光る君へ感想あらすじ

2024年大河ドラマ直前予想『光る君へ』は一体何が見どころなのか?

2024/01/04

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描くものは『源氏物語』ではなく、それが生まれた時代

言うまでもなく女向けだろ。だって、『源氏物語』だし。

そういう反応は当然あるでしょう。しかし、この反応そのものに罠があるとすればどうでしょうか。

『源氏物語』は女性向けだと聞いたら、かつての日本人は困惑したことでしょう。男女双方の教養です。

和歌を詠むにせよ、『源氏物語』の知識は必須。戦国大名同士が『源氏物語』を題材にした贈り物を交換し合う。

浮世絵だって『源氏物語』パロディがお馴染み。

それなのに、女向けだと思うとすれば、どこかで認識が歪んでしまったのでしょう。

そしてこの『源氏物語』が、実は番宣ではそこまで推されていません。主人公最大の業績であるからには、当然のことながら出てくる。しかし、劇中劇として『源氏物語』を再現する予定はないとのこと。

そもそも『源氏物語』は、当時を忠実に再現したものなのでしょうか?

露骨に描けない制限はかかるし、理想化された部分もあることでしょう。

むしろフィクションの影響が強烈すぎて、私たちの歴史認識すら歪めているとすれば、問題はあります。

だからこそあえてその制作背景を描くとなれば、これは相当意欲的なことではありませんか。

そもそもあの物語の中には紫式部はいません。彼女のような身分の女性は、華麗なヒロインたちの背景にひっそりといるだけですから。

そんな彼女たちが映像と化して現れる。これってものすごくロマンチックで、画期的なことではありませんか。

もしもこのドラマで描かれる政治闘争が苛烈だとすれば、それは欠点ではなく、むしろ褒めるべきことかもしれない。そんな世界を生きながら、あの美しい世界を書き上げたのだとすれば、紫式部は泥の中から蓮を咲かせた、稀有の才能の持ち主だと再確認できるのです。

 


物語の世界から、さらに外へ

2022年より、高校において「歴史総合」が導入されました。

これは18世紀以降、近世以降を扱います。ではその前の時代は無関係かというと、そうとは言えません。

近世以降、ナショナリズムの高まりの結果、それ以前まで含めて日本の姿がわかりにくくなったといえる。

厄介なことに、それは教育、そして大河ドラマにまで影を落としています。

紫式部に関することでいえば、「国風文化」です。遣唐使が廃止された結果、日本特有の文化が形成されてゆく。『源氏物語』はその精華とされます。

その説明そのものはそこまで間違っていない。しかし、誤認識を広げかねない点はあります。

遣唐使廃止=中国との交流停止

この図式は成立しません。

というのも、遣唐使はあくまで国同士、公式のやりとりです。けれどもこれが途絶えたからといって、民間での貿易は止められるわけもないのです。

唐(紫式部の時代は北宋)、高麗と比較しながら、日本とは何か磨き上げてこそ、文化は生まれてゆく。

それをどれほど意識してきたのか。

日本史で習ったことには何かが欠けているのではないかと思えてきます。

欠けているものとは? 早い話が、東洋史の発想です。

中国語圏では、似た文化のくくりとして、中国・朝鮮・日本・ベトナム(越南)と並列で比較されることがあります。漢字を用いて、箸で米を食べる。考えてみれば当然なのです。

けれども、日本は明治維新以降、【脱亜入欧】を掲げたせいか、どうにもこの意識が薄くなった。

その結果、自分たちの歴史認識すら歪んでしまったのではないか?

自分はどんな姿をしているのか、そう確認するのであれば、鏡が必要です。あるいは何かを買うとき、競合商品とスペックを比較することは当然でしょう。

東洋とは、隣国同士と比べることで自らを規定してきました。

「あの女は美しいけれども、それで帝王を操るとは罪深い。こういう女はどう呼べばいいかな? あれだ、唐の楊貴妃!」

白居易
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こういう考え方があります。紫式部が『源氏物語』において、どれだけこうした漢籍由来の知識を取り入れてきたか。注釈入りの本を読めばわかります。

けれどもそれだけでは限界がある。紫式部がどんな経験をして、どう考えてそうするのか。そこまでドラマとして血と肉を備えた彼女がそうすることによって、さらなる理解が深まる。そういう作用があるのではないでしょうか。

 

稗史目線で歴史を見る

歴史総合のねらいとしては、国だけでなく、広く歴史を見ることがあります。

それだけでなく、下から見上げるように歴史を見つめ直すことも考慮しなければなりません。

2020年代は、BLM運動とともに始まったともいえます。これは社会だけでなく、歴史を見直す機会ともなりました。

白人が活動しているとき、その家を保つために働いていたのは誰か?

白人が莫大な富を得ている間、搾取されていたのは誰か?

こうした踏みつけられて声を消されてきた側から語ることで、歴史も変貌してゆきます。世界各地で銅像にペンキが塗られ、倒されていったのです。こうした活動の是非はここでは論じていません。

この運動の結果が、どう歴史劇に反映されるのか?

