鎌倉殿の13人感想あらすじ

鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー第12回「亀の前事件」

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MVP:亀

大河でここまでできるのか……恐ろしいことになった。

色目を使うと言われる亀。頼朝、それに義村を引き寄せる亀。

といっても、広常のような男はむしろ煙たがっている。

亀って結局何なのか?

色香があるということでしょう。これは頼朝にも言えることではあるのですが、見た瞬間に若くて美形だとわかる役者ではこうはならない。

人生経験。知性。手練手管。

そういう何かが唯一無二で、きっと心惹かれ、堕ちていってしまうのだろう。

そういうものを江口のりこさんだからこそ出せましたよね。

それが何がはっきりわからないこそ、深みがある。どういうことかと考えてしまう。それが、その考えることそのものが、色香というものじゃないかと。

このひとの魅力ってなに?

そうぐるぐる回って考えて、そのせいで忘れられなくなることそのものが、色香なんじゃないかと思う。

そして亀は積極的に「淫ら」なところがいい。

亀は意図的に人物像が作られています。

漁師の妻であるほど身分は低くなさそうではあるし、残された断片的な話とも一致しないことが多いのです。

何がって、一番は「淫ら」なところ。

「淫ら」というのも時代が反映されて、それこそ夫以外の男をチラッとみるだけでそう言われるようなこともあった。

亀は夫の権三をついでに討ち取れと、イキナリ言ってましたし。義村の誘いも「悪くない」だし。広常にも色目を使っているというし。

生きることそのものが好きで楽しくてしょうがない。

ゆえに「淫ら」だ!

楽しいことの中には、イケメンとのロマンスも入るんでしょうね。

そういうロマンスをこちらから食らいつきにいってもいい。そういう開き直りを感じて、清々しいとすら思えました。

生きることを楽しんでいる。そのことが亀の魅力だと思いました。

すごい人物が生まれましたね。

本当に素晴らしい。

 

総評

亀の前騒動は、昨年の時点で楽しみだと書いていました。

『青天を衝け』で、主人公の妻である千代が、ため息をつきながら妻妾同居を提案したあたりでそう書きました。

本作については、コメディタッチが過ぎるという意見もあると思いますが、この事件は淡々と史実を追いかけてもコメディになるからもう諦めるしかありません。

むしろ今回は、事件をより理知的に解剖し、いろいろな伏線を入れてきていると思えました。

・りくの思惑

→りくが政子に告げ口したことは史実通り。

では、その動機は?

りくが政子に同情した?

それとも……そこは利害関係を匂わせています。

北条の影響力低下に苛立っていたりくとしては、北条政子の怒りを示すことでそれを示したかったと。

・政子の冷静さ

→政子は怒り狂うわけではなく、むしろ抑制が効いています。

冷静になってどうすれば一番効果があがるのか、値踏みしているとわかる。

政子はキレやすい女?

いや、感情を制御できていないのはむしろ男性(ノリノリで破壊する義経・怒鳴る頼朝・泣く義時)でしょう。

実衣、策士の芽生え

→唐突にそうなるのではなく、現時点でそうなりつつある。幼いころから彼女には何かがあります。

・義経の危険性

→強引ではありますが、義経を絡ませることで、彼が命令違反をする傾向がある伏線を出してきました。

・時政は野心家というよりも

→時政が牧宗親のことに怒り、伊豆へ戻るのは史実準拠です。その動機づけとして、妻と娘を貶されたと示されていて、時政が憎めなくなりましたね。

なんとまあ、パズルのように高度なことか。これを仕上げる三谷さんは楽しそうだ。

いや、大変だということはわかっています。

でも彼の大得意要素が毎週みっちりある。

彼は推理ものも大好きだから、断片を組み合わせて伏線にしたり、結論を導くプロットが好きでしょう。

しかしきっと、難解すぎて通らなかったんじゃないかと思う。

それを今年の大河は通せるみたいで。

ありのままの脚本を書ける喜びがあるのでは?

