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【『光る君へ』感想あらすじレビュー第22回「越前の出会い」】
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MVP:周明
周明は魅惑的で、直秀に次ぐ期待の枠――そんなドラマとしての彩りだけでなく、宋という国家が持つ技術力も見せてきます。
まず、東洋医学のもつ力。
東アジアドラマにおける医師の重要性がよくわかります。
医者は重要人物の側近くに行くことができる。精神的な悩みを打ち明けられる。時代劇では動かしやすい職業です。
『麒麟がくる』の望月東庵と駒はかなり高度な技術を持つ医者という設定でした。
「実在しない、たかが医者のくせに、なぜあんなに重要人物のそばをうろついているのか?」という意見もありましたが、むしろ医者だからこそできた役割です。
そんな時代劇上の設定だけでなく、今回は東洋医学の効能も伝わる場面でした。
体調を整え、症状を軽減する分には、むしろ西洋医学にはない治療もできるのが東洋医学の特徴。
周明に治療されたい視聴者も大勢でてきそうな素晴らしい場面でしたね。
しかし、そんな周明がどうして殺人事件の捜査ができたのか、そこも気になってきます。
これも医師であるということが関係していると思えなくもありません。
ドラマよりやや時代が降った南宋の時代、宋慈が『洗冤集録』(せんえんしゅうろく)という書籍を刊行しました。
世界最古の法医学書とされています。
宋慈は官僚として、医学知識を駆使して、それを事件解決に活かすという発想を生み出したのです。
この宋慈のように、周明も三国の屍を見て、何か異変に気づき、さらに証人を見つけ出したのかもしれません。
藤原伊周が、呪詛の件で証拠不十分のまま罪に問われたこととの比較として、来週は名探偵・周明の姿が見られるかもしれません。
予告では、まひろが周明は宋人なのか、日本人なのかと問いかける姿が映りました。
これも重要な問いかけで、そもそも国籍やルーツとは何か、そんな問いかけになりそうです。
そしてそんな周明は、大河ドラマの進化の象徴にも思えます。
『鎌倉殿の13人』は、『ゲーム・オブ・スローンズ』を意識して作られたドラマです。
それが『光る君へ』では、アジアドラマの影響が見て取れます。
数年前、大河に関わってきた方が「東アジア唯一の本格的な歴史ドラマ」と自画自賛する姿を見て、危うさを感じました。
隣国の時代劇がどれだけの速さで伸びているか――その現実を踏まえねばむしろ危ういと私は思っていたのです。
しかし今年は、大河チームもそのことを把握しているようで、高い安心感を覚えます。
少し前まで「まるで韓流ドラマ」というと、茶化して揶揄するようなニュアンスがありました。
それはもう古い。
むしろ斬新な取り組みある他国の作品にある要素ををこう呼ぶようになりました。
意識的にこういうドラマを作られることに、大河ドラマの進歩を見る思いがします。
あまりに無責任な平安京
あの定子が懐妊している――これは政治的な局面がひっくりかねない大事件です。
藤原道長が越前を放置するのも、無理のないことだと思えるようで、それではあまりに無責任であると思わせるのは凄いことでしょう。
宋との貿易は莫大な利益が動く。
最新鋭の技術を学ぶ好機だ。
そんな国力をあげるチャンスよりも、朝廷のパワーゲームを優先するとは一体何事か。無責任ではないか。そう思えてきます。
直秀が「平安京は鳥籠だ」と語った意味を、周明が補強するような流れと言えました。
平安京のあいまいな国際認識は、現場に立つものからすれば大迷惑であることが為時の姿から伝わって来ます。
知識がないのに、ともかく異国のものを毛嫌いして、現実逃避ばかりしている。
この平安京のひきこもり気質は、幕末にまで残り、日本史に大きなマイナスの影響を与えました。
政治的な実権は武家政権が担ってきた。
特に徳川家康は、京都から徹底して政治を排除するようにしました。それが幕末になって参与する隙を与えたことで、政局は大混乱を迎えたものです。
この無知ゆえに外国人を過剰に恐れる害悪は、現在も進行しております。
ともかく連日、中国への警戒心をあおるような報道がでています。本当にそうなのかと思い、自分で調べてみると大仰なデマであることが少なくありません。
