どうする家康感想あらすじレビュー

どうする家康感想あらすじ

『どうする家康』感想あらすじレビュー第35回「欲望の怪物」

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『どうする家康』感想あらすじレビュー第35回「欲望の怪物」
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ドラマ鑑賞者との共犯関係

一連の報道には、心身ともに疲弊しきっています。

しかし、いつかこういう日は来るだろうとは思っていました。何かが危ういだろうと。

去年の『鎌倉殿の13人』では、古参の腐女子、BL好きだという視聴者が、源実朝北条泰時の描写に「萌えない」という感想をつけていました。

こうした声が、男性の同性愛描写がすべて自分が萌えるためのサービスだと考えているのかと思ったら、気分が暗くなってしまったのです。

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描写として秀逸かどうか……ではなく「自分が萌えるかどうか」「自分が好きかどうか」で決めてしまう。

誰だってそういう部分はあると思いますが、行き過ぎてはまずいでしょう。ファンは仕方ないにせよ、問題はクリエイターがそこに迎合しすぎること。よいものを作った結果「バズる」のではなく、最初から「バズる」ことを狙うと、作品の骨格が溶けます。

そしてもう一点。作品がいくら好きだろうと、背後にある倫理観も問わねばなりません。

例に挙げたい作品として、放送10年を迎えた朝ドラ『あまちゃん』があります。

あれは楽しい作品でした。

しかし、好きかと言われると「もちろん!」とはもう言えなくなってしまいました。

あのドラマはどうしたって、AKBビジネスを無毒化し、ロンダリングしているように思えます。

私がもう一度『あまちゃん』が好きだと言えるようになるのは、そのあたりがハッキリとしてから。好みと人倫は分けて考えなければならないと思います。

吉本興業ロンダリングの朝ドラ『わろてんか』のように、作品自体の出来が悪ければ悩まずに済むからまだマシなのですが。

ネットニュースについては、PV(閲覧数)を稼げればいいのか。描写として適切かどうか、倫理観の是非よりも、「萌える」かそうでないか、そこに注目する記事が増えています。

その弊害を思うと、そろそろ見直すべきではないかと感じていたところです。

事務所。ファンダム。劣情。そんなものにつけ込むばかりでよいのかと。

ジャニーズ問題で顕在化された感はありますが、朝ドラや大河ドラマのニュースは、近年、どんどん下劣になっているとは思っていました。

たとえば2018年朝ドラ『まんぷく』では、憲兵拷問を受ける俳優に劣情を抱いて盛り上がっているSNS投稿がありました。

この事件はモデルとなった人物も深刻な負傷をしています。憲兵の拷問では落命した方もいます。

そういう悲劇であるにもかかわらず、それをソフトポルノめいた演出にし、萌えるだのなんだの言い募ることはあまりに無神経ではありませんか?

それこそ先日話題となった「バーベンハイマー騒動」よりも、ある意味悪辣に思えます。

日本の視聴者が、日本の公共放送が作る、戦争被害者を侮辱するドラマをみて、遊んでいるわけですから。

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朝ドラではなく大河に話を戻しましょう。

『どうする家康』はなぜ失敗したのか?

