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【鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー第42回「夢のゆくえ」】
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「当事者による表象」としてMVP:陳和卿
「当事者による表象」とは、マイノリティ役を当事者が演じること。
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ハリウッドはさておき、日本ではどうか、NHKはどうなのか?というと進歩しています。
NHKでは『ファーストデイ』という、トランスジェンダー女性が主役のドラマが放映されました。
この日本語吹き替えがジェンダーレスモデルの井手上漠さんで、当事者をキャスティング。
そして大河ドラマでも実現しました。
陳和卿を演じたテイ龍進さんは台湾ルーツの方であり、南宋人を演じるのであればルーツが一致する俳優が演じる――その条件に合致します。
1971年大河ドラマ『春の坂道』では、明人の陳元贇を、香港台湾映画界で活躍する倉田保昭さんが演じました。
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活躍する場が海外だからって、ルーツは関係ない。
そう突っ込みたくなりますが、当時の感覚ではそうなったんですね。
今ならば「台湾で活躍していたし、陳和卿はディーン・フジオカさんで!」となるようなもの。
金城武さんならルーツも一致しますが、ともかくNHKは大きく進歩したと思えます。
『春の坂道』はまだ半世紀前ですので良しとしまして、最近では2018年朝の連続テレビ小説『まんぷく』を悪い例として挙げさせていただきます。
あの作品は、ヒロイン夫のモデルである安藤百福が台湾人だったのを、ドラマでは日本人ということに変えていました。
一体なぜそんな設定にしたのか?
公式サイトでは、日本の視聴者が楽しめるためとされていました。
しかしそれでは華僑ルーツだと日本人が楽しめないということにもなり、単なる人種差別となってしまいます。
NHKはもう二度とそういうことはしないと信じていますが。
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総評
11月に入り、今年もいよいよ終わりも見えてきました。
放送されるたびに、最後の出番となる方もたくさん出てきます。
そんな中で、ぶつかりあう北条義時と後鳥羽院の対立は、日本史の宿命そのものに思えて興味が尽きません。
日本人はずっと天皇を敬っていたというのは確かなのか?
そうではありません。
2023年大河ドラマ『どうする家康』の主人公である徳川家康は『吾妻鏡』をお手本にして政治を行おうとしました。北条のように天皇家を扱うことを悪としていない。
これが時代が降り、幕末のやりとりをみていくと、北条義時は極悪人扱いが定着しています。
理由は上皇と天皇を島流しにしたため。
江戸時代も後半になると、武士にまで尊王の思想が定着したということです。
こういうことが起こると危ういから、幕府は考えていました。
徳川将軍は、家光以来、京都から正室を迎えているけれども、その京都からきた相手との間に子はいない。将軍の母として干渉しないようになされています。
ところが御三家の水戸徳川家は、尊王思想に傾倒していってしまう。
水戸を発信源とする水戸学はともかく尊王を重視。
そんな水戸出身の最後の将軍である慶喜は、母が京都からきた公家のお姫様であることが誇りでした。
そして朝廷相手に戦えないとそそくさと政権を投げ出してしまいます。
武士が尊王に凝り固まったら危ないと、義時の時点でわかっていた。
それなのに、それができない将軍が出現し、武士の政権は終わることになります。
そして今回出てきた日宋貿易。
この作品では東西対決を盛り上げる陰謀として処理されていて、それはそれでよいものの、意図的に見えない部分もあります。
それは儲かること。
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平清盛や藤原秀衡が貿易を背景に儲けていると描きながら、意図的に経済的効果が見えにくくなっているとは思えました。
日宋貿易は、宋から銭が入ってきてそれを流通させられるから、ものすごく儲かる。やらない手はない!
何かと非現実的に思えるこの船建造にも、政治家としてきっちり意図はありました。
そこはちょっと弱かったと思えます。
中国史考証の進歩
本作は2012年『平清盛』以来の、日宋関係を扱う大河となります。
進歩した要素が色々ある中、中国史と船の使い方が格段に良くなったと指摘させてください。
『平清盛』ではオリジナルキャラクターである兎丸が、やたらとでかい海賊船を持っていました。
今週ご覧になってご理解いただけたと思いますが、大陸まで向かえるようなあの規模の船を海賊が持っているとは考えにくい。
何者で、どういう経緯で、何をしたらあの規模の船が手に入るのか?
