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【『光る君へ』まひろ(紫式部)が道長の子を産む展開は史実から見てありなのか?】
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落胤説が生まれる条件 『光る君へ』では?
次に、落胤説が発生する条件も考えてみましょう。
・父とされる男性が権力者であると、箔付けのために用いられやすい
・父とされる男性が多くの女性と関係を持っていた場合、子沢山であるがゆえに落胤説が発生しやすい
・母とされる女性のいた場所のセキュリティがゆるい
・母とされる女性の貞操観念がゆるい
・子が数奇な運命を辿たったり、異例の出世を遂げる
『光る君へ』の場合、藤原道長は権力者です。
道長が関係を持ったとされる女性は多く、子も多く生まれています。
劇中でまひろに仕える乙丸は、道長に仕える百舌彦と親しい。
当時のセキュリティとは、実質的に仕える者をいかに籠絡できるか?という点にかかっています。
他の相手に対してはさておき、まひろの対道長セキュリティは実質的にありません。
まひろは男性に対するガードが低く、宋人の周明と接近し、乙彦と藤原宣孝が心配していたことすらあります。
紫式部の娘である大弐三位は、道長の娘である彰子に仕え、母を凌ぐ大出世を遂げました。
史実を抜きにして、劇中の要素だけ見ていれば、条件的には“あり”だと思えてきます。
しかし別の問題もあるでしょう。
大河ドラマがフィクションとはいえ、史実に存在していた親子の血縁関係まで改変するのは、果たして許されるのかどうか。
最後に、その点を考察してみたいと思います。
『草燃える』でもあった不義の子
密通により親子関係を改変する大河ドラマは『光る君へ』が最初ではありません。
1979年『草燃える』でありました。
北条政子の弟であり『鎌倉殿の13人』では主役をつとめた北条義時。
その嫡男である北条泰時が、源頼朝の子であるというストーリー展開となったのです。
義時の最初の妻は素性がはっきりしておらず、『草燃える』でも後年の『鎌倉殿の13人』でも、ドラマの作り手が設定を決めています。
『草燃える』では大庭景親の娘である茜でした。
その茜が、義時の妻として鎌倉にいるところを源頼朝に夜這いされ、父が義時か頼朝か、確証のない子(のちの泰時)を身籠ったのです。
罪悪感に耐え切れなかったのか、茜は平家の女房として建礼門院に仕え、壇ノ浦の戦いで入水しました。
あらためて振り返ってみると、かなり衝撃的な展開であり、この女性は『鎌倉殿の13人』では新垣結衣さんが演じた八重に相当します。
そして八重は、茜の写し鏡のような設定であるとわかります。
八重の父は、大庭景親と同じく平家方について敗北した伊東祐親でした。
頼朝が北条政子と結婚する前に深い仲となり、千鶴丸という男児を出産。
平家の目を恐れる伊藤祐親はこのことに怒り、千鶴丸を殺し、頼朝を手にかけようとすると、頼朝は北条家のもとへ逃げ込むのでした。
八重は頼朝と結ばれないことを悲観して、入水した伝説もあります。
しかし、ドラマでは採用しておりません。
ドラマではこのあと、八重は父により江間次郎と再婚させられ、頼朝は北条政子と結婚。
江間次郎はほどなくして命を落とし、八重は夫を失います。そんな八重に、頼朝はまたも手出しをしようとするものの、彼女はキッパリと断りました。
一方、政子の弟である義時にとって、八重は憧れの女性であり、粘り強い恋の結果、義時はついに八重と結ばれます。
八重は義時の子である金剛(のちの北条泰時)を生むと、金剛と共に、鎌倉の孤児を引き取って育てていました。
そんな孤児の一人である鶴丸が川の中洲に取り残されたとき、千鶴丸の水死を思い出した八重は彼を見過ごせませんでした。
命を捨ててまで鶴丸を救い、逆に彼女が命を落としてしまいます。
すると八重に命を救われた鶴丸は元服して御家人の平盛綱となり、今度は泰時を守り抜きます。
この二作における義時の妻には、いくつも共通点があります。
平家方についた御家人の娘であること。
一度は頼朝と情けを通じていること。
水死すること。
しかし、描き方には相違があります。
茜は夫一人だけに貞操を守り抜けず、そのために死を選んだように思える一方で、八重は、あくまで自発的に頼朝を拒み、義時を選び、鶴丸の命を救っています。
前述した巴御前もそうですが、『鎌倉殿の13人』にはたくましい女性観が反映されています。
同じ北条義時の妻でありながら、ここまで設定を変えることができるのです。
大河はあくまでフィクションであり、こうした先例があることを踏まえると、今回のまひろと道長も許容範囲なのかもしれません。
改変した上でプロットとして整合性をどうつけるのか。
大胆な改変をプラスに生かせるのか。マイナスとなるのか。
そこを踏まえてまで態度を決めるのが、歴史をテーマとした“フィクション鑑賞の作法”ではないか?とも思います。
★
私も痛感していることですが、歴史ファンはフィクションにおける改変を一切許さない――そんな誤解を受けることがあります。
それは違うでしょう。
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整合性をつけ、面白さに生かせるのであれば許容範囲です。
大河ドラマを鑑賞する私たちもまた、歴史をモチーフとしたフィクション鑑賞のお手並みを試されています。
そこを意識して『光る君へ』を見るのもよいのではないでしょうか。
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文:小檜山青
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【参考文献】
大塚ひかり『嫉妬と階級の源氏物語』(→amazon)
他