平安貴族の結婚

画像はイメージです(源氏物語絵巻/wikipediaより引用)

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平安貴族が結婚に至るまでの不思議な手順~文を書き夜を共に過ごして三日通う

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出家で男女の道を断つ

『光る君へ』には若くして譲位した天皇も出てきました。

譲位をすれば、内裏から出ていかねばならず、妻たちもそうなります。

この時代、男女の通を絶つ手段として出家がありました。

時代がくだると破戒僧が増え、妻帯も許された仏僧ではあるものの、当時は色欲を断つことに他なりません。

出家時点で本来そうなるはずなのに、できない人も中にはいます。

花山院です。

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好色でありながら二十歳にならぬうちに出家して、真面目に仏道に邁進するかというとそうはなりません。

そのせいで、通っていた女のもとで事件が起きてしまいます。藤原伊周の通う女君と同じ邸にいる女君を愛していたため、誤解を招き、殺傷事件に発展してしまうのです。

藤原伊周の弟である藤原隆家もその場にいて、なんと花山院は袖を矢で射抜かれてしまったのでした。

出家の身でありながら色恋でトラブルというのは、さしもの花山院も気まずい。

そこで隠蔽をはかるものの、藤原道長は見逃さず、道隆の息子たちである伊周と隆家を失脚させました。

この事件を【長徳の変】と言います。

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源氏物語』でも出家は重要な要素です。

恋に疲れた人々は出家を望むもの。光源氏は女君が出家を望むと、拒否を感じて傷つくものでした。

そして自身も出家を望みつつ、最愛の紫の上の出家だけは断固阻止する光源氏は、なかなか虚しいものがあります。

 


『源氏物語』が描く結婚格差の残酷

『源氏物語』ではさまざまな男女の関係が出てきます。

なまじ名作だけに平安時代像を形成するうえで重要な作品ですが、イレギュラーな関係が結ばれていることには注意すべきかもしれません。

光源氏の両親である桐壺帝と桐壺更衣は、異例の関係とされます。実家が強くない桐壺更衣の寵愛は例外的だとされているのです。

そして生まれた光源氏にせよ、最愛の女君といえる藤壺は父の中宮です。

紫の上は父を失っており、光源氏は祖母の北山の尼君から後見を託されていました。

光源氏と紫の上の婚儀はかなり強引に思えるほどですが、紫の上を庇護していた祖母の意思あってのものと言えます。紫の上は実家がないため、【三日夜の餅】は光源氏側で用意しています。

このことが物語の後半において、暗い影を落とします。

四十を過ぎた光源氏に、兄の朱雀院が三の姫である女三の宮の婿になって欲しいと頼み込んできます。光源氏はあまり乗り気でなかったものの、相手が藤壺の姪であることを知り、結局は引き受けます。

朱雀院の姫であるだけに、女三の宮は立派な婚儀を経て、光源氏の妻となりました。

光源氏は女三の宮の幼さにうんざりしてしまい、紫の上の素晴らしさを改めて認識します。しかし、そんな愛情では超えられない壁がありました。

紫の上は、どうしても見劣りする経緯で光源氏の妻になっております。

後ろ盾もありません。愛があっても劣る境遇なのです。そのことを彼女自身はどうすることもできません。

結局、紫の上は病に倒れます。最愛の人が倒れ、光源氏が看病しているうちに、女三の宮の元に柏木が通い、不義の子が腹に宿ってしまった。

男子を産むも、その罪の意識に苦しんだ女三の宮は出家を遂げてしまうのでした。

位人臣を極め、六条院で何一つとして不自由のない暮らしを送っていた光源氏。

彼がその栄華を失ってしまったのは、なぜなのか。

藤壺の面影を求めた報い。その藤壺と通じ子まで成した報いが己の身に祟ったこと。いくつもの因果応報の中に、紫の上と女三の宮の格差も含まれています。

「宇治十帖」では、女君に後ろ盾がないことが物語に影を落とします。

宇治を訪れた薫は、宇治八の宮の娘である大君と中君を垣間見ます。薫は姉である大君に恋焦がれるものの、大君は愛を拒みました。

親を亡くし後ろ盾がないため、姉である自分が妹を後見し、結婚させたい。そう思い、身を引き、結果的に亡くなってしまいます。

中の君は薫の親友であり恋のライバルとも言える匂宮の妻となりました。大君の面影を求める薫は中君に迫るも、拒まれてしまいました。中君は大君によく似た異母妹の浮舟を薫に紹介し、話が進んでいきます。

この物語は、大君と中君に後ろ盾さえあれば、こじれずに済んだといえる恋なのです。

紫式部があえてこうした婚礼格差を描くことで、これを読んだ日本人はその苦さを噛み締めることとなりました。

もしも光源氏と紫の上が、ずっと幸せなまま暮らしていたら?

当時の婚礼が持っていた構造の矛盾に気づくことはできなかったかもしれません。

当時の人にとって婚礼とは何か。甘さだけではなく、苦さをも伝えてくる『源氏物語』。紫式部が何を経験し見たからそんな描写をするようになったのか。

『光る君へ』はそこに挑んでくるのでしょう。


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文:小檜山青
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【参考文献】
高木和子『源氏物語を読む』(→amazon
倉本一宏『紫式部と藤原道長』(→amazon

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