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【鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー第7回「敵か、あるいは」】
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奥州では義経が出発をしていた
二人きりになった盛長は、広常に対する頼朝の振る舞いを誉めています。
しかし頼朝の本音はこうだ。
「顔が怖いのよ……」
怖さを感じない者よりも、怖さを感じても耐えられる者の方が勇気があります。頼朝も成長している。
佐藤浩市さんは確かに格好いいけれども、怖さもある。その気持ちは誰でもわかるでしょう。
去ってゆく広常に義時が礼を告げる。
「頼朝に伝えておけ、よくぞ申したと」
広常は天秤にかけていた。頼朝がつまらない男ならば、首をとって平家に差し出すつもりだった。
義時はこう言われて驚いています。
しかし、広常は頼朝をなかなかの男だと思った。だから味方するのだと。
「これで平家も終わったぞ」
そうふてぶてしく言う広常は、やっぱり迫力満点。
と、ここでちょっと突っ込みたいのですが、平家も油断しましたね。
二万も擁する武士の首根っこに縄を結んでおかなかったとは、国のシステムに重大なエラーがある。
江戸幕府はそういうエラーを修正すべく、いろいろな制度を整えていったのでしょう。
後年に起きた異国からの脅威は、制度設計時に想定外だったのでしょう。
そして、そのころ奥州では――。
源義経が奥州を後にしようとしていました。
藤原秀衡に礼を言うと、相手は「止めたとてどうせ行くのであろう」と返してきます。そして時が来れば、兵を送るとも。
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義経はそれを待っていると返します。
「思う存分、戦ってくるがよい」
「行って参ります。参るぞ、武蔵坊、ものども!」
「おー!」
陸奥の緑の中で源義経がそう告げます。
海外のドラマを見ていると、雄大な自然が羨ましくなることがあります。
けれども、日本の景色も素晴らしい。その魅力を伝えるよう、撮影にも工夫をされているのでしょう。
透き通った緑の中、出立を告げる源義経は美しい。
そう手放しで誉めたいようで、そこでおさまったらいけないとも思います。
美形で、悲劇の英雄――そんな義経はもう古い。
どうして菅田将暉さんで、登場人物一覧では歯を剥き出しているのか?
端正で美しい優等生という点では、畠山重忠の中川大志さんの方がそうだと思えます。
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でも、だからこその菅田将暉さんだとは思う。
天才と天災は通じる。
ドラマではやたらと義経を天才と言うけれども、そこにむしろおそろしい何かがあるのでは?
この美しい義経の、顔を見るだけでゾッとするような。そうなって欲しい。
菅田将暉さんならそうできると期待しています!
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MVP:上総広常
原始的な「男のロマン」をすべて載せたような人物像だと思いました。
顔がこわくて迫力があるから、周囲は逃げるし、彼の家人はささっと従う。
自分の去就ひとつで勝敗が左右される――こんなおいしいロマンあふれる地位にいるなんて、なんて素晴らしいのかと思います。
広常はそんな自分に満足しきっているから、あんな派手な服を着て、傍若無人に振る舞っているのでしょう。
何にも縛られていなくて、これはよいものだと思えました。
そういう人間が何もかも得てしまったら、どうするのか?
義時の問題提起はその通り。こういう男が欲しいものって、実は頼朝の叱責みたいなものだったのではないかと。
そう想像すると面白いですし、歴史フィクションの醍醐味って、そういう心情の推理だと思います。
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マナーが人を作る
マナーが人を作る――。
映画『キングスマン』でおなじみのフレーズです。
実は『鎌倉殿の13人』の坂東武者さんたちはマナーがなってません。
ある意味、まだ“人”になりきっていない。
顕著であるのが食事です。このドラマは何かを飲み食いする場面が多い。
・八重に憧れたことを思い出す北条義時。魚を手で持ってかぶりついている
・たったままおにぎりを食べつつ、話す北条時政
・木の実をうれしそうに食べている土肥実平
・酒を盃に注がず直飲みし、こぼれた酒を手で乱暴に拭う上総広常
彼らを誰も「お行儀悪いでしょ!」とは叱りません。
三浦義村が船に乗せていた食料を、北条時政が勝手に食べ始める場面もあります。
義村は「それは佐殿の!」と抗議をしますが、あくまでマナーではなく「誰のものか」という問題でした。
現代人がこういうことをするかというと、抵抗があると思います。手や服が汚れそうだし、行儀悪いし、みっともない。
この感覚が「マナー」の根底にあります。
『麒麟がくる』では、茶席の場面がありました。
長谷川博己さんはじめ皆さん綺麗な所作で、陣内孝則さんは今井宗久を演じるにあたり、かなり練習をしたそうです。
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つまり戦国時代はマナーがなっていないと話にならない。
彼らは“人”になっていたのです。
動物は「いただきます!」とは言いません。自然の状態では、食べたくなれば食べます。そうしないと生きていけません。
そこを踏まえれば、人間と食事のマナーは文明発展度と関わりがあります。
中世ヨーロッパだって、ナイフやフォークで歯をほじくり出すことが当たり前でした。スープもずりずり啜るし、ともかく豪快。
そういうのはもういやだ、汚い!
と禁じていったからこそ、紳士はできたのです。
『鬼滅の刃』の伊之助は、食事のマナーが際立って悪い。しかも食べたいものがあればバクバクと勝手に食べ出します。
いつここに食い物があるかわかんねえ、なら食っちまおう!
