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【鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー第18回「壇ノ浦で舞った男」】
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宗盛に怒りは湧いてこない
義経は腰越に到着します。
時政が出迎え、宗盛を鎌倉に連れて行くと、九郎殿はここまでと言います。それが鎌倉殿の考えであると。
「わけがわからぬ! なぜだ!」
そう悔しがる義経に、宗盛は文を書いてはどうかと提案します。兄に対する思いを文にして届ければわかってもらえるかも。
しかし苦い顔になる義経。戦しか能がないから、そのような文は書けぬのだと。
宗盛は、ならば自分が書くと提案します。
そして5月16日に鎌倉入りを果たす宗盛。出迎えたのは時政とりく(牧の方)です。
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宗盛はりくを昔六波羅の館で見かけたと言います。そして鎌倉の暮らしを尋ねると、りくは京都暮らしの自分はまだ慣れないと苦々しく言い切ります。
対面はあっさりと終わりましたが、時政が妻の言葉にギョッとしています。
これは辛い! わかりあった夫婦のつもりがそうではなかったのか。これだけ長く暮らしてもわかりあえないのか。
じゃあどうすればいい? そんな時政、愛を探す旅が始まっちゃったのかもしれません。ここにも不穏な気配が……。
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宗盛は義経から預かってきたという文を取り出し、渡します。
頼朝は御簾越しに宗盛の姿を見ています。
そして、後にこう振り返ります。
「不思議なものだな。こうして父の敵を討つことができた今、宗盛の顔を見ても何の怒りも湧いてこなかった。むしろあの清盛の顔と重なり、幼き頃に命を救ってもらったことに感謝していたくらいだ……」
そしてあの頼朝が……上総広常をあっさり殺し、源義高に追手を放った男がこうきた。
「死罪は勘弁したいところだが、まあ、そういうわけにもいくまい」
頼朝と義経……嫌なところがそっくりだ。両者とも憑き物が落ちた。そして次に牙を剥く相手を探しているようだ。
親子の時間を作り、芋の恩返し
頼朝は見つけてしまいました。
腹が立つ対象――それが義経になってしまった。あの文を読み、怒りを募らせているのです。
どこが腹たったのかと大江広元に指摘するよう命じます。
検非違使に命じられたことは当家の名誉であり、世にも稀なことと、これ以上はないと書いてある。
しかし頼朝も右兵衛権佐(うひょうえのごんのすけ/佐殿・武衛とも)です。その官職を知らないからこういうことを書いたのは明白。そう激怒しています。
宗盛を連れてとっとと京へ戻れと怒る頼朝です。
義時がこのことを伝えに行くと、義経は兄上の言うことならばと聞き入れます。
そして宗盛を京都へ送っていく……その前に……。
「父上!」
宗盛の息子である清宗がいました。今夜は親子でゆっくりと語り合うがよいと義経が促します。
「九郎殿、かたじけのうござる」
宗盛もせめての気遣いに感謝しています。
義経はこの腰越は以前来たことがあると、義時に語ります。
平泉を離れて兄上に会いに、鎌倉へ向かっている途中に立ち寄ったのだと。
義経はそうして出会った兄と決裂した今、法皇様を第一にお仕えすると覚悟を決めています。
京都で源氏として恥じぬ生き方をするのだと。
「私は検非違使尉、九郎判官義経だ!」
そう言い切る義経の前に、藤平太たちがやってきて、大勝利を讃えています。
懐かしい顔だと喜び、約束していた芋をたっぷり贈る。
「なんと!」
「食べてくれ」
「九郎殿は大した方だ!」
藤平太は思い出話をしています。義時も微笑みながら芋を頬張る。
義時がかつて目指したものがここにあるのかもしれない。
義時の兄・北条宗時ならば、こうして芋を食べる民を見て、「このために勝った!」と喜びそうな光景がそこにはあります。
北条宗時は時政の嫡男で義時の兄~ドラマのように最期は暗殺されてしまうのか
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MVP:源義経
今週はまたも技巧が効いています。
有名な「腰越状」は偽作説があります。
本当に義経が書いたかどうかは疑義があるため、それをプロットに盛り込みました。
義経の突拍子もないような言動も、近年の研究成果を活かしてのものと言えます。
大河が大好きな研究者に、小島毅先生がおります。
専門が宋代の思想なので、日本史の本を書いている場合じゃないとボヤきつつ、大河本を何冊も出しておりまして。
大河『義経』に突っ込んだ一冊『義経の東アジア』(→amazon)があります。
本作の制作サイドはこの本を意識したのかと思えるところもあります。
小島先生は、義経の残虐さが薄められることに大いに不満があるのですが、本作の義経描写には納得するかもしれない。
突拍子もないようで、根拠はある――そんな三谷幸喜さんの作劇スタイルが凝縮したような義経。それを菅田将暉さんが受け取って演じる。
これはもう本当に凄いことだと思います。
『土曜スタジオパーク』に菅田将暉さんが出ていて、演じる上でのことを語っていたわけなのですが、相当緻密に組み立ててきている。
しかし、実際の画面では、あっけらかんと、あっさりと、力むことなく演じているように思える。
そんな義経が不思議で魅力的でした。
よく知っているようで、全く知らないような。
不思議な存在が目の前にいて、ただただ、圧倒されました。
こういう義経を見るために、私は今まで生きてきたんじゃないか。そう思えるぐらい凄まじく、ただただ圧巻でした。
総評
義経はまるで流れ星、神のようだ。そんな神をどう倒すか考えるような景時もすごかった。
神も偉大だけれども、神殺しになるべく挑むものもまた偉大なのです。
そんな義経と景時の対比がやはり眩しい。
時代を先んじていて、普遍的な使い勝手の良さを見せる梶原景時。これはもう、配下として欲しくなる男だと見るたび思います。
そういう人間の頂点が景時で、その上の神が義経。
神を倒すべく奮闘する景時は、時に狡猾だけれども素敵です。
……と、主役の義時はどうしたんですか、義時は!
