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『光る君へ』感想あらすじレビュー第4回「五節の舞姫」

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『光る君へ』感想あらすじレビュー第4回「五節の舞姫」
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息を呑む、乙女の舞姿

舞姫は三日前に宮中へ入り、身を清め、本番に挑みます。

そして迎えた本番、序盤でも屈指の名場面でしょう。

日本史で再現されて嬉しい場面とは、何も武将が戦う場面だけではありません。五節の舞姫は見てみたいものでした。

百人一首』十二番、僧正遍照の歌にあります。

天つ風 雲の通ひ路 吹きとぢよ をとめの姿 しばしとどめむ

天を吹く風よ、天地を結ぶ雲の道をしばしば吹き止めてくれないか。美しく舞う天女たちの姿を、もう少しだけ見ていたい。

どれほど美しい舞姫の姿なのか。それを再現すべく、大河ドラマが挑みます。

相当お金がかかっていると伝わってきます。

カメラワークが万全で、真上から見下ろす。照明効果も美しく、篝火が燃え盛っている様が幻想的です。

笏拍子に雅楽の荘厳な響き。これが天女の舞かと思えます。

東洋代表として、舞姿は映像として出しておくべきでもあります。

華流にせよ、韓流にせよ、舞姫が歌い踊る場面は定番。

この国にはこんな歌や踊りがあるのかと見ることも、大きな楽しみのひとつなんですね。『鎌倉殿の13人』の静御前に続く、日本代表の登場です。

日本の場合、衣装の重みもあるのか動きが落ち着いております。

唐の場合、軽やかに長い袖をクルクル回し、かつ様々な文化の影響を受け、激しい動きもあります。比較するとますます楽しい。

そんな眼福の場面に、さらなる要素を加える本作。

まひろは居並ぶ貴公子の中に、居眠りをする“三郎”を見つけます。その彼を、隣に座る“ミチカネ”が小突いて起こそうとしている。

“ミチカネ”という人殺しの隣に、“三郎”がいる。

なぜ?

なぜなの?

そう戸惑うまひろ。

出番を終えて退出すると、他の舞姫は「藤原家の三兄弟が魅力的だった」と話している。

道隆様の美しさがいい。道兼様も思いの外いい。三郎君の道長様はずっと居眠りしていたとはしゃいで語っているのです。

まひろはようやく、あの三兄弟とは右大臣家の、道隆・道兼・道長だと知りました。

気が遠くなり、思わず倒れてしまうまひろです。

 


MVP:花山天皇

今回は社会のルールからはみ出す者たちが目立ちました。

散楽は義賊を気取っているけれども、こうも硬直した社会ならそうするしかないのかとも思える。

まひろはなかなか過激で、身分なんかなくていいと言い出す。

花山天皇も、君主自ら質素な生活をして規範を示すと言い出す。

どれもこれも、身分秩序をぶち壊し、自ら動いて社会を良くしたいと願う、墨子のような思想があると思えます。

散楽集団が墨子を学んでいるとはあまり思えませんが……彼らなりの実感であり、墨子はそんな実感を思想に反映させたのでしょう。

放埒なようで、芯のある人物である花山天皇。

はみ出したものだけが持ち得る輝きが、あのいたずらっ子のような瞳に宿っています。

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五節の舞姫はありなのか?

五節の舞姫の場面は美しく、番宣でも使われていた自信ある映像です。

しかし、そのせいでツッコミも入りました。貧しい家出身の紫式部が選ばれることはありえない、と。

衣装にともかく金がかかることが悩みの種です。

源雅信は資産があるだけに、その心配はしていません。

しかし、懐に余裕がないのに選ばれると、蓄財機会のある受領に無心して仕立てるようなこともあったとか。

それを身代わりということで、衣装予算の問題はクリアしています。

なぜ身代わりにするのか?

花山天皇から倫子を逃すためならば、設定としてありではないでしょうか。

このドラマは、かなりギリギリの設定を攻めてきて、それがよい。

舞姫に目をつける花山天皇と、それに恐れ慄く設定も説得力は感じられます。

そうそう、東洋の国家だって当然のことながら、過度な好色は軽蔑されます。

『青天を衝け』の際、渋沢栄一後妻である兼子に由来する、こんなことが語られていてうんざりしました。

「あの人も『論語』とは上手いものを見つけなさったよ。あれが『聖書』だったら、てんで守れっこないものね」

「儒教に性的規範はない」

他国由来の思想に、なんて迷惑なイメージを植え付けるのか。そんなことはありえません。

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確かに天皇は皇子を残すことが責務であり、多くの妻を持ちます。