そういう満足感が伝わってきてよいのです。

そうだ。来週ですが、木曽義仲挙兵の地である丸子を来訪するため、レビューの公開が遅れます。申し訳ありません。

 

“女の権力”を成立させる「双系制」

今週は亀の前事件でした。

このドラマで押し出す理由は何でしょう?

考察がありました。

◆大河、小池栄子VS江口のりこで「亀の前事件」 三谷幸喜が“女のバトル”押し出す狙い(→link

要約しますと、もはや時代錯誤的な芸能界のセオリー分析です。

週刊誌にせよ、ネットニュースにせよ、こういう「女同士はドロドロしてるよね〜」という偏見は定番です。

以下のような記事タイトルからも明らかです。

◆頼朝の浮気発覚で北条政子・亀が“女の争い”!NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』12話(→link

でも、ここはもっと深掘りしてみませんか?

なぜ、我々はニヤニヤしながら女同士の争いを「こえーw」「ドロドロw」と楽しむのか。

・女を見下せるから。ミソジニー心理を刺激する

→女同士はどうせ団結できない足の引っ張り合いをする連中だ。

そうニヤニヤしたい気持ちはどうしたってあるのでしょう。

海外では「日本のフィクションがまた女同士で戦わせてる……」という呆れ声もあります。

・実はそこまで深刻でもない

→男同士のもっと恐ろしい争いは既に出てきておりますね。

前回は義経が義援を貶めたもっとえげつない争いがありました。

あそこまで殺伐としていないから、軽い気持ちでおちょくれるのです。

義円と義経の一件をおちょくったりしたら人でなし扱いされますしね。

・争う対象が男の寵愛だから

→バーチャル大奥とその将軍気分になれます。ハーレムを見守るムフフ心理を刺激します。

さて、劇中では今後、北条政子と丹後局のような、有能な女性同士が政局を左右する局面があります。

そのときどういう反応になるか、楽しみに待っておきましょう。

あと、これは私は的外れだと思います。

×当時も現代人も、嫉妬心は同じだから

→これは昨年の『青天を衝け』が否定します。

ヒロインの千代は影でため息をつきながらも、妻妾同居を受け入れていました。

政子と千代はまるでちがう。人間の心理は時代と価値観が左右するものであり、普遍的であるか、常に疑念を持つことが歴史を学ぶヒントになります。

芸能界のセオリーはさておき、歴史の観点からみてみましょう。

最近注目のキーワードがあります「双系制」です。

おすすめの記事はこちら。

◆古代、女帝は例外ではなく普遍だった|ちくま新書|義江 明子(→link

◆<女性差別は伝統か 能町みね子×義江明子> (上) 能町・「政治は男」明治からの先入観 義江・古代は男女の区別ない社会(→link

◆ <女性差別は伝統か 能町みね子×義江明子> (下) 義江・小さな声が変化生む 能町・中間点取るのも大事(→link

なぜ、男性が女性より上とされたのか?

有史以来そうなのか?

