新年度のドタバタや花粉症が落ち着き、ようやくホッと一息つけるゴールデンウィークを迎えるときに、毎年オススメしたくなる一冊があります。
澤宮優氏の『戦国廃城紀行』(→amazon)――負けた者たちの城を巡るという一冊です。
文字通り、戦国時代の敗者にスポットを当てたアプローチとなりますが、「趣味が悪い、そっとしておいてやれよ」などと言うなかれ。
世の中は「無関心」こそが最大の非礼とも言いますし、そもそも敗者というのは勝者と競り合うからこそ戦いになるのであり、彼らが圧倒的に劣っていたとは限りません。
例えば関ヶ原の戦いなど、たった一日で勝敗がつくなどほとんどの者が開戦前には思っていなかったでしょう。
勝敗は兵家の常――。
ということで、まずは本書をチラッと紹介させていただきますので、少しばかりお付き合いください。
ゴールデンウィークは、この一冊を片手に大河スポットを実際に巡ってみたり、色んな楽しみ方が増えることも珍しくないはず!
「敗者の城を探る」とは
「敗者の城を探る」の敗者とは、具体的に誰のことか?
それは以下のようなラインナップです。
関ヶ原の西軍をはじめ、織田信長と敵対して滅亡したり、豊臣秀吉に滅ぼされたり、嵐のような戦国期に呑み込まれていった方たちです。
そんな敗者たちの城を歩く意味とは、何なのか?
勝者の城は、戦乱で廃城となっていても、なんだかんだで取り上げられる機会に恵まれます。
むしろ、主役といった趣すら漂わせていて、たとえば藩庁やシンボルとして機能していたなんて場合には、地元民のシンボルとして復興されたりするケースも珍しくありません。
大阪城(大坂城)がその好例ですね。

確かに、秀頼目線で見れば敗者の城となりますが、秀吉目線であれば圧倒的勝者のまま亡くなっており、大坂城は府民にとっても誇りある存在。
今なお観光シンボルとして存在感が圧倒的で、多くの人々から愛されています。テレビや雑誌で大きく映し出されることも多い。
一方で、敗者の城はそうではありません。
縁起が悪いもの、振り返られないもの、朽ちてゆくままに果てていくもの……忘れられる運命として、ひっそりと扱われるのが定番です。
勝者によって地中へと埋められ、積極的に破壊されたものも少なくありません(徳川幕府に埋められた豊臣秀吉バージョンの大坂城もそうなりますが割愛)。
要は、誰も近づかない。
現代においても、わざわざ足を運ぶ人がごく少数なため、案内や交通機関の整備されていないこともありました。
それゆえ敗者の城を訪れるなら、相応の苦労が必要になることが、本書ではよくわかります。
城とその主の物語
なんと言っても一城目がいいですね。
石田三成の佐和山城。
この城のある彦根市は、江戸時代以降、彦根城が圧倒的シンボルです。
徳川家康を支えた井伊直政以降の井伊家居城であり、佐和山城は完全に端っこへと追いやられました。
まさに光と影の城のうち、圧倒的影の城から本書は始まるのです。