そうは言っても、ルール違反をすれば嫌われるでしょうよ。

確かに日本史には、何かの折、目の前に好みの女がいると、手をつける恐怖の権力者は実在しました。

『青天を衝け』に出てきた徳川斉昭です。

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梅見の席で好みの女中がいると即座に手を出し、手出しされた女にとっては名誉だろうとうそぶいておりました。

あのドラマよりも、ドラマ10『大奥』の徳川斉昭の方が史実に近いので、適宜みなさまご修正ください。

ドラマではカットされておりますが、原作では言うことを聞かない阿部正弘を手込めにしてやると脅しております。

そのせいて斉昭は嫌われ、彼の周囲に迷惑をかけております。

 

人の性は悪なり

人の性は悪なり。其の善なるは偽なり。

人間の本質は悪だ。善であるとすれば、偽なのだ。『荀子』

前回は孟子の性善説でした。

今回は漢籍引用はないものの、まひろの挙げたものから荀子を選びました。

これをそのまま「人間なんてみんな悪なんだ!」と読むと、そんなこと言わんでもいいと思ってしまうかもしれません。

何かあれば人を殺傷して奪い取る、そういう世紀末世界になると言いたいわけでもありません。

人間は何かあると堕落してしまうから、ルールで縛ることも大切だと考えるべきですね。

空気を読めないまひろも、だんだんと大人になりつつあります。人間の本質はゆらぐものだと学んでいく。倫子と接することで、空気を読むことも理解してゆく。

その結果、鮮烈な個性は失われてしまうかもしれないけれど、本質は残ってゆく。そんな描き方かもしれません。

断っておきますが、まひろは決して現代人思想に被れたトンデモヒロインではありません。

『麒麟がくる』の駒についても、「現代の平和思想を語る女w」と嘲る意見をよく見かけましたが、彼女たちは中国思想由来の意見を述べております。

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『麒麟がくる』以来、私はひとつの仮説をたて、証明するデータを自分なりに集めてきました。結論は出つつあります。

その仮説とは、日本史愛好者でも、漢籍読解や東洋思想知識が減衰傾向にあるのではないか?ということ。

実は、明治以来指摘されてきたことで、いまさらではあります。

そこが弱いから「麒麟」の理解が不十分で曲解意見が出てきたのではないかと考えています。

『麒麟がくる』ではなく、『光る君へ』で、この仮説は決着がついてきたと思います。

たとえば『孟子』を「漢詩」とする感想が出てきたりしますが、これを例えるなら、

「『源氏物語』という俳句を読みました」

という類のものとなります。

もしもアメリカのドラマでそんな風に語られていたら、「気持ちはわかるが、そうじゃないんだ」となりませんか? そう言う類のミスなのです。

漢詩はあくまで「漢詩」であり、『孟子』は思想を説く「四書」に分類されます。

些細なことではあるのですが、重要なことでしょう。

このドラマに関する各メディアの記事で、紫式部が世界的に唯一突出した女性文人という趣旨の記述を時折見かけます。

これについては、むしろ本人が以下のように嫌がりそうです。

「やめてください、優れた女性文人は私の前にだっています。本朝もおりますし、何より唐。卓文君、班昭、蔡琰、謝道韞、魚玄機、薛濤……漢籍を読めば出てくるでしょう。なんで知らないんですか?」

ことさら紫式部を「日本スゴイ!」とか、「アジアでスゴイのは日本だけ!」といった言説に結びつけるのは、彼女が望むことでもないでしょう。

キャッチーだからって大仰なコピーを使うことは非常に危うい。

そして次の仮説です。

ネットニュース等のドラマ評価は、視聴者の理解度によるのではないか?

この仮説は、プロットのわかりやすさはドラマを左右するものであり、当然のことと思われるでしょう。

しかし、題材の知名度や認知度に左右されるとすればどうか。

『ちむどんどん』という朝ドラがありました。

このドラマは「医食同源」が根底にあり、琉球の伝統食文化や、沖縄ならではの事情がプロットに盛り込まれていた。

それが理解できなかったのでしょう、琉球差別としか言いようのないアンチコメントが多く見られたものです。

しかも、それを集めてニュースにすることでPVを稼ぐメディアもあり、ドラマの感想で琉球差別の助長をするなんて何たることか、と頭を抱えたくなりました。

人の性は悪なり――このことはネットが可視化している側面もあります。

PVを稼ぎ、バズるためなら悪口やデマ、差別でも語るようになるのかもしれない。

自戒もこめて、それよりも大事なことはある、ルールは守ろうと思う次第です。

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現実社会の病理や問題まで考えさせる思想。

そしてそれを含むドラマって、やはり秀逸ですね。

『光る君へ』にはそんな力があります。

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文:武者震之助note

【参考】
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