そんな間違った情報で誰かを攻撃するとなれば、それこそ国際問題になりかねないでしょう。
平安京の道長は、根は優しいけれども、現実の把握が甘く、無責任な人だと思えます。
こういう道長タイプが多いのではないでしょうか。
善良だけど、業務に対しては有能とは言えない。普通の人、悪意のない人。差別したり、デマを拡散してしまうのはそういう人かもしれません。
まひろのように恐れず声をかけて、話してみれば、何か別のものが見えてくるかもしれないのに。
「歴史総合」に配慮ある大河ドラマを
2022年に設置された高等学校科目として「歴史総合」があります。
扱う時代は近現代であるものの、日本史と世界史を組み合わせてみていく視点は、遡って取り入れることもできます。
2010年代以降、大河ドラマでも「歴史総合」的な視線を取り入れた作品が入り混じっているようで、むしろ引きこもりガラパゴス歴史観をみせる作品もあったものです。
2013年『八重の桜』は、「歴史総合」にふさわしい導入部から始まります。
初回冒頭が南北戦争で、あれには重大な意味があります。
戊辰戦争の背景には、南北戦争で余った武器を売り捌くことで儲けたい――そんな欧米列強の思惑があったと示しているのです。
それが後半になると別の脚本家が導入され、前半部の問題提起が生かされていないように思えました。
このあと、2015年以降の近代史大河は、最新鋭研究が都合よく持ち出されるアリバイ的な使われ方をするようになっています。
『セクシー田中さん』の報告書報道を見ていて大河のこともふと思い出しました。
2015年『花燃ゆ』は脚本家が何度も交代しています。
それで面白くなったのか?というと、全くそうではありません。むしろ最初期のほうが史実をプロットに取り込む気概が残っていました。
あまりにひどいドラマのため、呆れられてネタ扱いされていましたが、スタッフやキャストは適正な扱いを受けていたのでしょうか。検証の必要があるのかもしれません。
戦国時代が舞台でも「歴史総合」の視点は取り入れられます。
2020年『麒麟がくる』は、「歴史総合」目線でそれまでの歴史理解を修正するような描写でした。
織田信長は海外との貿易思考が一貫して強いものの、その相手先は明です。
宣教師が登場しながら南蛮服を身につけるのは信長でなく、それを贈られた光秀という設定でした。
信長が宣教師に出会ってから交易思考になったという像を修正してきたのです。
そういう信長像を、悪化させた上で陳腐な像へまで引き戻したのが2023年『どうする家康』でした。
君子豹変す
周明が日本語を話し出した瞬間、「豹変」という言葉を思い出しました。
今は悪い意味で使われることが多いものの、本来の『詩経』ではこうなります。
君子は豹変す。 小人は面を革む。
君子はヒョウの毛皮が抜け替わるように態度を入れ替える。小人はその場を取り繕うだけ。
周明だけでなく、大河も豹変したと思えます。昨年からここまで変わるとは!
我ながらしつこく蒸し返しているとは思いますが、昨年と今年を比較すると、中国史関連考証が同じ大河枠とは到底思えません。
昨年は「清洲城が紫禁城のようだ」という困惑が広がりました。
私はあんな彩度の低い紫禁城はありえないと思いました。朱塗りの柱がないはずがありません。あの清洲城は地球上に存在しない、AIが描いたデタラメな絵のようでした。
清須城が紫禁城のようだ?大河『どうする家康』の描写は過剰か否か
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そして滅敬の衣装の残念さ。
あの横光三国志のような衣装は何だったのでしょうか。
滅敬って一体何者なんだ!武田の穴山が扮する唐人医は実在したのか?
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正体が武田家臣にしても、あんな手抜きでよかったのでしょうか。
記事を読み返してみると、「せめて鍼治療でもすれば説得力がある」と書いていました。昨年の不備が今年で補われる格好ですが、ともかく良かった。
今年の宋人衣装、医療考証は格段に進歩しています。
去年と今年が同じ枠のドラマで、制作費も似たようなものだとすれば、去年は一体どこへ受信料が落ちていたのでしょう?
