鎌倉殿の13人感想あらすじ

鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー最終回「報いの時」

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鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー最終回「報いの時」
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十三人とは、その十三人だったのか!?

政子が運慶の彫った像を見ています。

自身の限界量を超えて世の中の歪みを飲みこんでしまったかのような、異形の仏像。

「燃やしてしまうんですって?」

「人には見せられない」

義時が苦々しく答えます。

政子はたまに考えることがあると言います。

この先の人は、自分たちのことをどう思うのか?

義時は上皇様を島流しにした極悪人。政子は身内を追いやって尼将軍に上り詰めた稀代の悪女。

それは言い過ぎだと指摘されても、政子はそれでいいと言います。

頼朝から受け継いだ鎌倉を次に繋いだ。これからは争いのない世がやってくる。だからどう思われようが気にしない。

姉上は大したお人だと義時が言うと、そう思わないとやってられないと政子が微笑む。

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義時はしみじみと、流れ過ぎた血を振り返ります。

頼朝の死から――。

①梶原景時
②阿野全成
③比企能員
④仁田忠常
⑤源頼家
⑥畠山重忠
⑦平賀朝雅
⑧稲毛重成
⑨和田義盛
⑩源実朝
⑪源仲章
⑫公暁
⑬阿野時元

「これだけで13……はっ、そりゃ顔も悪くなる」

この13人はそれぞれ重要な立場か、あるいは北条の親族です。

鎌倉殿の13人とは、十三人の合議制ではなく、この犠牲者の数だったのかもしれない。そう最終回に明かされます。

ここで自嘲的に笑った義時の横で、政子の顔がすっと冷たく、霜が降りたようになります。水晶の数珠のような、冷たく透き通った美しさがある。

「待って」

「何か」

「頼家がどうして入っているの? 頼家はどうして? だっておかしいじゃない、あの子は病で死んだとあなたが……」

思わず目を泳がせてしまう義時。確かに義村よりもこういうところは不器用で、間抜けかもしれない。

「駄目よ、嘘つきは自分のついた嘘を覚えておかないと……」

政子も薄々わかっていました。けれども、怖くて聞かなかった。

義時は「もうよしましょう」と話をそらそうとしますが、政子は、本当はどう死んだのか聞いてきます。昔の話だと義時が断っても、母親としてどうしても知りたい。

頼家は上皇と手を組み、鎌倉を攻め滅ぼすつもりでした。だから義時が善児に命じて討ち取った。

最後は、頼家自ら太刀をとって生き延びようとする、見事な最期であったと。

「あの子はそいう子です。ありがとう、教えてくれて」

政子の本心はどうなのか?

殺しておいて、見事な最期も何もあったものではない。あのおぞましい像を彫った運慶の目に狂いはなかったと思っているかもしれない。

 

