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『光る君へ』感想あらすじレビュー第38回「まぶしき闇」伊周の呪詛は他人事に非ず

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『光る君へ』感想あらすじレビュー第38回「まぶしき闇」
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藤壺の宮にあまえる皇子だと?

道長が、敦成親王を抱いています。

この孫が衣服にお漏らしした逸話は出てこないようなので、そこは脳内で補うしかありませんね。

すると道長は、敦康親王中宮の膝に甘える様を目撃してしまいます。

孫をあやしつつ目線を動かせない道長。

その後、慌てるように『源氏物語』を読み返しました。

光源氏は、母である桐壺更衣によく似た藤壺の宮を母代わりに甘え、やがてそれが恋となり、密通してしまう。

道長にとって敦康親王は、娘の中宮と密通しかねない危険な存在として認知されてしまったのです。

よりにもよって中宮は藤壺におりますから、生々しいにもほどがある――まひろの書いた物語が、歴史を動かす瞬間。

道長は行成のもとへゆき、敦康親王の元服日程を決めろと迫るのでした。

その年の6月、頼通と隆姫女王の結婚が決まりました。

さらに、中宮が二度目の懐妊が判明。

道長は断固として敦康親王の元服を決めますが、肝心の本人が、出産を終えた中宮が土御門から戻った際に迎えたいと、延期を主張します。

中宮は、元服しても藤壺にいてよいと微笑むものの、道長にすればありえん話ですね。険しい顔になっております。

まひろも「お気づきになりましたか」とでも言いたげな諸葛孔明顔をしていますが、自分のせいだと理解しているんですかね?

かくして土御門に下がった中宮。

帝は彼女の出産まで敦康親王の元服延期を命じますが、道長は全て決まっていると抵抗します。

出産と重ねてはいけないという帝。

強行したい道長。

結局、帝の意思がここでは通ります。

道長は粘ることをせず、代わりに敦康親王元服後の在所を決めると言い出して、次善策を打ち立ててきました。

複雑そうな帝と、断固たる道長の顔の対比が生々しいものがあります。

このあと藤壺でボヤがあり、敦康親王は伊周の屋敷へ。

伊周は、定子の忘れ形見である敦康親王と脩子内親王を迎えたものの、咳き込んでいる姿から、あまり先は長くないように思えます。

ききょうの絶望の滲んだ顔が切ない。

『枕草子』で輝いていたあの美しい人がまたも散ろうとしています。

敦康親王は道長の冷たい振る舞いを察知しているようで、不満を打ち明けます。

中宮に皇子が生まれたからには仕方ないものの、寂しい様子。

敦康様を守るという伊周の言葉には、まるで説得力がありません。

伊周の子である藤原道雅は「藤壺の火事も誰の仕業か分かったものではない」と漏らしました。ますます不穏な顔になるききょう。

伊周は、道長のもとへ会いにきました。

咳き込みつつ、敦康様を帝から引き離さないでほしい、次の東宮は敦康様だと言い切ります。それも帝が望んでいるだろう……と、帝のご意志を踏み躙らぬよう頼み込む伊周。

道長は、その帝の思し召しで参内を許されたにも関わらず「なぜ内裏に参らなかったのか」と伊周を問い詰めると……。

「お前の……せいだ……何もかも……お前のせいだ!」

突如として、絶叫する伊周。

道長は立ち上がり、見下すように宣言します。

「今後、お前が政に関わることはない。下がって養生いたせ」

伊周は呪詛を続け、札をばらまいています。

取り押さえられ、連れ出される伊周。そのおぞましい様子をまひろも目に焼き付けてしまうのでした。

見つめ合うまひろと道長。

瞬きを繰り返す二人からは、あの輝きはありません。

道長は娘を中宮にし、念願の皇子を得ました。

まぶしいほどの栄華のなかにいるようで、実はその場所は闇なのかもしれません。

何かおそろしい深淵を見てしまったように、視線を交わす二人。何が待ち受けているのでしょうか。

 

