鎌倉殿の13人感想あらすじ

鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー第46回「将軍になった女」

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そして尼将軍になる

7月19日、三寅が鎌倉に到着し、義時の館へ。

実朝が殺されてから半年、季節は冬から夏に変わりました。

幼い三寅は幼いため、元服してから将軍になるとのことで、となるとそれまでどうするのか?

政子の問いかけに、義時は執権として政をするからと言います。

「なりませぬ、あなたは自分を過信しています。三寅様はまだ赤ん坊ですよ。御家人がおとなしく従うはずはない。鎌倉はまた乱れます」

「しかし……」

戸惑う義時の前で、政子は自分を指さします。

「私が鎌倉殿の代わりとなりましょう」

「姉上が……」

「もちろんです。鎌倉殿と同じ力を認めていただきます。呼び方はそうですね、尼将軍にいたしましょう」

納得します。義時はどうにも小物に思える。天命が降りてきても器は大きくならないのだなと。父の北条時政とも異なるせせこましさがあります。

その点、政子は器が大きい。何もかも飲み込む強さがある。

理詰めの義時と、政子の情けにあふれた器量。この両輪があってこそ、鎌倉は安泰ではないでしょうか。

かくしてその日の夕刻、政所始めが行われました。

三寅のお披露目であると同時に、尼将軍政子のお披露目にもなったのです。

義時は姉上にしては珍しい、随分と前に出る、私への戒めかと嫌味を言います。

「すべてが自分を軸に回っていると思うのはよしなさい。どうしてもやっておきたいことがあります。よろしいですね、尼将軍の言うことに逆らってはなりませんよ」

呆れたように姉を見送る弟の義時。でも、ちょっとホッとしているように思えます。

少し水がこぼれて、顔をやっと水面に出して息を吸えたようだ。

政子は義時を救っているのです。

自分を軸にして世界が回る。それはとても疲れてしまうことでもある。指一本動かしただけで誰かの首が飛ぶ状況は辛い。その重荷を政子は代わってあげた。

先週、我が子と孫の死に疲れ果て、死のうとした政子。

そんな彼女が伊豆に戻るというと、勝ち誇ったようにそれを義時は止めました。

政子はそんな運命をしなやかにかわすだけではなく、義時を助けたのです。

誰かを助けることでどこまでも強くなる。素晴らしい尼将軍です。

政子は実衣に、放免になったと伝えに行きます。

「もう大丈夫。誰もあなたを咎めはしません。私は尼将軍になりました」

「尼将軍?」

「誰も私には刃向かえない。小四郎もね」

姉妹は抱き合います。

「みんないなくなっちゃった。とうとう二人きり。支え合って参りましょう。昔みたいに」

「はい……」

政子は、大姫の唱えていたあの呪文を唱えます。

ウンタラクーソワカー

実衣が訂正します。

ボンタラクーソワカー

呟き合う姉妹。

正しくは「オンタラクソワカ」ですが、それはともかく、枯れた花のようだった実衣に、政子が水を注ぎ、活き活きと気力を取り戻している。

小池栄子さんと宮澤エマさん姉妹が、圧倒的な美しさを見せてきます。

 