聖人君子の道のため血を流し続けた

義時は体がきついと訴え、政子に薬を取ってもらいます。

次に体が動かなくなったらそれを飲めと言われているとか。

義時はまだやり残したことがあるとのことで、隠岐の上皇の血を引く帝が帰り咲くことを阻止せねばならないとのことです。

「まだ手を汚すつもりですか」

「この世の怒りと呪いを全て抱えて私は地獄へ持っていく。太郎のためです。私の名が汚れる分だけ、北条泰時の名が輝く」

薬を手にしたまま政子は弟を見つめます。

「そんなことしなくても、太郎はきちんと新しい鎌倉を作ってくれるわ」

「うっ……薬を」

「私たちは長く生き過ぎたのかもしれない」

政子が水薬を床に流してしまいます。

義時の目に絶望が宿る。

「姉上……」

「さみしい思いはさせません。私もそう遠くないうちにそちらへ行きます」

「私は……まだ死ねん。まだ!」

義時は倒れ、烏帽子がずり落ちます。手負いの獣のように床を這いずり、薬をすすろうとする。

しかし、あと一息のところで、政子の袖が床をぬぐいます。

「太郎は賢い子。頼朝様やあなたができなかったことをあの子は成し遂げてくれます。北条泰時を信じましょう。賢い八重さんの息子……」

「うっ……確かにあれを見ていると……八重を……思い出すことがある」

「でもね、もっと似ている人がいます…………あなたよ」

「姉上……あれを太郎に」

「必ず渡します」

「姉上……」

「ご苦労様でした、小四郎」

義時が政子を通して泰時に託したのは、あの小さな観音像でした。

比企尼が頼朝に渡し、髻に入れていた。

頼朝を失ったあと、政子が義時の力を借りるときに手にしていたものです。

源氏将軍三代は、文覚が持ってきた義朝の偽頭蓋骨を手にしてきました。血塗られた権力でした。

一方、北条は頼朝から慈愛の観音像を受け継ぎ、果たしてそれを手にしていいのか迷いつつ、託していくことになったのです。

北条泰時は、堯舜にたとえられる名君として、歴史に名を刻むことになります。

聖人君子が来る道を作るべく、血を流し続けた義時の一生が終わりました。それを見た政子がすすり泣く声が響いているのでした。

 

MVP:北条義時と彼に精神的拷問を加えた皆さん

魔王の如く肥大化してしまった義時を倒すにはどうすればよいか?

答えは「精神をへし折ること」でした。

一人目は運慶です。

あの仏像は傑作でした。

わけのわからない像は、笑って済ませられない。なにせ義時はかつて、運慶の仏像に八重を重ねたことがあったのです。

清らかな仏に愛されていた頃は、こうではなかったのだろう。そう思うと精神に一撃が入る。そもそも、こんなくだらない依頼をせねばよかったのです。

二人目はのえでした。

妻であるのえは、麻の毒を盛り続けました。

遅効性です。東洋医学で義時の体質を解析し、負担をかけるものを選んだのでしょう。

即効性の強い毒は、誰にでもだいたい効きます。

しかし、こういう体質に合わせた毒は生活習慣を熟知していなければ難しい。のえは夫を殺すべく、観察の成果を活かしたのでしょう。

時房はあの程度の服用なら、さして効果がないと思います。

その観察眼をどうして良い方向に向けられなかったのか?

のえは聡明でなくとも観察はできます。その力を「どうすれば義時の心をへし折るか」という点に集約して使いました。

八重と比奈を貶める。

義村から毒をもらったと言う。

こんな結婚は我が子ありきだと言う。

あんたなんか最期までそばにいるのは、大好きな姉上だけだと言う。

般若と化す女性とはこういう人だったのだろうと思えました。心が弱くて寂しくて、それを隠すために鬼になったのだろうと。

三人目は義村です。

彼は徹底的にこじらせていましたね。

なんでこんなにしつこく、史実より濃度を増しに増して裏切るのかと思ったら、幼少期からの優越感と劣等感ゆえにですか。

義村って、賢いのか愚かなのかわかりません。

こんな些細なことのために命懸けで、あんな危険なことをして一体何なのか。刺激は欲しいんでしょうね。ギリギリでいつも命を賭けていないと退屈するのかも。

現代人ならば由比ヶ浜でヨットでも楽しめばいいのでしょうが、そこは坂東武者なのでそうもいかない。

そんな義村も、義時と迷惑なじゃれあいをしているうちに、年老いているのは興味深い。

朝時には「じじい」と毒づかれ、泰時にも『こんな殺伐とした策ばかり練る義村は古いなぁ』と思われたことでしょう。

そんな年老いた義村にとって、義時と遊べたのはよいゲームだったんでしょうね。

こいつは本当になんだったんだろう。そんな迷惑男のじゃれつきで義時はまた、心理的大打撃を受けました。

ただ、彼の子となるとここまで無茶苦茶ではない。

義村の代に積もり積もった恨みが子孫を宝治合戦で滅ぼすのかと思うと、暗澹たるものがあります。

四人目は政子です。

政子は頼家の仇討ちをしたかったのか?

