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『光る君へ』感想あらすじレビュー第13回「進むべき道」

2024/04/01

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『光る君へ』感想あらすじレビュー第13回「進むべき道」
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日本のテレビ局は大丈夫なのだろうか?

こんなニュースがありました。

◆中国 北周の皇帝「武帝」 顔の再現図や民族的ルーツが明らかに(→link

今は記事タイトルが修正されていますが、実は当初「漢の武帝」とされていました。

これが『光る君へ』と何の関係が?

そう思われるかもしれませんが、実はあります。

漢武帝と日本文学には深い関係があります。

寵姫に夢中になって政治を疎かにした皇帝代表格として、唐玄宗と並んで挙げられるのが武帝。寵姫の親族を取り立てたことが批判されます。

武帝の寵姫である李夫人は「傾城傾国」という言葉の由来とされる。

寵愛する李夫人の死後、武帝は道士にその魂を呼ばせたとされています。これを「反魂」の術と呼びます。

そんな武帝の姿は白居易『長恨歌』はじめ多くの漢詩に引かれ、紫式部も熟知していました。最愛の紫の上を失った光源氏は、反魂の術でも用いたいと思うほどでした。

そんなわけで、日本文学においても大変重要な人物が漢武帝なのです。

もしそういう知識があれば、こんなミスはしなかっただろうに。私はかなり不安になってしまったのでした。

『光る君へ』はそういうことがないのでストレスがたまりません、ありがたい。

 


歴史を学ぶ意義

このドラマが始まったころから薄々感じていましたが、まひろは嫌われると思います。

同系統のヒロインとして『麒麟がくる』の駒があげられます。

まひろは字の読み書き。駒は医学。自分のスキルを世の中に広めることで、少しでもよくなればよいと考えています。

理不尽な駒叩きの数年後に、まひろのようなヒロインが出てくることに救いを感じます。

駒叩きは理解できません。

誰の愛人にもならないくせに希望を通したがるなんてえらそうだとかなんとか言われました。

別に駒は贅沢な暮らしをしたいわけでなく、民の救済を望んでいただけなのですが、そのささやかな願いすら「わがままw」と叩かれる。

一体何事かと考えていたのですが、腑に落ちてきた気がします。

逆張り冷笑ですね。

綺麗事を言っているヤツだって実はきたねーんだよw

そんな風に言い募りたい心性がこの国の、特に中年層にあるように感じます。

野口英世の話となると、ニヤニヤしながら「でもさあ、借金酷かったよねw」とネットで聞き齧ったトリビアを語りだすタイプ。

野口英世のやんちゃには厳しいわりに、渋沢栄一には甘いところまでがお約束です。

彼らに何か信念があるかというと、そうとも思えません。

サブカル。冷笑。逆張り。イジり。若い頃そういう文化に使った手癖を振り回しているだけで、アップデートできていない。

駒やまひろのように世の中を良くしようとする人が理解できない。したくもない。「偽善でしょw」と嘲笑ってしまいたい。そういう手癖で反射してしまう。

青春時代、スクールカースト上位にいられたわけでもない。そういうどこか空虚な自分を埋めてくれた存在に今も縋り付いてしまう。小憎らしい冷笑を言えば、同意してくれる人がいた。

そんな理由で繰り返しているんだろうと思います。

議論もできない。するつもりもない。やることはマウンティングだけ。漫画のコマをSNSで貼り付けて勝利した気になる。歴史的な先例とはいえ現代にそぐわない事例を持ち出すなどなど。

そういうことをあげて自分の知識でマウントを取り、優越感に浸る。そんな傾向も感じられます。

私も人をどうこう言えない。すぐに漢籍引用をして嫌味だと思います。先日は相手に「豎子ともに謀るに足らず」と送って揉めに揉めたから、自省すべきだとは思います。

歴史を学ぶ意義はマウンティングのためでしょうか?

教科書で出てくる偉人や戦国武将がワルいことをしたとか。

伊達政宗がネズミ入りの味噌汁を飲んで腹を壊した話を何度も繰り返してくるような感覚はなんなのでしょうか。

自分が若い頃見て感動した数十年前の大河ドラマのことをしつこく語り、この名作を見ていないくせに大河を語るべきではないととマウントしてくるとか。

歴史を学ぶ意義とはなかなか深いものでして、それこそ西洋からの目線ならばE・H・カーは押さえておきたい。ジャレッド・ダイヤモンドやユヴァル・ノア・ハラリも興味深いものです。

