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【鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー第23回「狩りと獲物」】
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MVP:曽我兄弟
今は知名度が下がっているとはいえ、日本人にとっておなじみのヒーローである曽我兄弟。
その役目が変わりました。
敵討ちから世直しのための刺客へ――それなのに、目的を擦り違えられて後世に語られてしまう。
あまりに酷い結末です。
そういう伝説的な役回りを実にうまく十郎役・田邊和也さんと五郎役・田中俊介さんが演じていて、しかも拠り所としての兄弟愛があるところが、素晴らしいと思えました。
義時もしみじみと語っていましたが、一族のためならば手段を選ばないことが、この時代らしさと言えます。
そしてこの兄弟の語る理論は、北条宗時の繰り返しでもある。
坂東武者の、坂東武者による、坂東武者のための世をめざすーーそんな原点回帰を、またも繰り返してきました。
殺陣も大変でした。それでもよく迫力を持ってこなしていました。
こうも曽我兄弟を演じるいきいきと役者がいるだけでも天晴れ。しっかりと足跡を残しました。
総評
富士野に鹿を逐(お)う――そんな回でした。
中原逐鹿という言葉があります。
中原に鹿を逐(お)う。
魏徴(ぎちょう)「述懐」
唐太宗に仕えた政治家・魏徴の言葉です。
中原とは中国の黄河中下流域のこと。多くの王朝で首都が置かれた天下争奪の場所です。
この地域が政治の中心ということになります。そんな場所で鹿を狩る。それは天下を決めることだとされました。
狩猟というのは特別です。
軍事演習という意味合い。そしてまだ中世ですので、神事で守り、今後を占うものでもある。
今回はこの天下趨勢の行方も、中世らしく濃厚に見えてきました。
北条、比企、そして源氏が富士野で鹿を追いかけ、北条が勝つ。そんな筋道が見えています。
そしてそれのみならず、勝利の鍵を握っているのは伊東だとわかります。
ちょっと箇条書きにしてみましょう。
・細工をせねば獲物を取れない万寿と、楽に獲れてしまう金剛
・工藤祐経は八重と金剛が似ていると言う
・その八重が放った矢から、源平合戦が始まったのがこの作品での設定
・頼朝と義時が女を争ったとセリフで語られる、その女とは伊東の八重
・天運が去ったと語る頼朝と、それを横で聞いている義時
まるで天運が八重の姿で地上に降りてきたような。そんな感覚があります。
これは曽我もののオマージュというか、逆転の発想があります。というのも、こんな誘導はありました。
伊東は八重と頼朝を引き裂き、千鶴丸を殺した。
北条は政子と頼朝を引き裂かなかった。
どこで差がついたのだろう?
従来、これは北条勝利とされました。
しかしこのドラマは伊東の娘である八重の血を引く北条泰時が天に選ばれたように思える。
女系として流れる血が運命を決めたように思えます。
これは【双系制】=両親双方の血統を重視する仕組みが見直されている2020年代にあった展開かもしれません。
今回は不思議なのです。
いくらなんでも万寿があそこまで獲れないのか?と不思議に思える。その一方で、義時も感心するほどの聡明さもある。
源頼家に欠けているものーーそれは天運なのかもしれません。
頼朝はうすうす天運が去ったと語っているけど、去った天運が我が子ではなく、義時のもとへ向かうと知ったらどう思うのか……。
海外受けを狙っていけそう
今回は海外展開も狙えそうな内容でした。
例えば狩猟がイベントになるというのは、海外作品でもあります。
イギリス貴族の狐狩りは定番のイベントでもあり、『ダウントン・アビー』でもありました。
が、そこで陰謀やら殺し合いはそうそうない。
むしろ定番なのは、華流、中国の時代劇です。
「逐鹿」は中国由来ですし、軍事演習や神聖な行事としての狩猟という点では同じ。そこで危険な何かが起こる展開は中国でも定番です。
ゆえに本作を中国語圏が見ると、
「おっ? 日本も同じだな!」
と親近感を覚えるのではないかと思います。
実際、中国語圏でも注目されているようです。
そして、髪型や衣装のことも考えたい。
今週の万寿と金剛はやはり無理がある。それは童形ということが大きい。子供が弓を引くと危険だから仕方ないのでしょう。
これがオールバックにして烏帽子を被るとどうなるか? そこが期待したいところ。
東洋の時代劇では、大人になったら男女ともに前髪を作らないことが定番です。
それだと現代人はイマイチかも……そう誤解して妙な髪型にしていた大河もあります。『天地人』や『江』で画像検索をしてみてください。
こういうことをしないでオールバックにして、前髪を作らない方がいい。東洋の時代劇はそれが定番になりつつあると感じます。
韓流にせよ、華流にせよ、時代劇となると前髪は下ろさない。そしてそれがかっこいい。
髪を染めて前髪を垂らしてふわっとした普段のスタイルもいいけれど、時代劇でも素敵! これぞ東洋の美! そういう感覚はありますよね。
世界を相手にするなら、日本でもそれを実現しないとなりませんから、今年の大河はそこをうまく満たしていると思えます。
そんな海外受けを考える上で重要なのは、日宋関係です。
平安末期から鎌倉時代が舞台となると、そこが大事。
戦国ものとなると日明関係が倭寇になって、あまりメインプロットと関係ないし、出す意味もないのでやりません。
その点、日宋関係を描けるこの時代は重要です。
来週は宋から来た陳和卿(ちんなけい)が登場します。彼は重要人物ですので、これは要注目。
ついでに私としては、宋代と中国思想専門で大河ファンの小島毅先生の大河本を期待したくなります。
彼も納得できるようであれば、今年の大河は成功でしょう。
イベント開催と日程で読み解けることがある
今年の大河では新たなイベントも開催されています。
どちらも大河で知名度が上がった人物ゆかりの行事です。
いいですね! 大河でこういう盛り上がり方は原点回帰のようで興味深いものがあります。
そうそう、本作は特定の人物退場のタイミングはトークショーの日程で把握できます。
来週は範頼役の迫田孝也さんと足立遠元役の大野泰広さんトークショーが、修善寺で開催されるそうですよ。
◆【大予測】征夷大将軍になった大泉頼朝「鎌倉殿」の退場はいつになるのか(→link)
ゆえに、この答えは【みんなで見よう! 「鎌倉殿の13人」大泉洋スペシャルトーク&「北海道道」公開収録】開催日の6月26日となります。
みんなで頼朝の落馬からの死を見るわけですか……。
ちなみに私も蒲殿追悼のため、来週は公開が遅れる予定です。
曽我事件は鎌倉幕府の屋台骨を揺るがしかねない大騒動~仇討ちだけにあらず
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※著者の関連noteはこちらから!(→link)
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文:武者震之助(note)
絵:小久ヒロ
【参考】
鎌倉殿の13人/公式サイト