MVP:藤原伊周

呪詛――そんなものは過去のもののようで、そうではないかもしれない。

『鎌倉殿の13人』でも呪詛は重要な要素で、全成が非業の死を遂げる理由となりました。

とはいえ、文覚の呪詛はどこかコミカルでもあったし、そこまで恐ろしいわけではありません。

あれは推理劇が得意な三谷幸喜さんが、トリックの一種としてうまく活用していました。

今年の大河は心理劇として重点が置かれています。

そのせいで、はるかに生々しく、隣にいるあの人も呪詛にとらわれ、伊周状態なのではないか?と私は心の底からおそろしくなりました。

思い当たるふしはあります。

自分が持ち上げられないから、周りを貶めることで勝ちを狙う――そういう人はいくらでもいます。

昔だったらせいぜい、仕事場の裏や会社帰りに愚痴りあうぐらいであり、その程度であればまだマシだったのでしょう。

しかし、今はインターネットがある。

オンライン呪詛にハマった結果、伊周のように闇に囚われてしまったかのような人をよく見かけました。

会社同僚や知人友人の悪口やネタにした話を、延々とブログに書き綴る。

推しが陰謀論者になった結果、ファンも取り込まれてゆく。

陰謀論にハマる人々を馬鹿にしようとウォッチを続けた結果、ものの見方がこじれていき、自分自身が別の陰謀論に陥る。

日頃の投稿は全く評価されないのに、ヘイトを書き込むと反響が大きく、それに溺れてゆく。

本人はフィードバックを得られてウキウキしているものの、初めのうちはともかく、進むにつれて文体がおかしくなっていきます。

付き合いの長い友人がそうなっていく様は、おそろしいものがありました。

しかも「それはおかしいのでは?」と指摘すると、それこそ伊周のように「お前のせいだああああ!」と激怒し、論理が破綻して、逆恨みしてくるのでどうしようもありません。

もちろん私にだって現代型呪詛に溺れるリスクはある。

だからこそ距離を取り客観視して俯瞰する――そんな心構えは欠かせぬものと身を引き締めています。

 

大河ドラマと現代型呪詛

現代型呪詛は、大河ドラマも無縁ではないでしょう。

NHKドラマには「反省会」ハッシュタグがあります。

これにずっと投稿し、のめり込んでゆくと、見ていて大丈夫なのかと心配になるほど精神が荒廃していく人がいます。

私はどんなにしょうもないドラマでも、極力アンチハッシュタグは使わないようにしています。作品タグそのものもあまり使いません。

検索避けか、嫌いなドラマに変なあだ名をつけて、ずっと朝から晩まで文句をつけている人もいます。

すると何か染み付いてしまうらしく、どんどん意地悪な書き込みに堕ちてゆきます。

私の場合、対策としてはこうなります。

悪いニュアンスがあるならば、固有名詞と同じ音をしつこく書かない。

私はドラマの名前をあえて出さないか(例:2015年大河ドラマ、新札プロパガンダ大河ドラマ)。

パロディにせよ毎回ひねるか(例:『どうして家康』、『どうしようもない家康』、『どうかしているぞ家康』)。

言霊と言われたらアホくさく聞こえるんでしょうけど、呪詛にしたくないとは思っています。

まひろ同様、アンチに徹するにせよ、心の慰労にとどめ、呪詛に突っ込まないようにします。ここで書くにとどめ、SNSには投稿しないように距離をとるようにしています。

何かに呑まれたくない。良心というか、メンタルヘルス対策ですね。

私なりにドラマ評価の基準にも、一応倫理はあります。

どんなに面白かろうと、目的に胡散臭いものがあればあえて遠ざける。

『花燃ゆ』と『西郷どん』は官製明治維新礼賛。

『いだてん』は東京五輪プロパガンダ。

『青天を衝け』は新札プロパガンダと、渋沢栄一についての歴史修正。

「新札の渋沢は女たらしだから結婚式のご祝儀に不適切」なんて謎マナーまで話題になりましたが、そういう人物を礼賛するからには当然の帰結でしょう。

『どうする家康』は問題のある芸能事務所と、あまりに関係が濃い。おまけに現場ではパワハラが横行していたのでは?という疑惑が文春砲で指摘されるほどです。

こういう邪念が透けて見えるとなれば、ドラマの一部にどんなよい要素があろうが肯定できかねます。

アンチになるにせよ、そういう理詰めでいかず、感情的に走り続けると、これまたメンタルヘルスに悪影響が及びます。ファンダムも荒廃し、ろくなことはありません。

伊周が呪詛を吐き捨て、高笑いすることで、周りの空気は最低になりました。

こういうことも、SNSとファンダムの使い方によっては起こり得ます。私はそのことを懸念しています。

昨年の大河ドラマはジャニーズ主演であるためか、褒めると分厚いファンダムが賛同していました。

そのことに気を大きくしたファンが、私を含めた批判的な視聴者を陰謀論まじりで貶し始めたのです。

そこまではよいにせよ、ジャニーズファンを背後につければ大手アカウントになれると学んだのか、大河ドラマのファンダムからジャニーズファンダムへと向かってゆき、さらには事務所の性被害者叩きにまで突き進んでいった。

