鎌倉殿の13人感想あらすじ

鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー第16回「伝説の幕開け」

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MVP:源義経と梶原景時

このドラマの義経には感謝しています。

義経というのは、私が子ども向け『義経記』を読んで以来、長いこと好きな人物でした。人生初の推しと言ってもよいほど特別な存在。

今回の義経は、そんな像を木端みじんに吹き飛ばしてくれる。

これが爽快なのです。

義経という邪悪な輝きにより、他の将の個性が際立って見えてきます。

畠山重忠は、理想的な源平の武士だと思えます。

見目麗しく聡明で優しい。昔好きだった義経像って、実はこの重忠なのではないかと思えます。

前にも言ったので繰り返しとなりますが、理想の源平武者の絵が生きて動いているようで、毎回驚いてしまいます。

大人になるというのは、源範頼の良さを理解することかもしれない。

地味な人だと思っていたけれど、優しくて組織の潤滑剤になる範頼こそ、本当の名将だと思えます。強さよりも、賢さよりも、大事なものはありますよね。

平知盛の勇敢さ。

平宗盛の安寧を願う誠実も美しい。

そういうそれぞれのよさを組み合わせた源平武者が、かつて自分が好きだった義経なのかもしれない。そう思えてしまいました。

そしてしみじみと、義経より景時の方が時代を先んじていて、組織の一員として有能で、実は役立つ人材ではないかと思えてきます。

景時は場の空気を理解している。

義経はまったく意に介さない。こういう人間がいるとチームワークがズタズタになり、かえってパフォーマンスが落ちます。

そういうバランスを見ていくと、実は景時の方が上ではないかと痛感できる。

景時は先天的な才能ではなく、後天的な学びを使いこなす達人です。

演じる役者も素晴らしい。

勝手にこう思っていました。東の染谷将太さんならば、西は菅田将暉さんだと。

こういう性格の濃い天才的な武将を演じるうえで、この年代なら東西でこの二人が競い合うだろうと。

まさにその通り。菅田将暉さんはまるで猛獣。得体の知れない何かが突如現れたような感覚があって見ていて飽きない。

声にノイズがあるというか。甲高かったり濁っていたり、特殊な楽器のようですごい、聞いているだけで不安になる。顔つきも声も獣です。

景時の中村獅童さんも見ていて飽きない。

所作はいつも重々しくて端正。あの表情が消えた顔。妬む顔。悩む顔。

こんな真摯な家臣がいたらどれほど心強いかと思えてきてともかく素晴らしい。

ただの好悪だけでなく、組織の一員としてどうなのか。

そう興味津々として見つめていたくなる、とびきり見事な人間像があります。

 

総評

木曽義仲は「義」と口にします。

そして後白河法皇はそんなものは手前勝手だと言う。

好き勝手に人を操り、騙し討ちの何が悪い!と開き直る義経と気が合っていた。

この対比から、「義」のない人間は空っぽなのではないか?と思えてきました。

たとえ志半ばで斃れるとしても、「義」さえあれば生きたことに意味があると見せつける義仲がいる一方、空洞そのもののような後白河法皇がいる。

そして第三の選択肢も欲しくなります。

義もあって、勝利も飾る――われらが主人公である義時がそんな道を行くとすればどうすべきか?

義については答えが出てきている気がします。

姉の政子は御家人の悩みを聞くと言い切った。これは義のある振る舞いであると、京都人らしい空虚な権力思考を見せるりくとの対比でわかります。

政子の意向に沿えば、義時は義を掲げることはできます。

それは金剛を前にして思う迷いでもよい。

頼朝は金剛を源氏の守り神にするつもりだけれども、義時はそうではなく、ただ我が子に幸せな人生を送らせたいと願っています。

この父としての純粋な思いに、政子の掲げた御家人を幸せにするという義を振りかざして、亡き兄・北条宗時の遺志、それに上総広常の願い……そうやってモヤモヤと考えていくうちに、義のある勝利が拓けてくるのかもしれません。

この義時は、まるで昭和の中間管理職だと共感する方もいるとか。

どこの昭和に、上総広常のような暗殺劇を見る中間管理職がいたというのか。それって『仁義なき戦い』ではないか?とちょっと苦言を呈したくなります。

あくまで彼は平安末から鎌倉初頭の人物です。

それでも現代人にも通じる何かはあるのでしょう。

義と勝利の両立、どうすればできるか?

