大西郷という虚像

『大西郷という虚像』/amazonより引用

幕末・維新

西郷を一刀両断!書籍『大西郷という虚像』には一体何が書かれているのか

2025/02/20

大河ドラマの主役にもなった西郷隆盛。

彼がいかに優れているか。

大人物であるか。

国民的番組の主役ともなれば、その功績を礼賛する書籍は数多出版されます。

その一方で、史実に基づいて「いや、違うんじゃないか?」「フィクション作品のために誇張されている部分も多いのではないか?」と疑問を呈するスタイルも発売されます。

維新三傑の一人西郷隆盛――そんな大人物に真っ向から当たっていくのが

『大西郷という虚像(→amazon)』

という一冊です。

 

幕末で一二を争う人気者に対して正面から喧嘩を売るようなタイトル。

と言っても、著者は単なる妄想家とかではなく、

『明治維新という過ち―日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト』(→amazon

を著した原田氏であり、かつては『花燃ゆ』にも強烈なパンチをくらわせました。

一体どのような西郷論が展開されるのか。

 


イキナリ怒り全開 司馬氏にも批判のジャブ

さてこの原田氏、序文の時点で猛烈に怒っております。

かなり新鮮です。

というのも、このスタイルの書籍は序文で誰かの意見をやんわりと否定するような入り方をするのがセオリーであり、いきなりアクセル全開で走り出すようなことはありません。

京都人が「ぶぶ漬けでもどうどす?」と勧めるような感覚ですかね。

ところが原田氏は違う。

序文の時点で、彼の著作を読んで「反日」と決めつけた人がネットに出没したこと、某自治体では自著禁止令が出たことをズバッと批判します。

さらには、かの司馬遼太郎氏に対しても、これまた批判のジャブを浴びせます。

司馬遼太郎/wikipediaより引用

幕末系の書物では、たしかに「司馬史観」に釘を刺す方はおります。

しかし、その多くは奥歯に物が挟まったような歯切れの悪さであり、本書のように正面から斬り込んでいくのは稀有でしょう。

これは本編へ進んでも歯ごたえがありそうです……。

 


薩摩の風土紹介から本題へ

本書はまず、筆者原田氏が実際に鹿児島県訪れた経験もふまえつつ、薩摩や肥後の風土の説明から入ります。

「クマソ」の時代までさかのぼり、その土地の人々の背景まで説明。

そしていよいよ、西郷に移るのかと言われれば、そうではありません。

まずは「蘭癖大名」と呼ばれた島津重豪について語られます。

島津重豪/wikipediaより引用

豪快でありながら、借金が多く、側室も数多く抱えており、68になっても子ができた。

ワイドショー的な語り口という反発はあるかもしれませんが、これも視点を変えたということかもしれません。

薩摩はともかく金遣いの荒い藩主のせいで、借金に困っていたことが大前提として語られます。

このあたりは西郷にとっての主君にあたる島津斉彬にも関連してくることですので、語り口として正しいとは言えます。

次に「お由羅騒動」にも言及し、斉彬派の“デッチ上げ”だと一刀両断に斬り捨てます。

 

西郷は「二面性」ではなく根本的に問題あり?

西郷を語る上で欠かせないのが、彼の持つ二面性です。

人間としてあたたかみがあるかと思っていたら、冷酷。そんな彼の言動に振り回されてしまう、という現象です。

 

西郷隆盛/wikipediaより引用

しかし、筆者はこれも豪快に斬って捨てます。

二面性は誤った西郷像を信じているからだ、と。

それでは筆者は西郷をどう解釈しているのか。

まず、若い頃の彼の評価を本書から引用するとこうなります。

・度量が偏狭(度量が狭い)

・簡単には人に屈しない(頑迷)

・一旦人を憎むとずっと憎み続ける

・好き嫌いが激しい

・執念深い

・好戦的で策略好き

要するに、人間性に問題がある、と……。

そうした人物が何故高く評価されるのかということになると、筆者は「郷中教育」において「二才頭=テゲ」というリーダー格をつとめていたことにあるのではないか、と分析します。

リーダー格としての雰囲気がメッキとしてあるだけで、中身は問題のある男だと。

西南戦争も、「テゲ」として祭り上げられたことが悲劇の遠因と指摘します。

西南戦争開戦のキッカケ
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そもそも二面性も何にもあったものではなく、騙されているだけなのだ、と筆者は斬り捨てるのです。

 