大河ドラマから出発し、性犯罪被害者を罵倒するところへ落ち着く――その様を目にして、本当に私は虚しくなったものでした。

言葉は呪詛に使えます。

そのことを意識し、ネットデトックスをしないと、明日には私たちも伊周になるかもしれません。

ほんとうに伊周は、反面教師としてためになる存在ですね。

 

『光る君へ』の成し遂げたこと

先日、『あさイチ』で『光る君へ』特集がありました。

秋になってこうした番組が放映されるのは珍しいこと。

今年は大河関連番組や歴史解説ガイドが夏以降も出るという、大変珍しい状況になっています。NHK公式媒体以外でも、なかなか好調です。

視聴率はそこまで高いとはいえないながら、ファンダムの熱気があるのだと感じます。

『あさイチ』では若干疑問を覚える点もありました。

ハッシュタグ付きのドラマファンアートは、朝ドラと大河では毎年あり、今年から始まったものではありません。

ただ、今年のそうしたファンアートが素晴らしいと思えることも確かです。

こうしたファンダムを見ていると、例年とは確かに違うと感じます。

先日、私は大河ドラマ展にも足を運びました。

そこにあったファンのメッセージも、熱気が漂っていたものです。

ドラマで得た知識や感想の使い方も、雅で、自己肯定に用いられていて健全だと思います。

大河ドラマファンダムの空気がここまで透き通り、爽やかであるのはかつてないと思えるほど。これだけでも私は成功したと言い切りたくなってしまいます。

視聴者層も例年と異なるようで、男女比が変わったことは確かでしょう。

大河にせよ、朝ドラにせよ、従来固定層の外へ健全なやり方で広まることはよいものです。

さらにこのファンダムの拡大は、海外にも及んでおります。

中国人YouTuberの李姉妹のチャンネルで、『光る君へ』を初めてみたというエピソードが配信されていました。

なぜ見たのかというと、中国語が出てくるからとのことです。

まひろと周明のやりとりは大変微笑ましいものとして受け止められたようです。中国でのドラマ評価最大手である「豆瓣」(Douban)でも7.9となかなか高評価であるとか。

平安貴族が漢籍を読みこなしているとか。

中国の皇帝も、日本の天皇も、主語が「朕」であるとか。

そういった要素も新鮮な驚きがあるようです。私もこんな感想を見かけました。

「宋人が日本の浜辺を歩いている場面では、感動して涙がジーンと滲んできた」

「日本の書道も面白いなぁ」

「日本人ってこんなに白居易好きなんだ」

「伝統色のセンスが中国と似ているんだね〜」

「中国では廃れてしまった打毱や蹴鞠がいまだに日本にあるなんて素晴らしい! ありがとう!」

なかなか素晴らしくて、鋭い感想ですよね。そういう見方があるのかと感動します。

大河の海外進出は、時折話題に上ります。

しかし、そうした際に見ている目線は主に欧米です。そうなればサムライだとなるわけですが、昨年はBBC版関ヶ原に完敗しておりました。

『SHOGUN』もあることだし、サムライドラマの本場がむしろVODにならないか不安を感じています。

でも、そんな歳に、『光る君へ』が東アジアで注目を浴びているというのは、実はなかなかすごいことではないかと思います。

『SHOGUN』では細川ガラシャがモデルのヒロインとウィリアム・アダムスがモデルの人物が活躍します。

欧米目線となると、どうしても戦国末期以降でないと興味関心が喚起しにくいうえに、キリスト教や西洋人といったフックが求められます。

一方で、日本と東アジアの場合、交流史が西洋よりも断然長い。

『光る君へ』は、実はものすごい可能性を広げたのではないでしょうか。

そしてこの作品は、女性スタッフの比率が高いことも改めて指摘しておきたい。

彼女ら、そして脚本の大石静さんがドラマの意図を語ることで、結果的に女性の発言比率があがっています。

これは非常に重要なことと言えるでしょう。

先日完結した朝ドラ『虎に翼』の脚本家同様、あまりに手の内を明かし過ぎであるという意見もあります。

私はそのことに反論したい。

過去大河の男性脚本家は、雑誌や新聞連載、ラジオで大河の意図を語ることがしばしばありました。

彼らの場合は何も言われず、「彼女ら」の場合ばかりそう言われるとすれば、その時点で偏見があるのではないでしょうか。

同じことを語るにせよ、女性の方が投げられる石つぶては多いもの。

それでもあえて語り、女性が自分の言葉を獲得する姿を見せてゆくことは、それだけでも尊いことではありませんか。

女性が語りすぎる、でしゃばりすぎる。そう言う前に、同じことを男性がしても果たしてそう思うかどうか。立ち止まって考えて欲しいところです。

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文:武者震之助note

【参考】
光る君へ/公式サイト

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