私なりの分析であれば、『青天を衝け』が成功したことを一因にあげます。

あのドラマは、最新の研究成果をアリバイ的に取り入れただけで、悪質な捏造や歪曲も多い。VFXや小道具の作りも拙い。

それでも受けたのは、SNSでいかにも盛り上がりそうな小ネタの使い方がうまかったこと。

イケメンラッシュ。勝ち組である。そういった小技のうまさがあるのでしょう。

その小ネタの一例がこちらです。

◆「青天を衝け」大河名物!?吉沢亮のふんどし姿に反響 「大河恒例の裸」「大河のふんどしタイム」(→link

「大河恒例」だのなんだの書かれていますが、記事にもあるように『麒麟がくる』ではやりません。

そもそもこの場面はおかしかった。必然性もないうえに、役柄はまだほんの子どもです。

子どもがうっかりして下着姿になることに萌えただの興奮しただの、演者が成人であっても、そういうラッキースケベ狙いはあまりに下劣で嫌でたまりませんでした。

このドラマでは、安政の大獄で処刑される橋本左内が、どういうわけか松平春嶽と共に半裸で蒸し風呂に入るような、わけのわからないサービスシーンもありました。

非業の死を遂げた人物をお色気要員に使うデリカシーのなさに嫌気がさしたものです。

こういうラッキースケベはどうにも好きになれない。

全てのお色気が悪いわけではありません。

『鎌倉殿の13人』で八田知家三浦義村が、堂々と脱いでいる様は、それこそ運慶の金剛力士像のようで素晴らしかった。

頼朝の前で身をくねらせる北条政子。琵琶を奏でる実衣。あざとさ満点で歩いてくる源仲章

彼らは自分自身の持つ艶かしい力を意識的に使っていて、それは素晴らしかった。

そういう自覚した上での色気ならわかります。けれどもああいう覗き見的なお色気描写はどうなのでしょう。

それに何よりも『まんぷく』『青天を衝け』のような下劣極まりない演出とそれを喜ぶ反応に、演じる俳優は納得できていたのでしょうか。

ああいうネットニュースを見てうんざりしていてもおかしくないと思います。

評価されたいのは演技力や脚本の解釈であり、色気があるとかないとか、二の次では?

NHKのドラマで騙し討ちのようにお色気セクシー演出をされて、彼らはそれでよかったのでしょうか?

どうしたって心配になってしまいます。演じる役者があまりに気の毒です。

これが性別が逆であれば、問題になっていたのではないかとも思います。

女優が拷問を受ける場面がセクシーに演出されるとか。少女時代のヒロインがうっかり転んで泥まみれになり、半裸になるとか。そんな場面なら大問題になったのでは?

ではなぜ、問題視されなかったのか?

これはジャニーズ問題の根底にある差別意識と一致するのではありませんか。

つまり男性相手だとハラスメントの認識が弱くなるという性差別です。

そして、低年齢の相手だろうと性的にみてなんとも思わないこと。そういう日本にある構図が、少年渋沢栄一のふんどし姿にはしゃぐメディアからも透けて見えます。

◆ジャニー喜多川氏の「好み」と女性ファンの「好み」は恐ろしいほど一致していた…本当にファンに罪はないのか 海外からは異様と映るほどの低年齢志向(→link

上記の記事に、同様の指摘があり、引用させていただきます。

「ファンに罪はない」? 私が知る中には、「ジャニーさんのそういう噂」を知り、自分のジャニーズJr.の「推し」がそんな関係性の中で取り立てられてデビューしたりセンターに立つことに疑問を持たないどころか「頑張った」と評価してきた人は決して少なくなかった。

男性同性愛の加害被害関係に「萌え」を感じてあれこれの思いを開陳する女性ファンも決して少なくはなかった。

だが、性別が逆だったらそれどころじゃないはずだ。

 

過ちては改むるに憚ること勿れ

過ちては改むるに憚ること勿れ。『論語』「学而」

間違って修正することを、他人や周囲の目を気にしすぎてためらってはいけないよ。

話をもう一度、『青天を衝け』に戻します。

あれが成功したのは本当によろしくなかった。あのドラマの良識のなさはタガが外れている。

そのドラマの空気を伝える記事がこちらです。

◆『青天を衝け』山崎育三郎演じる伊藤博文はセクシー!? 渋沢栄一に「色の道」を教えた“屈指の女好き”エピソード(→link

渋沢栄一にせよ、伊藤博文にせよ。性的な逸脱を「セクシー」だのなんだの誤魔化すように誘導する。

レオポルド2世礼賛といい、これがNHKのすることかと呆れていました。

女好きがもはや異常レベルの伊藤博文~女を掃いて捨てる箒と呼ばれ

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女遊びが強烈すぎる渋沢スキャンダル!大河ドラマで描けなかったもう一つの顔