それでも慈愛はありました。最終的に薬を拭い取らせたのは、義時が幼い帝を殺そうとしていたからだと思えます。

ここの心理状態は『麒麟がくる』の光秀を思い出しました。

あれも天皇の困惑と信長の不穏な動きを知り、更なる罪を犯すことを止めるため本能寺へ向かったように思えたのです。

とはいえ、引き金は頼家だとも思えることで、政子は彼女自身の汚名を薄くしたようにも思えます。

政子は頼家を見殺しにしたということが、悪女の根拠として言われます。

しかしそんな頼家の死に怒り、仇討ちをしたように思わせることで、その印象を薄めることができたのです。

そうはいっても、政子だって弟を見殺しにしたくはない。だから泣きました。

五人目は八重です。

もちろんこの世界にはいません。しかし、ここであげた全員が八重を思い出させてきます。

運慶は八重に似た仏像を彫った。

のえは前の妻として八重のことを持ち出す。

義村はキノコのことをここで持ち出した。義時は八重にキノコを贈っていた。

政子は、泰時は八重の息子だと言う。

しかし八重は当然のことながら、光に包まれて出てくることはありません。八重は不在であることによって、義時がこれから向かう場所が地獄であると示したようなものです。

八重が救った鶴丸――盛綱は泰時のために尽くしている。

死にそうになっても守られるようにして、生きている。まるで八重が見守っているように思える。

しかし、繰り返しますが、義時の側に八重はいない。

圧倒的な孤独が義時を待っています。

八重の不在こそ、報いの時に相応しいと思えました。

義時の酷い死に、死んでいった十三人も破顔一笑していることでしょう。

小四郎め、俺たちよりも酷い死を迎えたなと。

 

総評

歴史を学ぶ意義とは何か?

そこまで改めて考えさせられる傑作でした。

小学生がこのドラマの最終回を楽しみにしていると答えているニュースを見ました。

子どもにこんなものを見せていいのか?と疑念に思いつつも、きっとこうした子たちの中から将来日本史を学ぶ人がでるだろうとも思います。

あの年齢の子どもにとって、人がひたすら理不尽に死んでいく物語なんて、このドラマがおそらく初めてのものとなるはず。

ショックでしょうね。

最終回を見たあと、数日間は思い出して怒りと苦しみが混じった、どろどろした感情を噛み締めるかもしれません。

しかし、そういうマイナスの感情が、引き起こすものもある。

頼朝の死から、この言葉がずっと脳裏にありました。

天地は仁ならず、万物を持って芻狗と為す。『老子』

天地に仁はない。ありとあらゆるものを藁の犬にしてしまう。

頼朝の死により、チリンチリンと流れていた鈴の音。

それを聞いた義時は天命に選ばれ、高みに上り詰める。

しかし後鳥羽院を島流しにし、武士の世を確立するという天命を果たした後、藁の犬は燃やされます。

よってたかって心をへし折られ、這いつくばって死ぬ。天命に捨てられた藁の細工が横たわっている、圧倒的な虚無がそこにはありました。

こんなものを見せられて何をどうしろというのか?

もう、好きに生きるしかないんじゃないか。

そう一周回って思うものの、あの歩き巫女がこう声をかけてきます。

「天命に逆らうな」

もはやドラマを超えて、こちらまで地獄に引き摺り込んでくる。そんな体験を味合わせてくれる作品はそうそうありません。

ドラマを見るというよりも、天命を体験するようだった。あまりにおそろしいものがそこにはあります。

そして、この大傑作は大河ドラマの天命をも変えたかもしれません。

三谷さんにも天命はある。

もう大河はいいと思っているかもしれない。

しかし気がつけばドラマや映画を見ながら、大河でこういう描き方はできるなと思うようになります。

そうしているうちに、NHKの誰かからメールが届く。

「大河を書きませんか?」

それはきっと天命なのでしょう。

その日は来る! 必ず来る!

歩き巫女か文覚のように、そう言いつつ長い「最終回のレビュー」は終わります。後日、一年をまとめた総論記事も公開させていただきますので、ご覧いただければ幸いです。

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文:武者震之助(note
絵:小久ヒロ

【参考】
鎌倉殿の13人/公式サイト

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