MVP:尼将軍・北条政子

北条政子像は重要。

なぜなら彼女の評価は時代によって変わるから。

時代が「女性をどう見ているか?」ということを反映している。

戦国時代までは女性の家長がいます。政子はうってつけのロールモデルといえました。

しかしそれが江戸時代になると、嘲笑の対象となってゆきます。

大河ドラマでも描き方もそうで、時代と作品によって異なります。

令和の社会は、女性とどう向き合っているか。ロールモデルとなり得るのか。今後の女性と社会の関わりを示唆するうえでも重要です。

そんな政子を描くということは、三谷さんはじめ制作陣にとっても、そして演じる小池栄子さんにとっても大きな挑戦です。

この政子像は転ぶことができない。

ある意味、主役である義時よりも重要とされてもおかしくない。

どれほどプレッシャーをかけようと、本作ならばできるんじゃないか。

そう信じ続けて見守り、報われた万感の思いが湧いてきます。

この政子は、本作製作者も熱心に見ている『ゲーム・オブ・スローンズ』の女王像を超越できたかもしれない!と思えました。

ネタバレになりつつ書きますが、あのドラマは女性君主の扱いに納得できないファンが大勢いました。

特に最も人気ある女王であるデナーリスの扱いは、あまりに酷いと失望したファンが多かったのです。

あの作品は権力を持つおそろしさを描くと言う点では、『鎌倉殿の13人』と一致するわけです。デナーリスもそこから逃れられずに破滅してしまいます。

それはそれでテーマに合っているけれども、彼女ならばよい女王になるという希望はどこへ消えたのか。

女性が王座に座る。そして納得できる流れにする……これを本作の尼将軍はやってのけたと思えます。

政子は扱いやすい傀儡として義時に擁立されるのではない。自発的に、むしろ義時を出し抜いて尼将軍になります。

それは権力のためではなく、愛する妹をどうにかして救うため。一緒に抱き合って幼い頃のように他愛のないことを言い合うため。

妹を救い、自分自身をも救う。

誰かを救う過程で癒しを得る。

権力を行使するのではなく、救うことに目的を見出す。

しかもその過程で出し抜いたはずの義時まで、やっと息ができるようになったような安堵感が漂っていました。

大江広元に完全同意するしかない。

ひれ伏すしかないほど神々しい尼将軍がいて、もううっとりとするしかありませんね。

あのドラマのデナーリスへの失望が、まさか大河で癒されるとは思いませんでした。お見事です!

 

大河とミソジニー(女嫌い)

次回予告で北条政子が菊の花のような頭巾を被り、凛として演説する姿がありましたね。

尼将軍でありながら菩薩のようで崇拝したくなる、そんな女性像がそこにはあります。ウメのように視聴者も憧れるような、説得力があるでしょう。

北条政子がいて、尼将軍になって、本当によかった。

そんな圧巻の素晴らしさでしたが、世間にはこんな声もあるようです。

◆NHK「鎌倉殿の13人」闇を断つためにあなたは何をなされた…義時の政子への怒りに視聴者「もっと言うたれ」(→link

言わんとするところはわかります。

頼朝の死後、伊豆へ戻ると言い出した義時を政子が止めた。どっちもどっち。そう言いたいのでしょう。

しかし、立場や状況の違いがあります。

・頼朝死後の義時は、頼朝から政治ノウハウを学んできている有力御家人

・一方の政子は、頼朝から政治に関わるなと言われてきた

この状態で伊豆へ引っ込むという義時は、かなり無責任ではありませんか。

では実朝の死後は?

・義時は執権である。泰時や時房、大江広元もいる。実質的に鎌倉ナンバーワン

・政子は我が子の最後の一人と孫を同時に失った。夫もいない。出家しても全くおかしくない

政子があの状況で義時を止めるのはわかります。何もできない、どうしようもない。

一方で実力も地位もある義時が、頼朝妻という政子の立場欲しさに止めるのは、いささか冷血ではありませんか。

この回の義時は、のえにも、義村にも、相当無茶苦茶で異常な言動を繰り返しています。政子とのやりとりもそうでしょう。

それなのに、ここで「もっと言うたれ」とSNSに発作的に書き込む側も、それをまとめてネットニュースにする側も、どういうことなのか。

あなた方の思う通りにはさせない!――泰時みたいに思わず叫びたくなります。水に落ちて溺れている政子を棒でぶん殴るような所業ですよね。

なぜ政子をさらに責め立てようとするのか?