会長人事のあらわれか、NHKは何かこれまでとは違う風が吹いていると思えます。部門ごとに、その強度は異なるものの、確実に変わって来ていると感じます。
歴史番組についていえば、やっと正常な動きに戻ってきたという印象を受けます。
Eテレの『歴史総合』や総合『3ヶ月でマスターする世界史』は、大河のお供としても参考になる。
NHKスペシャルとして放映された『新・幕末史』は番組内容が新書として発売中です。
手に取れば、2015年以降の幕末を扱う大河ドラマが、アップデートをあえて止めていたことが理解できるかと思います。
どうやら局内で「日本スゴイ!」に誘導したい勢力と、それに対抗する勢力がいて、綱を引き合っているように思います。
人間の大半は、平均値に近づくことで己は正しいのだと思おうとします。
この平均値が変動する変わり目にぶつかると、人間は混乱し、怒りと苦痛を感じます。八つ当たりをする人もいます。
「今はこの程度でセクハラなのぉ? 会話できないじゃん!」
「この程度の二次元画像に目くじら立てるんですかぁ? 表現の自由はどうするんですかぁ?」
そんなことを言っている時間があれば、認識を改めればよいではないですか。
今までの普通をコロリと投げ捨て「私もずっとそう思ってきたんだよね!」と言いだしてこそ多数派の本質です。
誰しもみんな鮫島伝次郎(『はだしのゲン』に出てくる人物/戦前は熱心に戦争協力し、戦後はずっと平和が大事だと訴えてきたと語る)なのです。
変わればいい。それだけです。
朝令暮改の何が悪い! より良い案が浮かんだのに、 己の体面のために前の案に固執するとは愚か者のすることじゃ!
今、絶賛豹変中なのは朝ドラもそうです。
『虎に翼』のヒロインはとても気が強い。
「こういう女性の権利をきっぱり主張する主人公が、ずっと見たいと思っていた!」
そんな意見が毎朝SNSやニュースに流れてきます。
よいことだと思う反面、苦い気持ちはあります。
ここ数年、特にNHK東京はきっぱりと反論するヒロインを描いて来ました。
彼女ら、さらにはそんなヒロインを描いた脚本家が人格否定までされ、袋叩きにあい、支持を表明したファンまでアンチにしつこくつきまとわれた様を思い出すと「はて?」と首をひねりたくもなるのです。
けれども、これはきっとよいことなのでしょう。
寅子は素晴らしい。彼女は今までさんざん叩かれてきた強気朝ドラヒロインの屍の上に立っている。
そのうえで、認められるようになってきた。世の中はやっと変わってきた! 試行錯誤は無駄ではなかった!
流れに追いつけていない人も、もちろん出てきます。その攻防も楽しめるといえばそうかもしれません。
◆朝ドラ『虎に翼』は「感じ悪い」という感想に「はて?」 “エンタメと社会性の両立”について考える(→link)
NHK朝ドラや大河は、時代の流れに追いつくのが最も早い枠かもしれません。
ゆえに攻防も激しくなる。
朝ドラも大河も、時代に追いついているかどうか、作品ごとに大きく異なります。
『虎に翼』に感銘を受けた誰かが『ブギウギ』を見返しても楽しめるとはあまり思えませんし、『光る君へ』と『どうする家康』についてもそれが言えます。
今さら蒸し返すなと言われるかもしれませんが、『どうする家康』についてはそうもいかない。平安貴族じゃあるまいし、任せきりは無責任です。私はあの作品の罪を問いたい。
今年になってからのNHKの動きを見ると、去年の時点でNHKも問題を把握できていたと思えます。
それではなぜ、放置したのか?
◆STARTO所属の不起用を継続 NHK(→link)
◆嵐・松本潤がSTARTO社から独立、「嵐5人での復帰舞台」プロデュースを期待されるも、『どうする家康』舞台裏の“暴走”報道には不安(→link)
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検証は必要でしょう。受信料をおさめる身としては、そう主張したい。
諸葛亮は信賞必罰を示すために馬謖を斬らせました。NHKにもそんな果断が必要ではありませんか?
『光る君へ』宋の商人・朱仁聡(浩歌)は実在した?為時と紫式部の恩人と言える?
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光る君へ/公式サイト