そう言いたくもなるけれど、彼もまたすごい。失敗や反省の数々を眺めつつ、何かを学んでいるようで、ある意味一番恐ろしいかもしれません。
なんでしょうね。義経や景時はキッパリこうだといい切れるけれど、義時は何なのかサッパリわからない。
グネグネとしていて形を変える不思議な生き物に思えてきた。
『プロフェッショナル 仕事の流儀』で小栗旬さんの回が放送されました。それを見るうちに謎の解明に近づいた気がしたのですね。
小栗旬さんのイメージって、自分にとってはあまりない。なんかイケメンで人気の人ね――その程度でした。
そのイメージを覆すような、迷いに迷う役者が小栗さんでした。しかも本人は自分に納得できていない。
大河出演回数で言えば、同年代でトップクラス。人気もあるのに、この人はなんなんだ……そう思いながらも、だからこその義時役だと思えました。
義時はこうなるという確固たる目標がないまま、ただもがき続けてて上り詰めたように思えます。
「何もしない人」なんて言い方も見かけるほど。
でも、彼なりに努力して一生懸命だったのだと思えます。
番組で小栗さんはずっと迷っているというか……どうすれば最善なのか考えていて、自分の中にある理想の役者を目指してずっと走っていて、その迷い方が義時なんだと思った。
『麒麟がくる』のときの長谷川博己さんは、明智光秀はずっと孔子の理想を追い続けた人だと語っていました。
彼は理詰めのタイプだと思います。そう演じるものの目標がわかったら、その言葉を読み込んで胸に宿すことができます。流石だと思いました。
では義時の場合はどうなるか?
たぶんそこまで強固に儒教の理想を飲み込めてなくて、走りながら考えるような人生だったと思うのです。
光秀は麒麟を思い描けるけれど、義時はそれすらできない。そういう迷いがある。
そんな、時代ならではの苦難や困惑を演じるうえで、小栗さんのように誠実に迷う人はピッタリだと思えました。
バトルの取捨選択
今週の放送は、時間いっぱい壇ノ浦の戦いが描かれました。紀行をずらしてまで放映時間を長くして、ありとあらゆる総力を注ぎ込んでいた。
その上でこのニュースに突っ込みますと……。
こういうネットでSNSの声を拾って、ニュースにすること――これには疑念しかありませんし、屋島を省略した理由はわかるかと思いますが。
要するに、戦と同じで、ここを攻めると絞った方がよいということ。
那須与一は知名度が高いからこういうことを言われるのでしょう。しかし今までも省略はありました。
三浦義明や熊谷直実。私としてはせっかく出しておきながら、平知盛が壇ノ浦にいないことも惜しまれるところであります。
とはいえ、全員の要望を受け入れるにはおのずと限界がある。
絞った範囲を迫力たっぷりに描くこと。これが何より重要なことでしょう。
具体的に言えば義経の八艘飛び。
それと漕ぎ手を射殺することで動揺する畠山重忠の態度。
そういうところに気合を入れているのでしょうね。
海上戦闘はともかく金がかかります。壇ノ浦だけに絞ったことは正解だと思います。
今回の壇ノ浦は、今後の大河の浮沈を決めるほどの気合を感じました。
当時の日本の海上戦闘としての特徴が出ていて、素晴らしいと思います。
大型船がないし、帆をかけて動かすようなこともない。ゴチャゴチャしているところが個性で、その特性がよく出ていると思えます。
NHKも色々と反省をしていて、学び、生かしていると思いました。
失敗例としてあげて申し訳ないのですが、大河『平清盛』の場合、序盤に出てきた架空海賊の船が大きすぎました。
海賊如きが持っているとは思えないほど本格的なもので、あれは宋との貿易をするつもりとしか思えないのです。
海上戦闘では特に役に立たない船。
それなのに莫大な予算が注ぎ込まれて悪影響があると感じたものです。
日宋貿易をしていた清盛の先見性を描きたい意図はわかるけれども、ちょっと前のめり過ぎました。
そして大胆な絞り込み戦術。これはグローバルスタンダードであり、戦闘シーンは金がかかるので、VFXを使い、ここぞと言うときにだけ描くのは歴史劇の定番です。
あの『ゲーム・オブ・スローンズ』ですら、原作より合戦がかなり少ない。
『三国志』もののドラマレビューに「赤壁の戦いがないのはどういうことだ!」というご意見もつくのですが、魏目線の『軍師連盟』や『三国志 Secret of Three Kingdoms』では描かれなくて当然といえます。
自分が思う通りにならないからと、「ナレなんとか」と書き込むのはどうかと思います。
取捨選択は作り手に任されるものであり、かつその選び方に個性や考え方が出てくる。
私だって言いたいことはあります。
たとえば渋沢成一郎を大きく取り上げながら、彰義隊について描かない大河とは一体どういうことか?とか。
知名度優先で、人気の土方歳三は描いても、彰義隊はどうでもいいんだな……とまぁ、それはさておき。
今週の壇ノ浦は素晴らしかった。何もかもが気合を入れていると思えました。眼福です!
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
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文:武者震之助(note)
絵:小久ヒロ
【参考】
鎌倉殿の13人/公式サイト