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【『光る君へ』感想あらすじレビュー第34回「目覚め」】
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もしもあのとき、二人が結ばれていたら
まひろは道長から送られた檜扇を取り出しました。
そこに描かれているのは、小鳥を追いかける少女とその少女を見る少年の姿。
出会った時のまひろと三郎ですね。
小鳥を追って行った先で出会ったあの人……あの幼い日から、恋しいあの人のそばで、ずっとずっと一緒に生きていられたら……一体、どんな人生だっただろう。
物思いに耽りながら、雀の声を聞き、まひろは何かを考えています。
幻のように少女の姿が浮かんでくる。
筆をとり「若紫」を書き始めるまひろ。
雀の子を逃がしてしまった少女が、物語の中に登場します。
この場面では、まひろが考えながら筆と同じ手にもった墨をすっている様が見事です。
よほど慣れていないと、ほどよく力が抜けてこうはならないと思わされます。根本先生の指導のもと、吉高由里子さんはどれほどの鍛錬をしたのでしょうか。素晴らしい手つきでした。
根本先生は最近出番が多く、雑誌でも、NHKでも、よく見かけます。生き生きとしておられて、かな書道も広まっているようです。
ついでにいえば、来年の題字を担当されている石川九楊先生も見かける機会が増えています。
二年連続、書道大河となるのか。気になるところです。
まひろは読者との会話を通し、次の創作の源を得ました。
誰の人生を反映させてもいい。
ならば、私が小鳥を逃がし、運命の相手と出会う話を書いてもいい。
そう悟ったと。
もしも三郎に私が愛されていたら?
そんなif展開が「若紫」から展開します。その「若紫」由来の「紫式部」と呼ばれるとなると、壮大な展開に思えます。
道長、嫡男・頼通とともに御嶽詣へ
道綱が虚な目で空を眺めています。
「興福寺の僧を追い払ってから何かがおかしい」
覇気なくそう語るのは理由がありました。斉信の家が焼けたかと思えば、今度は道綱の家も焼けたのだとか。
激しく落ち込む道綱を気遣う斉信と公任。
道綱は道長がいろ〜んな見舞いをくれたとつぶやき、良い弟だと言いますが、実際はそれどころではないでしょうね。
その直後、敦康親王が病に伏せりました。
中宮が看病していると伊周がやってきて、見舞いとして源為憲による『口遊』という本を持ってきました。
敦康親王は不機嫌になり、「いらぬ」と断ります。
しかし道長がやってくると、敦康親王はそちらに懐いた様子を見せます。
咳き込む敦康親王を気遣う道長。
伊周はどこか暗い目でその姿を見つめるのでした。
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敦康親王(定子の長男)の不憫すぎる生涯 一条天皇の第一皇子は二十歳にして散る
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土御門で道長は、何か準備をしています。
嫡男である藤原頼通が尋ねると、不吉なことが続き、中宮も懐妊しないため、吉野の金峯山に参るそうです。
「一生で一度の御嶽詣だ」として覚悟を決めている。
頼通が同道したいというと、道長は、8月の出立まで、酒、肉、欲、色を断たねばならぬと注意します。
思わず怯みながら迷ってしまう頼通。
道中も険しいと道長はさらに警告するのですが……。
「お供いたしたく存じます。中宮様の御ためにも参ります」
「そうか。ならばともに参ろう」
「ありがたき幸せに存じます」
かくして父と子の旅が決まります。
父と嫡男が同時に行動し、両方落命するリスクは後世【本能寺の変】であらわになります。そのため徳川家康は【関ヶ原の戦い】で父と子が別れて行動するわけです。
中宮に報告し、出立する道長一行。頼通と俊賢が同道しました。
そのころ、伊周一味は何か陰謀を企んでいるようです。
道は険しい!
嫡男も一緒だ!
一行の背中を見送る怪しい男は、これぞ暗殺の好機だと考えていることでしょう。
昨年の大河ドラマでは、家康の伊賀越えが余裕たっぷりで、結果はわかっているしどうでもええと投げやりな気分になりました。
しかし今年は、結果がわかっていても、手に汗を握る展開になりそうです。
平安中期なのに、戦国末よりスリリングなのは一体どういうことでしょう。
MVP:まひろ
まひろが重要なことを語っています。
中宮から帝に心を開かねばならないのだ、と。
そして帝とまひろの会話からは、「帝も誰かに心を開いて欲しい」のだとわかりました。
キーワードは「心を開く」ということでしょう。
そしてこれは脚本家の大石静さんだけが一人で考えたことでもなく、NHKドラマチームが掲げている課題に思えます。
それというのも、同時期に放映されている『虎に翼』にも、心を閉ざしていた人物が登場するのです。
ヒロインの再婚相手となる星航一です。
彼は当初「心に蓋をしている」と表現されていて、どこか人との距離を取るような言動をしていました。
彰子にせよ、航一にせよ、表情に乏しく、反応が鈍いように思えます。
周囲の反応も芳しいものでもなく、航一は作中で実の子どもや同僚から「つまらない」とすら言われています。
彰子も「うつけ」という噂が立っておりましたね。
視聴者も騙されてしまい、航一はヒロインの前夫である優三と比較してわかりにくいと困惑されました。
彰子も「バカとして描かれている」とすら言われています。
心を閉ざしている人というのは、自分の才知どころか意見すら隠してしまうし、とっつきにくいのです。
ゆえにフィクションではあまり扱われないタイプに思えます。
それこそ昔なら「愚鈍」、今なら「陰キャ」と処理されてつまらない人間として軽んじられることすらあるのです。
しかし、心を開いたら、生き生きとしてきて、非常に魅力的である――NHKドラマ班としてはそう訴えたいがために、こうした人物像を設定していると思えます。
過去の大河ドラマと比較してみましょう。
2015年『花燃ゆ』では、壁ドンをアレンジしたようなラブシーンがありました。
2021年『青天を衝け』は、屋外で叫んで告白する主人公と、それをドギマギしながら聞くヒロインの場面がありました。
2023年『どうする家康』は、やたらと大きな子ども時代も松平竹千代が、後の妻となる瀬名と幼少期に出逢います。
こういう手垢のついた、昭和平成のドラマや漫画で見たようなラブシーンは、一定の世代はパブロフの犬のように食いつきます。
SNSで反応して書き込みます。
それを集めてコタツ記事を流せば、それなりに成功したように導ける。
一方で、閉じた心を開くシチュエーションは、わかりにくいし、ネットの瞬間風速も稼ぎにくい。
それを敢えてやるということは、NHKは長期視点で何かを変えたいということではないでしょうか。
まひろは、そんな今のNHKドラマの象徴のような存在です。
彰子の心を開くよう導き、帝のカウンセリングを引き受け、さらには物語の中に自分の開いた心から溢れ出したものを注ぎ込む。
安倍晴明に続く心理操作の達人ですね。
『虎に翼』のヒロイン寅子の場合、グイグイと精一杯誠心誠意で迫ることで、相手の心を開いていきます。『鬼滅の刃』の炭治郎タイプです。
一方で『光る君へ』のまひろは、あえて回り込んで、用意周到に人の心を開く策士の風情があります。
どちらも違っていて、どちらも魅力的。
来週は心が開いた彰子と帝の姿が見られます。期待して待ちましょう!
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【参考】
光る君へ/公式サイト