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【鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー第28回「名刀の主」】
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華々しく戦で死ぬおつもりだ
景時が頼家と向き合っています。
頼家は、彼なりに、我が手のものから聞いたと前置きしながら話します。
京都からのオファーを把握したうえで、わしに仕えなかったということは、その気があるということか!
景時は否定しません。
「忠臣は二君に仕えず……お前は自分が忠臣でないことを認めたわけだ! この鎌倉に忠義を誓わぬものはいらぬ! 奥州外ヶ浜に流罪とす!」
そう宣言されます。
正治2年(1200年)正月――景時が竹を斬っています。
中村獅童さんですから、そりゃもう圧倒的に美しい。
こんなに武勇に長けた者が滅びてしまうのか? 見ているだけで胸が苦しくなるような武者ぶり。
こうして演じることで、素晴らしい人物が生き返る歴史劇って、やっぱりいいなと思ってしまう。
義時が、焦りながら比企の館に向かっています。
すると能員も待ち受けていた。このことを知っているのは他にいるのか?と確認すると、いないと返ってきます。
義時は任せるように言う。能員は万一のことがあれば比企は終わりだと焦るばかり。
「一幡をお助けください!」
そう言われる義時ですが……この構図がゾッとしてしまう。後に酷い展開が待ち受けていますので覚えておくことオススメです。
穏便に済ませるよう頼まれた義時は、奥へ向かいます。
そこには梶原景時と一族がいました。
一幡が人質に取られていたのですね。京都に着いたら一幡様は送り返すと景時は言いますが……。
同時に景時は、上皇様の件を鎌倉殿に伝えたのは義時だとも言い切ります。彼にしか漏らしていなかったのでしょう。
それを指摘すると、義時は鎌倉を守るためだとキッパリ。
「ひけらかすものではないな」
「誰にも見せず、破いて捨てるべきでした」
あっぱれ、この江間小四郎義時こそ、鎌倉の忠臣です。
義経から鎌倉を落とす策を書状で送られている本作の景時。
鎌倉のことを熟知している景時。
それが京都からくすぐられたならば、討ち果たしてこそ鎌倉への忠臣になれます。
「刀は切り手におって名刀にもなまくらにもなる。なまくらで終わりたくはなかった……」
そう告げると、景時は一幡を返すように目で合図します。そしてこれから外ヶ浜に向かうと告げ、出立するのでした。
一行の進路を阻もうとする者に通すよう告げた義時に向かって、景時が念押しします。
義時はかつて上総広常に、我らは坂東のために立ち上がったと言った。源氏は飾りにすぎぬと。
「忘れてはおらぬな。己の道を突き進め。置き土産じゃ。これへ。おぬしに譲る」
そう言いながら、差し出したのは、なんと善児!
義時にとっては兄・宗時だけでなく、舅であり祖父である祐親とその子の祐清、八重の子である千鶴丸の仇になるのですが、それを忘れて使いこなすということでしょうか。
もはや人間というより、何かの象徴のように思えてきます。
かくして別れると、義時はすぐさま兵を整えるよう命令を出します。
頼時が驚いていると、さらにテキパキと言います。
梶原景時は奥州ではなく都を目指す。ゆえに東海道で討ち取る。
「わからぬのか? 梶原殿は華々しく戦で死ぬおつもりだ。武士らしくな。急げ!」
そう指示を出し、ため息をつく義時でした。
MVP:梶原景時
梶原景時は不運な人物です。
史実でも十分不運といえる。
死後もそうでして、義経を陥れる悪党としてさんざん悪役にされてきました。
それをどう落とし込むのか?
考え抜いた果ての、三谷氏ならではの解釈を見た気がします。
この作品の景時は優れていた。戦略家としては義経より合理的なこともしばしばあった。
景時が嫌われたのは、時代の先を行き過ぎていたのかと思えました。別の時代ならば、ここまで嫌われなかったかもしれない。
景時は確かに本作から浮いているというか、他の人物とも違いました。
出演者の皆さんも、中村獅童さんの役は笑える場所がないと語っていました。
そう、常にシリアスでしたね。
そういうノリの悪さも災いしたのではないかと思えました。
景時はなぜ嫌われたのか? その美点は何か?
