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【青天を衝け第28回感想あらすじレビュー】
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泣いて馬謖を斬れない慶喜
本作は漢籍理解が甘いので、勝手ながら補わせていただきます。
本作の「好感度重視でおかしくなった描写」の代表例が、天狗党関連です。
天狗党は長州藩過激派と連携していたため、慶喜は残酷極まりない処断をしました。
あれは本人の回想からすれば「泣いて馬謖を斬る」で済む話。それで十分なのに、本作は改悪しました。
「慶喜は処断するつもりはなかった! 田沼意尊が勝手にやっちゃった!」
結局のところ「泣いて馬謖を斬る」と処理できないからこそ、現代人にあわせて妙な改変をしたんじゃないでしょうか。
韜晦(とうかい)昼行灯を偽装する
『忠臣蔵』の大石内蔵助は、主家が断絶したにもかかわらず、遊郭に入り浸り酒を飲みまくりました。
と、それは偽装で、密かに討ち入りを狙っていたのです。
諸葛孔明のライバル・司馬仲達。
彼はライバルである曹爽の目を欺くため、曹爽派が監視する前でわざとらしく粥をこぼし、すっとぼけたことを言い、ボケたふりをしました。
ボケ老人のフリして魏を滅ぼした司馬懿が恐ろしい~諸葛亮のライバルは演技派
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徳川慶喜が駿府で引きこもり、趣味や子作りライフをエンジョイしたことは「貴人情けを知らず」と評され、幕臣や周囲から散々呆れられました。
これが反乱勢力に担がれないための偽装だとすれば、むしろ哀れではありませんか?
リベンジを狙うことなくひっそりと生きていくために遊び呆け、ダメ人間を演じる。それを栄一だけが見抜いた……こういう描写ではいけませんか?
本作は描写の一つ一つに、東洋の古典への造詣が欠けているとわかる要素があって残念です。
くどいようですが『麒麟がくる』は鉄壁だっただけに、一体どうしたことなのかと思います。
“弍臣”が『論語』を語る倒錯
先ほど韓流や華流時代劇について書きました。こうした儒教文化圏の国ではありえないような倒錯的なことを『青天を衝け』では展開しております。
いくら渋沢栄一が『論語』マスターだのなんだの言われたところで、この一言で反論できます。
「言うても渋沢栄一て、弍臣やんか」
なぜ渋沢栄一は新政府に出仕したのか?
それは「弐臣=二君に仕えること」を恥としなかったから。
弍臣は儒教道徳では最低の存在とされます。ゆえに歯を食いしばって出仕を拒んだ幕臣たちもいた。
福沢諭吉は「儒教なんて役立たず」と切り捨てていたものの、弐臣とみなした勝海舟と榎本武揚を『痩せ我慢の説』でケチョンケチョンに罵倒しました。
福沢と親しい栗本鋤雲も、こうした弐臣を怒鳴りつけた逸話がある。
渋沢栄一の場合、こういう手強い幕臣たちが亡くなるなり、加齢と共に大人しくなったあたりで「幕臣です」とアピールをし始めた。
本当に彼は空気を読むセンスは抜群。
当時は金と権力を得ていますから、マスコミを掌握して自分と慶喜の言い訳をバンバン流し始めた。
明治末に『論語』ブームが到来すると便乗し、自分の息のかかった学者をゴーストライターのようにして『論語』関連書籍を出版。
自分こそ儒教道徳の体現者として振る舞いました。
その影響がいまだにあるからこそ、素直に信じる人がいるのですね。
本当は怖い渋沢栄一 テロに傾倒し 友を見捨て 労働者に厳しく 論語解釈も怪しい
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でも、これが通じるのはあくまで日本国内での話。同じ儒教国家の中国や韓国からすれば、
「弐臣が儒教マスター状態ってウケる〜〜〜〜!」
と爆笑されかねない無茶苦茶な話。ダイエットを説きながらピザを食べている。そんなマヌケさがあります。
例えば福沢諭吉のように儒教を否定すれば格好もついたでしょう。この辺、どうにも悲しい話です。
あるいは「弍臣」なんて考え、古臭いと思いますか?
函館の五稜郭タワーには土方歳三の銅像が颯爽と立っています。榎本武揚ではありません。
箱館戦争を率いた総大将は榎本。しかし、箱館戦争を代表し、それこそ星が落ちるように散ったと人々の胸を熱くするのは、土方歳三です。
だからこそ『青天を衝け』においても、あれほど目立っていた。
土方歳三35年の生涯まとめ~幕末を生き急いだ多摩のバラガキが五稜郭に散る
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黒田清隆に才能を惜しまれ「弍臣」になった榎本武揚。
函館に星となって散った土方歳三。
後者の方が、現在でも胸に響くのはどうしたことでしょう?
晋王朝の祖となった司馬仲達と、五丈原に散った諸葛孔明の対比にせよ。
不完全、挫折したがゆえに強烈な輝きをもつ生き方もあります。
近年の大河ドラマでそれを体現したのは、『真田丸』の真田幸村、『おんな城主 直虎』の小野政次、『麒麟がくる』の明智光秀と織田信長あたりでしょう。
そういう
生き延びるだけではない美しさに胸を打たれる
からこそ、大河はあるのだと思っておりましたが違うのでしょうか?
『鬼滅の刃』の方がかつての大河精神を宿しているのではないか?
暁に散った煉獄杏寿郎を思い出しつつ、首を捻ってしまいます。
ロス戦術はもう使えない?
先週の客寄せトシさんは立派な最期を遂げました。
◆【青天を衝け】“土方歳三”町田啓太に称賛の声「土方さんロス」「最高だった」(→link)
劇中における土方の死は、史実を無視しており、ただ「イケメンが死んでしまった!」以外何も思うところがない。
昔読んだ作品での土方の死は、それこそ死の瞬間を切り取ったようで、数日間ずっと胸に残っていたものです。
そんな苦い感情を噛み締めたあと、明るく「最高!」なんて思えないし、落ち込んで食欲も失せました。
ですので「話題作りになったらイイ♪ みんなでワイワイSNSで盛り上がろう」という姿勢にはどうしても賛同できません。
しかし本作はもう「ロス戦術」に過大な期待はできません。
盛り上がるとすれば五代様ロスでしょうか。『あさが来た』でも盛り上げましたもんね。
五代様の場合、汚職政治のはてに失脚し、病死なのですが……。
いやいや、その前に、怒涛のお千代ロスが控えておりますね。
しかしこの悲しい別れは、間髪おかずに後妻の間に子ができていて、色々と複雑な感情にもなるんですけどね。
再婚をどうロンダリングするのか。匠の技に期待が高まります。
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
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関連記事は以下にございます
◆青天を衝け感想あらすじレビュー
◆青天を衝けキャスト
◆青天を衝け全視聴率
文:武者震之助(note)
絵:小久ヒロ
【参考】
青天を衝け/公式サイト