『光る君へ』まひろ(紫式部)が道長の子を産む展開は史実から見てありなのか?

画像はイメージです(『源氏物語絵巻』より/wikipediaより引用)

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『光る君へ』まひろ(紫式部)が道長の子を産む展開は史実から見てありなのか?

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落胤説が生まれる条件 『光る君へ』では?

次に、落胤説が発生する条件も考えてみましょう。

・父とされる男性が権力者であると、箔付けのために用いられやすい

・父とされる男性が多くの女性と関係を持っていた場合、子沢山であるがゆえに落胤説が発生しやすい

・母とされる女性のいた場所のセキュリティがゆるい

・母とされる女性の貞操観念がゆるい

・子が数奇な運命を辿たったり、異例の出世を遂げる

『光る君へ』の場合、藤原道長は権力者です。

道長が関係を持ったとされる女性は多く、子も多く生まれています。

劇中でまひろに仕える乙丸は、道長に仕える百舌彦と親しい。

当時のセキュリティとは、実質的に仕える者をいかに籠絡できるか?という点にかかっています。

他の相手に対してはさておき、まひろの対道長セキュリティは実質的にありません。

まひろは男性に対するガードが低く、宋人の周明と接近し、乙彦と藤原宣孝が心配していたことすらあります。

紫式部の娘である大弐三位は、道長の娘である彰子に仕え、母を凌ぐ大出世を遂げました。

史実を抜きにして、劇中の要素だけ見ていれば、条件的には“あり”だと思えてきます。

しかし別の問題もあるでしょう。

大河ドラマがフィクションとはいえ、史実に存在していた親子の血縁関係まで改変するのは、果たして許されるのかどうか。

最後に、その点を考察してみたいと思います。

 

『草燃える』でもあった不義の子

密通により親子関係を改変する大河ドラマは『光る君へ』が最初ではありません。

1979年『草燃える』でありました。

北条政子の弟であり『鎌倉殿の13人』では主役をつとめた北条義時

その嫡男である北条泰時が、源頼朝の子であるというストーリー展開となったのです。

義時の最初の妻は素性がはっきりしておらず、『草燃える』でも後年の『鎌倉殿の13人』でも、ドラマの作り手が設定を決めています。

『草燃える』では大庭景親の娘である茜でした。

その茜が、義時の妻として鎌倉にいるところを源頼朝に夜這いされ、父が義時か頼朝か、確証のない子(のちの泰時)を身籠ったのです。

罪悪感に耐え切れなかったのか、茜は平家の女房として建礼門院に仕え、壇ノ浦の戦いで入水しました。

あらためて振り返ってみると、かなり衝撃的な展開であり、この女性は『鎌倉殿の13人』では新垣結衣さんが演じた八重に相当します。

そして八重は、茜の写し鏡のような設定であるとわかります。

八重の父は、大庭景親と同じく平家方について敗北した伊東祐親でした。

頼朝が北条政子と結婚する前に深い仲となり、千鶴丸という男児を出産。

平家の目を恐れる伊藤祐親はこのことに怒り、千鶴丸を殺し、頼朝を手にかけようとすると、頼朝は北条家のもとへ逃げ込むのでした。

八重は頼朝と結ばれないことを悲観して、入水した伝説もあります。

しかし、ドラマでは採用しておりません。

ドラマではこのあと、八重は父により江間次郎と再婚させられ、頼朝は北条政子と結婚。

江間次郎はほどなくして命を落とし、八重は夫を失います。そんな八重に、頼朝はまたも手出しをしようとするものの、彼女はキッパリと断りました。

一方、政子の弟である義時にとって、八重は憧れの女性であり、粘り強い恋の結果、義時はついに八重と結ばれます。

八重は義時の子である金剛(のちの北条泰時)を生むと、金剛と共に、鎌倉の孤児を引き取って育てていました。

そんな孤児の一人である鶴丸が川の中洲に取り残されたとき、千鶴丸の水死を思い出した八重は彼を見過ごせませんでした。

命を捨ててまで鶴丸を救い、逆に彼女が命を落としてしまいます。

すると八重に命を救われた鶴丸は元服して御家人の平盛綱となり、今度は泰時を守り抜きます。

この二作における義時の妻には、いくつも共通点があります。

平家方についた御家人の娘であること。

一度は頼朝と情けを通じていること。

水死すること。

しかし、描き方には相違があります。

茜は夫一人だけに貞操を守り抜けず、そのために死を選んだように思える一方で、八重は、あくまで自発的に頼朝を拒み、義時を選び、鶴丸の命を救っています。

前述した巴御前もそうですが、『鎌倉殿の13人』にはたくましい女性観が反映されています。

同じ北条義時の妻でありながら、ここまで設定を変えることができるのです。

大河はあくまでフィクションであり、こうした先例があることを踏まえると、今回のまひろと道長も許容範囲なのかもしれません。

改変した上でプロットとして整合性をどうつけるのか。

大胆な改変をプラスに生かせるのか。マイナスとなるのか。

そこを踏まえてまで態度を決めるのが、歴史をテーマとした“フィクション鑑賞の作法”ではないか?とも思います。

私も痛感していることですが、歴史ファンはフィクションにおける改変を一切許さない――そんな誤解を受けることがあります。

それは違うでしょう。

私は、ラストで徳川家光が斬首される『柳生一族の陰謀』は大傑作だと思います。

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整合性をつけ、面白さに生かせるのであれば許容範囲です。

大河ドラマを鑑賞する私たちもまた、歴史をモチーフとしたフィクション鑑賞のお手並みを試されています。

そこを意識して『光る君へ』を見るのもよいのではないでしょうか。

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文:小檜山青
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【参考文献】
大塚ひかり『嫉妬と階級の源氏物語』(→amazon

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