鎌倉殿の13人感想あらすじ

鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー第35回「苦い盃」

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鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー第35回「苦い盃」
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鎌倉を守るとは便利な言葉だ

実朝の側にきて紙を取り出し、花押を記すように告げる時政。

これは何が悪いのか?

疲れているから確認しない実朝か?

悪意を持った時政か?

どんな時代でも、常に人間の悪意やミスはあります。

だからこそ重要な決め事だけは絶対に漏らさないシステムが必要となる。

今回の一件は、時政もわざと文面は見せず、孫の実朝にサインを促していましたが、「文章の中身を読まなければ花押は記さない」あるいは「重臣にも確認させる」といったシステムがあれば防げたでしょう。

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そんなことも露知らず、武蔵では義時が重忠に「とりあえず父はわかってくれた」と告げています。

重忠が鎌倉殿に会い、潔白を誓う起請文を提出する。それをわざわざ言いにきたのかと重忠が義時に問うと、執権殿の気持ちが変わる前にと、互いに盃を口に運びます。

しかし、彼は油断しきっておりません。

「私を呼び寄せて討ち取るつもりではないでしょうね」

「はは、まさか」

重忠は侮らぬようにと告げます。

一度戦となれば一切容赦しない。相手の兵がどれだけいようと、自分なりの戦い方をする。

義時も畠山の兵の強さはわかっていると言います。

重忠は、執権殿と戦うことになったらどちらにつくつもりかと義時に聞いてきます。

「執権殿であろう。それでよいのだ。私があなたでもそうする。鎌倉を守るために」

「だからこそ戦にしたくないのだ」

「しかしよろしいか」

そう重忠は本質をついてきます。

「北条の邪魔になるものは必ず退けられる。鎌倉を守るとは便利な言葉だが、本当にそうなのだろうか? 本当に鎌倉のためを思うなら、あなたが戦う相手は」

「それ以上は」

「あなたはわかっている」

「それ以上は……」

答えられぬ義時です。

 

MVP:歩き巫女と重忠

この二人は幽冥の世界――要するに半分あの世にいます。

巫女は高齢であるし、水を跳ねて呪文を唱え、占いをするときにそうなる。

そうすることで相手の魂やこれから先に待つ世界が見える。

巫女だけに、あの世とこの世の境目にいけるのです。

畠山重忠は違う。

最後の場面は死の予感と覚悟ゆえに、半分魂が抜けてきている。

そんな不思議な場面になっていました。

もうこの世界に生きていないから、義時の迷い、魂も見えてしまっている。

そういう得体の知れない相手に問い詰められて、義時は「それ以上は……」と参るしかない。

山田風太郎『幻燈辻馬車』のラストシーンで、死の覚悟を決めた主人公が、亡くなった妻子と同じ爛光(りんこう)にふちどられていた――とありました。

どういう状態なのか? 想像するしかなかったのですが、今回の重忠にそれを見た気がします。

思えば『麒麟がくる』の最終回光秀にもそんな光があった。

半ばこの世界から飛び立っていて、覚悟を決めた結果、人ではない何かになった。

そういう透明感のある姿を体現する中川大志さんがすごかった。

声も低いようで、地面の底から響いてくるようで、きっちり言いたいことはつたわってくる。

不気味でもない、おぞましいのでもない。ただ真実を見通せるからこそおそろしい。

荘厳な幽霊がそこにはいます。

死亡退場は悲しいけれど、こんな圧巻の姿を見せるというのは素晴らしいことです。

重忠の前で嘘はつけません。

重忠がどんな姿になろうと、問い詰められたら、義時は道を選ぶしかなくなるのです。

 

