画像はイメージです(源氏物語絵巻/wikipediaより引用)

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『光る君へ』“文”を巡って起きる地獄展開~道長と倫子と明子とまひろの危うい関係とは

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文を巡る地獄絵図
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怨念系女君の系譜

源明子のキャラクター性はバッチリ表現されています。箇条書きにしてみましょう。

・プライドが高い

・高貴な血筋

・意思強固

・呪詛体質

・嫡妻になれない

きっと『源氏物語』ファンならば頷いてしまうことでしょう。

コアな人気もある伝説の女君・六条御息所の姿が浮かんできます。

六条御息所は、嫉妬に狂う女性像として日本文学史に名を残す女君であり、般若やヤンデレの祖とも言えるかもしれません。

六条御息所を描いた上村松園『焔』/wikipediaより引用

彼女は光源氏と結ばれるものの、愛が重すぎるのか、相手は冷たい態度を取ります。桐壺帝ですら「もっと彼女を大事にするべきだ」と困惑するほどの素っ気なさになってゆく。

都でも噂となり、プライドの高い彼女は傷つくばかり。

そんなとき、賀茂祭が開催されます。

光源氏の姿を一目みようと彼女が牛車を止めて待っていると、光源氏の嫡妻である葵の上の牛車がやってきて、六条御息所の牛車を強引にどかせてしまった。

牛車を壊され、泣く泣く帰るしかない六条御息所。

このあと、葵の上が夕霧を産むと、六条御息所は生き霊となり、彼女を祟り殺してしまいます。

そうなると、光源氏はますます六条御息所を嫌うのではないか?

と、そう単純なことでもなく、二人は付かず離れずの絶妙な距離感を保ちつつ、関係は続いてゆきます。

六条御息所は後ろ盾がなく、娘の将来を光源氏に託すしかないという状況もありました。光源氏はこの意思を守り、六条御息所の娘は冷泉帝に入内し、光源氏が後見をはたしています。

しかしこの関係はあっさりとは終わらず、なんと六条御息所は死してなお、紫の上や女三の宮にまで死霊として祟るのでした。

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明子の結婚生活も、六条御息所と重なるところはある。

『御堂関白記』では、倫子と比較すると明子への言及がかなり少ないのです。

道長の目に映る妻の地位には格差があり、それでも明子は自分自身の力も限られ、我が子の出世を夫に頼るしかありません。地位が弱いほど、夫の愛へ依存するしかなくなります。

憎いようで、愛している……。

愛しているけど、憎たらしい!

そんな感情に翻弄される明子。なまじ誇り高いだけに、般若になってもおかしくない可能性はあるでしょう。

さらに明子は、公式の時点でまひろに対して鬱屈が溜まっていくと記されています。

倫子はまひろと不思議な関係を築くとされているのに、明子ははなから不穏。

これは今でもよくある普遍的な現象かもしれませんが、女性が抱いた男性への不信感や怒りは、ストレートに相手の男性には向かわない。

男の目線が向かう先にいる、自分以外の女にぶつけられていく現象があります。

おっとりしていて、嫡妻である倫子はまひろに怒りをぶつけることはないかもしれません。実際、この二人は高級化粧品といった贈り物を届けあう仲でもあったとか。

しかし、明子はどうか?

不穏でしかありません。

明子と対面する場が設定されていたのに、さっさと消えた道長――その心の内にまひろがいたと気付いたとき、明子はどうなってしまうのか?

こんな怨霊系女君と対峙するまひろの心痛は?

またしても見所が予想されます。

 


クリエイターには創作という復讐がある

道長へ向かうはずだった源明子の負の感情が、まひろに向けられる。

そのとき彼女はどうすべきか?

実は、まひろがこれをかわす手段はもう出ています。

『源氏物語』です。

書くことによってストレスを発散できるまひろは強い。明子に向けられた敵意から、作品のネタを思いつくとしたらどうでしょうか。

嫡妻として堂々たる振る舞いを見える倫子の像は、わきまえた紫の上に反映させる。

怨霊系女君である六条御息所の造型には、明子の像を用いる。

それを道長が読んで、ニヤニヤしたら、それは最高の復讐になります。

「いやあ、この六条御息所はすごくリアリティがあるなぁ。こういう女君って実在するよなぁ」

「ふふふ、お気づきになりましたか。あの方みたいですよねえ」

こんな会話を道長とまひろが交わし、笑い合ったら、それはもうドラマとしては盛り上がりますよね。

『源氏物語』の映像化作品は多いですが、実際のところ六条御息所の出番はそう多くない。

しかし映像化需要はきっと高いであろう六条御息所系ヒロインが、大河ドラマに出るとなれば素晴らしいことではありませんか。

春に咲く桜のように穏やかでおっとりとした源倫子

秋に散る紅葉のように、美しくも凄絶な源明子。

その間に座り、永遠の女であるまひろに目を向ける藤原道長

その様を見て、物語のプロットを練るまひろ。

素晴らしい構図が、そこにはあるではないですか。ドラマがますます楽しみになってきます。


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文:小檜山青
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【参考文献】
高木和子『源氏物語を読む』(→amazon
倉本一宏『紫式部と藤原道長』(→amazon
『枕草子』(→amazon

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