理由を考えてみると、そこにはミソジニー(女嫌い)があったりしませんか。

思い出すのは『麒麟がくる』の駒叩きです。

大河ドラマは『三姉妹』や『獅子の時代』のように架空人物が主役を務めたことすらあります。

しかし駒は「大河ではありえない!」と言われ続け、同じく架空キャラの東庵や菊丸より激しく叩かれました。

駒の言動に非常識な点はありません。戦災者を助ける優しい女性です。

それを叩くことが目的化していて、萌えないとか、好みでないとか、足利義昭の愛人だとか、無茶苦茶な叩かれようでした。

私はあれはミソジニー、物言う女を叩く心理ではないかと思っています。

発言者の他の言動を見ていると、ともかく娯楽のように女性を罵倒。それをフォロワー同士で共有し、コミュニケーションの道具にしていたのです。

声の大きな一部大河ファン、いわばノイジーマイノリティは、女叩きを楽しみの一種としているのでは?

だからその層に刺さるアクセス狙いでこの手の記事も出てくるのでは?

せっかく三谷さんが女性スタッフの意見を取り入れ、他の方々も配慮しているのに、ファンダムが女叩きを娯楽としていては、足を引っ張ります。

「大河が面白いっていうけど、ファン同士がギスギスと女叩きしていて無理……韓流華流時代劇にしとこ」

なんて流れになったらどうするのでしょう。VOD花盛りの今、地上波離れを推し進めるようで、制作者に対して失礼極まりない。

とはいえ、今回の政子は、そんなしょうもない叩きを鮮やかに返すほどの活躍でした。

闇を断つために彼女が動くと、義時も参るしかない。

素晴らしい存在感です。

なぜ北条政子は時代によってこうも描き方が違う?尼将軍の評価の変遷

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総評

天命っていうのは、実に残酷ですね。

まさしく不仁。あれほど揺さぶって首根っこを捕まえていた義時なのに、もう飽きて放り出すつもりにも思えました。

先週は魔物そのものだった義時なのに、もう綻びが見えています。

天命のブーストが切れたら、のえあたりにとどめを刺されそうなほど迂闊。あの忠実な時房ですら嫌気がさしてきていますし。

ただ、腕組みラーメン店主じみた藤原秀康を信じている後鳥羽院も隙だらけだし、東の夷が西の華を倒す天命は叶うのでしょう。

そんな急速にしぼみそうな義時のそばで、政子の薫陶を受け、ますます香りを増すように咲いているのが北条泰時です。

義時の限界点を、泰時と政子が見せてきます。

二人は、誰かに慈愛を施すと相手から力をもらい、どんどん強くなる。

一方で義時は、回復手段がありません。どんどんやつれているように思える。

彼は確かに何かに取り憑かれてしまいました。

本来は民の暮らしを見守り、与える善良な人物です。

女子にキノコを与え続ける姿は間抜けでしたけれども、相手を喜ばせて自分も癒しを得たい、そんな純粋さがありましたよね。

泰時にもお土産を持って帰っていた。そういう与える父の像を知っているからこそ、泰時はおかしいと思うのでしょう。

これが天命の出した答えなのだと思えます。

北条氏の政権は黒い。

外戚として台頭し、源氏将軍断絶後に自ら権力を握る。

北条氏、特に得宗家(義時の系統)ばかりを優遇していたことが滅亡につながるなんて言われますけれども、それでも一定の評価を得ているのは、泰時以来の仁ある統治のおかげです。

権力奪取の過程は悪い。どう考えても朝敵だ。

でも、民衆の暮らしを考えていたことは確かである。

そういう民を愛し、統治の正統性を獲得する伏線が今回はありました。

施餓鬼の場面です。

このドラマは残酷なところばかりが注目されがちだけど、そういう優しさやあたたかさが偽善的なポーズではなく、実感を込めて描かれているところが素晴らしいと思います。

藤原秀康
今はここから早う去ね!藤原秀康が後鳥羽上皇に見捨てられ迎えた最期

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※著者の関連noteはこちらから!(→link

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文:武者震之助(note
絵:小久ヒロ

【参考】
鎌倉殿の13人/公式サイト

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