そんな動物的な彼の特性を出しています。伊之助はふざけているようで、考古学といった分野の研究が反映されていると思える、クレバーな造形です。
『鎌倉殿の13人』も、そういう研究を反映されていると思えます。
そうでなければ、ここまで立て続けにありのままに飲食をする場面はないと思います。
演じる方も、
「えー、かっこいい武士かと思ったら木の実食べるんですか!」
と戸惑っているかもしれない。あるいは演出意図を理解し「ここは手づかみで!」と前のめりなのかもしれません。
このドラマは軽薄だの重厚感がないだの言われていますが、動物的な中世を再現するのであればそれも必要なのでしょう。
これからも食事のマナーがなっていない場面に注目したいと思います。
おそらく今後、地位が上がるにつれ、義時たちはお箸を綺麗に使った食事をするようになりますよ。
そしてこのマナーの悪さは、坂東のものであることもご注目。
西ゆかりの人物からすれば、それこそ『キングスマン』の人物がスーツを着せるように、善意から紳士を作ろうとするわけです。
今のところ典型例がりくでしょう。
りくは時政を紳士にするために、スーツを作らせようとする妻です。ただの悪女と片付けられない東西の差がそこにはあります。
マナーは人に威厳と成熟をもたらします。マナーができていなければ、軽薄で幼稚に見える。
『鎌倉殿の13人』が軽薄で重厚感が足りないとすれば、ある意味それは正解です。受け付けたくない気持ちはわかるけれども。
暗黒の中世
「暗黒の中世」とは、今では使われなくなりましたが、西洋史にあった用語です。
今では不適切とされますが、提唱した意味はわかります。
それにこれは西洋のみならず東洋史もその通り。
『アンという名の少女』では、少女たちがランスロットとグウィネヴィア(アーサー王の妃)の恋物語にげんなりする場面があります。
美化しているけど不倫でしょ! どういうこと?
と、なるんですね。
アーサー王伝説といえば過度に美化された理想とされます。ここにヒントがあります。
要するに人類は、先祖の行為を美化したり、語り継いでいく過程において、修正を入れてきたのです。
「うーん、いくらなんでも野蛮だな。もっとマイルドにしよう」
そうしてロンダリングするにしても限界がある。
ランスロットとグウィネヴィアの関係の大元は変えることができず、倫理観が進歩した後世の人間は「ありえない!」と恐れ慄くのです。
おなじみの『三国志』にせよ、鎌倉時代と同時期の宋代に一番ウケていたネタはこれ。
「うっひょー! 張飛が人をぶっ殺しまくるの面白え!」
しかし、時代がくだると
「教育的に悪いだろ。もっと真面目にやろう。人徳溢れる関羽、それに賢い諸葛亮を推していこう!」
となるわけです。
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北宋が舞台の『水滸伝』もひどい。
主人公たち梁山泊の英雄好漢の中には、こんな奴がいる。
「茶店に来た客をぶっ殺して肉まんの具材にしてました! でも俺らやる気あるんでお願いします!」
肉まんの時点で主人公枠に入れたらイカンと現代人なら思いますが、当時はそうでもなかったんですね。
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かくして美化された先祖を見つめ直し「我々の先祖、別にそんなに理想的でなかった……」と冷静になり出したのが近年の歴史研究の傾向です。
石器時代の人骨を掘り出すと、殺し合いをしまくっている。
冷静に考えてみれば、聖書もアーサー王伝説も無茶苦茶暴力的じゃなかったっけ? 今どき英雄建国神話もないよねハハッ!
そう我に返ったんですね。
エンタメにも反映され、ありのままの中世をぶちかました『ゲーム・オブ・スローンズ』がヒットすると、歴史劇はかくあるべきではないかという挑戦が始まります。
日本の大河もそこを見出したので、北条義時が魚を手づかみで食べるのだと思います。
このドラマは「明るいようで陰には陰湿な殺人が……」なんて言われますが、むしろ明るいまま殺しちゃってる連中も多いと思うんですね。
それが日常! それが俺らの青春!
生首を前に青春コメディをする。謀殺後に宴会をする。
そういう持ち味が大事だと思いますので、これからもその調子でお願いします。
それでも鎌倉幕府成立後はぼちぼち文明を知りますからね。
総評
今週もありのままの中世で素敵でしたね。
ゲス不倫の描写が笑えるけれども秀逸でした。
従者がゲスなセッテイングをすること。浮気されたら夫が武装して乗り込んでくること。このあたりが重要です。
そして、ゲスい。
何の言い訳も許さないほどゲスでしたね。亀については、こういう擁護がつきものです。
「まぁ政子はキツイもんね。ふんわり美女の亀に癒しを求めてもね」
そういう擁護を吹っ飛ばす。
ただムラムラしただけとしか思えない頼朝がゲスい!
「まぁでも、純粋に愛し合っていたなら」
これも夫を討ち取ってと頼む亀の図々しさで消えていく。利害で結びついているじゃないかと。
「英雄色を好む」と言われたところで、頼朝が英雄と言われても、何がなんだかわからない。
政子と八重がああも純粋で愛情深いところや、凛としたところを見せているからこそ、頼朝のゲスさが際立っています。
さらりと笑えるようにしたようで、全ての言い訳を潰す、用意周到なゲス不倫描写とでも言いましょうか。
なんだかんだ言い訳しているけど、結局ゲスだろ、みたいな。それを美化せず、ありのままにぶん投げてきて秀逸だと思います。
役者のイメージを守るためか。
史実にあるゲスな下半身事情を誤魔化す大河には、うんざりでした。
それで本作には、亀の前騒動に期待していたのですが、予想を上回る出来になりそうで喜ばしい限りです。
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
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文:武者震之助(note)
絵:小久ヒロ
【参考】
鎌倉殿の13人/公式サイト