東洋からの目線ならば、古典的ですが「殷鑑遠からず」でしょう。

歴史を学ぶことで人類の陥りがちな失敗を学ぶ。先人が努力したからこそ今の世があると学ぶ。点と点をつなげて線を引き、線と線をつなげて面にしていく。

そういう思考が重要ではないでしょうか。

お城の名前。戦国武将の逸話。思い出の大河ドラマ。

そういうものをツラツラ並べて「歴史得意なんだもん!」と主張できるのは、せいぜいが十代まででしょう。

歴史からの教訓や傾向を筋道立てて組み立てないと、それは歴史学を修めるとは言えない。

もちろん歴史好きがトリビアを並べて楽しむのは悪くありません。

とはいえ最低限、世の中を変えようとした先人がいたことを把握すると同時に敬意を持たないと、今年の大河は楽しめないのではないでしょうか。

今は歴史総合の時代です。詰め込み暗記型ではなく、思考力を求められる。

今後、歴史総合を経た層からすれば、日本史偏重、詰め込み自慢をする歴史好きは古臭く見えるはずです。

常に更新し続けねば、前に進まなければ、押し流されるだけ。

そのくせ年長者であることで若い人にマウントを取る、つまらない人間になってしまいます。

 

義を見てせざるは勇無きなり

その点、昨年は、逆張り冷笑大好き層に媚びた作風でした。

「あの徳川家康だって嫌なことがあれば逃げるし、エロい女がいたらデレデレするw」

そんな主張が堂々と描かれ、ヒロインの瀬名にしても偽善者でした。

まひろや駒と違い、あの瀬名は思慮が浅く愚かで技能もないため、子どもじみた「慈愛の国構想」は崩壊しました。

史実との整合性はあったのかもしれませんが、ドラマの中で、あんな愚鈍な人物が身の丈に合わないことをすれば破綻は必至です。

そしてドラマそのもの、その周辺に漂う空気が澱んでいました。

つくづくNHKが、あの大河、および被害者を無視して芸能界礼賛をした朝ドラ『ブギウギ』を打ち切りにしなかったことは痛恨の失態だと思います。

もしも潔く異例の打ち切りにでもしたら、BBCはじめ海外メディアも覚悟は感じ取ったことでしょう。

それをNHKの慣習なり、甘っちょろい日本の空気を読んで放送したことで禍根を残しました。

BBCの報道後、うだうだしていた結果、またもBBC取材による番組が放映されました。なぜ日本のテレビ番組はそれができないのでしょうか。

この問題無反省の証として『どうする家康』は響き続けるのではないでしょうか。NHKはジャニーズ事務所が所有していた一等地のビルを賃貸契約していたことも明るみに出つつあります。

もしも昨年、断固たる対応をしていたら結果は違っただろうに……てなことを、あと何度思わされるのか。

どうしてこんなことになったのでしょう。

と考えると、結局、自分の欲求を通すことしか頭にないことが原因ではありませんか。

まひろや駒のように、世の中をよりよくしたいと思うなら、性犯罪被害者にもっと誠意ある対応をしたと思います。性犯罪加害者を免罪しかねないドラマを堂々と放映することもなかった。

ジャニーズ被害者の中には自ら命を絶った方もおられます。彼はSNSで誹謗中傷されて深く傷ついていました。

にもかかわず誹謗中傷者側を勇気づけるものとして大河ドラマがあったとすれば、これほどおぞましいことはありません。

こんなことをつらつらと書けば、どうせまた私が誹謗中傷されることもわかります。

極論や詭弁を弄してでも相手を貶めたい人はいる。今週もまたやられるかもしれません。

意地を張り、開き直り、ワルを気取ることはままあることです。しかしそれが許されるのは而立前までだと私は思います。

今回のまひろを突き動かした思いは、漢籍にあると思います。

義を見てせざるは勇無きなり。『論語』「為政」

正義を発揮すべきときにそうしないのは、勇気がないから。臆病だから。

まひろは勇敢なので、人買いを止めようとしました。

そうありたい、手本にしたいと思える素晴らしい人物です。

彼女が勇気を持って生きているのだから、そうするしかない!

そう思える今年は、大河ドラマからたくさんの勇気と力をもらえます。

それに人に尽くす意義だって理解できます。

日本史知識でマウントを取る現象に、私はもう懲り懲りで、人と大河ドラマや歴史の話はしていません。何も知らないフリをしてやり過ごしています。

人前では「一」すら書かなかった紫式部の気持ちは理解できます。

それでもSNSで出会った海外の方に、日本史のことをがんばって説明するととても楽しいと思えました。

そういう善意の持つ喜びを求めていかなければ、兼家になってしまう。

世俗のチヤホヤを得たところで何なのか。死を目前にした兼家はどれだけ虚しい人生か。ドラマを見ていると痛感できます。


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【参考】
光る君へ/公式サイト

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武者震之助

2015年の大河ドラマ『花燃ゆ』以来、毎年レビューを担当。大河ドラマにとっての魏徴(ぎちょう)たらんと自認しているが、そう思うのは本人だけである。

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