そう考えるだけで頭をものすごく使う。それが歴史を学ぶおもしろさだと思える。
そういう歴史を学ぶ醍醐味がみっちり詰まった人物像でした。
これを中村獅童さんが演じているということそのものが、私にとってはショッキングでして。
歌舞伎でずっと培った所作やさまざまな要素が噛み合って、この役を演じ切れている。
そういう梶原景時と中村獅童さんの人生が噛み合って、さらにすごいものが生み出せているような、火花が散る見事さが常にありました。
そういう火花が他の出演者も刺激して、現場そのものを底上げしている――そういう凄味があって、見ていて飽きることがなかったのです。
でも、もっと見たいというのとは違う。
完成度が高いから、これで充分満足です。
すごいものを見られました。大河はこういうものかと圧倒されました。
安達景盛の頼朝落胤説
今回登場した安達景盛は、頼家と不仲とされます。
その背景として、頼朝落胤説があります。頼家からすれば異母兄にあたるゆえ、対立が激化したというのです。
どういうことか?
◆頼朝はよく安達盛長の邸を訪れていることが『吾妻鏡』には記載されています。そんなのただ盛長に会いたいだけだと思いたいところですが、果たしてそうなのか?
『鎌倉殿の13人』では、頼朝が北条義時の邸宅を訪れ、八重に迫る場面もありましたね。そういう下心ありきではないかとも思えなくもないわけでして。
◆文治2年(1186年)、安達盛長の妻であり、景盛の母である丹後内侍。彼女が病気になった際、頼朝が祈祷を頼み快癒したとあります。
◆そもそも丹後内侍とは、頼朝の面倒を見ていた比企尼の娘です。頼朝の面倒を見ると、その相手先にいる女性と関係が生まれる。八重もそうだし、政子もそう。
怪しい……決定的証拠はないけれども何かある。
こう考えているのは、実は当時の人々もそうでした。
景盛の孫の代、泰盛のとき、源氏の血を引くとアピールするようなことをして、【霜月騒動】につながり、安達家が破滅する一因となっています。
死後も祟る頼朝の女遊び。
北条泰時は『御成敗式目』で不倫禁止を制定しましたが、納得のいくことです。
女好きも大概にせい!大進局に子を産ませ兄の元嫁・祥寿姫を狙う頼朝
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妖艶、倫落……あまりにけしからん大河
えげつない。なんていやらしくてけしからんのだ!
そう呻きたくなるほどの妖艶さが先週からありましたね。
いやらしいというのは、誰かが裸で登場すればいいってもんじゃない。露出度より心の問題で、恋に落ちる瞬間がいやらしいのです。
それでも娘時代の政子は健康的ですね。
政子が鏡に向かって化粧する場面がある。これは素晴らしいことでした。
彼女の頼朝への燃えるような恋心が表現されていて、色気がありました。健康的な色気です。
それが爛れていて崩れているからこそ、どうしようもなかったのが、先週からの実衣ですわ。
既婚者が琵琶を習って心惹かれる。そんなけしからんことがあっていいものか?
いやらしい、なんということかと戸惑いました。
けだるげに琵琶の弦を鳴らす実衣なんてもう、触れたら花びらがホロホロとくずれてきた花のようで。こういう人妻を倫落だのなんだの言うのです。ものすごいエロスがありました。
そしてそんな倫落を誘う結城朝光を演じる高橋侃さん。
本作のみならず、ここ数年の大河でもトップクラスの妖艶さでした。
中川大志さんの畠山重忠は、今週出てきたように、見栄えが良すぎる。清潔感があって、完璧すぎて、かえって妖艶ではない。
高橋侃さんは、完璧ではない何かがある。隙がある。そこが妖艶さにつながる。
とはいえ、結城朝光は立派な人物です。
露骨にいやらしいことはしない。礼儀正しく、きちんとふるまう。それなのに妖艶。ものすごく高度な仕上がりを見せてきていると思えました。
弓を射ながら顔を伏せるところなんて、ともかく美しい。
でも何かが妖しい。
声? 動き? なんだかわからんが、けしからんな! そう言いたくなる吸引力がありましたね。
そして琵琶ですね。
いま、東洋の伝統楽器を弾く美男はちょっとしたブーム。華流の『陳情令』が代表例です。
そういう流れに乗ったというわけではないでしょう。ともあれ、伝統楽器を奏でる人は美しく魅力的だと示しました。このドラマに琵琶が出て本当によかったと思います。
このドラマには歴史を学ぶ醍醐味を思い出させる要素があまりに多い。
そこがいやらしくて、けしからんのかもしれない。
はっきり言って、今年の大河は面白いのです。
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
なぜ梶原景時は御家人仲間に嫌われた?頭脳派武士が迎えた悲痛な最期
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文:武者震之助(note)
絵:小久ヒロ
【参考】
鎌倉殿の13人/公式サイト