残念なことに、大河ドラマは鈍感でした。『青天を衝け』では、渋沢がレオポルド2世を褒める場面がありました。

この王はBLM運動により銅像を倒され、ベルギー王室まで批判を表明した搾取の象徴です。

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大河ドラマチームがそんな厚顔無恥を続けるとは思えない。そこを考慮した結果が『光る君へ』の主人公選択かもしれません。

紫式部はさほど身分の高くない貴族の娘です。華やかな人生や、男性目線のドラマにするのであれば、藤原道長主役でもよいはずでしょう。

あるいは『源氏物語』をそのままドラマにする手もあった。

そうせず、政治闘争を仕掛けるどころか翻弄される。使役される。女性ならではの性的搾取の脅威にも苦しめられる。

平安京を斜め下から見上げる女性が主人公なのです。『源氏物語』の世界であれば、光源氏たちの背景にいるモブ。その程度の紫式部が主役を張る。これはなかなか画期的なことでもあるし、難易度を上げてきたともいえる。

そしてそういうチャレンジをしなければ、もう追いつけない。そんな焦燥や打破への力も感じます。

 

視聴率は伸びないし、評価もされにくいが……

このドラマは、背水の陣のようなギリギリの覚悟すら感じさせます。

今はSNSがある。マスコミ受けするテクニックだってある。提灯記事を乱舞させ、定番の手法を使えばある程度「シン・大河だ」なんて煽りはできるものです。

この作品からはその逆方向へ進む、ひねくれた意志の強さも感じます。

キャストの気合いの入れ方。

ジャニーズ排除は、この流れからすれば必然のことでしょう。それのみならず、話題性よりもNHKが演技をみてきて、この人ならばできると確信した役者か。

あるいはオーディションで選び抜いた役者か。

そういう骨がありそうな顔ばかりが揃っています。ついでにいえば、和装に似合うかどうかを重視していると。

和装は前髪を垂らさず、基本的に顔を出すものですので、ともかく顔の作りがシビアに問われる難しいものでもあります。逆に、顔が描いたように端正な美、あるいは個性があれば、出てくるだけで素晴らしい、眼福の瞬間が訪れます。

役者の知名度やファンの熱意をとりあえず度外視して、衣装を着せて、セットに立たせて、撮影する。その瞬間、これはよい絵になったと頷いている姿が見えてくるような、不安感のない人が揃っていると思えます。

メインビジュアルの時点で勝ったと私は思えました。打毬(だきゅう)をする道長を見ても、これは外さないなと確信できました。

よいものを堂々と作っているという、そんな自信は伝わってくるのです。

けれども、視聴率はついてくるかというと、なかなか厳しいとは思います。

まず、大河枠そのものが減衰傾向にあり止まりません。2023年はワースト2を記録しただけでなく、提灯記事のせいで大河そのものへの忌避感や不信感も高まりました。

題材。平安時代というのはなかなか馴染みがない。これだけでも不利です。

ファンダムの熱量ではなく、選りすぐったキャストということも有利であるとはいえない。

私は芸能情報には詳しくないのですが、近年この辺の仕組みがやっとわかってきましたので敢えて書きます。

マスコミでの評価は厳しい。

そんなものに左右されないとされるSNS評価はどうかというと、これも厳しい。SNSは女性に対し厳しい評価が出やすいもの。そこを踏まえると、今回は好材料がないともいえる。
視聴率も、ニュースも、低迷しかねないのがこの作品です。

しかし、それは作り手もある程度は理解してのうえでのことでしょう。

読み解きが難しい作品になるであろうし、それは2024年もそう。冒険性の高い題材を2年連続で取り組むわけですから、大河は本当に変わりたいのだと伝わってきます。

『光る君へ』とは、ただの作品ではなく、逆風の中、前へ進む決意をもった作品だろうと信じています。

・視聴率は伸びない

・露骨な提灯記事も出ない

・SNSでも「反省会」が出現する

・しかし、見た瞬間に美しいとわかる

そういう複雑な、色を重ねてゆく、難解で複雑な作品となることでしょう。

掴みどころがなく、無愛想にすら思えるかもしれない。けれどもじっとみていくうちに、心惹かれてしまう。

咲く花はいろいろあるけれど、泥の中からのび、清らかな花を咲かせるとなれば蓮は特別です。

2023年という汚泥のあと、次の歳に花開くこの大河ドラマは、蓮のような姿であって欲しい。

決して派手ではない。それを眺めて大はしゃぎする者はいない。静かにじっと眺めて、なんと清らかなのか、と息をつきたくなる。

泥から咲く気高さに見惚れてしまう――そんな作品を期待しています。2024年、この作品を刮目してみていこうと思います。


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武者震之助

2015年の大河ドラマ『花燃ゆ』以来、毎年レビューを担当。大河ドラマにとっての魏徴(ぎちょう)たらんと自認しているが、そう思うのは本人だけである。

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