作中では「宋船」と呼ばれていますが「唐船」が正しい。
『鎌倉殿の13人』では「唐船」ですね。
現代の日本人がどの時代でも中国を「中国」と呼ぶように、江戸時代までは中国は「唐」と呼ぶことが多かった。
国号としては変わるけれども、「中国の」という形容詞的な使い方では「唐の」になります。
それ以外にも色々と中国史関連考証がおかしかった。
十年前のドラマに突っ込んでもキリがないし、誰も幸せになれないのでやめておきますが。
ドラマの意図はわかります。日宋貿易を促進した平清盛の先進性を持ち出したくて、過剰に出してきていたんでしょう。ただ、そうはいっても正確でなかった。
華流ドラマも近年は倭寇描写が手ぬかりがなくなってきたし、隣国だからといって手抜き考証することには百害あって一利なしだと思います。
この点がものすごく進歩していて、今年はよいと思いました。
あとは宋が専門で大河ファンの小島毅先生が、便乗本を出してくれたらよかったのですが。
『鎌倉殿の13人』は世界的に話題なの?
本作がTwitterで世界的にも話題になっているとして、こんな記事が出されていました。
◆25話連続でTwitter世界トレンド1位…「鎌倉殿の13人」が世界一バズるドラマとなった理由 歴史ドラマなのに次の展開がわからない(→link)
身も蓋もないことを言ってしまえば、これはアルゴリズムの問題でしょう。
Twitterは「一定の時間」に多数ツイートされると、トレンド入りする傾向がある。
そこを踏まえますと……
・海外は配信が増えている。同じ時間にドラマを視聴する傾向が薄れてきた
・日本におけるTwitterユーザーの中心は、若年期に大手掲示板実況スレッドに書き込んでいた年齢層。ゆえに鑑賞しながらつぶやく習慣がある
この2点です。
これは必ずしもドラマの出来には関係ありません。
世界規模ならば『イカゲーム』や『ザ・クラウン』が話題作になると思えます。『ゲーム・オブ・スローンズ』と比較すると……するだけ虚しくなるのでやめておきましょう。
そういうアルゴリズムの特性を理解しておくと、Twitterトレンドは割と作ることが楽になります。
AIにせよ、SNSトレンドにせよ、デジタルが絡むと公平だと思われがちですが、その設計をするのが人間である以上、どうしたって誰かの意図は入ります。
それでも11月にこういう記事が配信されるということは、このドラマは成功したとも言える。それで十分としたいところですが、三浦義村のような悪い顔でツッコミたくなる。
Twitterでトレンド計測していてよいものだろうか?
イーロン・マスクの買収一つで、根底からシステムが変わってしまいそうなプラットフォーム。
日本においては「匿名で好感が形成されていたからこそ伸びていた」とはよく指摘されるところで、それが変わってしまえば、どうなってしまうのか。
SNSというのは脆いものです。
一世を風靡したmixiなんて今や懐かしまれるものとなりました。
数年後には、こういうSNSトレンドに絡めた成功体験も、古い考え方とされていてもおかしくない。
では、そうではない後に残るものとは何なのか?
三谷幸喜さんがまたも大河に登板するとなれば、このドラマの成功をひっさげてのこととなる。
中川大志さん、坂口健太郎さんなど、彼ら若手世代は十年以内に大河主演を務められるだけの存在感を見せました。
このドラマが成功したか否か、それはSNSのバズの中にではなく、未来の中にあるのでしょう。
最後にSNSに関係して気になっているのが「注意資源」です。
『鬼滅の刃』では作中この手の概念を用いていると思われ、要するに「一点集中すると強く」なり「マルチタスクにすると弱く」なるというものです。
むろん個人差はありますが、炭治郎はじめみんながやたらと「全集中!」とした理由がわかります。
SNSを意識していると、ここが疎かになりがちです。
どんな風に書き込もうかな?
どうすればバズるかな?
ここをイラストにすれば受けるはず!
ツイートバズったかな?
フォロワーさんはどうつぶやいているかな?
そういうことを考えるだけで注意力が散漫になり、読み取り能力が落ちるし、自身の作品などに影響を及ぼす。
SNSでは同様に「エコーチェンバー」も懸念すべき現象でしょう。
ハッシュタグや同志のノリに浸かりすぎると、そうでない誰かを見かけただけで敵認定し、喧嘩をふっかけたくなってしまう。
ドラマの好き嫌いは個人の問題。
自分と評価が一致しない誰かに、いきなり無礼なことを言う行為に利はありません。
ドラマを楽しみたいのか。
ファンあるいはアンチ同士で過ごすのが習慣になったのか。
いつの間にか目的が変わってしまわぬよう、今後も作品と向き合っていきたいと思います。
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文:武者震之助(note)
絵:小久ヒロ
【参考】
鎌倉殿の13人/公式サイト