一人一人が考えると、世の中良くなるかもしれません。自分一人だけのためでなく、皆が幸せになれることを考えればよいのかも。

義時の顔つきは前回あたりから変わりました。

そのヒントを、三谷さんもインタビューで明かしています。

◆「上総介」の死去に広がった衝撃。『鎌倉殿の13人』の“本当の始まり”とは? 脚本の三谷幸喜さんが明かしていた【大河ドラマ】 (→link

義時は、上総広常の死を目撃して、彼なりにこれも必要悪だと学んだのかもしれない。

上総広常
上総広常はなぜ殺された? 頼朝を支えた千葉の大物武士 哀しき最期

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そうはいっても、頼朝を恨む気持ちもある。その折り合いをつけるべく今悩んでいて、それが顔に出てきている。

かつてならば「義」こそ大事だと透き通った目で言えたかもしれないけれど、今はもうそうではない。義に殉じても目的は達成できない。

けれども、義なき勝利はただ虚しい。

そこでどう折り合いをつけるのか?

そんな義時の葛藤への道筋が、じわじわと見えてきたと思えます。

小栗旬さんも理解しているから、キッチリ伝わってくるのでしょうね。がんばってください!

◆小栗旬、「鎌倉殿の13人」北条義時役へ心境「現場は楽しいのに、しんどくなってきた」(→link

 

彼女は、生きてこそ

巴の顛末にはなかなかショックを受けてしまいました。

義仲が生きるように告げるところ。あんなふうに文を託されたら、彼女はそれを反故になんかできない。

そして敵が可愛がってやるというところで、戦場に生きる女性の残酷さを思わされました。

俺と共に来て死んでくれという方が、よほど楽なんじゃないかと。

義仲は素晴らしいけど、ひどい人だと思ってしまった。

でも、それは偏見かもしれません。愛する男に殉じる女性像に縛られ過ぎているのかもしれない。

死ぬよりも、彼女が生きる方がよほど魅力的ではないか?

それは八重の時点でそうだったし、巴もそうなのだと気付かされました。

生きた方がいい。これは最高のヒロイン賛美だと。

しかし、そうなる時に気になることがひとつ。

八重はこの先そう長くはおりません。確率からいくと産褥死がありえる退場ではあるのですが、そうでもないような。

何か不安なので善児にはなるべく早く、ご退場いただくしかないとは思います。

予想では6月5日放送で、善児退場ではないかと思います!

あの男は不穏すぎるのだ。

 

時代の子・義経

源義経には大天才のイメージがある。

しかし、実際にそうだったのか、後世のイメージゆえか。

そこは慎重になった方がよいと本作は示しています。

義経はヤマトタケルとイメージが重なるとは指摘されるところです。

悲劇の天才戦略家が、新しい国づくりのために戦い、非業のうちに死ぬ。そんなところが重なる。

そのせいでわかりにくくなっているけど、そうした分厚いベールを剥ぐ流れが到来しつつあります。

近年の様々な研究成果をふまえ、人格に相当癖があったとされる日本史英雄の定番に入ります。

ちなみにその他の定番としては、織田信長坂本龍馬も入ります。

信長が裏切られ続けた理由は『不器用すぎた天下人』を読めばスッキリします

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自分が好きだから。立派な業績をあげたから。だからきっと人格的にも素晴らしいと、人は思いたがるものですが、実際はそう単純なことでもない。そんな風に示す本作はやはり新しいものがあるとわかります。

義経はこの時代だからこそ英雄となれたのだということもわかる。

「超世の傑」(時代をとわぬ英雄)ではなく、むしろ「時代の子」だろうと。

彼自身は巧みな集団戦術を用いる転換点をうまく捉えているけれども、スタンドプレーがあまりに目立つ。

こういうことは軍隊の組織がもっとしっかりした時代にはむしろ嫌われます。

彼の言動が悪質な意味でも目立っていたからこそ、インパクトが強かったのでしょう。

これより前でも後でも、こうも輝かなかったのだと納得できます。

その時代にピッタリあったからこそ名を成した人物というのはいるものです。

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昨年大河『青天を衝け』の渋沢栄一も、伝記を手がけた幸田露伴にそう思われています。

確かに外国人殺傷思想である攘夷テロ繋がりで人生が開けるなんて、あの時代しか考えられません。

そういう人物を過剰に美化するよりも、今年の義経のような描き方にする方が、歴史もののアプローチとして正解だと思えます。

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※著者の関連noteはこちらから!(→link

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文:武者震之助(note
絵:小久ヒロ

【参考】
鎌倉殿の13人/公式サイト

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