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【青天を衝け第19回感想あらすじレビュー】
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天狗党ショック
栄一も慶喜も、天狗党のことを忘れたかのような今週です。
どうやらショックはなかったようですね。
◆NHK大河「青天を衝け」栄一が天狗党ショックに悩みながらも本領発揮! 将軍・家茂に異変…第19回みどころ(→link)
栄一と慶喜はさておき。私は今週一週間、現実逃避でSNSをしたり、色々取り組んでいましたが、精神状態の悪化がどうにもなりませんでした。天狗党の顛末のせいでしょう。
『鬼滅の刃』にある「記憶の遺伝」って、ある程度真理なのではないかと思いました。
慶喜を善人扱いされると、警報が胸の奥で鳴り響くようで、気分がどんどんおかしくなっていく。天狗党関連でそれがあふれて止まらなくなりました。
これは私一人だけのことでもないかもしれない。そう思える記事もありました。
◆大河『青天を衝け』が描き切れなかった「天狗党」征伐の悲劇 『開成をつくった男、佐野鼎』を辿る旅(第53回)(→link)
新保宿で武田耕雲斎と直接交渉を行った加賀藩の永原甚七郎は、その悲報を聞き、「天狗党よ許せ・・・、天狗党よ許せ・・・」と声を上げて泣いたという話も伝わっています。
このように、こちらの記事では関係者がどれほど苦しんでいたか書かれています。
そしてこちら。
保身のため天狗党を見殺しにした慶喜への批判が高まるのは、避けられなかった。斉昭亡き後、尊攘派志士の期待を集めていた慶喜への失望感も広まる。
天狗党に対する幕府の過酷な処遇と大量処刑は、諸藩からの批判も招く。
薩摩藩士大久保利通などは、幕府の滅亡は近いと批判した。天狗党の乱の結末は慶喜の立場を悪くしただけでなく、幕府から人心が離れる大きな要因にもなったのである。
最後のこのまとめが秀逸です。
そしてこの記事は、コメント欄が興味深い。栃木では天狗党の悪事について語り継がれてきたこと。茨城では天狗党評価をめぐって、親族同士ですら絶縁することもあった。そんな事例が語られていて貴重です。
と、ここまではよいとしまして。
SNSはじめ、天狗党があまりに酷い扱われようでした。
◆ NHK大河「青天を衝け」藤原季節演じる小四郎の最期に視聴者涙「斬首前の表情が印象的でした」(→link)
ネットでは早くも“小四郎ロス”が広がっており、当該ツイートには「もう少し見届けたかった」「小四郎の最後の表情が忘れられません!」「最期は見ていたこちらも悔しい思いでいっぱいですし、次回からもういないと思うと寂しいです…」などの返信が寄せられた。
また、初めての大河で見せた藤原の熱演ぶりをたたえる声も多く、「最期まで熱くまっすぐな小四郎をありがとうございました」「斬首前のなんとも言えない表情がすごく印象的でした(涙)初大河お疲れ様でした!」「全力で生きた熱い男の思いを感じました。私も、栄一さんと喜作さんを最後まで応援します!」といった返信も届いた。
これはイベント感覚ですよね……とは思いますがマシなほうで。
酷い盛り上がりをしていたことが以下の記事で取り上げられています。
◆青天を衝け:耕雲斎の悲しい運命 最期は斬首で「ひどすぎる」 大河ファン「首の塩漬け」に反応(→link)
また、その首は「塩漬け」にされ、水戸でさらされたという話が出ると、「『麒麟がくる』以来の首の塩漬け」「首の塩漬けが再来」「二期連続、首の塩漬け」「でた塩漬け」「首の塩漬けに反応する麒麟の民ほんと好き」などと大河ファンは盛り上がっていた。
塩漬けネタだけでもありません。
『いだてん』の天狗倶楽部とひっかけたり、RPGのモンスターに例えたり、ワクチン反対派にたとえたり。ともかく悪ふざけのネタになっていた。
何をどうすれば実在した人の死に、こんなふざけた態度を取れるのか?
取り上げて記事にまでする必要があったのでしょうか?
しかもこのドラマは誤魔化し方がうまいところが本当に懸念すべきところかと思います。
◆青天を衝け:円四郎の置き土産? 篤太夫が心のスキマ埋める! 声を上げて笑う慶喜に「じーんときた」「泣きそうに」(→link)
しかも、慶喜がさも楽しそうに声を上げて笑ったことから、SNSでは「慶喜様が久しぶりに笑ったぜ!」「慶喜様が、声を上げて笑ったーー!」「慶喜さまの笑顔と笑い声。じーんときた」「普段は努めて静かな慶喜の破顔にちょっと泣きそうになったよ」などと視聴者は反応。
◆NHK林田アナ「おかしれえ感じになってきた」青天を衝け(→link)
天狗党を惨殺しておいて笑って、それでウケる。おかしれぇ。大丈夫でしょうか。
彰義隊が死のうが、戊辰戦争で白虎隊が自刃しようが、慶喜が笑っただけで「泣きそうになった!」とみんな大喜びするのか……。
何かとてつもく悪いことが起きそうな気がしてなりません。
大河ドラマ有害論が再燃しそうで
そして、こちらの感想にまたショックを受けてしまいました。
◆ 『青天を衝け』18話。日本資本主義の父・渋沢栄一(吉沢亮)覚醒!銭勘定で日本を変える(→link)
斉昭、慶喜の心をキッチリ理解して覚悟を決めている忠臣・耕雲斎と比べ、自分の思い通りにいかないと慶喜すらディスってしまう小四郎……お前が小者だよ!