このことを歴史学により解明するという流れがある。

そして古今東西、かつては父系と母系の双方を重視していたと解明されつつあります。

考えてみれば当然のことと言えます。

人間が生存できる環境が厳しいのであれば、男女ともに頼りにする方が確実であるし、ありとあらゆる作業を男女でした方が効率的です。

それが貯蔵庫ができ、経済が発展し、都市が形成されると、変わってゆきます。

男を楽しませるだけ。

子を産むだけ。

そういう労働力としては役に立たない女を囲う余裕が出てくると。

西洋のコルセットや中国の纏足といった、女性の身体能力を低くする人体改造は、余裕がある社会が産んだものといえます。

『鎌倉殿の13人』は、こうした女性像が入り混じっています。

西から来たりくは、動きにくい貴族の装束を着ている。政子のように動き回ることはやりたがらない。

東の政子は、動きやすい服装をして、きびきびと働いていた。それが地位の上昇とともに、動きにくい服装になってゆくと。

この時代は、男系も女系も重要です。

政子が亀をぶっ潰す理由は、性格が激しいからだけとは言えない。

政子は北条の力を持つ。一方で家が没落した八重には、そんなものはない。政子は怒れば実家を振り回しつつ暴れられる。八重はできないから泣き寝入り。

女性の持つ権力が反映されているのです。

そして、こと北条の力を振り回すとなれば、りくの思惑も一致する。

りくは時政が軽んじられていると不満を募らせています。そこで北条の力を爆発させ、見せつけてやれば、頼朝だって考えが変わるかもしれない。

北条の力を振り回すという利が一致したからこそ、りくは政子に入れ知恵をしたのです。

こうしてみると女系の力がわかる一方、頼朝のあやまちも見えてきます。

頼朝は、自らの体に流れる男系の正統性を貶める選択をし続けております。

義円が先週討死しました。

彼の兄弟も今後、次から次へと命を落とします。

しかも、頼朝の手によってそうなる者もいる。

そして源為義にまで遡れば同じ河内源氏の血を引く、木曽義仲の子・義高も手にかけます。

頼朝は、自分が幼い頃に命を救われ、そして決起したからこそ、根絶やしにしてしまう猜疑心が根付きました。

けれども、正統性の源である男系の血を絶やし続けたら、リスクは高まります。

別に河内源氏をどうしようが祟りもないし、ならばやってやろうじゃないか!こういう心理は働くだろうし。

そもそもが、男系を根絶やしにしたからこそ、頼朝のあとすぐに断絶してしまうわけですし。

頼朝がもっと器の大きさを見せつけるなり、制度を整備するなりして、同じ血族を絶やし続けなければ……そう思えます。

それとともに、男系の血脈を重視することが最初から日本の伝統でなかったこともわかります。

このあたりをどう描くか。

今年は注目しています。

女性の活躍というのは、ヒロインが味噌汁やおにぎりを振る舞うと周囲が感動して何かが起こるとか。

胸をぐるぐるさせながらおもてなしをするとか。

そういうわけのわからんことでは説明はつきません。

歴史のアプローチを用いて描く。本作には、そんな当然の使命を全うして欲しいと願います。

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文官と武官

今年の大河には珍しい制度がいくつも出てきます。

今週、大江広元たちが西からやってきました。

彼らは「文官」とされています。

坂東にも実務能力のある人はいます。義時もそつなくこなしていますし、梶原景時も相当の知能派です。

しかし、彼らは「武官」。

それでは足りないから「文官」が呼ばれてきた。

文官と武官が分かれている。それがこの時代だとわかります。

日本の独自性は、他国と比較することでわかりやすくなります。

中国と朝鮮半島では、明確に「文官上位」です。

時代もの作品を見ると、文官と武官は一目でわかる制服を着ています。

文官選抜は科挙。武官は武科挙が制定されました。

日本にも科挙は導入されたものの、定着しませんでした。それでも文官上位という認識はあったためか、武官である武士、こと坂東のものは下と見る意識があったとみなせます。

意識は導入したものの、制度はそこまで固めなかった。

ゆえに鎌倉時代以降、武士が文武両道の存在となってゆき、文官上位は崩れます。

中国や朝鮮半島の歴史と比較すると、日本は文武両道の武士がいる変わった国ということになるのです。

『鎌倉殿の13人』は、そんな日本史の特徴が定着する前ゆえ、文官と武官がいます。

ただし、文官上位ではなく、武官が伸びているからこそ、大江広元はその可能性を見出した。

そんなことを意識しながら見ていくと、さらにドラマが面白くなると思います。

※著者の関連noteはこちらから!(→link

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◆鎌倉殿の13人キャスト

◆鎌倉殿の13人全視聴率

文:武者震之助(note
絵:小久ヒロ

【参考】
鎌倉殿の13人/公式サイト

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