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そしてNHKもわかってやっている。

9月4日放映『映像の世紀 バタフライ・エフェクト』「関東大震災 復興から太平洋戦争への18年」では、渋沢栄一の天譴論がもたらす負の影響を扱っていました。

本当は怖い渋沢栄一 テロに傾倒し 友を見捨て 労働者に厳しく 論語解釈も怪しい

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『青天を衝け』では渋沢栄一の負の一面を放置するどころか、特定の思想者が渋沢の命を狙っていたという場面を堂々と放映しました。

実際にはそんなことはなく、むしろ思想者が震災を悪用され、冤罪逮捕殺害事件が起きました。

その手のデマがどれほど危険なのか。映画『福田村事件』のことでも考えて欲しいものです。

ともかく、NHKは悪質極まりないドラマを、問題点がわかっていながら放映した。人倫にもとることを堂々とやってのけた。それでもマスメディアは誉めていた。

そういう甘っちょろい態度が大河制作班をつけあがらせたのではないかと、私は考えています。

『らんまん』なり、『大奥』シーズン2では、もっとまっとうで良心的な近代描写になっていると期待したいところですが。

 

禁じ手に頼ったらいずれ破滅する

『どうする家康』のクオリティは、もう問うべきものですらないとも思います。

徳川家康をダシに使った主演俳優のプロモーションビデオでしかない。

ジャニーズの広告降板をみていると、それを嘆くSNS投稿も当然目につきます。

推しが宣伝しているから買ったのに――そんな嘆きの声です。

推しの広告商品に金を落とすことで、自分の存在意義を確かめる。ルターが嘆いた免罪符に金を払うようなシステムがどうやらできているようでした。

要するに今年の大河は、そんなジャニーズ免罪符でバズろうとした。

歴史劇を作るのではなく、主演PVを作ればいいと逃げたと。

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そういう消費者はその商品の効能なり、品質に魅了されたから買っているわけではない。

刹那的なジャニーズファンを頼りにしていたら、開発のモチベーションは削がれかねない。

危険なものだと痛感させられます。

いわばドーピングのようなものかもしれない。それを大河で、絶対に負けたくない誰かが使ったとしたらどうでしょう?

そのヒントはステラのこの記事にあります。

◆大河ドラマ「どうする家康」は「平清盛」のリベンジ作!? 初回放送で見えた!今後の注目ポイントはココだ!(→link

NHK関連のメディアだけに持ち上げ方は凄まじいです。

一部を引用いたしましょう。

ただ、私はちょっと違うポイントで見ている。

今作の制作統括は、大河ドラマ「平清盛」(2012年)でも制作統括を務めた磯智明チーフ・プロデューサー(CP)という点だ。

今でこそ、大河ドラマフリークの間で“名作”の呼び声も高い「平清盛」だが、放送当時は、「映像が暗い」「画面が見にくい」など不当ともいえる批判が先行し、大河ドラマ史上初めて各回視聴率が2桁を切ってしまった作品なのだ。

磯CPにとって、無念だったに違いない。この作品を愛していた私としても、悔しくて悔しくて!

あれから11年、磯CPが満を持して制作したのが「どうする家康」。

今作にかける思いは、いかばかりか……。おかえりなさい、磯CP! 個人的に、今作を磯CPの“リベンジ作”と位置付けている私としては、ひときわ期待しているわけなのです。

視聴者側を責めるその精神性が、あまりにひどいではありませんか。

それでもっと良いものを作ろうと反省するのではなく、ジャニーズ主演という禁じ手に手を出したのでは? どうしたってそう思ってしまいます。

ジャニーズと周囲の異常な関係性が顕になればなるほど、その疑念は深まるばかりです。

今年の大河の映像クオリティが低いことも、ジャニーズ依存で説明がつくかもしれない。ジャニーズとの契約がいかに異常であるのかも明かされつつあります。

大河ドラマは出演者のギャラが安いことで有名です。しかし、今年はそうではないかもしれない。

一部出演者へのギャラ、あるいは宣伝料に費やしてしまい、撮影そのものに金が回っていない可能性があるのでは?