こう言われてしまうとは!
しかも、
「藤田小四郎が挙兵したのは、酒場で栄一が煽ったから」
と劇中の言い分をそのまま信じておられます。
そんなことはありません。むしろ小四郎は東湖の意志を継ぐ水戸学の若きエースでした。
彼が斉昭の思想を継いでいるのは確かなこと。因果関係が逆で、小四郎ら水戸学の徒から栄一が影響を受けたと思えます。
それにこの二人は一度偶然出会ったどころではなく「畏友」と呼び合うほどの仲でした。
大河ドラマのせいで、まるで天狗党は二度処刑されたようなものだと思えてきました。
『独眼竜政宗』のような弊害を、なぜ、2021年にもなってまで繰り返すのでしょうか。
すでに井伊直弼の描写に彦根関係者は怒っています。
【禁門の変】あたりで会津と長州関係者が眉をしかめています。
天狗党で水戸関係者が困惑しています。
新選組ファンもざわつき始めている。
今後、戊辰戦争へ向かうとなると、東日本全体が厳しい目を向けかねない。そのときどうするか、待ちたいと思います。
大河ドラマ『独眼竜政宗』は名作だ! しかし悲しき誤解も産んだ
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わかりやすさの功罪
本作は「時代劇を知らない視聴者でもわかって魅力的!」とされます。
そこで取り上げたいのが『47 RONIN』です
「ジャイアントゴーレムや狐が出てきてファンタジック!『忠臣蔵』がわからない人でも楽しめる!」
そんな風にも言えなくもない映画ですが、出演者は豪勢です。
『おかえりモネ』でも好演されている浅野忠信さん、そして今度『ジョン・ウィック』シリーズにも出てくる真田広之さん。
ただし、誰かに手放しでオススメできる作品とも言えず、正直、あれで『忠臣蔵』を理解されたところで困惑するしかありません。
ジャイアントゴーレムも登場の忠臣蔵~映画『47 RONIN』がなぜか熱い!
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要するに、本作の口当たりの良さって『47 RONIN』の地下闘技場みたいなものかと思うのですね。
だって作り手が自白してますから。
◆「青天を衝け」演出・黒崎氏が語る魅力 明治での家康は?「考え中」(→link)
語り部的な存在で登場して驚かせた初代将軍・徳川家康役の北大路欣也(78)は当初、自身の役どころに「よく分からないな」と困惑気味だったというが、放送後に大きな反響を呼んだこともあり「次回は何をすればいいの?」とがぜん、意欲を見せたという。
北大路さんは敬愛しています。
しかし、菅原文太さんだったら、こういうことはしないだろうな、とは思ってしまう。
そしてこちらにも注目。
慶喜役の草なぎについては「撮影前に『歴史分からないよねー』とよく雑談するんですが、セットに入って本番の声がかかると、慶喜が真っすぐに見えてくる。こんなに振れ幅の大きい人に会ったことがない」と絶賛。
演じる側も、演出する側も、そういうことでよいのでしょうか?
本作の出演者インタビューを読んでいると、あまり役柄を把握していない、幕末史を勉強していないとわかることがあり、困惑させられます。
制作サイドにとっては、それで正解なのでしょう。
たとえば土方歳三役から
「待ってください。天然理心流は荒々しくイモとバカにされるような流派ですよね。それなのに流れるように美しく斬るというのはおかしいと思います!」
なんてことを言われたら、本作スタッフはきっと困るわけです。
昨年の『麒麟がくる』では長谷川博己さんが孔子の教えを学んでいたというのに、どうしちゃったのでしょうか。
幕末史は難しい。細かい。政治劇を続けていかねばなりません。
それをちゃんとやれば難しくなって当然です。
本作はよく「簡単でとっつきやすい!」と言われる。それは長所ではなく、むしろ重大欠陥です。
幕末の水戸藩を描いて明るく楽しめるって「明るく楽しいスプラッタホラー」のような矛盾を感じます。
幕末ものを簡単に見たいと要望するのは、「野菜は食べたくないんだもん、お菓子だけで栄養摂りたいんだもん!」と主張するようなもの。
要は、幼稚です。
本作を見ているとテンポのよさがあって、面白いらしい。SNSのおかげでその楽しさと判断力は増幅します。
本を調べるとか。そんなことしなくていい。ファン同士でハッシュタグつけて語り合って、RTして、いいねをして、イラストを描いて、大手アカウントなりブログを追いかけていけば楽しい時間が過ごせます。
楽しければいいじゃん♪
その通りですよね。ただ、それはピザを野菜と言い張るくらい無茶苦茶だと認識しておきましょう。
チャンネル銀河で大河『徳川慶喜』再放送
『西郷どん』にあわせて『八重の桜』を再放送した、そんなチャンネル銀河がやってくれました。
◆大河ドラマ『徳川慶喜』(→link)
主演・本木雅弘。大政奉還を成し遂げ、江戸幕府最後の将軍となった徳川慶喜。
たくましく生きる江戸庶民の日常や下級武士の生活を織り交ぜながら、国を背負い、命がけで時代と格闘した若き指導者の苦悩と葛藤の半生を描く。
紹介動画を見るだけで『青天を衝け』はいかに歴史観が後退したかわかってしまうのが悲しい。
どこが?というと、新門辰五郎の存在です。
こういう庶民の稗史目線がちゃんとあった。
偉大なる親分・新門辰五郎とは? 将軍慶喜に愛された火消しと娘・芳の生涯
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今年は渋沢栄一パートがそれに当たるようで、そうではない。幕末の庶民というよりも現代人視線になっていて混乱するばかりです。
本来、こういう再放送はNHKがやるべきでしょうに。来年の三谷幸喜さんを踏まえて『新選組!』でもよいと思いますが。
『新選組!』の徳川慶喜は小心者で狡猾でした。
三谷さんからみればそうなるということ。それが幕臣や新選組目線の慶喜像です。
それなのに栄一はどうして違うのか?
