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【宋人おもてなし考察】
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強烈な酒も、日本での定着はまだ先のこと
ドラマの中では、藤原宣孝が宋の酒である「白酒(バイジウ)」を為時とまひろに勧める場面がありました。
宋人との宴のあと、酒を飲みすぎた為時が、ふらふらになっている姿もありました。
蒸留酒である白酒は当時の宋でも高級品です。
周明が医薬品として、白酒を用いた消毒をするかもしれません。
蒸留酒の日本での定着はまだ先で、諸説ありながら、琉球経由で江戸時代から醸造されるようになりました。
醸造酒でも、日中間の差があるものです。
日本人にとっての中国の醸造酒(黄酒など)は、甘みが足りない。
かつて日本人向けの中国醸造酒の飲み方ガイドには、ザラメや氷砂糖を入れると書かれていたものでした。そうしないと飲みにくいとされてきたのです。
逆に、中国人が日本酒を飲むと甘いと感じることが多いものです。
ましてや当時の酒は白濁していて強烈な甘さです。
この甘い飲み物が酒なのか!
と相手が驚いてしまっても不思議ではありません。宋人の口には合わないから、わざわざ自国の酒を用意したのかもしれませんね。
なお、日本酒は、中国語圏で「(日本)清酒」表記が一般的となります。
茶の定着は鎌倉時代から
酒が駄目ならば、ソフトドリンクはどうか。
宋人がそう望んだところで、水と湯しかない、そんな厳しい事態が待ち受けています。
当時、日本に来る宋人は江南地方出身者が多かった。彼らは茶文化に親しんでおりますから、これには困ることでしょう。
日本人にも茶の知識そのものはありますが、当時は栽培前の輸入品です。
茶の定着は、鎌倉時代まで待たねばなりません。
まひろは覚醒作用もある茶のことを知り、興味津々になるかもしれませんね。
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まひろの硯は宋の石で作られる?
紫式部が愛用したという硯は、中国産の石を用いているとされます。
まひろの宋への憧れを知った道長が取り寄せ、職人に作らせるのでしょうか。
伝説のキーアイテム登場が楽しみですね。
中国人のおもてなしは江戸時代に完成する
藤原為時たちがどうやって宋人を歓迎するか。
その対応には限界点があったと思います。
道長はどうにも認識が甘いようで、そうした苦い教訓を経ながら、合格点の出せるおもてなしが完成したのは江戸時代のことです。
江戸時代の出島には、清とオランダの商館がありました。幕府の管理下においてのみ、貿易ができるようにしたのです。
清の商人たちは日本での生活を楽しみました。
漢詩添削を依頼するために彼らを訪れる日本の文人もいて、穏やかな交流がそこにはあったのです。
セキュリティ対策もできていました。
海外と密貿易をされて幕府非公認の利益をあげてしまうと、潜在的に危険です。実際、徳川幕府に終止符を打った薩摩藩は、琉球経由の密貿易で利益を得ていたのでした。
日本側の悩みとしては、輸入超過となると赤字が出てしまうことでしょう。
江戸時代まで、日本側の主な輸出品は金、銀、材木などの資源でした。
日本刀も輸入されていましたが、武器としてそのまま使うのではなく、溶かして鉄を得る用途が主流です。
明代、屋内戦闘における日本刀の威力は、倭寇を通して認識されました。
ただし、明側は改良をしつつ、刀の製造と戦闘技術を高めています。中国で日本刀の強さが知られていることは確かなのですが、そのまま用いるわけではありませんでした。
時代が下り、江戸時代となると、資源も枯渇してきます。
そこで注目されたのが海産物です。
海鼠は中華料理では乾燥させて「海参(ハイシェン)」という最高級食材として用いられます。
フカヒレも高級食材です。これに干し鮑を加え、「俵物三品」として輸出することにしたのです。
同時に鉱山を開発し、輸入に頼っていた陶磁器の国内生産を増大、高級薬剤である朝鮮人参栽培の定着といった対策を進め、赤字解消を目指しました。
為時たちの宋人に対するおもてなし。
江戸幕府のおもてなし。
時代がくだると、進化していくものだと改めてわかります。
令和時代の日本も、中国語圏から多数の観光客や移住者が訪れるようになりました。
歴史を教訓として、おもてなしとは何か、もう一度考えてみることも重要かもしれません。
大河ドラマから学べることは歴史だけでなく、市民レベルでの温かいおもてなしの心であってもよいのではないでしょうか。
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文:小檜山青
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