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【鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー第13回「幼なじみの絆」】
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月明星稀ーー明月の大江広元
大江広元――コーエーのゲームなら知力90を超えていそうな、そんな顔グラの逸物。
彼は他の連中の光を消しました。恐ろしい話です。
そして見えてきたものがある。
牧宗親とりく。
そして比企一族の薄っぺらさだ。
りくの農婦ぶりには驚きました。こういうことも、やればできるってこと?
兄・宗親も、公家枠かつ有能な大江広元の登場により、胡散臭さが見えてきます。宗親はマナー講師しかできていない。
この兄と妹って、ファッション公家なのか。
そこまで名門でもないし、公家らしいことができるわけでもないのに、まずは形から入ろうとしているとか?
時政は騙せても、本場の人は「ワナビーやわぁw」となりそうです。
そして比企一族。
大江広元と共に側近の位置にいますが、比企能員はさほどの切れ者には思えません。
ゆえに、乳母子であることと、源氏に娘を送り込むことを権力掌握の手段としました。
このように結婚相手がいいように政治介入すること――悪い例かつ日本でもおなじみといえば、『三国志』序盤に登場する何進と何皇后がおります。
肉屋出身なのに皇后となったものだから、政治に介入する。
本人の資質云々よりも、こういう外戚構造が問題視され、排除するべく中国ではさまざまな対策を取りました。
南北朝時代の北魏には「子貴母死(しきぼし・子が太子となったら母を殺す)」という恐ろしい制度もあったほど。
唐でも玄宗が楊貴妃にメロメロになって、政治を疎かにし、大混乱が起こりました。
それはおぞましいことだという意識があったため、後白河法皇のそばにいる丹後局は「日本の楊貴妃か!」と悪いニュアンスで呼ばれました。
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これが日本の限界と言えるかもしれませn。
教訓としても、制度から女系を排除することは難しい。
天皇の妃に娘を送りこむことが定着し、乳母が権力を握ろうと見逃されます。
そしてそのことが鎌倉にも及んでいるからこそ、こうした比企の作戦が通じるのです。
しかし、この外戚路線がいつか身を滅ぼしかねないことは、今から押さえておきたい。
RPGなら文覚は黒魔道士です
はい、文覚が再登場しました。
胡散臭い。それで正しい。呪詛を受ける時点でダメでしょう。
当時は呪詛で殺人ができると信じている。
いわば、文覚と頼朝って、殺し屋とその依頼人関係です。
そもそも、まともな陰陽師――国家公務員のような人は呪詛を受け付けません。
そんな話に乗るのは、フリーランスである悪の陰陽師や仏僧ぐらい。
文覚って、副業で殺し屋をしている仏僧が出世しちゃったようなものなのです。
もともとストーカー伝説もあるし、そう簡単に褒めてもいい人ではない。
この世界観でRPGを作ったら、文覚は黒魔道士ですね。
しかも文覚は、その殺し屋にしたって手順をちゃんと踏んでいません。
呪いの依頼を受けるにせよ、一応、生年月日やデータも必要となります。それこそ義経を言いくるめて、直筆の書状でも入手すればよいとは思いますが、そういった手順を抜きにいきなりコレかーい!
文覚は当時の人から「周りの悪口ばっかり言うし、なんか胡散臭いし、性格悪い」と言われておりました。
ありとあらゆる意味で、最低最悪だとは思います。
伊豆で頼朝に用いられた文覚はストーキング殺人事件疑惑のある破戒僧だった
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兵は不祥の器
兵は不祥の器、君子の器に非(あら)ず。
武力は危険なもの。君子が用いるべきものではない。
老子
木曽に軍勢を派遣することに、坂東武者が怒っていました。
この場面は、なかなか普遍的な真理をついたものでしょう。
威嚇だとか。演習だとか。そういう言い分で軍事力を動かすと、思わぬことを引き起こしかねません。
『麒麟がくる』でも出てきた足利義輝の暗殺もそうです。
あれは松永久秀の主導ではなく、久秀の子や周辺の人物による「御所巻(将軍の御所を武力で取り巻き、自分たちの要望を通すこと)」の結果とされています。
永禄の変で敵に囲まれた13代将軍・義輝が自らの刀で応戦したってマジすか?