石田三成にスポットが当てられても、ほとんど注目されることない佐和山城趾が何とも物悲しい
本書はたとえば、千田嘉博先生の城ガイドとはまた異なる美点があります。
城とその主人をテーマにした、物語を辿るような構成をしているのが読みやすい。
著者は城だけではなく、旅の中で多くの人とも出会っています。
城まで向かうタクシー運転手や、途中で出会った地元の人、そして研究者。彼らから、いろいろな話を耳にします。
ひっそりと地元で慕われてきたこと。
再評価が進んでいること。
後世伝わる悪名は、水増しされているのではないかということ。
筆者の澤宮氏が、お城エリアにある息遣いや空気を感じ取っていることが伝わってくるんですね。
城主奸雄伝説は間違いではなかったのか――そう確信するまでの過程には、力強い想像力と発想を感じます。
小説といった書籍だけではなく、インターネットでも情報が手に入る時代です。
ゲームで得た知識からその人物を知ることも当然あるわけです。
そういう印象を否定するわけではありませんが、その土地に立ったからこそ、わかるものがある。
本書は物語としても楽しめる一冊なのです。
城は変化する、そして人の意識も
本書は初版から十年を経て、文庫化されました。
その間の変化が、追記されています。
自治体による調査が始まったこと。
訪問者が増えて、案内板が増えたこと。
市民講座があること。
城主がゆるキャラになったこと。
例えば小西行長をモデルとした
◆うとん行長しゃん(→link)
なんかもその一人。
戦国ファンからしてみれば「どうせひこにゃんあたりの二番煎じだろ……」と受け流しそうになる場面です。
ところが本書を読んだあとですと、これがだいぶ変わってくる。印象が違ってきます。
小西行長がキリシタンであることから、どれだけ悲運の目にあったか。
銅像すら破壊されそうになったかを考えると、感慨深いものがあるのです。
同時に、小西行長の宇土城の章からは【人の意識はそうそう変わるものではない】ということを痛感させられました。

宇土城石垣
キリスト教の禁止から時代がくだっても、銅像建立の際には脅迫事件があったほど。ぞっとするような思いすらあります。
敗者というだけではなく、宗教ゆえに憎まれてきた小西行長。
その憎悪のなまなましさには、本当に驚かされます。
幻のようであったそんな行長が、ゆるキャラになって愛嬌を振りまくーーこれはなかなかすごいことではないかと感じてしまうのです。
戦国大河のお供にも
本書は『どうする家康』の予習にもぴったり、かつ『麒麟がくる』や『真田丸』の復習にも最適。
『真田丸』は最新の学説を積極的に取り入れており、中でも秀次の死は印象深い描写でした。

豊臣秀次/wikipediaより引用
あの描写をふまえてから本書を読むと、秀次像がより身近に迫ってきます。ドラマでは、人は良いのだけれども武将としての器量はそこまででもない、そんな好青年像が窺えたものです。
彼の残した城からも、その像と近い青年が浮かび上がってくることが、本書からはわかるのです。
最新の学説や研究成果、発掘からわかってきた史実をふまえつつ、フィクションにも寄り添うような本書は、まさしく戦国大河のお供に最適な一冊。
たしかに文庫だけあって、写真は全て白黒、かつ小さいし、実用的なお城ガイドならば、他にオススメできるものはあります。
※スマホですぐ読めるKindle版がオススメ(→link)
しかし本書は、上記のようなカラー図版入りかつ実践的なものとはまた違った魅力があるのです。
敗者の城をたどることで、見えてくる歴史の陰影。
そんな陰影を引き立てる、味わいのある名文と筆者の観察眼。
城に到達するまでの、一筋縄ではいかない道のり。
変わりゆく人々の歴史意識や、城をめぐる状況。
2026年大河ドラマ『豊臣兄弟』の前に、一冊、ゆるりと味わってみてはいかがでしょうか。
あわせて読みたい関連記事
-

明智光秀の生涯|なぜ織田家の出世頭は本能寺へ向かったのか?
続きを見る
-

石田三成の生涯|秀吉と豊臣政権を支えた五奉行の頭脳 その再評価とは?
続きを見る
-

長束正家の生涯|家康も警戒した豊臣五奉行の一人 なぜ最期は切腹へ?
続きを見る
-

浅井長政の生涯|信長を裏切り滅ぼされるまで葛藤し続けた近江の戦国大名
続きを見る
-

信長を2度も裏切った松永久秀は梟雄というより智将である 爆死もしていない
続きを見る
著者の澤宮優氏(@twitter)からのツイートもいただきました^^
すばらしい書評をいただき、とても感謝しております。https://t.co/qhLR8QatLe
— 澤宮優 (@hat71520) July 11, 2019
【参考】
戦国廃城紀行: 敗者の城を探る (河出文庫)
→Amazon Kindle版(→link)
→Amazon 文庫版(→link)