総評

今回は小悪党心理が解剖されています。

平賀朝雅、りく、北条時政――どいつもこいつも、圧倒的でカリスマのある悪ではなく、卑劣な保身で滅んでゆきます。

彼らは、自分こそが被害者だというアピールに余念がない。

朝雅は自分が加害者なくせに、疑ってくる相手のせいで苦労しているとすり替える。

りくにせよ、根拠もなく自分が襲われると被害者アピールをします。

こういうことは典型的です。

「あいつらのせいで安全が脅かされる!」というのは差別と迫害、格好の言い訳です。

そんな人間心理が秀逸な本作。

三谷さんがストーリーテラーとしての高みにどんどん登ろうとしていて、彼が前に立って突撃するからこそ、スタッフもキャストも食いついてゆく。

そんな理想的な流れがうまくできていると思えます。

三谷さんじゃないとこれはできない。そう思えるのが複雑なプロットです。

「ちょっと難易度高すぎねえか?」

時政を真似て、そうスッとぼけて言いたくもなる。中盤以降その傾向がどんどん強くなっていると思えます。

◆ 『鎌倉殿の13人』、「あの人の暗殺」を書くのは「ネタバレ」になるのか? 悩ましい問題(→link

こういうニュースがあったのですが、思うにこれは古典的ミステリと無縁の意見だと思えます。

古典的なミステリでは、冒頭に殺人場面があることもある。毎回犯人が同じ連作短編集もある。

誰がどういう最期を遂げるのか、そういうネタバレははなから破っていることがしばしばあります。

そういう事件をどう解決するか。その過程でどう悩むか。トリックはどうなのか。真犯人をどう追い詰めるか。

そこが重要なのであって、答えを知っていればよいというものでもありません。

たとえば畠山重忠の破滅は、りくとの確執が原因です。何かと不穏な武蔵のこともある。

随所にそういう伏線が史実通りに張ってあったものの、平賀朝雅の毒薬というピースをはめ込むことで、ガラッと変えて見せてきました。

そして歴史フィクションにもそういう醍醐味がある。

『麒麟がくる』が光秀と信長の関係性を描き、どうしてこの二人が決裂するのか描くことで盛り上げていました。

加害者と被害者を変えてはいけないけれども、動機の膨らませ方でドラマは成立すると一年を通して描いたわけです。

鎌倉時代となると史料が比較的少ないし、『吾妻鏡』は編纂意図を読み取りつつ謎解きをしないといけないとされます。

そこをうまく落とし込んで、歴史劇はミステリと相性抜群だと再提示してきていると思えるのです。

このドラマの魅力はたくさんあるけれど、まずともかく脚本が一番です。

脚本がいいと、皆奮起して手抜きしないのだとわかります。

三度大河のオファーを受けるとなれば、もう俺は大御所だとでーんと構えていいとも思えるけれども、三谷さんはそうでないところも素晴らしい。

その三谷さんが手本とした作品について少し考察したいと思います。

 

お手本は『ゲーム・オブ・スローンズ』

気になったのはコチラの記事です。

◆『鎌倉殿の13人』で感じるシェイクスピア要素 ともに大衆の心を熟知(→link

シェイクスピア要素とは何でしょうか?

シェイクスピアについては、注意せねばならないところがあります。

彼は元々あった伝承や伝説を基にして脚本家していることが多いので、そういうプロットを「シェイクスピア要素」と書くことは誤解を招きます。

ここであげられている『ロミオとジュリエット』も、もとは古代からある伝承です。

古代からの伝承や似たような話ならば、別の国にあってもおかしくはありません。

僭越ながら、それをシェイクスピア要素というのは語弊があるように思えます。

「プロテスタント以前、中世の歴史観が通じる」あたりでいかがでしょうか。

鎌倉時代とシェイクスピアを結びつける発想は、明治時代からありました。

例えば坪内逍遥は、日本史を題材にしてシェイクスピアのような作品を描けないかと、牧の方をヒロインにして作品を作り上げています。

今更シェイクスピアを持ち出すよりも、もっとよい比較対象があります。三谷さん自身が今回の大河を描く上での「お手本」を明かしているのです。

◆(三谷幸喜のありふれた生活:1101)「鎌倉」へ、長い旅でした(→link

有料記事の一部分ですので引用しませんが、『ロード・オブ・ザ・リング』や『ゲーム・オブ・スローンズ』(以下GoT)といったファンタジーの匂いを感じているとあります。

特にGoTはお手本だと。あんな大河ドラマを作ってみたいと思っていたと。そして日本史を知らない海外の人が観ても楽しめるようにしたのが目標であると。

僭越ながら、以下の事前予想記事で記したことが当たっていたようです。

大河『鎌倉殿の13人』見どころは?残酷な粛清の勝者・義時の悪辣描写が成否のカギ

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これは強調しておきたいのですが、ラニスター家が主役かつ勝利するバージョンということです。

