北条義時が、あの小さな観音像を手にしています。
源頼朝が比企尼から受け取り、髷の中に入れていたあの像で、北条政子の手から義時に託されていました。
義時はそれを息子の北条泰時に託すのです。
頼朝の子と孫を殺めたからには、もはや自分は持つに相応しくないとのこと。
そもそもの贈り主である比企尼ならびに比企一族を滅亡させた北条の者ですから、確かにその通りですね。
ボロボロになった比企尼が善哉の前に現れ「北条を滅ぼせ」と託したことを考えれば、二重に納得できます。
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ところが泰時は断固拒否します。
「いただくわけには参りません!」
側に控えていた鶴丸が、慌てて「もらっておけ、ここまでおっしゃるんだから」とフォローして……。
自邸に戻った泰時が、妻の初に語ります。
私には父の本心がわかる。これを持っていると心が痛む。自分のしたことが責められているようでたまらない。だから私に押し付ける!
そんなふうに思わなくてもよいと困惑する初。
それでも泰時は止まりません。父が持っているべきだと主張し、さらには「自分のしたことに向き合って苦しむべきだ、それだけのことをあの人はした!」と突き放します。
一つ呼吸を置いて、妻の言葉を求める泰時。
初は何を言えば……と戸惑っています。今の話を聞いてどう思った?と促されるとこうだ。
「うーん、義父上のこと嫌いなんだなぁ、って」
「嫌いというのとは少し違う……」
困惑する泰時は、父の義時をどうにかして諌めたいんですかね。
すると初は、話をすり替えるように「義父上は嫁を取るつもりはないのか?」と聞いてきます。子供がまだ小さいのにかわいそう。
まぁ、こんな厳しい長男しか相談できないならば、妻でもいた方がよいでしょう。
泰時はめんどくさい性格です。『鬼滅の刃』の炭治郎と同系統ですね。
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『麒麟がくる』の光秀もそうでした。彼も放送時に空気が読めないだの、態度が悪いだの、言われていたものです。
現代で言えば、接待カラオケができないタイプと申しましょうか。坂口健太郎さんの端正な個性にもピッタリ。
自分のしたことに向き合って苦しむべきだ!と、ここまで言うとは……。
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便所に落ちたのはお前かーい
そんな泰時とは正反対でいたいと宣言していた北条時房は、兄の子である甥を連れて狩りをしてきました。
義時はそんな弟に「いつも申し訳ない」と返しています。
「子供が大好きなので!」
ニコニコする時房ですが、義時がなんだか妙な顔に。なんだか臭うようですが、時房に聞けば、追いかけっこをしていて路地の便所に落ちたとか。
そう言われ、義時は早く洗って来いと息子たちを促します。そして怪我がなかったか?と時房に聞くと、こうきた。
「大丈夫、落ちたのは私ですから!」
おい、お前が落ちたのかーい!
それでもしみじみと、子供だちが比奈が帰ってくると信じていると憐れんでいます。そう考えると何だか切なくなってきたと言いつつ、縁側で寝そべる時房。
「そこでくつろぐな!」
「はい?」
義時が苛立って叫びます。
やはり時房……素っ頓狂で面白い男だなぁ。
賢いのかそうでないのか、鋭いのか鈍感なのか、芯が掴めないというか、いちいち若干ズレている。
癒し系であり、ネタバレしますと、彼は物語の最後まで滅亡or失脚をしません。
時房ファンの皆さまご安心ください。
彼は推せます。殺伐とした世界の中、時房に癒しを見出す限り裏切られることはありません。
瀬戸康史さんのほんわかとした個性にピッタリですな。
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実朝のびっしり詰まったスケジュール
時房の癒やしの後は、いつものオープニング。
長澤まさみさんの言葉で一気に緊迫感が戻ってきます。
三代目鎌倉殿・源実朝――。
実朝の隣には、実衣がいて頭を下げています。乳母はそれほどまでに実権を握っているのですね。
実朝もいよいよ御家人同士の諍いを聞いて、どちらに理があるか?を決めることとなりました。
「自分にできるだろうか……」と不安げな実朝に、三善康信は仕切りは我らが行うと言います。
時政が「座っているだけでいい」と露骨に言うと、それをフォローするかのように義時が「しばらく見定め、学んでいただきたい」と告げます。
そして明かされる、実朝の稽古スケジュール。
いやはや凄まじいメンツに囲まれています。さすがに多すぎないか?と実衣が心配しますが、立派な鎌倉殿になってもらうには、これくらいはやってもらうと大江広元も言い切る。
時政は相変わらずニヤニヤしながら、ゆっくりでいい、鎌倉の面倒はこのじいが見るってよ。
【十三人の合議制】は結果的に大失敗でしたが、新体制も良いとは到底思えません。
よりによって三浦義村に処世術なんて指導させてええのか?
まぁ大事なのは、時政が「孫を傀儡にして好き放題する気である」ということでしょう。
ともかく稽古が始まりました。
義村の処世術とは一体?
まずは薙刀から。
いきなり八田知家の指導が厳しすぎる。
薙刀のような長柄武器は実践的で、中国ではむしろこちらが主流になりました。
関羽の青龍偃月刀をご存知でしょうか?『三国志演義』が成立した明代は、あの手の武器が流行していたのです。
次は弓。
和田義盛の指導に何を期待しているのか?って話ですが……。
ガッと引いてバッ!
