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『光る君へ』感想あらすじレビュー第37回「波紋」倫子も清少納言もキレて当然か

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『光る君へ』感想あらすじレビュー第37回「波紋」
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波乱の予兆

予兆はありました。

まひろは筆を握り、どうして「罪」と「罰」と書きつけたのか。

まひろが変わってしまったからこそ、最も若く真っ直ぐな賢子はそれを察知し、ああも怒ったのではないか?

まひろだって、我ながら見慣れたはずの部屋をみすぼらしいと思う自分の中に、何か心の闇のようなものを見出していたのかもしれない。

そしてあの謎の若武者が、決定的でしょう。

彼はまるで直秀が蘇ったように思える。

直秀が忍び込んだ時、若い頃の道長は救い出そうとしました。それが今はまるで害虫が忍び込んだように考えている。

一方でまひろはどうか?

あの謎の若武者は、直秀の再来として、二人の心を映す鏡になるのかもしれません。

何より演じるのは伊藤健太郎さんです。本作チームが愛着を持って育て上げて磨いてきた掌中の珠ともいえる。

それが不祥事で一時仕事が途切れてしまった。

失望するだけでなく、彼がまた戻ってくることがあるのなら、その花道を用意するのは、自分たち以外に誰ができるのかという、そんな自負がこのチームにあってもおかしくないと思うのです。

朝ドラ『スカーレット』で、このチームが世に大々的に送り出した逸材として、松下洸平さんと伊藤健太郎さんがいます。

大河にまでこのチームは上り詰め、自由度の高い架空重要キャラクターを演じさせることで、自分たちが磨いた珠の輝きを世に問うているように思えます。

はたしてあの謎の若武者は、私たちに何を見せようとしているのでしょうか?

どうかき乱すのでしょうか?

 

東宮の座を巡る争いが生じる

寛弘6年(1009年)、年があけると帝は伊周を正二位にとしました。

ついに道長と並んだ。

これで東宮が誰になるかによって、情勢は大きく変わります。

帝は一体何を考えているのか?

パワーバランスを取ろうとしているのかもしれません。

道綱が「この人事は帝一人でお決めになれないから、左大臣はよく許した」と不思議がっていると、「左大臣は伊周の不満がこれ以上募らぬようにそうしたのだろう」と実資は理解を示し、上に立つ者のゆとりだと分析しています。

しかし、そんなゆとりをもっていられるのかどうか。帝は敦康を次の東宮にしたいのでしょう。

大好きだった皇后定子様の子だと道綱は呑気に言っています。

公任は不穏そうな顔すら見せ、伊周の弟・藤原隆家に対し「これほど伊周が盛り返すとは思ってもいなかった」と打ち明けていました。

隆家は、一切兄とは関わっていない、とうの昔に兄を見限ったと続け、左大臣の足を引っ張る兄にはまともな心はないとまで言うのです。

確かに兄弟でも性格的に合いそうにありませんね。

斉信も行成も道長を支えるつもりだと強調する公任。もはや道長だけの問題ではないのです。

公任は、隆家に「その心はあるのか」と問いかけ、伊周の動きを知らせるように念押ししました。

それにしても、これは隣国の宋あたりからすれば「何をしているんだ君たちは!」と驚愕しそうな話でして。

中国でも、兄弟のうち器量や母の身分差で決めていたこともあります。

『三国志』では袁紹にせよ、曹操にせよ、気に入った我が子を嫡男にしようとした。現在放映中の『三国志 秘密の皇帝』でも、そうした兄弟間の争いがプロットに絡んできます。

しかし、それでは兄弟同士が無駄に争ってろくなことがありません。デメリットが大きい。

ゆえに、よほどのことがない限り、基本的には長男を皇太子にして、弟はそれを補佐させることが定着していきました。

一方、日本で長子相続が確固たるものとなるのは、江戸時代徳川家光以降とされているのです。

 

清少納言、『源氏物語』を読む

さらにこの日、為時は正五位下にのぼりました。

まひろを前にして、惟規は「どうなっているのか?また官職にのぼるのか?」と不思議がっています。

しかし表情に何も出ないまひろに大して、驚かないのか?と問いかけると、彼女も「驚いている」と返します。

顔に出にくいのか、もっと驚くべきことがあると思っているのか。

惟規は早く戻れと言われ、せっかく教えにきてあげたのに……おいしいお菓子はないのかとねだります。子どもっぽいな。

道長の贈ってくれた檜扇をじっと見つめているまひろ。

するとそこへ清少納言がやってきたと告げられます。

「おひさしゅうございます、まひろ様」

「ききょう様」

そう微笑むまひろ。

「光る君の物語、読みました」

敵意満々のききょうに対し、涼しい顔に微かな動揺を滲ませるまひろ。

さて、邪悪なのはどちらでしょう?

