るろうに剣心

るろうに剣心1巻と映画版最終章/amazonより引用

この歴史漫画が熱い!

『るろうに剣心』緋村剣心が背負った「人斬りの業」にモヤモヤしてしまう理由

漫画はバカ売れ!

佐藤健さん主演の映画も大人気!

今では人気作品として認識されている『るろうに剣心(以下・るろ剣)』ですが、連載時期はこんなことも言われてました。

「30手前の優男が主役って……あの作品が看板だなんて“ジャンプ”も落ちぶれたもんだな」

週刊少年ジャンプと言えば、誰もが知る少年誌の王様的存在。

最大発行部数653万部まで爆発した「昭和黄金期」の代表作と言えば、以下のような作品でしょう。

『北斗の拳』
『ドラゴンボール』
『魁!男塾』
『キン肉マン』

他にも数え上げたらキリがなく「努力・友情・勝利!」の三本柱でマッチョな作風が受けていたものです。

『ジョジョの奇妙な冒険』初期三部作も代表的ではあるのですが、あの作品は異色ですので例外としまして。

※以下は『ジョジョの奇妙な冒険』の考察記事です

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当時のジャンプは次から次へとアニメ化&ゲーム化され、新年号ともなれば表紙を連載漫画家の写真が飾る――まだそんな時代ですから『るろ剣』(1994~1999年)は軟弱になっただのなんだのと言われたものです。

しかし、です。

必ずしも『るろ剣』が例外とも言い切れません。

例えば「中性的な美形主人公」はこの作品が初めてではなく『聖闘士星矢』や『幽☆遊☆白書』も繊細な絵柄で細身の主人公がいたものです。

『ジョジョの奇妙な冒険』のように、部ごとに絵柄が変わっていく作品もあります。

30歳手前の人物が主人公だったことも、もちろん他にもあります。

『シティハンター』も『ジャングルの王者ターちゃん』も『ついでにとんちんかん』も『花の慶次』も、いずれも人気作品ながら主人公は少年ではありませんね。

『銀牙』に至っては人類ですらないわけです。

さらには「腐女子に媚びたから『少年ジャンプ』はダメになった!」という批判まであったワケですが、媚びるも何も『聖闘士星矢』の時点でもうとっくに煮詰まっておりました。

『るろ剣』への批判は、ジャンプそのものの部数低下時期と一致しただけで、あくまで複合的な要素が絡んでいた――それが実際のところでしょう。しかし……。

緋村剣心のキャラそのものについては疑問がないワケじゃありません。

本稿では、なぜ緋村剣心を幕末ではなく明治の剣客として主人公にしてしまったのか?

その点で非常にモヤモヤするポイントを挙げたいと思います。

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幕末回避の幕末時代劇というジレンマ

本作はなぜ幕末ではなく『“明治”剣客浪漫譚』なのか?

司馬遼太郎のファンである和月先生には、少年漫画で「時代劇」を描きたいという意向があったようです。

しかし編集部の意向で却下。

“幕末”というド定番の人気舞台にならず、あえて明治時代の剣客になったとされます。

結果的にその設定こそが作品の人気につながったのかもしれませんが、幕末→明治とした背景にはある邪推が頭に浮かんできます。

◆幕末の政治的要素が何かと面倒

時代劇にしたい。

けれども少年誌での政治表現は回避したい。同時に難易度を下げたい。

ゆえに幕末は避けた――そんなところでしょう。

しかし、です。政治的混乱を避けるため、マンガの舞台を江戸から明治にしたって、わずか十年で世の中が安定するわけありません。

主に西日本では【不兵士族の反乱】が連続し、首都・東京でも江戸っ子が「(社会は)おさまるめえ」という反新政府スタンスの荒れ果てた世相でした。

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さらに。

そのまんま幕末剣士を描くのも非常に難しいものがあります。

当時は、殺伐とした“血の雨”が降っていた時代。

「人斬り」として怖れられた緋村剣心が、劇中、リアルタイムで人を殺害して回ることになります。少年誌としてそれは非常にマズい。

『シティハンター』のように、殺人者としての経歴が過去のものであり、かつ現在の悪人を成敗するというクッションがあれば、まだ通る。余談ですが、あの手塚治虫にも『新選組』の漫画があります。

それが幕末が回避されるようになったのはいつからなのか。なぜなのか。

かつての少年漫画には、政治的なものも含めて、作家の主張が強く反映されておりました。

あの『はだしのゲン』だって連載掲載誌は週刊少年ジャンプです。

しかし、そんな時代も変わっていきます。

一例として挙げられるのが『花の慶次』でしょう。原作では朝鮮出兵が描かれ、慶次の恋人は朝鮮出身の女性だったのに、ジャンプ版では琉球編とされる不可解な描写がありました。

ジャンプとは直接関係ありませんが、同時代の大河ドラマ『秀吉』にしても、豊臣秀吉が主役でありながら、朝鮮出兵前で終わるという実に中途半端なものです。

面倒な歴史的描写はなるべく回避しよう――。

当時、そういう空気があったことは否めないでしょう。

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では『るろ剣』はどうか?

前述のとおり、明治時代は、むしろ政治的な対立が表面化していた時代であります。

マンガでは東京を舞台にして、比較的恵まれた階層を舞台にしているため目立ちにくいのですが、決して平穏だけの明るい時代ではありません。

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薫周辺の境遇はかなりマシな部類だと思います。

そして、主人公・剣心周辺の事情も、少年漫画らしくかなり穏当なものとされていることも指摘せねばなりません。

「人斬り」でありながら、明治まで生存している。史実から見れば、そのことだけでもかなりの僥倖。

緋村剣心は、幕末において「人斬り抜刀斎」であったわけです。

 


人斬り

十代にして連続殺人犯であった――。

緋村剣心のことを考えると、どうしてもそういう人物であることがアタマから離れてくれません。

ふと、2013年大河ドラマ『八重の桜』の放映時に、こんな批判があったことを思い出すことがあります。

「ヒロインの八重は殺人犯の狙撃手だ! そんな主人公を美化するな!」

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それを言い出したら、幕末や戦国作品は、とにかく当時の人物や世相を批判するだけのためにある、荒んだ作品になりかねません。

八重は祖国防衛のため、自らの危険を顧みずに立ち上がった。

一方、緋村剣心はどうだったか?

人斬りとは【小攘夷】を行なっていた連続殺人犯です。

【小攘夷】とは、日本の国力・外交に大打撃をあたえた「外国人および開明派を無差別に殺傷する」こと。

こう言い切ると、現代の価値観で批判しているようにも思われてしまうかもしれませんので、歴史的に考察してみますと……。

かつて日本を含めた東洋では、暗殺者を英雄視する伝統が存在しました。

始皇帝の暗殺未遂者である荊軻(けいか)や、『忠臣蔵』の題材になった赤穂事件(赤穂浪士)がそうした例です。実は伊藤博文の暗殺犯・安重根を弁護した日本人の中にすら「あれは義士ではないのか?」という意見があるほどでした。

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では、幕末の人斬りはどうか?

義士と見なせるのか?

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