本人がどれだけ上手でも、指導者として優れているかどうかは別の話。
よく巨人の長島監督が「スーッと来た球をガーンと打つ」という天才ならではの打撃理論を展開することが語られますが、ミスターは意外と理論的だったという話もあります(→link)。
義盛の指導は……望み薄ですね。
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政治学の指導は、やはり大江広元の他にいないでしょう。
「政(まつりごと)の大意とは何か? それは天下の心を以て心となし、百姓の心を以て心とすれば……無為にして治る」
しかし、あんな激しい武芸稽古の後。まるでプールの後の授業状態です。まじめな実朝も居眠りをしてしまいます。扇をパンと打ちつけ、実朝を起こす広元。
漢籍教養の豊かな人ですので、ここで『論語』「衛霊公」でも。
子曰く、無為にして治まる者は、其れ舜か。夫れ何をか為すや。己を恭しくし、正しく南面するのみ、と。
【意訳】孔子は言った。何もせずともうまく天下を治めたのは舜か。何をなされたのだろうか? 謙虚な態度で、君主として正々堂々振る舞っていたのだ。
北条泰時は「堯舜の再来」と評されていましたが、親の義時に向かって正論をゴリ押しするところも何らかのヒントかもしれませんね。
そして最も問題のありそうな、三浦義村の処世術です。
今日の講義は「後腐れのない女子との別れ方」だってよ。
・相手に自分を選んだことを後悔させたらダメだぞ!
・楽しかった思い出しか残さないんだ、これが一番!
・だから俺は女子の前では力の限りを尽くすぜ!
ホンマかいな。
てか、どうでもいい。この指導は必要なのでしょうか? なんでこんなことを義村は真顔で話しているんだ。
和歌を書き写していた政子
そんな我が子の様子を三善康信から聞いている母の北条政子。
「和歌を詠んでいるか?」と尋ねると、今は源仲章が京都に戻っているからお休みとのことです。
政子としては、三善康信に和歌の指導をお願いしたい。
しかし、無理強いもできず、代わりに和紙の束を持ってきました。
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とても綺麗な和紙ですね。当時は貴重な和紙をこれほど大量に入手することは、彼女が若い頃にはできなかったのでしょう。紙の質が格段に上がっています。
鎌倉には、頼朝が京都から贈られた和歌集がありましたが、蔵の中にあり、おいそれと持ち出すことはできないと大江広元に言われたとか。
そこで政子は書き写したのです。
まだ印刷が普及していない時代、書物は写す――これが基本。
彼女は努力を重ねました。我が子が好きそうな歌を選んで、わざわざ写しました。
「これを実朝の目につくところにさりげなく置いて欲しい」
そう告げると、康信も困惑しながら「尼御台が直に渡してはどうか?」と尋ねます。どうやら政子は、実朝を追い詰めるようなことはしたくないようです。さりげなく置いて置いて欲しいと。
「あ……さりげなく」
「よろしく頼みましたよ」
母なりの気遣いですね。
和歌を詠むことで気が晴れるとわかっている。書を読んで理解して、字を書くことを彼女自身が学んだからこそできる。亀の前に「学べ」と言われていた努力が実りました。
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清々しいまでの贈収賄
孫の実朝が三代目の鎌倉殿となり、すっかり権力を手中に収めた北条時政。
そのもとには、様々な贈り物が届けられていました。
甲斐国から届いた鷹の羽は矢にピッタリ。
利根川で今日取れたばかりの鮎はりくの大好物だ!
時政はすっかりデレデレして喜色満面とはこのことです。
大江広元だったら眉をしかめそうですがね。
当時、漢籍教養のある人の間では「愛する女の好物を届けられて喜ぶのって、フラグだな……」となりかねない。
唐玄宗は、楊貴妃が大好きな茘枝(ライチ)をわざわざお取り寄せしていました。それが楊貴妃の死後に届いて、号泣したそうです。
好きなものを贈るのが悪いのではなく、権力の濫用という問題ですね。
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しかし、時政は……。
「んなこたぁ関係ねぇ!」
今度の裁きは俺がうまくやるとノリノリ。相手が泣き寝入りするようなことはしねえ、安心して待ってろってよ。
なんなんでしょう、この清々しいまでの贈収賄は。ダメだという理念が1ミリもねぇ!
殺人や暴力への罪悪感がない坂東武者です。
当然ながら、贈収賄ぐらいでは全く良心も痛まない、絶望的なまでに道義心がない連中が楽しそうに生きています。
りくにしたって、ウキウキワクワクしながら「しい様はこのところ大忙し❤︎ このところよいことばかり❤︎」と浮かれていますからね。
毎日のように御家人と贈収賄三昧です。
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娘婿の平賀朝雅にしても「舅殿を頼りにしている」とホクホク顔。
りくと時政の愛息子である北条政範が勧めるままに、何ら遠慮もなく土産を受け取っています。
そんな汚れた権勢をより確固たるものとしたいのでしょう。
りくが、実朝の結婚相手について平賀朝雅に尋ねると、どうやら坊門信清の娘である千世との縁談が進んでいるとか。卿三位という方が骨を折ってくれたそうです。
坊門信清の妹が後鳥羽院の母(七条院)にあたりますので、うまくいけば北条は後鳥羽院と縁者になります。
千世は後鳥羽院のいとこ。
北条が絡んでこの結婚が上手くいけば、さらに地位は上がり、実際、りくと時政の息子・政範は、この若さで左馬権介(さまのごんのすけ)に出世しているとか。
朝雅が去ろうとすると、りくは婿殿も鎌倉と京都を結ぶ大事な立場だから、ますます頑張ってと浮かれています。
にしても、この場面はどうでしょうか。
政範は決して悪い少年ではありません。親のすることに疑念はない。
しかしこれが泰時なら「間違っている! 下劣です!」と訴えているのでは?
彼は自然と、贈収賄が悪であり、裁判をそんなことで変えるなんてありえないという結論に達するでしょう。
無為にして治まる者――それはやはり、泰時なのでは?
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