久光に対する態度は言語道断

筆者の態度は、当然と言えば当然ですが、西郷に極めて厳しいものです。

間部詮勝の殺害計画から、島津久光への態度まで、苦々しくこれまた斬って捨てます。

特に手厳しいのは久光への態度です。

島津久光/wikipediaより引用

西郷は、久光を手厳しく批判し「地ゴロ」と呼ぶだけでなく、久光の命令を無視して勝手な行動を取ってしまう。

こうした独断専行ともいえる西郷の行動を、筆者は手厳しくチェックし、言語道断だと非難。

その独断専行あってこその西郷の躍進だろうという考え方もありますが、確かにこのあたりはモヤモヤする点であるというのは、私も同意します。

西郷の久光への態度は、辛辣です。

そして筆者の矛先は鋭く、薩摩そのものにも向かいます。

 

「密貿易の国」がそもそも攘夷を目指したのか?

筆者は薩摩藩に対し、根源的な問いをつきつけます。

「そもそも密貿易で収益をあげていた国が、攘夷を目指すだろうか?」

ハッとさせられました。

薩摩はむしろ「もっと国を開いて通交しろ!」と幕府に要求するほうが自然かもしれない。

そして次の矢が投げかけられます。

「そもそも薩摩は倒幕を目指していたのか?」

確かにこれは引っかかっていた点です。

西郷や大久保ら倒幕派は藩内で孤立気味で、主流は雄藩による政権樹立が久光の方向性でした。

西郷隆盛と大久保利通/wikipediaより引用

攘夷もない。

倒幕もない。

そうなると薩摩は一体何を目指していたのか。

このあたりをバッサリと「全ては策略好きであった西郷の意図に引きずられた」という結論に持って行きます。

まぁ確かに、薩摩藩というのは、「トップの久光」と「臣下である西郷や大久保ら」の考え方・行動がバラバラだったのは、その通りであるのですけれども。

 

「赤報隊」問題 どうしたってテロは評価できない

本書のテーマからすれば、絶対に避けて通るはずがないのが「赤報隊」問題です。

赤報隊とは、幕末の関東(主に江戸)で、幕府を挑発するために放火や強盗などの破壊活動を行った部隊のことで、西郷が駒として使い、コトが終わったらアッサリと捨てたという経緯があります。

ゆえに西郷について語る時、誰しもこの問題では口が重たくなります。

むろん本書の筆者にそんなことはありません。

テロという手段を評価することはできない、余りに下劣な手段だから。他にもいくらでも手はあったはずだ、と言い切ります。

さらには西郷が良心の持ち主であるかのように思えたとしても、それは人並み程度なのだと言います。

長州の山県有朋井上馨の持つ“良心ゼロどころかむしろマイナス”と比較して、相対的に高く見えるのだと……。

さらに江戸城の「無血開城」もまったく評価しません。

弘化年間(1844年-1848年)改訂江戸図/wikipediaより引用

詳細は本書を読んでいただくとして、そんなものはただの神話だと斬って捨てます。

さらに筆者は、徳川慶喜恭順の時点でもはや大義がないにも関わらず、テロを阻止された私怨で会津に戦争を仕掛けた、と西郷を断罪するのでした。

 

確かにブレない西郷像だが

本書はある意味スッキリとして痛快かもしれません。

著者の持つ西郷像には微塵のブレもなく、とにかく陰険な小人物であると、終始一貫しているからです。

ただし、歴史書であまりに痛快というのは、むしろ警戒すべきでしょう。

本書は何もかも西郷のパーソナリティが原因であると言いすぎているのではないかと感じます。

歴史ファンとしては、本書と他の西郷伝記とあわせて読み、「こういう考え方もあるのだな」と参考にするのがよろしいかと。それであればなかなか面白いとは思います。

西郷ファンには絶対におすすめできませんが……。

ただし、筆者が指摘する「明治維新が無批判に称揚されてきた」という点については、一理あるのではないでしょうか。

ときに批判的に維新を見直す作業も意義がある――そんな風に私も感じています。

「誰かにオススメできる本なのか?」と言われたら即答はできかねますが、かといって「面白くないのか?」と問われたら、そこは「面白い」と思える、なかなか難しい本かもしれません。


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【参考】
原田伊織『大西郷という虚像』(→amazon

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小檜山青

東洋史専攻。歴史系のドラマ、映画は昔から好きで鑑賞本数が多い方と自認。最近は華流ドラマが気になっており、武侠ものが特に好き。 コーエーテクモゲース『信長の野望 大志』カレンダー、『三国志14』アートブック、2024年度版『中国時代劇で学ぶ中国の歴史』(キネマ旬報社)『覆流年』紹介記事執筆等。

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