◆「全ての権利は太陽系全域において、事務所に独占的に帰属する」だって!?...ジャニーズ事務所の「専属契約書」の中身が予想の遥か上だった(→link

◆「売上の75%が事務所の取り分、残り25%をメンバー人数で配分する」「契約破棄もできない⁉」...性加害問題に続くジャニーズ事務所の「専属契約書」問題(→link

そういう禁じ手を使うものを褒めれば褒めるほど、大河ドラマは衰退に近づいてしまう。

歴史を描くことよりも、目先の小銭稼ぎや名誉欲に屈してしまう。

そんな作り手は一切信じられません。

大河をネタにしてSNSやYouTube で歴史トリビアでも披露すればある程度バズるでしょう。

しかし、それで得られる小銭のために歴史そのものを侮辱することの是非を私は問いたいのです。

 

「推し活」そのものも曲がり角に来ている

つらつらと書いてきまして、最後にもうひとつ。

近年「推し活」が盛んになってきています。

けれども、いったん立ち止まった方が良いのかもしれません。

◆ジャニーズ問題 ファンは「推し」文化を改善できる 豪研究者は語る(→link

◆(藤田直哉のネット方面見聞録)「推し」活が陰謀論に傾くと、行き着く先は(→link

推し活は自分が解き放たれたようで楽しい!

それはそうですが、同時に思考停止の危険性もあるでしょう。

前段で書いたように、推しの広告する商品にお金を落とすことを生きがいにしている人はいます。

それがあなたの寿命を縮めると指摘したら、あなたは笑い飛ばせますか?

野生動物にせよ、近代以前の人類にせよ、自分に必要な栄養素を摂取していて、よほどのことがなければ肥満しませんでした。

それが近代以降、資本主義が発達すると、食べないでも良いものを食べるようになる。

結果、肥満や生活習慣病にかかることが増えてしまった。

一因としては、いうまでもなく脂肪や炭水化物を過剰摂取させる食品加工にあります。

同時に広告の影響もあります。

食欲を煽り、健康によいような広告を作って売り込むことに、現代の企業は注力しています。

かつてはタバコがそうでした。現在のタバコのパッケージに警告が書かれているのは、先人が裁判や活動をしてきた結果です。かつては映画やドラマで格好つけてタバコをふかす人物は定番でした。

タバコ会社は莫大な金を払い、カーレーシングチームのスポンサーになり、タバコはかっこいいと宣伝しました。

そうして毒を吸わせることに成功していたのです。

現代日本では、推しの活用がよりやすやすと目的達成を叶えることでしょう。

コラボでもなんでもすれば、非健康的なものでも食べさせることができます。

いくら推しが宣伝しているからって、キャンペーン期間中、毎日ずっと同じファストフードを食べ続けたら、体には悪影響があるかもしれません。そう立ち止まることも大事なのでは?

推しにより帰属意識ができることも楽かもしれない。

しかし、これを機に一度立ち止まってみる必要があるのではありませんか?

推し活とは、健康や人倫を犠牲にしてまで為すべきものではないでしょう。

歴史上の人物による推し活はいいですよ。対象が亡くなっていると安心です。

新史料の発見により外道な側面があらわになる。題材にした作品がとんでもないことになる。

そういうリスクがないわけでもありませんが、それでも広告代理店臭さが薄いだけまだマシです。

なお、NHKへの意見につきましては、SNSやヤフコメで綴るより、直接、送ったほうが効果的と思われますので、その際は、以下のリンクをご利用ください。

◆NHK みなさまの声(→link

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文:武者震之助note

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【参考】
どうする家康/公式サイト

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