私はまひろだと思います。

改めて考えてみてください。彼女は定子をモデルにするように桐壺更衣を描き、桐壺帝の愛が殺したように書き始めています。

道長が困惑し、帝も気付き、苛立った出だしです。

そのうえで桐壺帝の寵愛を上書きする存在として、藤壺の宮を出してきている。

皇后定子はオワコン。今は中宮彰子の時代。そう揶揄しているような内容といえます。

『枕草子』で藤原宣孝の派手な衣装が揶揄されたどころではない。

火の玉ストレート豪速球を、定子周辺にぶつけてきた、憎んでも憎みきれない、そんな炎上上等作家です。

そのくせ涼しい顔で「ききょう様」と返してくる奴。

邪悪に決まっているじゃないですか。

とはいえ、二週連続、「ありのままに振る舞っていただけで、なんだかものすごい顔で相手が見てくるんですけど」と思っていそうなところが、まひろの底知れぬところですよ。

一体この人はなんなんでしょうか。

史実では、紫式部と清少納言は対面していない可能性の方が高いとされています。

しかし本作は、作品を政治の道具とする、政治性が極めて高いドラマです。

プロット的にも、この二人は顔を合わせて鎬を削る方がおもしろいと判断したのでしょう。

歴史ドラマで安易に顔を合わせることは、私はあまり好きではありません。

昨年、徳川家康石田三成が対面した上で親友のように振る舞うような展開は、思い切り批判したことを覚えています。

けれども、こうも盛り上がるとなると、認めざるを得ません。

今年の大河ドラマは極めて挑発的で、常に危ういところで踏みとどまっているように思えます。

どこか型破りで、とてつもなく失礼で、こんなものは認めたくないと思いたくなる。

それでもこれはありだと言うしかない、そんな力が本作には満ち溢れています。

このドラマのチームは『アシガール』、『スカーレット』と着実に歩んできて、そしてここまで辿り着いた用意周到な策を感じさせます。

主要スタッフの比率において、女性が高いところも特徴です。

“女の子”だの“おばさん”の思いつきと言われぬように、ジリジリと綿密に計画を練り、この高みにのぼった自負を感じるのですね。

そういうしたたかさと大胆さを、まひろという人物像に練り込んでいるように思えます。

こんなに真面目で大胆、勇気と誠意があふれているチームを、否定することなんて私には到底できかねます。

本作は成功作になると確信できています。

そろそろ10月なのに関連番組は多い。紙媒体までも特集記事を組んでいる。苦戦する題材とされつつ、視聴率は一桁にならない。

書店では関連書籍が並んでいます。大河公式ガイドブックも、新刊が秋になってから出版されました。成功枠だった『鎌倉殿の13人』も、視聴率は実はそこまで高くありません。今年とそこまで差が開いているわけではありません。

NHKプラス時代に突入し、この題材で、この結果というのは、立派なものだと思います。

 

MVP:藤原行成

歴史劇を見ていてよかったと思えること――今回はその一つを味わいました。

能書家である藤原行成が筆を執り『源氏物語』を記す。

行成の出番は長く、字が美しいことは紹介されてきました。その能筆を前面に押し出した瞬間、何かが当て嵌まる音が聞こえたような気がしたのです。

書とは、東アジアにおいて天意を受け止める器のような意味合いすらあります。

ゆえに君主は己の治世において、能書家が出るよう願うもの。

一条天皇は行成の字を見ることが、どれほど嬉しかったことでしょう。

至高の物語が、行成の美しい字で綴られている。奇跡や天意のようなものすら感じさせたのではないかと思えました。

裏のMVPは根本知先生です。

今年はメディアに顔を出し、仕事をしすぎではないかと何かと心配になってしまうほど。こんなに書道家があちこちに顔を出していることは珍しい。

いつみても輝くような顔色で、好きなことを極めている満足感がそこにはあります。

彼がこんなにもうれしそうで満ち足りた顔になるとは、実に素敵なことではないだろうかと思うばかりです。

彼はかな書道がどれだけ楽しいのか、いきいきと話しています。

そんな彼に惹かれて筆を執る人もいることでしょう。

文化継承に貢献した点においても、このドラマは作られた意味があったと私は思います。

かな書道が光る『光る君へ』「三跡」行成が生きた時代

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文:武者震之助note

【参考】
光る君へ/公式サイト

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