「天下静謐のために一層はげめ、そう勅命をいただいた」
正親町天皇からそう託されたと信長が語った、永禄13年(1570年)4月――。
満を持して織田軍は朝倉攻めへ向かいました。
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越前の朝倉攻めスタート
三河の徳川家康、摂津の池田勝正、大和の松永久秀らも擁して、大軍と共に織田軍が進軍。
若狭の国吉城へ入ります。
明智光秀を勢いよく出迎えたのが木下藤吉郎であり、百人力だとことのほか喜んでいます。
この藤吉郎の弁舌スキルに注目ですね。松永久秀も「賑やかな男じゃ」と言いながら、光秀に「よっ!」と声を掛けてきます。
吉田鋼太郎さんはやはり、いい。ベテランとして即座に愛嬌を見せてきます。
大きな戦に血が騒ぐ久秀。なんでも佐柿に入るまで、我も我もと加勢が相次いだとかで、まさしく“破竹の勢い”ですな。
竹は一箇所バキッと折れば、あとはおもしろいように割れる――そんな人間の心理でもある。一度ブレイクすると、意見がスッと通りやすくなったりもするのでしょう。
久秀は自信満々で、こう語ります。
「やはり信長殿、これまでの大名とはちがう。このわしがにらんだとおりじゃ。なっ?」
茶器でも、人間でも、見抜く力があると自信満々。光秀も満足そうです。それが美意識自慢の久秀ですね。
ただ、実はそんな久秀でも、信長の器を過小評価している。信長は、そんな久秀の美意識すら、吸い取るような性質もあるのです。
信長が、諸将の前にやって来て、越前で朝倉を討つ!と宣言します。
それにしても「永楽通宝」の旗印がこれほどまでに説得力を持つとは……。
直江兼続が、伊達政宗の小判を「不浄のもの」とみなして、手で触らないで扇で受け止めた――という逸話が伝わっています。
真偽はさておき、金が汚いという意識はある。
日本特有の概念でもなく、金融と結び付けられるユダヤ人へのマイナスイメージといい(『ヴェニスの商人』のシャイロック等)、金を強調することは下劣だという認識がありました。
それが変わって、宗教や信念ではなく、金を通して戦い、そして身分を獲得していく流れが世界史全体に訪れていく時代でもあります。
織田信長は、世界史的に見ても極めてホットな人物なんですね!
今回の脚本担当は河本瑞樹さん。永禄のみならず令和もここ一番の決戦を迎えているようです。
摂津晴門の見立て
さて、そのころ、室町幕府では――。
ちょっと気になるのが藤孝。彼はどの程度、幕府内の同僚や兄の行動を把握しているのでしょう?
阿君丸毒殺事件は関与していないように思えましたが、どうなのやら。
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彼らは織田信長の動きを見ています。
東の朝倉攻めは予想通り。若狭武藤某は取るに足らぬ相手であり、はじめから目的は把握済みでした。
手筒山を守る寺田采女正では、織田方3万相手にひとたまりもないとも織り込み済みです。
信長は数勘定もきっちりしますから、本戦までには数でまず圧倒するようにします。少数で大軍に突撃をかけた【桶狭間の戦い】が例外でした。
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と、ここでほくそ笑むのが晴門。
「一乗谷から援軍が来れば、さて、どうなるかみものじゃ……」
強弩の末魯縞に入る能わず
信長が攻めると、朝倉方は脆いものでした。わずか2日で天筒山、金ヶ崎を収めてしまいます。
というと、すごく強そうではあるのですが、実は引っかかることがある。
強弩(きょうど)の末魯縞(ろこう)に入る能わず――。
たとえ強いクロスボウで発射した矢だろうと、遠距離であれば薄い絹すら貫けない――。
軍事的な話で言うと、行軍距離の問題になります。
アウェーで戦うというのはリスクがある。そこを踏まえて、自領まで引き込む作戦もあります。
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国土が広く、かつ気候が厳しいと有効な作戦であり、ロシアはこれでナポレオンとヒトラーに勝利しました。
敵のホームへ深く入る危険性に、勢いよく攻める側は気づきません。
越前へ攻め込んだ織田方はノリに乗っています。
柴田勝家は諸将を前に、本陣を移して軍議は明日開き、今宵は決戦に備えて休むとテキパキと指示。
安藤政信さんの個性と、キャリアと、柴田勝家がピッタリハマっている。
真っ直ぐで、まだ本音と建前の使い分けができるまでには至っていない、そういうところが絶妙に噛み合っているから、見ているだけでワクワクします。
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ここで藤吉郎が張り切って、酒の手配をしています。どの宴会でも幹事に欲しいタイプですね。
家康と干し柿
完全に勢いに乗っている織田方。
南は、小谷城の妹婿・浅井長政に守らせ、一気に一乗谷を攻めると言い出します。
一座が盛り上がる中、光秀は宴席を一人抜け出しました。すると先に徳川家康も来ており、葵を背負った背中が見えてきます。
「徳川殿……」
そう声をかけると、暗闇の中で家康は静かに思い出を語ります。
いつぞや、薬草売りの百姓からもろうた干し柿の味、今も忘れてはいない――。
光秀は「干し柿?」と不思議がります。
そうでした、幼い竹千代に干し柿を与えていました。光秀は驚いています。正体を見破られていた上に覚えていた!
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家康には類稀な記憶力があり、かつ即座に引き出せる特技がある。
これは信長も同様で、光秀が変装してお忍びで見ていたことを、魚を売りながら知っていた。そのえうで思い出していました。
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少ないながら、こういう人っておりますよね。嘘でも創作でもない。味覚という五感とセットになっていたことで、より強く記憶に残っていた可能性はあるでしょう。
家康はしみじみと、光秀に語ります。
あの時教わったこと。待つとはどういうことか、耐え忍ぶとはどういうことかを。
そして家康は、大きな問いを投げ掛けます。
「我々武士は、何のために戦うのでしょうか? 笑われるかもしれませぬが、私は争いごとのない、戦のない世を作る。そのために戦うのだと、禅坊主の問答のようなことをそのためにたたかうのだと ぜんぼうずの問答のようなことを時々本気で考えてみることがあります」
これには光秀も「分かります」と言える。
「しかし、そのような世の中が、果たして我らが生きているうちに訪れるのか? その時が来るまで、どのくらい戦を続けねばならぬのか……」
なかなかスケールが大きく、かつ、本作の根底にある思想に迫りました。
仁政のために、手を血に染める。そういう覚悟が彼らにはある。
義昭には欠けている【理】詰めの覚悟であり、信長には欠けている【情】であり。
ここで光秀と家康の二人が会話をするのは、偶然ではなく必然なのでしょう。
家康だって、誰にでもこんなことは言えない。禅坊主じみていると自虐するくらいの自覚があります。光秀だから言えることなのでしょう。
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