ラニスター家は、視聴者が感情移入するスターク家を追い詰め潰そうとする悪役の位置にいます。

同時に人気もあり、そんなラニスター家と、北条家は家族構成がそっくりです。

父:陰謀家。あまりにえげつなさすぎて、怒った我が子に裏切られる

姉:王と結婚するも、我が子を全員失い、自らが権力の座につく。服喪中のような黒いドレスに短髪が後半のトレードマーク

兄:姉を忠実に支える

弟:知性派

まんま北条一族じゃねえか!とツッコミたくなる。

対立する一族を次から次へとえげつない策で滅ぼし、のしあがる。その様を歌ったテーマソング「キャスタミアの雨」は有名です。

ラニスター家は最終的に、歴史と由緒あるターガリエン一族末裔に敗北するわけですが、その最終決戦の勝敗が逆転しているんですね。

そんなリアルラニスター家をモチーフにした饅頭やビールが売られていると思うと、なかなかシュールですな。

ラニスターの味だの物語だの、味わいたいような、そうでないような……。

他の人物も似ております。

オリジナルキャラクターであるトウは、女暗殺者アリアに。

比企尼は原作のみの設定ですが、虐殺後呪いをかけるために戻ってくるキャトリンと共通点がある。

今回出てきた歩き巫女の予言も、GoTでも頻出する要素です。

あの作品でも予言をする巫女が出てきて、重要な役割を果たしています。

演出でも影響を感じます。

HBOよりもレイティングが厳しい中で、大河としてはギリギリまで挑み、精神的に打撃を与えるようにしているとわかります。

血飛沫が散る。切断面や斬首の瞬間が映る。

そういう表現を避けつつ、斬首前に理不尽さを叫ばせる。

首を入れた箱をにこやかに誰かが運んでくる。首桶が並んでいて頭髪がうっすらと見えている。こういう表現でショッキングな演出にできると証明しています。

スローモーションに印象的な音楽を流す。不気味な暗い照明。戦闘シーンのVFX。実に効果的に使われています。

今作の演出は重要です。去年とは比較にならないほどレベルがあがりました。

2021年大河は天狗党の処理があまりに“ゆるふわ”だとこぼしたところ、真っ当に見ていたらそんなわけないと絡まれました。

改めて言います。あれはまぎれもなく“ゆるふわ”です。

実際に起きたことの残虐性がろくに伝わってこないのは、今年と比較すればおわかりいただけるかと思います。

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今年のおかげで、視聴者もすっかり鍛えられてきたと思えます。

GoTのファンは残虐さを乗り越えて茶化すファンアートを楽しみ、リアクションを動画にしてネタにしてきた。

そうでもしなければやってられないということかもしれませんが、適応したのです。

その適応を示す広告がこちら。広告キャラクターが突如惨殺される様をユーモラスに描き、ファンも笑う。そんな鍛錬があってこそ成立する外道コラボです。

 

大河ファンダムも仕上がってきましたね。

だってGoTだから。そんなノリと同じように「だって鎌倉だもん」で通じるようになりましたので。

◆「鎌倉殿」次回、凄い予告 誇り高き畠山殿が激怒、なぜ悲劇?予告が語った結論にネット震撼「ここは鎌倉」(→link

これは歴史を学ぶことを考えるうえでも大事ですし、ドラマの鑑賞でも重要です。

自分の体験や感覚を現代人一般のものとして考え、それに近いと高評価する。

好感度や共感だけを過剰に重要視する傾向を最近とみに感じます。

そういうことばかりをしていると、マイノリティのことや、過去の歴史や価値観ををふまえた作劇に「だってわからないから」というだけで低評価をつけること、考証を無視してでも共感性を演出されるだけで高評価をつけることにつながります。

それをうまく大河でも生かしたのが2019年と2021年でした。

朝ドラで成功した手法やキャストをそのまま踏襲して、盛り上がったファンダムの流れをそのまま移すだけである程度の高評価を稼げると証明した。

特に後者は五代友厚を同じキャストで繰り返すなんて、あまりに露骨です。

しかし、それは日本国内でしか通じませんし、歴史の理解からすると大問題です。

中世以前の価値観なんて、専門の研究者ですら「理解できない!」と嘆くことも当然ある。無理矢理、現代人みたいな思考回路をする中世人にしなくてもよいのです。

歴史劇についていえば、日本でこの傾向が強いことは懸念していました。

ガラパゴスにもほどがある。

歴史劇の話をしていても全く話が通じないことがしばしばあり、困惑させられてきました。

日本人が見て胸がぐるぐるしたところで、これだけVODが普及し、韓流華流時代劇も強い時代では先細りです。朝ドラの二番煎じなんて滅びるしかない。

そういう流れと訣別した今年は、まぎれもなく大河の歴史を大きく進めたと言えます。

世界的にあれだけヒットして、歴史劇や歴史観までもを変革したとされるGoTぐらいは、大河と比較する上でも最低限見ているべきではないかと私は思います。

以前記事に、でしゃばったことをしないで国内ドラマだけ見ていればいいと書かれましたが、それは違うでしょう。

あの作品を抜きにして歴史劇を語るなんて、2020年代にはもう無理があるのですから。

今年の大河は歴史劇、ひいては視聴者の歴史観まで鍛える。極めて秀逸な作品です。

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◆鎌倉殿の13人キャスト

◆鎌倉殿の13人全視聴率

文:武者震之助(note
絵:小久ヒロ

【参考】
鎌倉殿の13人/公式サイト

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