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【阿野全成の占い】
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天人相関:万物に気はめぐる
政子が二人目の子を懐妊したとき、どうすればよい子が生まれるか、知恵を出し合う場面がありました。
義時が戦いで敗れて捕らえている者の恩赦を提案し、政子もよい考えだと同意します。
徳を積むことで、お腹の子が良運に恵まれるという考え方からですね。
頼朝が不貞を働いていることを全成と実衣が話している時、全成は親の不徳が子に祟るということも語っています。
こうした言動には、人の運命は生まれた日や地形といった要素だけでは決まらないという発想が背景にあります。
中国には、周の時代にはこの世界を構成するものとして【気】の概念が生まれました。
気には陰陽や五行があり、その組み合わせによって万物が生成されるという思考が根付いたのです。
天にも人にも通じている気――徳や義を行えば、それが天に通じて返ってくる。
不徳や不義を行えば、そのせいでよくないことが起こり跳ね返ってくる。
そんな発想が根付いてゆきます。
人が為す恩赦によって、慈悲が天に通じ、頼朝と政子の子にまで到達する。
頼朝が不貞を為すことで、天が乱れ、頼朝と政子の子にまで及ぶ。
そんな思考が根付いていることがわかります。
坂東の地にも、学術的な体系は未熟ながらも、こうした考えが広まっていたのでしょう。
こうした考えは【天譴論】(てんけんろん)という考えにもあります。
天子が不徳を為すと、天に通じて災害が起こるという発想です。
中国の皇帝は災難が起こると、まず己の不徳を罰するために【罪己詔】(ざいきのしょう・己を罪する詔)を出すことがしばしばありました。
天子は天に最も近いため、その行いが通じやすいと考えられたのです。
しかし、これを日本式天譴論としてまちがった使い方をした人物がいます。
渋沢栄一です。
『青天の衝け』では爽やかな経済人として描かれておりましたが、渋沢は関東大震災のあと、民衆の堕落が震災をもたらしたという捻じ曲げられた天譴論を展開したのです。
本来の天譴論は民衆を責めるものではありません。
本当は怖い渋沢栄一 テロに傾倒し 友を見捨て 労働者に厳しく 論語解釈も怪しい
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陰陽五行説:気は種類がある
全成から赤を身につけるとよいと言われた実衣は、髪留めから始まり、衣服に赤を取り入れます。
占いでラッキーカラーは定番ですので、見ている者たちも「そういうものか……」と思ったことでしょう。
しかし色と運勢を結びつけ、しかも個人単位で特定するとはどういうことか?
推察できる要素はあります。
【陰陽五行説】です。
『麒麟がくる』では、衣装のデザインに生かされていました。
『麒麟がくる』のド派手衣装! 込められた意図は「五行相剋」で見えてくる?
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全成は実衣の生年月日といった要素から、赤を司どる火徳を察知したのかもしれません。
因果応報の世界観
風水にせよ、天人相関にせよ、ただの迷信で終わらず、現在は見直されつつあります。
風水とは、自然と人間の調和を示すエコロジー、SDGsではないか?と再認識されつつあります。
人が自然を支配する西洋に対し、調和をめざす東洋の価値観が大事という考え方ですね。
誰かに良いことをすれば、めぐりめぐってよい世の中になる。こうした天人相関の考えこそが社会をよりよくするものではないか。そのために人は宗教を生み出していったのではないでしょうか。
【功過格】(こうかかく)という考え方が道教の教えとして中国で広まり、日本にも導入されました。
善悪をポイント制で計測し、貯めたらよいことが起こると期待するものです。
スタンプカードで景品をもらう発想を、日頃の行いでする。
部屋にこの表を貼って一日の終わりに確認したりしていたとか。
現代中国では、スマートフォンといった電子機器を用いた功過格ポイント計算もあるといいます。
この考え方を意識しておくと、『鎌倉殿の13人』は理解しやすくなるかもしれません。
それというのも、この作品では善悪ポイント制を導入しているのではないかと思える要素があるからです。
あまりに惨い悪事を手がけたけれども、即座に罰が下されるわけではない。
それでいて不吉な、破滅の予感が漂っている……そんな人物が多いのです。
悪いことだと認識して策を弄さねば破滅を免れたかもしれないのに! 見る側をゾッとさせる言動がチラホラと出てくる。
これは全成にもあてはまります。
我が子の幸福を願う頼朝に、全成はおそろしい提案をします。
頼朝と八重の間に生まれた子・仙鶴丸を成仏させるようにと言うのです。
そのためには千鶴丸を殺すよう命じた伊東祐親を死なせねばならない。そして頼朝は、祐親暗殺を命じました。
仏僧としては、際まえて悪質な提案でしょう。
どんな結果を望むにせよ、殺生の進言は邪道であるはずです。
鎌倉幕府の御家人・岡崎義実は、我が子・佐奈田義忠を討ち取った長尾定景を預かっていました。
この定景の読経する姿に感動し、息子の仇を許すことにした。
義実は仏教を信じ、なんと頼朝に定景赦免を願い出ているのです。
全成がこうした徳を奉じるのであれば、むしろ祐親を許すことを提案すべきでした。
全成はもう、仏僧にあるまじき悪徳を積んでしまった……彼の運命はどうなるのでしょう。
『鎌倉殿の13人』の世界よりも、進歩した世界に私たちは生きています。
それでも悪人には「天罰」がくだればいいと口走ることもある。
天命、天寿といった言葉も使われています。
私たちも、こうした思想から解き放たれたわけではありません。
そしてそれは必ずしも悪いことではないのでしょう。
私たちは彼らから遠いようで、近い世界に生きているのかもしれません。
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考文献】
湯浅邦弘『よくわかる中国思想』(→amazon)
他