そしてこちら。
向井理さんは『麒麟がくる』でも素晴らしい殺陣を披露されていました。
人を斬る重みがありながら、流麗。剣豪将軍らしい動きがありました。
静謐な演技も、得意としている。そんな彼の演じる土方が楽しみです。さぞや涼やかなことでしょう!
そうそう、これもだ!
◆ 再放送情報 大河ドラマ「麒麟がくる」総集編 全4回一挙放送(→link)
【放送予定】
2021年7月31日(土)
午後6時から午後10時25分 4本立て
連続4回
BSプレミアム
第1回55分 第2回60分 第3回・第4回75分
「歴史を鏡にする」意味を、読書しつつ考えたい
以前、NHKニュースで半藤一利氏を取り上げておりました。
◆【新刊紹介】「昭和史の語り部」が残したエッセイ:半藤一利著『人間であることをやめるな』(→link)
ニュースを見つつ、ため息をついてしまった。
昭和史の語り部だけでなく、半藤氏は幕末史の語り部でもある。昭和史の矛盾を求めていくと、幕末に到達して美化できなくなると。
半藤氏は司馬遼太郎作品を高く評価しておりますが、こと幕末となると「薩長史観の受け売りをしている」と批判的になります。
そしてそんな半藤氏を……NHKが本当に敬愛しているのであれば、『青天を衝け』のような幕末史を流すわけがないと痛感させられました。
半藤氏は、自身の昭和史体験から幕末をたどる。
ゆえに徳川慶喜と近衛文麿を重ねてしまう。斉昭と慶喜のことなんて、それこそケチョンケチョンに貶しています。感情論でなく、理詰めで評価できないとしています。
本作の慶喜の描き方はそれとは真逆です。
そしてここで、中国思想史を研究し、かつ大河ドラマファンを自認する小島毅先生の本もお勧めしたいのです。
『志士から英霊へ』では、『花燃ゆ』と『西郷どん』が俎上に上がっています。
しかもなぜか維新志士がジェダイにたとえられている。おもしろい!
そんな小島先生にとって、水戸学を取り上げている『青天を衝け』は得意分野です。
一坂太郎先生と、小島毅先生が語る『青天を衝け』。そんな記事があれば是非とも読みたい。誰か企画していただけませんか。
菅原文太兄ぃは仙台藩士の末裔だった『仁義なき幕末維新』に見る賊軍子孫の気骨
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『司馬遼太郎が描かなかった幕末』が面白いから湧いてくる複雑な思い
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とりあえず、『青天を衝け』のせいで胸が悪い意味でぐるぐるし出したら、半藤一利氏、小島毅先生、一坂太郎先生の本でも片っ端から読んで、デザートとして山田風太郎『真群の通過』を読めばスッキリすると思います。
せっかくだから読書しましょう!
そのうえで、この小島先生の言葉をもう一度、噛み締めていただきたいのです。
◆幕末の志士たちは「テロリスト」だった そしてジェダイはダークサイドに落ちた(→link)
むしろ逆だ。歴史に学ぶとは失敗に学ぶのであって、成功譚を褒めたたえても、それは歴史を学んだことにならない。
中国では昔から「歴史を鏡にする」という表現がある。
中国人が日本の要人に会うたびに使う言葉だ。
同じ失敗をしないために歴史が存在するという考え方といっていい。
スカッとする英雄の話を楽しむだけでは、歴史から学んでいるとはいえない。
見方の相違と言えばその通り。歴史ものをみてブツブツ文句を言うような奴は、空気読めない陰キャ扱いされますよね。
しかし、それも仕方ないことだと思う次第です。
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
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関連記事は以下にございます
◆青天を衝け感想あらすじレビュー
◆青天を衝けキャスト
◆青天を衝け全視聴率
文:武者震之助(note)
絵:小久ヒロ
【参考】
青天を衝け/公式サイト