ドラマ大奥レビュー

ドラマ『大奥』公式サイトより引用

ドラマ10大奥感想あらすじ

ドラマ大奥感想レビュー第10回 主筋を弑(しい)する久通 一炊の夢

徳川吉宗が「次の将軍は家重にする」と告げています。

そう聞いた瞬間、ハッと顔をあげる宗武。

利発な妹を松風理咲さんが見事に演じています。これほど賢い少女が将軍になれない理不尽さが一瞬にして募ってきました。

将軍職という重責が姉上に務まるのか。そう疑問を呈すると、ならばこそ支えて欲しいと吉宗が返します。

これが儒教社会の理不尽ともいえる。江戸時代ともなれば、二男以下は半人前扱い。そんな悲哀もあるのですね。

『鬼滅の刃』では炭治郎が「俺は長男だから!」と言うことが、とぼけているように思われることがあります。

あれは大正時代らしい価値観でしょう。長男とそれ以外は、責任感も、命の価値も違う時代があったのです。

吉宗が家重と抱き合う場面は感動的でした。

しかし、同時にそれは宗武の悔しさとも表裏一体である。その見せ方が見事です。

 


『没日録』には何が書かれているのか?

苦い場面が終わると今度は杉下が、水野から預かったという“春画”を取り出し、一人で見るようにと吉宗に告げます。

「春画!」

そう叫ぶ吉宗。ニヤニヤしたりムッとせず、純粋に「意味がわからん!」となるところが、吉宗らしい反応ですね。

吉宗って、性欲だけが純粋にあって、ロマンスとは無縁ですもんね。仕事で頭がいっぱいの時にエッチな話をされるとむしろ怒るタイプだ。

むろん、これは策でして、中身は『没日録』の紛失分でした。大岡忠相が盗賊を捕縛した際、永瀬の墓荒らしで出てきたものを押収したとか。

それにしても、大岡忠相をMEGUMIさんが演じて本当によかった。

『鎌倉殿の13人』の小池栄子さんもそうですが、彼女たちは若い頃、セクシーさによってデビューしました。

しかしお二人とも、聡明さやキリッとした部分が感じられて、ハスキーボイスが魅力的。

そこを存分に発揮する役で見たいと思っていた願いが叶いました。

切れ者の彼女は『没日録』に目を通すと、これは一人では判断できないと察し、杉下の知恵を借りながら、吉宗自らが目を通すことができるようにしたわけです。

さて、その内容は?

あの剛毅で即断即決できる吉宗が、頁をめくりながら、目を泳がせます。そして月を見るしかないのです。

天に浮かぶ月に問いかけるしかできないほどの内容が、そこには書かれていたのでした。

 


大御所になっても、ゆったりできない吉宗

家重に将軍職を譲った吉宗は、孫の徳川家治と杉下が将棋を楽しむ様子を見守っています。

家治はまだ幼いのに、賢さが伝わってきますね。彼女は、吉宗をばば様、杉下をじじ様と呼んでいます。

忙しい政務から解き放たれたゆったりとした時間。

しかし、それも長くは続きません。幕僚たちが西の丸まで出向いてきて、吉宗に政策を聞いてくるのです。

これも難しい構図といえます。

吉宗はまた米の話をしていましたが、果たして正しいのかどうか?

幕僚は正しい判断が欲しいのか、それとも大御所の権威が欲しいのか?

さてどちらでしょう。

吉宗も異変に気付きます。どうにも幕僚が己を頼りすぎている。家重はどうしたのかと久通に尋ねると、答えがわかったようです。

吉宗は家重を叱り飛ばします。なんでも政務を放棄していて、しかも側室のお幸の方を罪人扱いしているとか。

お幸は次の将軍となる家治の母です。将来、君主となる人物の父を罪人扱いするとなると、民衆にも示しがつきません。

叱り飛ばす母に、家重は口ごもるしかありません。お幸は、家重が政務放棄することを咎めたとかで、どう見ても悪いのは彼女なのです。

しかし、家重にはそうする理由がありました。言葉が通じず、幕僚とうまく交流できないのです。

言葉を理解する大岡忠光と才気煥発な田沼意次がサポートしているものの、これもなかなか難しい。

大岡家は三河以来の旗本ですからまだよいですが、田沼家は紀州藩足軽の家で、名門出のエリートではありません。まだ若いし、血筋もイマイチ、己の才覚だけが頼りの彼女はなかなか厳しい。

一方で、家重にはなまじ才覚がある。米余り対策として酒造を提案したところ、理解されない場面が描かれます。

家重の頭の中にある遠大な計画。それをうまく言葉にできない苦しさ。そのせいで気鬱になってしまった。

吉宗がそのことを聞かされていた杉下ですが、そのとき彼は胸を押さえながら倒れてしまいます。

 


思いあう老夫婦と、その来客

病に伏せてしまった杉下。医者の見立てでは、兆しがあったのに薬すら飲んでいなかったのではないかとのこと。

このあたりがあの春日局に似ています。彼女も悲願のためならば、薬を絶つ女性でした。

杉下に報いてやりたい――そう語る吉宗。かくして水野進吉がよい薬を持参して、大奥にあがってきました。

以前も当レビューで触れましたが、中島裕翔さんは江戸っ子らしいシブい色合いが本当に似合いますね。これは毎回驚いてしまう。

幕末の写真には、たまに凄まじいイケメンの江戸っ子が映っておりますが、それを連想させるほど衣装が決まっています。

薬を用意してもらった杉下は、自分ごときに高級薬剤など勿体無いと戸惑っています。

そんなことだからこうなったと吉宗が叱り飛ばし、煎じた薬を飲ませると……水野がまるで夫婦だと笑う。驚く杉下に、吉宗は真顔で言います。

「夫婦のようだ、ではない。夫婦じゃ」

吉宗の姫たちの父はみな早くに亡くなっており、父親代わりは杉下だった。姫の父ならば私にとっては夫。そうキッパリ言い切る吉宗に、水野も納得します。

びっくりした杉下が思わず「恐ろしい」と口走り、それに吉宗が突っ込むと「畏れ多い」だと杉下は誤魔化します。

もう、こりゃ夫婦ですな。会話でそうわかる。

と、ここで久通が、もう一人客人がいると伝えます。水野が帰ろうとすると、吉宗は引き止めます。

足元だけが映るその人物。所作が美しい。そして畏まって挨拶をしたのは、藤波でした。

彼は、水野を見てハッとする。自分が死を命じたあの水野……生きているとわかると、吉宗の言葉も待たずに抱きしめました。

彼なりに愚かしく無駄な殺生をしたと悔いて生きていました。それが生きていた! と感動しているのです。

藤波は本来善良な性格だったんですね。それが大奥の権力闘争で濁ってしまい、今はもう毒が抜けていました。

そしてここで、同じく無駄な殺生に一生を苦しめられていた、玉栄のことを思い出します。

過ちは繰り返されず、救われたのです。

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