体なんだったのか。
確かに変革はありました。
例えば2016年『真田丸』は特徴的でしょう。
真田幸村(信繁)は戦国時代で長らく人気ナンバーワンの武将だったのに、大河の主役になっていなかった。
一国一城の主どころかラストは討死というバッドエンドが避けられたとも指摘されますが、それも平成終盤になり、終わりなき不況の時代なら受け入れられると判断されたのでしょう。
2013年『八重の桜』、2017年『おんな城主 直虎』などの作品からは、自己主張し、自分の人生を生きる、良妻賢母以外の女性像希求が反映されていると感じられます。
2015年、2018年、2019年について特に言うべきことはありません。「国策」でまとめてよいでしょう。
2019年は「尖った題材」という意見もありますが、唐突に五輪を題材にしたら、そりゃそうなるでしょという話で、ともかく東京五輪の開催目前に放映した以上は、どうしたって国策としか言いようがありません。
そう考えれば2021年『青天を衝け』もお札絡みの「国策大河」ですね。
そんな、いびつな2010年代を経て、2020年『麒麟がくる』と2022年『鎌倉殿の13人』はかなり癖が強いという意見も見かけますが、私はむしろ今後の基準になると思えました。
大河ドラマが迷走気味であった2010年代は、世界的にみれば歴史ドラマが大きく変わった時代です。
驚異的なヒットとなったHBO『ゲーム・オブ・スローンズ』(以下GoT)は社会現象ともなりました。
この作品はテレビ番組のネット配信が広まる時期とも一致していて、大河にも影響が及びます。
「歴史劇といえば大河ぐらいしかないよね。ただ、あんな調子では……」
そう皮肉っぽく語る時、引き合いに出されるのは『江 姫たちの戦国』や『花燃ゆ』です。
現代人がコスプレをして安っぽいラブコメや青春劇を展開するような大河にはうんざり。そんな嘆きは視聴者だけではなく、大河の作り手にもいたと証明されたのが2022年でした。
脚本家の三谷幸喜さんはじめ、スタッフはGoTを意識したと語っていたのです。
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日本版GoTを作る――その試みは、NHKプラスなどの視聴数の伸びなどからして、一定の成功を収めたと言えるでしょう。
では2023年はどうなる?
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