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幕末の【禁門の変】もそうでう。
長州藩の尊王攘夷派武装勢力が孝明天皇に請願しようとして、あの惨劇に繋がりました。
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中国では『三国志』の序盤、宦官を一掃するために董卓の軍勢を首都・洛陽に呼び寄せたところ、統制が取れずに乱世が開幕しました。
坂東武者の統制がこうも取れていないからには、武力行使にはリスクが伴います。
義時にとってはハタ迷惑な実験とはいえ、大江広元はあの騒ぎで理解したことでしょう。
そしてこれが木曽義仲の失敗にもつながってゆきます。
現在に至るまで当てはまる話ですので、誰かが軍勢を動かすことを渋っているとすれば、それは当然のことと言えます。
戦災未亡人の扱い方
義時は気持ち悪いようで、極めて善良と言えます。
八重は戦災未亡人といえる。
そういう人の衣食住を面倒見つつ、デリバリーサービスしかしていない。悪い男なら恩着せがましく妊娠させるぐらいしているかもしれません。
その悪い男の具体例は、大河で言えば『青天を衝け』の渋沢栄一ですね。
戊辰戦争で夫が行方不明になった女性給仕の袖を引っ張って、妾にしていました。
あの一連の行為を「戦災未亡人の苦労を知るため」と擁護する記事には驚いたものです。
そんな女性を介在させずとも戦争の惨さを知り、助ける手立てはいくらでもある。そんな言い訳のもと、どれだけの戦災被害者が搾取されたか。到底信じ難い話でした。
確かに明治維新とは、内戦を巻き起こし幕臣から仕事を奪い、明治政府が安く買い叩く酷い構図がありました。
それは女性も巻き込みました。そういう史実を美談にしてどうするのかということ。
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二年続けてそんな主役を描いていたら、大河も危険。
ここは正念場ゆえの慎重なアプローチかもしれません。
悲しいことに、今、現実世界でそういう下劣な動きが見られます。
困った人を保護するのであれば、やりすぎかと思うくらい誠意を見せなければいけません。
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知性は新しく 古典的なセクシー
BBCの人気ドラマ『SHERLOCK』で、アイリーン・アドラーがこう言います。
「知性は新しいセクシー」
亀がこのセクシーさを体現してきましたね。
亀は賢いという設定でした。
漁師出身でそれは不思議だとは思った。文筆を学ぶ機会はないだろうと。
それを彼女は見事にこなしました。りくから政子に渡されていた書籍を読み、覚え、引用したのです。
そしてこの知性のセクシーさって、実は新しいわけでもなく、古典的です。
日本の遊女はじめ、高級娼婦も古今東西そうです。
彼女らは教養トークができる。
いやあ、女房は育児だ家庭だ稼ぎだのというけど、彼女とは博識なトークができるんだよね!
という、これまた男が遊ぶ言い訳でした。
亀はそこを見抜き、ランクを上げていった。とてつもなく賢く、セクシーな女性でした。
頼朝は京都から来ています。和歌なんて詠まれたら、そこだけまるで京都のようで、うっとりしてしまうのでしょう。
こういう普遍的な事象をどう描くか?
それこそが作り手の気合いです。
これまた悪い例として昨年を出して申し訳ありませんが、『青天を衝け』では千代が勉強したがっていた場面があったのに、その後のフォローが何もありませんでした。
劇中で漢籍を引用しても、解釈がおかしい上に、夫を無闇に甘やかすためにしか引いていない。
明治になると、そんな千代は夫から役目をふられ「胸がぐるぐるいたします!」と語りました。
千代は受け身。夫から任されないと何もしないし、「胸がぐるぐるする」というのも夫の決め台詞です。胸の高鳴りを訴える言葉すら借り物でした。
そういう受け身で素直なところばかりが女性の魅力とされ、知性を称揚する場面があるようでなかったのが、昨年の大河です。
何年も続けて、同じ枠がこうではならない。今年は明確に昨年とは異なります。
ドラマとしての演出のみならず、中世と近世の違いもあります。
近世に生きる千代のような女性は「女は学ばないことが美徳」とされました。
一方、中世は女だって教養が重視されます。
教養あってこそ、女性のロールモデルとなる。亀はそう政子に言い切ったのです。
そしてこの先、政子が和泉式部のことだけを引用していたら不十分だ。
坂東の女性の頂点として、帝王学のテキストである漢籍『貞観政要』を読みこなし、引用してくると期待したいところです。
女心? それって男の思い込みでしょ
八重は、
別れた相手が自分を思い続けるなんて、男の勝手な思い込みだ
と苦々しく言い切りました。
彼女は、文学的に中々大事なことを言っています。
漢詩や和歌には「閨怨(けいえん)」というジャンルがある。
要は「フラれた女が男を思いメソメソしている様子」ということです。
そして大事なのは、その作者の大半が男だということ。
それ、男の勝手な思い込みじゃない?
そういう思い込みで女性心理分析して「女心、マジ尊い……」とか言っているのってどうよ?
そんな問題提起があるんですね。
こういう世界観には「あのクズ男と別れてサッパリしたわ〜」と好きなものを食べながらリラックスする、そんな女はおりません。
誰もいないはずなのにバッチリ着飾って、さめざめと泣く美女ばかりだ。超絶、嘘くせぇええ〜!
八重のセリフは、そういう問題提起に通じます。
本作ってそういうバイアスを分析しつつ、ぶった斬るような爽快感があってたまりません。
そして、こんなネットニュースを見るとますます楽しめてくる。
◆「鎌倉殿」亀&政子の男前なやりとりに「格好いい」と絶賛の声/芸能/(→link)
これも伝統的です。
政子は「丈夫のようだ」=男のように堂々としていると評価されてきました。
女がかっこいいことを「男みたい=男前」と呼ぶ現象。同時に男が情けないことを「女々しい」と呼ぶのとセットですね。
こういう見出しの時点で、書き手と、その記事を是とする受け手には偏見がある、とわかってしまいます。
本作を見ていて、恋愛がらみで「男前」って誰でしょう?
頼朝? 義村?
義時ならわかりますけれども。
人間の言動の高潔さや価値とは、性別以外の要素で決まることが多いと思います。
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
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文:武者震之助(note)
絵:小久ヒロ
【参考】
鎌倉殿の13人/公式サイト