始まりましたね、『ゲーム・オブ・スローンズ』(以下『GoT』)。
いよいよ今回のシーズン8で完結です。
新シーズン放送を機に、今回は【紋章】について考察してみたいと思います。
本作における紋章は、西洋と日本、どちらに近いのか?
西洋史を基にしているからには、当然西洋のものでしょ!
と思われるかもしれませんが、運用的には日本に近い部分があります。
一体どういうことか?
ご説明申し上げましょう。
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色違い紋章の意味
『GoT』ファン最大のトラウマ曲といえば?
そうでしょう。
『キャスタミアの雨』“The Rains Of Castamere”ですね。
衝撃的な場面で流れていたことで知られるこの曲。
戦いに挑むラニスター家の兵士が歌っていたこともあります。
同家にとっては「殲滅のテーマ」とも呼べる曲であり、キャスタミアを本拠地とするレイン家が、従属していたラニスター家に反乱を起こし、滅ぼされた悲劇を歌っています。
その歌詞には、こんな部分があります。
それでお前は何様なんだ、気高き殿が言った
私がこれほどまでに頭を下げねばならんとは貴様は何様だ?
たかが毛皮の色が違う猫同士じゃないか
片方は金色、もう一方は赤
獅子には爪がある、
私のものは長くて鋭いぞ、我が殿
貴公のものと同じくらいな
ラニスター家とレイン家の紋章が色違い。
それを反映した歌詞でした。
ラニスター家が赤地に黄金の獅子であるのに対して、レイン家は銀地に赤い獅子。
ウェスタロスの紋章は色違いであると別の家を示しています。
この色違い紋章が、ターガリエン家とブラックファイア家です。
デナーリス・ターガリエンで知られるあの家は、黒地に赤い三頭竜が紋章です。
これが反転した黒地に赤い三頭竜の紋章は、ブラックファイア家のもの。
三頭竜はターガリエン固有であり、他の家は使えません。
ならばブラックファイア家はどうして使えるのか?
といいますと、この家の開祖はターガリエンの庶子であるからです。
ブラックファイア家は何度も大規模な反乱を起こしました。
今後、ブラックファイア家の反乱がドラマ化されるかもしれません。
(以下、ネタバレ注意)
シーズン7のフィナーレで、ジョン・スノウの出生の秘密が暴かれ、注目を集めました。
もしもジョンが庶子であれば、ブラックファイア家のような扱いであり、王位継承権はありません。
しかし彼は、ターガリエンの正嫡子であるのです。
また、ターガリエン家の紋章が三頭竜であるということも、憶測を呼んでいます。
つまり、ターガリエンの血を引くもの三人が、物語クライマックスで大きな役割を果たすという予測です。
デナーリス・ターガリエン
ジョン・スノウ(本名エイゴン・ターガリエン)
ティリオン・ラニスター
二人目まではわかるけれども、ティリオンはどういうことでしょうか?
彼は原作では目の色が左右で異なります。
片目が黒いのですが、ターガリエン家の血を引く者の中には、黒く見えるほど濃い紫色の目を持つ者がいるからです。
狂王エイリス(デナーリスの父)は、タイウィンの妻である女官であったジョアンナに色目を使っていたこと。
タイウィンがティリオンを憎んでおり、死の間際に「お前は私の子ではない」とまで口走ったこと。
こうした傍証から、ティリオンはタイウィンの実子ではなく、狂王エイリストヒョアンナの間の子、つまりデナーリスの異母兄という説が出てくるわけです。
ちなみにこの場合ですと、ティリオンはあくまで庶子扱いですので王位継承権は発生しません。
こうした色違い紋章については、本作の根底にある薔薇戦争のことを思えば自然かもしれません。
この戦争は、
ランカスター=赤薔薇
ヨーク=白薔薇
を掲げて戦ったという構図です。
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そのため『GoT』でも色違い紋章に大きな意味があるのでしょう。
余談ですが、この色使いも西洋紋章とは異なります。
地の色とその上の模様が見分けにくいため、スターク家のような白地に銀の狼は、西洋紋章では禁止された配色。
このような色を除くと、実は『GoT』紋章の使い方は、ほぼ日本と一致しているのです。
もしもティリオンとジェイミーの紋章が違ったら?
色違いで別紋章になること以外、『GoT』の紋章はほぼ日本と同じ形式です。
ちょっと想像してみてください。
「ティリオンとジェイミーの紋章が違ったら?」
混乱するし、HBOで大好評販売中のグッズも、恐ろしいことになりますよね。
ところが、西洋紋章の世界はそうではありません。
個人単位で存在するのです。
家単位ではなく、あくまで個人単位ですから。
間違い探しかっ!
そう言いたくなりますが、現に兄弟で違うんだから仕方ない。
ウィリアム王子
ハリー王子
紋章が途中で変わるってそんなぁ〜!
人生の途中でだって、変化します。
「ロブ・スタークの紋章が途中で変わったら?」
そう言われたら何を言っているんだよ、ちょっとやめてよ、ってなるじゃないですか。
ちょっと想像すると怖いですよね。
「ロブ・スタークは、あんな無様な死に方をしたんだから、狼首で玉座に座る紋章にしてしまえばよい」
と、タイウィンあたりが言い出したりしたら……ゾゾッ!
こういう例はありませんが、名誉を記念して変えることはあったのでした。
「あなたはあの戦いで、素晴らしい戦績をあげましたね! ならば記念して、変えちゃいましょう!」
そういうことがありうるんですね。
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はじめはシンプルな十字でした。
が、「トラファルガーの海戦」で大勝利。
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それを記念してデコられたわけです。
こういう例もあれば、空気を読んでコソコソ変えることもありました。
「こんだけナポレオンが強いのに、フランス王位を要求すると紋章で示すのはヤバイよね……」
という、ジョージ三世の例です。セ、セコイ!
紋章はどんどんややこしくなる
この時点で、西洋紋章のややこしさにゲンナリウンザリしてくるとは思います。
まだ終わりませんよ。
さらに恐ろしいケースもあるんです。
『ダウントン・アビー』のメアリーは、伯爵家の長女です。グランサム伯爵家は、相続人がいないことで揉めておりました。
あのドラマでは、マシューという相続人が登場するわけですが、そうではない場合、メアリーは「女子相続人」になるのです。
女系相続が認められていると、そうなるわけですね。
この場合、紋章がさらにややこしくなります。
女相続人は婚礼に従って、夫婦の紋章を作ります。
これは何かと言いますと、
【妻の紋章】+【夫の紋章】=夫婦の紋章
というわけです。
どうなっているの?と言いますと、盾におさめるとき、紋章を分割して組み合わせるのです。
これを繰り返していると、どんどん紋章が割れていき、場合によっては百以上に分割されてしまうのです。
「そんなもん、盾に描けねえし!」
それはそうですよね。
そんなわけで、盾が使用されている時代は、父方の紋章だけを使っておりました。
ところが銃火器の発展で盾が下火になると、ヤバくなります。
どうせ描かないならどんどん増やしていいじゃない♪ということになってしまったんですね。
歯止めが利かないのです。